「チャネル病」の版間の差分

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英:channelopathy、独: Kanalopathie、仏: canalopathie
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0132108 中條 浩一]、[http://researchmap.jp/yoshihirokubo 久保 義弘]</font><br>
''自然科学研究機構 生理学研究所''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2014年12月16日 原稿完成日:2014年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英:channelopathy 独: Kanalopathie 仏: canalopathie


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==チャネル病とは==
==チャネル病とは==
 チャネル病(チャネロパチー)はイオンチャネルあるいはその関連タンパク質が原因で起こる疾患の総称である。イオンチャネルとは膜タンパク質の一種であり、特定の種類のイオンを通すことで細胞の電気的活動を担っている<ref>'''久保義弘、岡村康司'''<br>標準生理学 第8版 第4章 膜興奮性とイオンチャネル<br>''医学書院(東京)'':2014</ref>。そのため、興奮性細胞によって構成される脳神経系、心臓、骨格筋等におけるチャネル病の例が多数報告されている。あるいは腎臓や肺などでイオンの輸送が阻害されることによって起こるチャネル病なども知られている。イオンチャネルが身体のさまざまな部位で重要な役割を果たしていることから、チャネル病もさまざまな臓器において起こりうる。
 チャネル病(チャネロパチー)はイオンチャネルあるいはその関連タンパク質が原因で起こる疾患の総称である。イオンチャネルとは膜タンパク質の一種であり、特定の種類のイオンを通すことで細胞の電気的活動を担っている<ref>'''久保義弘、岡村康司'''<br>標準生理学 第8版 第4章 膜興奮性とイオンチャネル<br>''医学書院(東京)'':2014</ref>。そのため、興奮性細胞によって構成される脳神経系、心臓、骨格筋等におけるチャネル病の例が多数報告されている。あるいは腎臓や肺などでイオンの輸送が阻害されることによって起こるチャネル病なども知られている。イオンチャネルが身体のさまざまな部位で重要な役割を果たしていることから、チャネル病もさまざまな臓器において起こりうる。


 チャネル病にはアミノ酸の変異等、先天的な原因によって起こるものと、免疫疾患や薬剤誘発性等、後天的な原因によるものとに大別される。いずれの場合においても、単にイオンチャネルとしての機能が欠損するもの、すなわちイオン電流がなくなる、あるいは電流量が減少してしまうことが原因の場合もあれば、イオンチャネルの生物物理学的な性質が変わってしまっている場合もある。前者としては、イオンを通すイオン選択性フィルターの性質が変わることでイオンが通りにくくなってしまったり、あるいは細胞膜への輸送(トラフィッキング)への影響で、細胞膜上で機能しているイオンチャネルの量(発現量)が減ってしまったりするケースが考えられる。後者としては、例えば電位依存性のイオンチャネルの場合、その活性化の電位依存性が変化すること、あるいは不活性化するイオンチャネルにおいて不活性化の性質が変化することなどが考えられる。
 チャネル病にはアミノ酸の変異等、先天的な原因によって起こるものと、免疫疾患や薬剤誘発性等、後天的な原因によるものとに大別される。いずれの場合においても、単にイオンチャネルとしての機能が欠損するもの、すなわちイオン電流がなくなる、あるいは電流量が減少してしまうことが原因の場合もあれば、イオンチャネルの生物物理学的な性質が変わってしまっている場合もある。前者としては、イオンを通すイオン選択性フィルターの性質が変わることでイオンが通りにくくなってしまったり、あるいは細胞膜への輸送(トラフィッキング)への影響で、細胞膜上で機能しているイオンチャネルの量(発現量)が減ってしまったりするケースが考えられる。後者としては、例えば電位依存性のイオンチャネルの場合、その活性化の電位依存性が変化すること、あるいは不活性化するイオンチャネルにおいて不活性化の性質が変化することなどが考えられる。
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 電位依存性カリウムチャネルは神経細胞の電気的活動を鎮める方向に働くので、これらのチャネルの電流が減ると、やはり過興奮となり、てんかんなどの疾患の原因となる。軸索起始部(axon initial segment)に存在するKCNQ2とKCNQ3は、ヘテロ四量体としてMチャネルと呼ばれるイオンチャネルを構成する。比較的活性化の閾値が低く、静止膜電位近くで開くことで神経細胞の膜興奮性を制御していると考えられるが、どちらも良性家族性新生児痙攣と呼ばれる疾患の原因遺伝子である<ref><pubmed>9430594</pubmed></ref><ref><pubmed>9872318</pubmed></ref><ref><pubmed>9836639</pubmed></ref>。
 電位依存性カリウムチャネルは神経細胞の電気的活動を鎮める方向に働くので、これらのチャネルの電流が減ると、やはり過興奮となり、てんかんなどの疾患の原因となる。軸索起始部(axon initial segment)に存在するKCNQ2とKCNQ3は、ヘテロ四量体としてMチャネルと呼ばれるイオンチャネルを構成する。比較的活性化の閾値が低く、静止膜電位近くで開くことで神経細胞の膜興奮性を制御していると考えられるが、どちらも良性家族性新生児痙攣と呼ばれる疾患の原因遺伝子である<ref><pubmed>9430594</pubmed></ref><ref><pubmed>9872318</pubmed></ref><ref><pubmed>9836639</pubmed></ref>。
weaverマウスと呼ばれるマウスは小脳形成に異常があり、重篤な小脳失調症状を示す。このマウスではGタンパク質結合型内向き整流性カリウムチャネルGIRK2のポア領域の点変異によることがあきらかとなっている。これは発生過程での静止膜電位の異常が神経の形態形成不全を引き起こした結果であるが、これもカリウムチャネルのチャネル病の一種である。
 
