「セルアセンブリ」の版間の差分

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 媒介過程とは、感覚事象によって送られた興奮を、その事象が終わったのちにも保持することができ、それで、刺激がしばらくのちにまで効果をもつことを可能とする脳の活動である、と定義することができよう(<ref name=ref3 />、p.111)。
 媒介過程とは、感覚事象によって送られた興奮を、その事象が終わったのちにも保持することができ、それで、刺激がしばらくのちにまで効果をもつことを可能とする脳の活動である、と定義することができよう(<ref name=ref3 />、p.111)。


 下等な生物における刺激―反応とは異なり、高等生物においては刺激が与えられる前の情況(文脈性)により、同じ刺激に対しても異なる反応が生じる。Hebbはこの媒介過程により、行動の選択性(構えと注意)という心理過程が説明されると主張する。脳内における異なる文脈性の保持のために異なるセルアセンブリの存在を仮定し、刺激により誘発される神経活動とセルアセンブリとの相互作用により、異なる反応が生じると考察している。感覚事象が終了しているにも関わらず脳内において文脈性が保持される神経メカニズムとしては、セルアセンブリの形成する閉回路での神経活動の持続を仮定している。Hebbは[[wikipedia:Lorente de |Lorente de Nó]]により提唱された[[反響回路]]([[reverbration]])を想定していると思われるが、「閉回路」にあたる神経活動ダイナミクスの実体は現在の神経科学において解明される必要がある。
 下等な生物における刺激―反応とは異なり、高等生物においては刺激が与えられる前の情況(文脈性)により、同じ刺激に対しても異なる反応が生じる。Hebbはこの媒介過程により、行動の選択性(構えと注意)という心理過程が説明されると主張する。脳内における異なる文脈性の保持のために異なるセルアセンブリの存在を仮定し、刺激により誘発される神経活動とセルアセンブリとの相互作用により、異なる反応が生じると考察している。感覚事象が終了しているにも関わらず脳内において文脈性が保持される神経メカニズムとしては、セルアセンブリの形成する閉回路での神経活動の持続を仮定している。Hebbは[[wikipedia:Rafael Lorente de No|Lorente de Nó]]により提唱された[[反響回路]]([[reverbration]])を想定していると思われるが、「閉回路」にあたる神経活動ダイナミクスの実体は現在の神経科学において解明される必要がある。


== 機能的セルアセンブリの定義 ==
== 機能的セルアセンブリの定義 ==
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 Hebbのセルアセンブリが解剖学的な共通特性から定義される細胞集団と決定的に異なるのは、細胞の活動状態という動的な特性の共通性により定義される点である。細胞の活動間に相関が存在するためには、解剖学的な結合構造の土台は必要条件である。しかし、特に皮質内ネットワークにおいては、細胞がスパイク発火するためには複数の細胞からの興奮性入力が短時間に集中する必要がある(Hebbの著書ではbombardmentと表現されている)。このため、スパイク活動間の相関関係は必ずしも細胞間の1対1の解剖学的結合とは一致せず、共通入力を送っている複数細胞の活動状態という脳内の文脈性に依存する。これらの概念は、すでに上記のHebbの著作からの抜粋において説明を行った。
 Hebbのセルアセンブリが解剖学的な共通特性から定義される細胞集団と決定的に異なるのは、細胞の活動状態という動的な特性の共通性により定義される点である。細胞の活動間に相関が存在するためには、解剖学的な結合構造の土台は必要条件である。しかし、特に皮質内ネットワークにおいては、細胞がスパイク発火するためには複数の細胞からの興奮性入力が短時間に集中する必要がある(Hebbの著書ではbombardmentと表現されている)。このため、スパイク活動間の相関関係は必ずしも細胞間の1対1の解剖学的結合とは一致せず、共通入力を送っている複数細胞の活動状態という脳内の文脈性に依存する。これらの概念は、すでに上記のHebbの著作からの抜粋において説明を行った。


 発火するかしないかの2状態のみを取る細胞において、細胞活動状態の共通性でセルアセンブリを定義する場合には、ある時間スケールで平均した活動度の相関関係(主として統計的に有意な正の相関を持つ場合)から定義される。しかし、セルアセンブリの定義は平均活動度を計算する時間スケールにより大きく異なる。例えば、心理学的な時間スケール(数百ミリ秒)を適用すれば、通常の意味の平均発火率となり、心理学的時間スケールで発火率が上昇しているという共通性(相関性)がセルアセンブリの定義となる。入力層―隠れ層(中間層)―出力層の3層からなる人工ニューラルネットワークモデルにおいて入力層の発火状態の特定の空間特徴(パターン)に特異的に反応する複数の隠れ層細胞の集団や[[wikipedia:Hopfield|Hopfield]]の[[連想記憶モデル]]において初期状態からのダイナミクスで収束した[[アトラクター]]で同時に発火状態を取る細胞ユニットの集団などが平均発火率の関係に基づくセルアセンブリに対応する。
 発火するかしないかの2状態のみを取る細胞において、細胞活動状態の共通性でセルアセンブリを定義する場合には、ある時間スケールで平均した活動度の相関関係(主として統計的に有意な正の相関を持つ場合)から定義される。しかし、セルアセンブリの定義は平均活動度を計算する時間スケールにより大きく異なる。例えば、心理学的な時間スケール(数百ミリ秒)を適用すれば、通常の意味の平均発火率となり、心理学的時間スケールで発火率が上昇しているという共通性(相関性)がセルアセンブリの定義となる。入力層―隠れ層(中間層)―出力層の3層からなる人工ニューラルネットワークモデルにおいて入力層の発火状態の特定の空間特徴(パターン)に特異的に反応する複数の隠れ層細胞の集団や[[wikipedia:John Hopfield|Hopfield]]の[[連想記憶モデル]]において初期状態からのダイナミクスで収束した[[アトラクター]]で同時に発火状態を取る細胞ユニットの集団などが平均発火率の関係に基づくセルアセンブリに対応する。


 一方、活動度の関係性を定義する時間スケールを数ミリ秒とすると、同期発火(シンクロニー)し、細胞間のスパイク時系列の[[相互相関ヒストグラム]](cross-correlogram)に統計的に有意なピークが存在するという特性がセルアセンブリの定義となる。
 一方、活動度の関係性を定義する時間スケールを数ミリ秒とすると、同期発火(シンクロニー)し、細胞間のスパイク時系列の[[相互相関ヒストグラム]](cross-correlogram)に統計的に有意なピークが存在するという特性がセルアセンブリの定義となる。