「ソース・モニタリング」の版間の差分

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ソースモニタリングの基本的な主張は,人は記憶についての情報源を特定するようなタグやラベルをそのまま直接引き出しているのではなく,記憶を引き出す際になされる意思決定過程において,記憶についてのある種の記録が活性化され,評価されて,特定の情報源と関連づけされるというものである。そのため,ソースモニタリングの精度はは記憶の記録の活性度に大きく依存する。もし,イベントが起こっているその最中に何かがその出来事の文脈的詳細のコード化を妨げれば,その記憶に関連する情報を完全に取り出すことはできず,エラーが生じる一方で,記憶表象の特徴がよく識別されていればエラーは少なくなる。  
ソースモニタリングの基本的な主張は,人は記憶についての情報源を特定するようなタグやラベルをそのまま直接引き出しているのではなく,記憶を引き出す際になされる意思決定過程において,記憶についてのある種の記録が活性化され,評価されて,特定の情報源と関連づけされるというものである。そのため,ソースモニタリングの精度はは記憶の記録の活性度に大きく依存する。もし,イベントが起こっているその最中に何かがその出来事の文脈的詳細のコード化を妨げれば,その記憶に関連する情報を完全に取り出すことはできず,エラーが生じる一方で,記憶表象の特徴がよく識別されていればエラーは少なくなる。  


 
<br> '''2つの過程'''  
'''2つの過程'''  


一般的に,ソースモニタリングが行われる過程には,ヒューリスティック過程とシステマティック過程の2つの過程が存在すると考えられている。  
一般的に,ソースモニタリングが行われる過程には,ヒューリスティック過程とシステマティック過程の2つの過程が存在すると考えられている。  


(Johnston, 93. P4右コラム後半)
(Johnston, 93. P4右コラム後半)  


'''ヒューリスティック過程'''
'''ヒューリスティック過程'''  


記憶についての量的な特徴を想起する場合のような,高速かつ無意識に行われる過程。この過程は効率的で“自動的に”処理される過程であるため,より頻繁に行われる。関連する情報がある程度の重要性を持ち,かつその記憶と生じた時間・場所が論理的におかしくなければ,情報源についての決定が行われる。  
記憶についての量的な特徴を想起する場合のような,高速かつ無意識に行われる過程。この過程は効率的で“自動的に”処理される過程であるため,より頻繁に行われる。関連する情報がある程度の重要性を持ち,かつその記憶と生じた時間・場所が論理的におかしくなければ,情報源についての決定が行われる。  


'''システマティック過程'''
'''システマティック過程'''  


より戦略的で遅く,意図的に行われる過程。判断にはヒューリスティック過程で用いられる情報と同じものが使われることもある。この過程では記憶と関連するすべての情報が検索され,その記憶がある情報源から来ていそうかどうか意図的に調べられる。この過程は遅く,かなりの労力を食うためにそう頻繁には起こらない。  
より戦略的で遅く,意図的に行われる過程。判断にはヒューリスティック過程で用いられる情報と同じものが使われることもある。この過程では記憶と関連するすべての情報が検索され,その記憶がある情報源から来ていそうかどうか意図的に調べられる。この過程は遅く,かなりの労力を食うためにそう頻繁には起こらない。  
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Dual-Process Models  
Dual-Process Models  
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'''[種類]'''
= 種類 =


ソース・モニタリングには大きく分けて以下の3つの種類がある。 外的ソース・モニタリング 内的ソース・モニタリング リアリティ・モニタリング どれも上記2つの判断過程を利用しており,エラーに陥りやすい。  
ソース・モニタリングには大きく分けて以下の3つの種類がある。 外的ソース・モニタリング 内的ソース・モニタリング リアリティ・モニタリング どれも上記2つの判断過程を利用しており,エラーに陥りやすい。


'''外的ソース・モニタリング''' 自分の周囲の世界で生じた出来事など,外部からの情報源を判別する。 例:どちらの友人が下品なことを言ったかを決める。  
'''外的ソース・モニタリング''' 自分の周囲の世界で生じた出来事など,外部からの情報源を判別する。 例:どちらの友人が下品なことを言ったかを決める。  
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'''リアリティ・モニタリング''' 内的ー外的 リアリティ・モニタリングとも。上記2つのタイプから導かれるもので,情報源が内的なものなのか外的なものなのかを判別する。 例;ビルに激突した飛行機は現実の世界の話なのか,紙上での話なのかを判別する。  
'''リアリティ・モニタリング''' 内的ー外的 リアリティ・モニタリングとも。上記2つのタイプから導かれるもので,情報源が内的なものなのか外的なものなのかを判別する。 例;ビルに激突した飛行機は現実の世界の話なのか,紙上での話なのかを判別する。  


