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バーグマングリア
バーグマングリア  


英語名:Bergmann glia, Golgi epithelial cell, radial epithelial cell
英語名:Bergmann glia, Golgi epithelial cell, radial epithelial cell  


同義語:ベルグマン膠細胞、ゴルジ上皮細胞
同義語:ベルグマン膠細胞、ゴルジ上皮細胞  


長く発達した放射状線維(バーグマン線維)をもつ[[小脳皮質]]の[[wikipedia:astrocyte|アストロサイト]]の一種。小脳皮質[[分子層]]を縦断する放射状線維は皮質の支持構造として機能し、発生中には[[顆粒細胞]]と[[プルキンエ細胞]]を含む小脳皮質ニューロンの[[神経細胞移動]]と突起伸展の足場を提供する。成体では出力細胞のプルキンエ細胞[[シナプス]]を被包して[[シナプス放出]]された[[グルタミン酸]]を吸収し、細胞外環境の維持と神経回路機能の調節に重要な役割を果たす。
長く発達した放射状線維(バーグマン線維)をもつ[[小脳皮質]]の[[wikipedia:astrocyte|アストロサイト]]の一種。小脳皮質[[分子層]]を縦断する放射状線維は皮質の支持構造として機能し、発生中には[[顆粒細胞]]と[[プルキンエ細胞]]を含む小脳皮質ニューロンの[[神経細胞移動]]と突起伸展の足場を提供する。成体では出力細胞のプルキンエ細胞[[シナプス]]を被包して[[シナプス放出]]された[[グルタミン酸]]を吸収し、細胞外環境の維持と神経回路機能の調節に重要な役割を果たす。  


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== 歴史 ==
== 歴史 ==


[[wikipedia:Ramón y Cajal|Ramón y Cajal]]が1911年に出版した著名な解剖書中で、小脳皮質に柵状構造を形成する放射状線維を1850年代に最初に記載したBergmannに因み、「バーグマン線維をもつ上皮細胞」と表現したことから、バーグマングリアの名が使われるようになった。1885年に放射状線維が[[グリア細胞]]に由来することを見出した[[wikipedia:Camillo Golgi|Camillo Golgi]]の名を取り、ゴルジ上皮細胞と呼ばれることもある。
[[wikipedia:Ramón y Cajal|Ramón y Cajal]]が1911年に出版した著名な解剖書中で、小脳皮質に柵状構造を形成する放射状線維を1850年代に最初に記載したBergmannに因み、「バーグマン線維をもつ上皮細胞」と表現したことから、バーグマングリアの名が使われるようになった。1885年に放射状線維が[[グリア細胞]]に由来することを見出した[[wikipedia:Camillo Golgi|Camillo Golgi]]の名を取り、ゴルジ上皮細胞と呼ばれることもある。  


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== 形態 ==
== 形態 ==
=== 組織像 ===
バーグマングリアの細胞体は、小脳皮質[[プルキンエ細胞層]]に整列するプルキンエ細胞の[[細胞体]]周辺に不規則に配置する(図1)。プルキンエ細胞とバーグマングリアの割合はおよそ1:8とされる。細胞体から垂線方向に伸び脳表の[[軟膜]]へ到達する特徴的な放射状線維(radial fiber)は細胞毎に5本程度で、幹に多数の薄片状または刺状の突起を形成する。同じ細胞由来の放射状線維は、扇形に展開するプルキンエ細胞[[樹状突起]]と垂直に小脳冠状面(正中面に垂直な面)に広がる傾向がある(図2)。樹状突起と異なり、放射状線維は分岐が少なく先細りしない。先端で膨張してendfeetを形成し、軟膜と結合する。


=== 微細構造 ===
=== 組織像 [[Image:Kengaku_Fig_1.jpg|thumb|right|250 pxpx|図1 生後3週令マウスのバーグマングリア(スケールバーは20 µm)]] ===
電子顕微鏡では電子密度が低く[[wikipedia:ja:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]などの[[wikipedia:ja:細胞内小器官|細胞内小器官]]がまばらで明調な細胞として観察される(図3)。明調な放射状線維から突出した薄片状突起は、プルキンエ細胞の[[樹状突起スパイン]]上に形成される、[[平行線維]](顆粒細胞[[軸索]])、[[登上線維]]([[下オリーブ核]]ニューロン軸索)、[[抑制性介在ニューロン]]とのシナプスを被包する(図4)。放射状線維末端のendfeetは二重膜が渦巻状に折り畳まれた球根様の構造で、軟膜[[上皮細胞]]と密接に結合する。


