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英:Neuregulin、英略語:NRG
英:Neuregulin、英略語:NRG  


 ニューレグリンとは 上皮成長因子(Epidermal Growth Factor;EGF)様の活性ドメインを有する蛋白質で、細胞の増殖、成長、分化に影響を発揮する。
 ニューレグリンとは 上皮成長因子(Epidermal Growth Factor;EGF)様の活性ドメインを有する蛋白質で、細胞の増殖、成長、分化に影響を発揮する。  


==分布==
== 分布 ==
 ErbB4分子は、おもに[[小脳]]プルキンエ細胞をふくむ[[GABA]]神経細胞に多量に発現しているとともに、[[視床下部]][[アストロサイト]]や[[錐体細胞]]にも発現が確認される。


==生合成==
 ErbB4分子は、おもに[[小脳]]プルキンエ細胞をふくむ[[GABA]]神経細胞に多量に発現しているとともに、[[視床下部]][[アストロサイト]][[錐体細胞]]にも発現が確認される。
 通常、膜結合型の大きな[[前駆体分子]]として合成され、[[細胞膜]]表面にアンカーしている。[[神経伝達]]や細胞損傷、細胞ストレスなどの刺激に反応して、細胞は[[ADAM]]などの膜結合型[[メタロプロテアーゼ]]が活性化し、NRG前駆体の細胞外ドメインを切断(シェデイング)して、その活性ドメインを放出する。多くの場合、このシェデイングが活性発揮の律速となっている。


== 生合成  ==


==構造==
 通常、膜結合型の大きな[[前駆体分子]]として合成され、[[細胞膜]]表面にアンカーしている。[[神経伝達]]や細胞損傷、細胞ストレスなどの刺激に反応して、細胞は[[ADAM]]などの膜結合型[[メタロプロテアーゼ]]が活性化し、NRG前駆体の細胞外ドメインを切断(シェデイング)して、その活性ドメインを放出する。多くの場合、このシェデイングが活性発揮の律速となっている。
 その活性中心部は、約50-60アミノ酸からなる構造を呈し、6つの[[システイン]]が3つの[[ジスルフィド結合]]し、2つの[[ベータシート]]構造を形成している。


==サブタイプ==
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 最初に見つけられた分子、ニューレグリン1(NRG1)は、その歴史的経緯の違いから、neu differentiation factor (NDF), heregulin (Her), glia growth factor (GGF), ARIA (acetylcholine receptor inducing activity)などの別称を有する。 現在、NRGファミリーはNRG1-4に加えて、Tomoregulin-2 (TEFF2)やChondroitin sulfate proteoglycan 5 (CSPG5) (TEFF2)も同様の活性型EGF様ドメインを持つことから、それぞれNRG5, NRG6とも呼ばれる。


==受容体==
== 構造  ==
 これらのNRG分子は、[[上皮成長因子受容体]]ファミリー分子(ErbB1―4)に、おのおの異なる親和性で結合する。ErbB1-4は共通した構造をもち、細胞外領域(リガンド結合部、2量体結合部)、細胞膜貫通領域、細胞内領域([[チロシンキナーゼ]]酵素部)からなる。細胞外領域にリガンドが結合すると、受容体の酵素部が活性化するとともに、相互アフィニテイーが上がり、2量体を形成しやすくなる。通常、2量体を形成すると、相手側のErbB分子の細胞内領域を[[リン酸化]]する。表1にあるようにErbB分子は、多くの組み合わせで2量体を形成するが、ホモ2量体でない限り、リガンド結合ErbB分子とシグナル伝達ErbB分子は、異なるかもしれないことに注意しなくてはならない。


==細胞内シグナル伝達系==
 その活性中心部は、約50-60アミノ酸からなる構造を呈し、6つの[[システイン]]が3つの[[ジスルフィド結合]]し、2つの[[ベータシート]]構造を形成している。
 ErbBのシグナル伝達経路には、Grb2/Ras/Raf/MAPK([[マイトジェン活性化プロテインキナーゼ]])経路、 PI3K([[フォスフォイノシトール3キナーゼ]])/[[Akt]]経路、[[PLC]]γ(フォフォライペ-スCガンマ)/[[IP3]]経路の3つが存在する。このシグナル伝達の結果、神経系の細胞は増殖、分化、生存などの方向にむかう。 Grb2/Ras/Raf/MAPK経路は、ErbB1, ErbB2活性化から派生することが多く、主に細胞分化や増殖 に関与する。ErbB4活性化後には、主にPI3K/Akt経路が働き、細胞成長や抗[[アポトーシス]]を引き起こす。また、これらErbB 受容体はPLCγ/IP3経路も活性化し、Cキナーゼや細胞内カルシウムを動員し、細胞運動や細胞増殖に関与する。