<br> '''[神経基盤]'''
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Johnson et al 93, p.19確認 前頭野とソースモニタリング・エラーの関連を示唆すつ観測がいくつかある。このエラーは健忘症の患者や高齢者,器質性脳疾患患者に見られる。ソースモニタリングにとって重要な前頭野では多くのプロセスが生じており,その中には特徴や構造を統合し,戦略的な検索を行う海馬と関連する回路も含まれている。情報のコード化や検索時に物理的,認知的に特徴を統合しまとめるのを推進する過程は,記憶の情報源を辿るのにとても重要である。  
Johnson et al 93, p.19確認 前頭野とソースモニタリング・エラーの関連を示唆すつ観測がいくつかある。このエラーは健忘症の患者や高齢者,器質性脳疾患患者に見られる。ソースモニタリングにとって重要な前頭野では多くのプロセスが生じており,その中には特徴や構造を統合し,戦略的な検索を行う海馬と関連する回路も含まれている。情報のコード化や検索時に物理的,認知的に特徴を統合しまとめるのを推進する過程は,記憶の情報源を辿るのにとても重要である。  
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(前頭野を損傷した患者は高齢者や若者と同じだけの事実を思い出すことができるが,しばしば事実を誤った情報源に結びつけがちであることから,前頭野が事実とその事実を学んだ背景を結びつける役割を果たしていると考えられている(Janowsky89)。)  
(前頭野を損傷した患者は高齢者や若者と同じだけの事実を思い出すことができるが,しばしば事実を誤った情報源に結びつけがちであることから,前頭野が事実とその事実を学んだ背景を結びつける役割を果たしていると考えられている(Janowsky89)。)  


最近のfMRIを用いた研究 側頭葉内側部 前頭全野 頭頂葉とその他の領野


<br> '''[関連事象]'''  
 
'''最近のfMRIを用いた研究'''  
 
側頭葉内側部
 
前頭全野
 
頭頂葉とその他の領野
 
= <br> 関連事象  =


'''Old-new recognition'''  
'''Old-new recognition'''  
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Cryptomnesiaはわざとではない剽窃のことで,本当は以前に自分で,もしくは外的情報源によって生み出されたものなのにもかかわらず,自分で作り出したと信じていること。最初にその情報にさらされたときに妨害されることで生じる。その情報が無意識に得られたとしても,その情報に関連する脳の領域は短時間ではあるが活性化する。そのため,外から得られた情報や既に思いついていた考えが,今新たに生まれた考えのように思えてしまう。典型的にはこの情報源判断にはヒューリスティック過程が用いられる。初めに情報に触れたときに干渉があるため,ヒューリスティック過程では 情報源を内的に生み出されたものだと判断してしまいがちになる。  
Cryptomnesiaはわざとではない剽窃のことで,本当は以前に自分で,もしくは外的情報源によって生み出されたものなのにもかかわらず,自分で作り出したと信じていること。最初にその情報にさらされたときに妨害されることで生じる。その情報が無意識に得られたとしても,その情報に関連する脳の領域は短時間ではあるが活性化する。そのため,外から得られた情報や既に思いついていた考えが,今新たに生まれた考えのように思えてしまう。典型的にはこの情報源判断にはヒューリスティック過程が用いられる。初めに情報に触れたときに干渉があるため,ヒューリスティック過程では 情報源を内的に生み出されたものだと判断してしまいがちになる。  


'''[関連する症状]'''
 
=


'''統合失調症'''  
'''統合失調症'''  
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ソースモニタリング・エラーは健常者よりも統合失調症の人の間で頻繁に生じることがわかっている。この傾向を生み出すのはおそらく遺伝子の表現型で,この傾向は反抗心と関連している。研究によると,統合失調症においてソースモニタリングが困難なのは自分で作り出したものの情報源をコードすることができないため,また新しいものと以前に提示された物の情報源を区別しにくいためであると考えられている。また,内的な刺激を現実の出来事だと近くするためだとの見解もある。患者はどこからが自分で作り出した思考かをモニタすることが出来ず,autonetic agnosia(想起失認:自分で生み出した内的な出来事を識別できないこと)に陥りやすい,  
ソースモニタリング・エラーは健常者よりも統合失調症の人の間で頻繁に生じることがわかっている。この傾向を生み出すのはおそらく遺伝子の表現型で,この傾向は反抗心と関連している。研究によると,統合失調症においてソースモニタリングが困難なのは自分で作り出したものの情報源をコードすることができないため,また新しいものと以前に提示された物の情報源を区別しにくいためであると考えられている。また,内的な刺激を現実の出来事だと近くするためだとの見解もある。患者はどこからが自分で作り出した思考かをモニタすることが出来ず,autonetic agnosia(想起失認:自分で生み出した内的な出来事を識別できないこと)に陥りやすい,  


<br> '''[参考文献]'''
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M L Johnson, S Hashtroudi, D S Lindsay Source Monitoring. Psychological Bulletin: 1993, 114(1); 3-28  
M L Johnson, S Hashtroudi, D S Lindsay Source Monitoring. Psychological Bulletin: 1993, 114(1); 3-28  


A P Yonelinas The Nature of Recollection and Familiarity: A Review of 30 Years of Research. Journal of Memory and Language: 2002, 46; 441–517
A P Yonelinas The Nature of Recollection and Familiarity: A Review of 30 Years of Research. Journal of Memory and Language: 2002, 46; 441–517
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