=== 分子発現 ===
バーグマングリアの細胞体は、小脳皮質[[プルキンエ細胞層]]に整列するプルキンエ細胞の[[細胞体]]周辺に不規則に配置する(図1)。プルキンエ細胞とバーグマングリアの割合はおよそ1:8とされる。細胞体から垂線方向に伸び脳表の[[軟膜]]へ到達する特徴的な放射状線維(radial fiber)は細胞毎に5本程度で、幹に多数の薄片状または刺状の突起を形成する。同じ細胞由来の放射状線維は、扇形に展開するプルキンエ細胞[[樹状突起]]と垂直に小脳冠状面(正中面に垂直な面)に広がる傾向がある(図2)。樹状突起と異なり、放射状線維は分岐が少なく先細りしない。先端で膨張してendfeetを形成し、軟膜と結合する。
バーグマングリアは[[中間系フィラメント]][[GFAP (glial fibrillary acidic protein)]]、グリア型[[グルタミン酸輸送体]][[EAAT1(GLAST)]]、脂質結合分子[[BLBP(brain lipid-binding protein]](別名FABP7)などのアストロサイト系譜細胞のマーカー分子の多くを発現する。その他、成熟したアストロサイトには消失する[[ヴィメンチン(vimentin)]]の強い発現が見られ、Sox1,Sox2,Hes1,RC1抗原などの幹細胞マーカーの発現がある。[[網膜ミューラーグリア]]と共に、放射状線維をもつ形態的特徴と未分化なアストロサイト特有の分子発現から胚性[[神経幹細胞]]の[[放射状グリア]]と比較されるが、2012年現在ではバーグマングリアが幹細胞として機能する証拠はない。


=== 微細構造  ===


== 発生==
電子顕微鏡では電子密度が低く[[wikipedia:ja:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]などの[[wikipedia:ja:細胞内小器官|細胞内小器官]]がまばらで明調な細胞として観察される(図3)。明調な放射状線維から突出した薄片状突起は、プルキンエ細胞の[[樹状突起スパイン]]上に形成される、[[平行線維]](顆粒細胞[[軸索]])、[[登上線維]]([[下オリーブ核]]ニューロン軸索)、[[抑制性介在ニューロン]]とのシナプスを被包する(図4)。放射状線維末端のendfeetは二重膜が渦巻状に折り畳まれた球根様の構造で、軟膜[[上皮細胞]]と密接に結合する。


バーグマングリアは、[[興奮性ニューロン]]を除く多くの小脳皮質細胞(プルキンエ細胞、抑制性介在ニューロン、各種グリア細胞)が産生される[[第4脳室]]に面する[[脳室帯]]の放射状グリア(神経幹細胞)から分化する。同じ脳室帯からアストロサイトや[[オリゴデンドロサイト]]などが胎生期から生後の長い期間に産生され続けるのに対し、バーグマングリアはプルキンエ細胞の産生が終る直後の短い期間(マウスでは胎生13.5日から14.5日)に誕生することが確かめられている<ref><pubmed> 21795554 </pubmed></ref>。脳室帯で誕生したバーグマングリアは小脳皮質へ細胞移動し、生後1週目(マウス)までにプルキンエ細胞層周辺に配置して複数の放射状線維を形成する(Yamada 2000, Yuasa 1996)。この時期にもバーグマンクリアは分裂により数を増やしているとされる<ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref>(Das 1974; Shiga 1983)。放射状線維は生後発達中に次第に径を増し、グルタミン酸輸送体EAAT1が集積する薄片状突起を多数形成する。薄片状突起はまず細胞体付近で形成され、プルキンエ細胞樹状突起の伸展に伴い徐々に先端へ広がり、プルキンエ細胞樹状突起上のスパインを被包する<ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref>(Altman 1972; Yamada 2000)。プルキンエ細胞樹状突起に発現する[[Notch]]リガンドのDNER (Delta/Notch-like EGF-related protein)の欠損動物で放射状線維の分化が遅延することから、プルキンエ細胞との相互作用によりバーグマングリアのNotchシグナルが活性化することが放射状線維分化を促進すると考えられる<ref><pubmed> 15965470 </pubmed></ref>。
=== 分子発現  ===