 特にErbB4分子は、神経細胞のなかで多くは[[PSD-95]]と結合し後シナプス部位に蓄積している。PSD-95分子を介してNMDA型グルタミン酸受容体とシグナル分子複合体を形成し、ErbB4シグナルは直接的に[[NMDA型グルタミン酸受容体]]の活動を調節しているとされている。NRG もしくは 電気刺激は、[[γ-セクレターゼ]]による ErbB4の細胞内ドメインの切断を促進し、核内に移行し分化や細胞死の誘導をする。切断されたErbB4の細胞内ドメインは、[[TAB2]]、[[N-CoR]]との複合体を形成し、遺伝子の転写を調節する能力を発揮する。
== サブタイプ  ==


==生理活性==
 最初に見つけられた分子、ニューレグリン1(NRG1)は、その歴史的経緯の違いから、neu differentiation factor (NDF), heregulin (Her), glia growth factor (GGF), ARIA (acetylcholine receptor inducing activity)などの別称を有する。 現在、NRGファミリーはNRG1-4に加えて、Tomoregulin-2 (TEFF2)やChondroitin sulfate proteoglycan 5 (CSPG5) (TEFF2)も同様の活性型EGF様ドメインを持つことから、それぞれNRG5, NRG6とも呼ばれる。
 ErbB3とErbB2はおもにオリゴデンドロサイトに発現していて、その前駆細胞の増殖と分化に関与していることが知られている。オリゴデンドロサイトやシュワン細胞、そのミエリン形成の研究から、細胞間接着分子のように、神経細胞の形質膜上に存在する非可溶性のNRGが、グリア細胞膜上のErbB3と相互作用をしている可能性も示唆されている。


文献
== 受容体  ==
1)Mei L and Xiong WC: Nat Rev Neurosci 9 : 437-452, 2008.
 
2)Bublil EM and, Yarden Y: Curr Opin Cell Biol 19 : 124-134, 2007。
 これらのNRG分子は、[[上皮成長因子受容体]]ファミリー分子(ErbB1―4)に、おのおの異なる親和性で結合する。ErbB1-4は共通した構造をもち、細胞外領域(リガンド結合部、2量体結合部)、細胞膜貫通領域、細胞内領域([[チロシンキナーゼ]]酵素部)からなる。細胞外領域にリガンドが結合すると、受容体の酵素部が活性化するとともに、相互アフィニテイーが上がり、2量体を形成しやすくなる。通常、2量体を形成すると、相手側のErbB分子の細胞内領域を[[リン酸化]]する。表1にあるようにErbB分子は、多くの組み合わせで2量体を形成するが、ホモ2量体でない限り、リガンド結合ErbB分子とシグナル伝達ErbB分子は、異なるかもしれないことに注意しなくてはならない。
3)Higashiyama S, et al: Cancer Sci 99 : 214-220, 2008.
 
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{| width="500" border="1" cellpadding="1" cellspacing="1"
|+ 表1. ErbBファミリーの各受容体のリガンド分子とその下流シグナル
|-
! scope="col" | 受容体
! scope="col" | 結合リガンド
! scope="col" |
2量体形成
 
パートナー
 
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主要細胞内
 
シグナル分子
 
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その他
 
結合分子
 
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== 細胞内シグナル伝達系  ==
 
 ErbBのシグナル伝達経路には、Grb2/Ras/Raf/MAPK([[マイトジェン活性化プロテインキナーゼ]])経路、 PI3K([[フォスフォイノシトール3キナーゼ]])/[[Akt]]経路、[[PLC]]γ(フォフォライペ-スCガンマ)/[[IP3]]経路の3つが存在する。このシグナル伝達の結果、神経系の細胞は増殖、分化、生存などの方向にむかう。 Grb2/Ras/Raf/MAPK経路は、ErbB1, ErbB2活性化から派生することが多く、主に細胞分化や増殖 に関与する。ErbB4活性化後には、主にPI3K/Akt経路が働き、細胞成長や抗[[アポトーシス]]を引き起こす。また、これらErbB 受容体はPLCγ/IP3経路も活性化し、Cキナーゼや細胞内カルシウムを動員し、細胞運動や細胞増殖に関与する。
 
 特にErbB4分子は、神経細胞のなかで多くは[[PSD-95]]と結合し後シナプス部位に蓄積している。PSD-95分子を介してNMDA型グルタミン酸受容体とシグナル分子複合体を形成し、ErbB4シグナルは直接的に[[NMDA型グルタミン酸受容体]]の活動を調節しているとされている。NRG もしくは 電気刺激は、[[Γ-セクレターゼ]]による ErbB4の細胞内ドメインの切断を促進し、核内に移行し分化や細胞死の誘導をする。切断されたErbB4の細胞内ドメインは、[[TAB2]]、[[N-CoR]]との複合体を形成し、遺伝子の転写を調節する能力を発揮する。
 
== 生理活性  ==
 
 ErbB3とErbB2はおもにオリゴデンドロサイトに発現していて、その前駆細胞の増殖と分化に関与していることが知られている。オリゴデンドロサイトやシュワン細胞、そのミエリン形成の研究から、細胞間接着分子のように、神経細胞の形質膜上に存在する非可溶性のNRGが、グリア細胞膜上のErbB3と相互作用をしている可能性も示唆されている。
 
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<br> 文献 1)Mei L and Xiong WC: Nat Rev Neurosci 9&nbsp;: 437-452, 2008. 2)Bublil EM and, Yarden Y: Curr Opin Cell Biol 19&nbsp;: 124-134, 2007。 3)Higashiyama S, et al: Cancer Sci 99&nbsp;: 214-220, 2008.