 weaverマウスと呼ばれるマウスは小脳形成に異常があり、重篤な小脳失調症状を示す。このマウスではGタンパク質結合型内向き整流性カリウムチャネルGIRK2のポア領域の点変異によることがあきらかとなっている。これは発生過程での静止膜電位の異常が神経の形態形成不全を引き起こした結果であるが、これもカリウムチャネルのチャネル病の一種である。


 電位依存性カルシウムチャネルは、それぞれのサブタイプが、細胞体、神経終末、樹状突起などに局在して機能を果たしている。この中で、P/Q型カルシウムチャネルとしても知られるCaV2.1(CACNA1A)は、シナプス前終末での神経伝達物質放出に関わるイオンチャネルであるが、家族性片頭痛、反復発作性失調症2型(EA2)、脊髄小脳失調症6型(SCA6)といった、小脳に異常を呈するさまざまな神経疾患に関わっていることも知られている。
 電位依存性カルシウムチャネルは、それぞれのサブタイプが、細胞体、神経終末、樹状突起などに局在して機能を果たしている。この中で、P/Q型カルシウムチャネルとしても知られるCaV2.1(CACNA1A)は、シナプス前終末での神経伝達物質放出に関わるイオンチャネルであるが、家族性片頭痛、反復発作性失調症2型(EA2)、脊髄小脳失調症6型(SCA6)といった、小脳に異常を呈するさまざまな神経疾患に関わっていることも知られている。
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[[Image:チャネル病1.jpg|300px|thumb|right|'''図1. QT延長症候群の発生機序'''<br>例えばカリウム電流が減少すると、脱分極後の再分極が遅れるために心室筋活動電位の延長(赤線)が起きる。]]
[[Image:チャネル病1.jpg|300px|thumb|right|'''図1. QT延長症候群の発生機序'''<br>例えばカリウム電流が減少すると、脱分極後の再分極が遅れるために心室筋活動電位の延長(赤線)が起きる。]]


[[Image:チャネル病2.png|300px|thumb|right|'''図2. KCNQ1サブユニット上のLQT1またはJLNを起こすアミノ酸(マゼンタ)とSQT2を起こすアミノ酸(黄色)'''<br>ここでは1分子のみを表示している。構造はKCNQ1の開状態モデルを使用<ref><pubmed>17999538</pubmed></ref>。]]
[[Image:チャネル病2.png|300px|thumb|right|'''図2. KCNQ1サブユニット上のLQT1またはJLNを起こすアミノ酸(マゼンタ)とSQT2を起こすアミノ酸(黄色)'''<br>ここでは1分子のみを表示している。構造はKCNQ1の開状態モデルを使用<ref><pubmed>17999538</pubmed></ref>。]]


 心臓の収縮と弛緩は心筋細胞の活動電位によって制御されている。そしてその活動電位はやはり、各種のイオンチャネルによって制御されている。たとえば心室筋細胞の活動電位は電位依存性ナトリウムチャネル、電位依存性カルシウムチャネルおよび数種類のカリウムチャネルによって形成されている。ナトリウムチャネルあるいはカルシウムチャネルの機能亢進、あるいはカリウムチャネルの機能抑制が起こると、活動電位の延長が起こり、心電図のQT時間が延長するQT延長症候群となる(図1、表1)。これは不整脈の一種であり、心室細動を誘発するなど、最悪突然死につながる可能性もある。QT延長症候群と比べると頻度は低いが、カリウムチャネルの機能亢進によって活動電位が短縮し、心電図のQT時間が短縮するQT短縮症候群も心臓のチャネル病として知られている(表2)。
 心臓の収縮と弛緩は心筋細胞の活動電位によって制御されている。そしてその活動電位はやはり、各種のイオンチャネルによって制御されている。たとえば心室筋細胞の活動電位は電位依存性ナトリウムチャネル、電位依存性カルシウムチャネルおよび数種類のカリウムチャネルによって形成されている。ナトリウムチャネルあるいはカルシウムチャネルの機能亢進、あるいはカリウムチャネルの機能抑制が起こると、活動電位の延長が起こり、心電図のQT時間が延長するQT延長症候群となる(図1、表1)。これは不整脈の一種であり、心室細動を誘発するなど、最悪突然死につながる可能性もある。QT延長症候群と比べると頻度は低いが、カリウムチャネルの機能亢進によって活動電位が短縮し、心電図のQT時間が短縮するQT短縮症候群も心臓のチャネル病として知られている(表2)。
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
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(執筆者:中條浩一、久保義弘、担当編集委員:林 康紀)