バーグマングリアは[[中間系フィラメント]][[GFAP (glial fibrillary acidic protein)]]、グリア型[[グルタミン酸輸送体]][[EAAT1(GLAST)]]、脂質結合分子[[BLBP(brain lipid-binding protein]](別名FABP7)などのアストロサイト系譜細胞のマーカー分子の多くを発現する。その他、成熟したアストロサイトには消失する[[ヴィメンチン(vimentin)]]の強い発現が見られ、Sox1,Sox2,Hes1,RC1抗原などの幹細胞マーカーの発現がある。[[網膜ミューラーグリア]]と共に、放射状線維をもつ形態的特徴と未分化なアストロサイト特有の分子発現から胚性[[神経幹細胞]]の[[放射状グリア]]と比較されるが、2012年現在ではバーグマングリアが幹細胞として機能する証拠はない。


== 機能 ==
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バーグマングリアは個体の一生を通じて様々な機能を果たす。


=== 支持構造===
== 発生 ==
 バーグマングリアの放射状線維は分子層を柵状に縦断し、小脳皮質の支持構造となる一方、先端部のendfeetは軟膜境界を覆い、軟膜外と皮質の[[グリア境界膜]](glia limitans)として機能する。Endfeetと軟膜の結合には[[β1-インテグリン]]が関与し、β1-インテグリン欠損動物ではendfeetの発達が阻害され、著しい小脳皮質形成不全が起こる<ref><pubmed> 11516395 </pubmed></ref>。


===分化制御===
バーグマングリアは、[[興奮性ニューロン]]を除く多くの小脳皮質細胞(プルキンエ細胞、抑制性介在ニューロン、各種グリア細胞)が産生される[[第4脳室]]に面する[[脳室帯]]の放射状グリア(神経幹細胞)から分化する。同じ脳室帯からアストロサイトや[[オリゴデンドロサイト]]などが胎生期から生後の長い期間に産生され続けるのに対し、バーグマングリアはプルキンエ細胞の産生が終る直後の短い期間(マウスでは胎生13.5日から14.5日)に誕生することが確かめられている<ref><pubmed> 21795554 </pubmed></ref>。脳室帯で誕生したバーグマングリアは小脳皮質へ細胞移動し、生後1週目(マウス)までにプルキンエ細胞層周辺に配置して複数の放射状線維を形成する(Yamada 2000, Yuasa 1996)。この時期にもバーグマンクリアは分裂により数を増やしているとされる<ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref>(Das 1974; Shiga 1983)。放射状線維は生後発達中に次第に径を増し、グルタミン酸輸送体EAAT1が集積する薄片状突起を多数形成する。薄片状突起はまず細胞体付近で形成され、プルキンエ細胞樹状突起の伸展に伴い徐々に先端へ広がり、プルキンエ細胞樹状突起上のスパインを被包する<ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref>(Altman 1972; Yamada 2000)。プルキンエ細胞樹状突起に発現する[[Notch]]リガンドのDNER (Delta/Notch-like EGF-related protein)の欠損動物で放射状線維の分化が遅延することから、プルキンエ細胞との相互作用によりバーグマングリアのNotchシグナルが活性化することが放射状線維分化を促進すると考えられる<ref><pubmed> 15965470 </pubmed></ref>。  
放射状線維は生後発達期には小脳軟膜直下の[[外顆粒層]]から皮質深層の[[内顆粒層]]へ移動する顆粒細胞の足場になると考えられている。また同時期にプルキンエ細胞樹状突起もグリア線維を伝うように伸展する。詳細な機構は不明であるが、バーグマングリアに発現する[[受容体型チロシンホスファターゼ]]PTPζの機能阻害によりプルキンエ細胞樹状突起形成に異常が生じるという報告がある<ref><pubmed> 12684467 </pubmed></ref>。


===神経活動制御===
<br>
放射状線維上に形成される薄片状突起は、プルキンエ細胞樹状突起のシナプスを5個程度の単位で包囲し、機能的に独立した[[ミクロドメイン]]を形成する。バーグマングリアにはグリア型グルタミン酸輸送体の[[EAAT1(GLAST)]]および[[EAAT2(GLT1)]]が発現し、プルキンエ細胞の興奮性[[シナプス間隙]]に放出されたグルタミン酸を素早く取り込む。グルタミン酸はグリア細胞内でグルタミンに代謝され、ニューロンに取り込まれた後再度グルタミン酸に変換される。グリア型グルタミン酸トランスポーターによるグルタミン酸の取り込みは、(1)神経伝達を終了させ、[[興奮性シナプス後電流]]の早いキネティクスを可能にする、(2)シナプス外へのグルタミン酸漏出を抑える、(3)グルタミン酸刺激の持続による[[興奮毒性]]を抑える、などの生理的機能をもつ。