2011年10月26日 (水) 14:16時点における版

英:Neuregulin、英略語:NRG

 ニューレグリンとは 上皮成長因子(Epidermal Growth Factor;EGF)様の活性ドメインを有する蛋白質で、細胞の増殖、成長、分化に影響を発揮する。

分布

 ErbB4分子は、おもに小脳プルキンエ細胞をふくむGABA神経細胞に多量に発現しているとともに、視床下部アストロサイト錐体細胞にも発現が確認される。

生合成

 通常、膜結合型の大きな前駆体分子として合成され、細胞膜表面にアンカーしている。神経伝達や細胞損傷、細胞ストレスなどの刺激に反応して、細胞はADAMなどの膜結合型メタロプロテアーゼが活性化し、NRG前駆体の細胞外ドメインを切断(シェデイング)して、その活性ドメインを放出する。多くの場合、このシェデイングが活性発揮の律速となっている。


構造

 その活性中心部は、約50-60アミノ酸からなる構造を呈し、6つのシステインが3つのジスルフィド結合し、2つのベータシート構造を形成している。

サブタイプ

 最初に見つけられた分子、ニューレグリン1(NRG1)は、その歴史的経緯の違いから、neu differentiation factor (NDF), heregulin (Her), glia growth factor (GGF), ARIA (acetylcholine receptor inducing activity)などの別称を有する。 現在、NRGファミリーはNRG1-4に加えて、Tomoregulin-2 (TEFF2)やChondroitin sulfate proteoglycan 5 (CSPG5) (TEFF2)も同様の活性型EGF様ドメインを持つことから、それぞれNRG5, NRG6とも呼ばれる。

受容体

 これらのNRG分子は、上皮成長因子受容体ファミリー分子(ErbB1―4)に、おのおの異なる親和性で結合する。ErbB1-4は共通した構造をもち、細胞外領域(リガンド結合部、2量体結合部)、細胞膜貫通領域、細胞内領域(チロシンキナーゼ酵素部)からなる。細胞外領域にリガンドが結合すると、受容体の酵素部が活性化するとともに、相互アフィニテイーが上がり、2量体を形成しやすくなる。通常、2量体を形成すると、相手側のErbB分子の細胞内領域をリン酸化する。表1にあるようにErbB分子は、多くの組み合わせで2量体を形成するが、ホモ2量体でない限り、リガンド結合ErbB分子とシグナル伝達ErbB分子は、異なるかもしれないことに注意しなくてはならない。


表1. ErbBファミリーの各受容体のリガンド分子とその下流シグナル
受容体 結合リガンド

2量体形成

パートナー

主要細胞内

シグナル分子

その他

結合分子


細胞内シグナル伝達系

 ErbBのシグナル伝達経路には、Grb2/Ras/Raf/MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)経路、 PI3K(フォスフォイノシトール3キナーゼ)/Akt経路、PLCγ(フォフォライペ-スCガンマ)/IP3経路の3つが存在する。このシグナル伝達の結果、神経系の細胞は増殖、分化、生存などの方向にむかう。 Grb2/Ras/Raf/MAPK経路は、ErbB1, ErbB2活性化から派生することが多く、主に細胞分化や増殖 に関与する。ErbB4活性化後には、主にPI3K/Akt経路が働き、細胞成長や抗アポトーシスを引き起こす。また、これらErbB 受容体はPLCγ/IP3経路も活性化し、Cキナーゼや細胞内カルシウムを動員し、細胞運動や細胞増殖に関与する。

 特にErbB4分子は、神経細胞のなかで多くはPSD-95と結合し後シナプス部位に蓄積している。PSD-95分子を介してNMDA型グルタミン酸受容体とシグナル分子複合体を形成し、ErbB4シグナルは直接的にNMDA型グルタミン酸受容体の活動を調節しているとされている。NRG もしくは 電気刺激は、Γ-セクレターゼによる ErbB4の細胞内ドメインの切断を促進し、核内に移行し分化や細胞死の誘導をする。切断されたErbB4の細胞内ドメインは、TAB2N-CoRとの複合体を形成し、遺伝子の転写を調節する能力を発揮する。

生理活性

 ErbB3とErbB2はおもにオリゴデンドロサイトに発現していて、その前駆細胞の増殖と分化に関与していることが知られている。オリゴデンドロサイトやシュワン細胞、そのミエリン形成の研究から、細胞間接着分子のように、神経細胞の形質膜上に存在する非可溶性のNRGが、グリア細胞膜上のErbB3と相互作用をしている可能性も示唆されている。



文献 1)Mei L and Xiong WC: Nat Rev Neurosci 9 : 437-452, 2008. 2)Bublil EM and, Yarden Y: Curr Opin Cell Biol 19 : 124-134, 2007。 3)Higashiyama S, et al: Cancer Sci 99 : 214-220, 2008.