バーグマングリアに特に発現の多いEAAT1の欠損マウスでは、生後発達期における平行線維-プルキンエ細胞間シナプスにおけるシナプス後電流の遷延<ref><pubmed> 12878755 </pubmed></ref>と外傷に対する遅延性神経細胞死の拡大<ref><pubmed> 9753165 </pubmed></ref>が見られる。また、プルキンエ細胞シナプスのミクロドメイン区画化が不完全になり、近接するプルキンエ細胞を支配する登上線維シナプスからのグルタミン酸漏出や異所的シナプスの形成による登上線維多重支配が見られる<ref><pubmed> 16775144 </pubmed></ref>。
== 機能  ==


バーグマングリアにはカルシウムイオン透過性[[AMPA型グルタミン酸受容体]]が発現し、グルタミン酸刺激に対しCa<sup>2+</sup>流入が起こり、[[内向き整流性]]の速い電流応答を示す。生体内では登上線維および平行線維に由来するグルタミン酸を受容すると考えられるが、バーグマングリアとプルキンエ細胞の発火は必ずしも同期せず、[[Ca<sup>2+</sup>放出連関]]や[[短期可塑性]]などの応答特性も異なることから、プルキンエ細胞シナプスからの漏出ではなく、登上線維および平行線維終末付近でバーグマングリアに対する異所性(シナプス外)の放出があると考えられる<ref><pubmed> 16107641 </pubmed></ref>。バーグマングリアには[[GABA(A)受容体]]も発現し、プルキンエ細胞樹状突起および細胞体の抑制性シナプスの付近に集積する<ref><pubmed> 12486165 </pubmed></ref>。神経伝達物質応答能により、バーグマングリアが求心性線維終末の位置を同定し、シナプス周辺に薄片状突起を発達させることが可能になる。バーグマングリアのAMPA型受容体の透過性を変化させると、グリア突起が退縮してミクロドメインが解離し、登上線維、平行線維ともシナプス後電流が遷延し、さらには登上線維異所支配が誘発される<ref><pubmed> 11340205 </pubmed></ref>。
バーグマングリアは個体の一生を通じて様々な機能を果たす。


バーグマングリアには[[代謝型グルタミン酸受容体]]、[[ATP受容体(P2Y受容体)]]、[[NO受容体]]なども発現し、電流応答の特性に寄与すると考えられる。自発運動中の動物において、バーグマングリアに強い[[Ca<sup>2+</sup>トランジェント]]が起こり<ref><pubmed> 19447095 </pubmed></ref>、しばしば波状に伝播していくのが観察されるが<ref><pubmed> 19211787 </pubmed></ref>、バーグマングリアの活動の生理的意義についてコンセンサスは得られていない。
=== 支持構造 ===


 バーグマングリアの放射状線維は分子層を柵状に縦断し、小脳皮質の支持構造となる一方、先端部のendfeetは軟膜境界を覆い、軟膜外と皮質の[[グリア境界膜]](glia limitans)として機能する。Endfeetと軟膜の結合には[[Β1-インテグリン]]が関与し、β1-インテグリン欠損動物ではendfeetの発達が阻害され、著しい小脳皮質形成不全が起こる<ref><pubmed> 11516395 </pubmed></ref>。


==病理==
=== 分化制御 ===
[[遺伝性脊髄小脳失調症7型(spinocerebellar ataxia type 7; SCA7)]]では、原因遺伝子[[ataxin-7]]の変異によりバーグマンクリアにおけるEAAT1発現が減少し、興奮毒性による進行性のプルキンエ細胞の脱落が起こると考えられている<ref><pubmed> 16936724 </pubmed></ref>。また、遺伝性脊髄小脳失調症1型の原因遺伝子[[ataxin-1]]の変異によりバーグマンクリアの増殖が抑えられ、プルキンエ細胞の脱落が誘発されるとする報告がある(<ref><pubmed>  20531390 </pubmed></ref>。


==参考文献==
放射状線維は生後発達期には小脳軟膜直下の[[外顆粒層]]から皮質深層の[[内顆粒層]]へ移動する顆粒細胞の足場になると考えられている。また同時期にプルキンエ細胞樹状突起もグリア線維を伝うように伸展する。詳細な機構は不明であるが、バーグマングリアに発現する[[受容体型チロシンホスファターゼ]]PTPζの機能阻害によりプルキンエ細胞樹状突起形成に異常が生じるという報告がある<ref><pubmed> 12684467 </pubmed></ref>。
<references/>
 
=== 神経活動制御 ===
 
放射状線維上に形成される薄片状突起は、プルキンエ細胞樹状突起のシナプスを5個程度の単位で包囲し、機能的に独立した[[ミクロドメイン]]を形成する。バーグマングリアにはグリア型グルタミン酸輸送体の[[EAAT1(GLAST)]]および[[EAAT2(GLT1)]]が発現し、プルキンエ細胞の興奮性[[シナプス間隙]]に放出されたグルタミン酸を素早く取り込む。グルタミン酸はグリア細胞内でグルタミンに代謝され、ニューロンに取り込まれた後再度グルタミン酸に変換される。グリア型グルタミン酸トランスポーターによるグルタミン酸の取り込みは、(1)神経伝達を終了させ、[[興奮性シナプス後電流]]の早いキネティクスを可能にする、(2)シナプス外へのグルタミン酸漏出を抑える、(3)グルタミン酸刺激の持続による[[興奮毒性]]を抑える、などの生理的機能をもつ。
 
バーグマングリアに特に発現の多いEAAT1の欠損マウスでは、生後発達期における平行線維-プルキンエ細胞間シナプスにおけるシナプス後電流の遷延<ref><pubmed> 12878755 </pubmed></ref>と外傷に対する遅延性神経細胞死の拡大<ref><pubmed> 9753165 </pubmed></ref>が見られる。また、プルキンエ細胞シナプスのミクロドメイン区画化が不完全になり、近接するプルキンエ細胞を支配する登上線維シナプスからのグルタミン酸漏出や異所的シナプスの形成による登上線維多重支配が見られる<ref><pubmed> 16775144 </pubmed></ref>。
 
バーグマングリアにはカルシウムイオン透過性[[AMPA型グルタミン酸受容体]]が発現し、グルタミン酸刺激に対しCa<sup>2+</sup>流入が起こり、[[内向き整流性]]の速い電流応答を示す。生体内では登上線維および平行線維に由来するグルタミン酸を受容すると考えられるが、バーグマングリアとプルキンエ細胞の発火は必ずしも同期せず、[[Ca<sup>2+</sup>放出連関]]や[[短期可塑性]]などの応答特性も異なることから、プルキンエ細胞シナプスからの漏出ではなく、登上線維および平行線維終末付近でバーグマングリアに対する異所性(シナプス外)の放出があると考えられる<ref><pubmed> 16107641 </pubmed></ref>。バーグマングリアには[[GABA(A)受容体]]も発現し、プルキンエ細胞樹状突起および細胞体の抑制性シナプスの付近に集積する<ref><pubmed> 12486165 </pubmed></ref>。神経伝達物質応答能により、バーグマングリアが求心性線維終末の位置を同定し、シナプス周辺に薄片状突起を発達させることが可能になる。バーグマングリアのAMPA型受容体の透過性を変化させると、グリア突起が退縮してミクロドメインが解離し、登上線維、平行線維ともシナプス後電流が遷延し、さらには登上線維異所支配が誘発される<ref><pubmed> 11340205 </pubmed></ref>。
 
バーグマングリアには[[代謝型グルタミン酸受容体]]、[[ATP受容体(P2Y受容体)]]、[[NO受容体]]なども発現し、電流応答の特性に寄与すると考えられる。自発運動中の動物において、バーグマングリアに強い[[Ca<sup>2+</sup>トランジェント]]が起こり<ref><pubmed> 19447095 </pubmed></ref>、しばしば波状に伝播していくのが観察されるが<ref><pubmed> 19211787 </pubmed></ref>、バーグマングリアの活動の生理的意義についてコンセンサスは得られていない。
 
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== 病理 ==
 
[[遺伝性脊髄小脳失調症7型(spinocerebellar ataxia type 7; SCA7)]]では、原因遺伝子[[Ataxin-7]]の変異によりバーグマンクリアにおけるEAAT1発現が減少し、興奮毒性による進行性のプルキンエ細胞の脱落が起こると考えられている<ref><pubmed> 16936724 </pubmed></ref>。また、遺伝性脊髄小脳失調症1型の原因遺伝子[[Ataxin-1]]の変異によりバーグマンクリアの増殖が抑えられ、プルキンエ細胞の脱落が誘発されるとする報告がある(<ref><pubmed>  20531390 </pubmed></ref>。
 
== 参考文献 ==
 
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