「プレキシン」の版間の差分

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プレキシンは、1回膜貫通型のタイプI型膜分子であり、アフリカツメガエルの視覚系組織に対するモノクローナル抗体B2の抗原として同定された。発見当初、相同分子間接着活性を持つ分子として見出され、その後、主に軸索誘導(ガイド)分子セマフォリン(semaphorin)の受容体としても機能することが明らかになっている。脊椎動物では9種類の分子からなる分子ファミリーを構成し、そのアミノ酸配列の類似性から4つのサブファミリ(A、B、C、D)に分類されている。培養系や生体内での解析により、神経回路形成期において、神経細胞移動、軸索誘導、軸索剪定、樹状突起形成、スパイン形成の制御など様々な現象に関与することが明らかになっている。また、神経系以外では、免疫系、骨形成、血管形成など生体内の多様な局面で機能する。
{{box|text= プレキシンは、1回膜貫通型のタイプI型膜分子であり、アフリカツメガエルの視覚系組織に対するモノクローナル抗体B2の抗原として同定された。発見当初、相同分子間接着活性を持つ分子として見出され、その後、主に軸索誘導(ガイド)分子セマフォリン(semaphorin)の受容体としても機能することが明らかになっている。脊椎動物では9種類の分子からなる分子ファミリーを構成し、そのアミノ酸配列の類似性から4つのサブファミリ(A、B、C、D)に分類されている。培養系や生体内での解析により、神経回路形成期において、神経細胞移動、軸索誘導、軸索剪定、樹状突起形成、スパイン形成の制御など様々な現象に関与することが明らかになっている。また、神経系以外では、免疫系、骨形成、血管形成など生体内の多様な局面で機能する。}}
 
==プレキシンとは==
(抄録とは別にイントロをお願い致します。)


== 構造 ==
== 構造 ==
[[ファイル:プレキシン基本構造.png|400px|thumb|右|基本構造]]
[[ファイル:プレキシン基本構造.png|400px|thumb|右|基本構造]]
プレキシン分子は1回膜貫通型のタイプI型膜分子であり、アミノ末端よりシグナル配列、sema-domain、3つのMRS(またはPSI-domain)、6つ、あるいは4つのIPT-domain、膜貫通部位、細胞内領域を有する。sema-domainは相互作用分子であるセマフォリン(semaphorin)と類似した構造であり、HGF受容体のc-Metの細胞外領域にも存在する。 MRS (c-Met-related sequence)は、プレキシンとc-Metならびにc-Met-like kinaseと類似した配列として見出された配列で、基本的に8つのCystein残基を含む約50アミノ酸残基からなる配列である。この配列はplexin, semaphorin, integrin(β-integrin)にて認められることから、それぞれの分子の頭文字をとってPSI-domainとも呼ばれている。IPT-domainは、immunoglobulin (Ig)様構造をとると予測されている部位で、nuclear factor of transcription factors (NFAT) ファミリーにも存在することより、IPT (immunoblobulin-like fold shared by plexins and transcription factors)と名付けられている。また、細胞外領域には糖鎖の結合が予測されるN-linked glycosylation部位も複数存在し、糖鎖修飾による活性制御が推定されている。細胞内領域は高度に保存されており、プレキシンファミリー分子間で共通する部位としてGAP-related domainとその中間にhinge-domainが存在する。また、A-type plexin分子には膜貫通部位付近にFERM-domain結合配列が、B-type plexin分子には、細胞外膜貫通領域近くにタンパク質切断配列、また、B-,D-type plexin 分子はC末端にPDZ-domain結合配列が存在する。<br />
 プレキシン分子は1回膜貫通型のタイプI型膜分子であり、アミノ末端よりシグナル配列、sema-ドメイン、3つのMRS(またはPSI-ドメイン)、6つ、あるいは4つのIPT-ドメイン、膜貫通部位、細胞内領域を有する。sema-ドメインは相互作用分子であるセマフォリン(semaphorin)と類似した構造であり、HGF受容体のc-Metの細胞外領域にも存在する。 MRS (c-Met-related sequence)は、プレキシンとc-Metならびにc-Met-like kinaseと類似した配列として見出された配列で、基本的に8つのCystein残基を含む約50アミノ酸残基からなる配列である。この配列はplexin, semaphorin, integrin(β-integrin)にて認められることから、それぞれの分子の頭文字をとってPSI-ドメインとも呼ばれている。IPT-ドメインは、immunoglobulin (Ig)様構造をとると予測されている部位で、nuclear factor of transcription factors (NFAT) ファミリーにも存在することより、IPT (immunoblobulin-like fold shared by plexins and transcription factors)と名付けられている。また、細胞外領域には糖鎖の結合が予測されるN-linked glycosylation部位も複数存在し、糖鎖修飾による活性制御が推定されている。細胞内領域は高度に保存されており、プレキシンファミリー分子間で共通する部位としてGAP-related ドメインとその中間にhinge-ドメインが存在する。また、A-type plexin分子には膜貫通部位付近にFERM-ドメイン結合配列が、B-type plexin分子には、細胞外膜貫通領域近くにタンパク質切断配列、また、B-,D-type plexin 分子はC末端にPDZ-ドメイン結合配列が存在する。


主たる相互作用分子であるセマフォリンとは、sema-domain同士を介して結合する。結晶解析により、いずれのsema-domainも7-bladed β—propeller構造をとることが明らかになった。1つのblade(羽根)はA~Dの4つのβシートにより構成される。プレキシン、セマフォリンともに、第1と第2blade間ならびに第5blade中のß5Cとß5D間に、それぞれextrusion 1、extrusion 2とそれぞれ名付けられた突出部位をもつ。これら2つのextrusion、ならびに第3bladeより構成される構造でプレキシンとセマフォリンの結合が制御される。例えば、αヘリック構造からなるextrusion 2には、相互作用に必要なアミノ酸が含まれている(Sema6Aとplexin-A2の場合、それぞれK393と A396)。また、Sema6A—Plexin-A2結合における結晶構造解析より、plexin-A2は、Sema6A非結合時にはリガンド結合部位にてホモフィリックな(同種分子間での)結合様式をとり、一方、Sema6Aの存在下では同様な部位にてSema6A結合すること、すなわち、リガンドの存在、非存在下において結合相手を代えることが明らかとなっている。
主たる相互作用分子であるセマフォリンとは、sema-ドメイン同士を介して結合する。結晶解析により、いずれのsema-ドメインも7-bladed β—propeller構造をとることが明らかになった。1つのblade(羽根)はA~Dの4つのβシートにより構成される。プレキシン、セマフォリンともに、第1と第2blade間ならびに第5blade中のß5Cとß5D間に、それぞれextrusion 1、extrusion 2とそれぞれ名付けられた突出部位をもつ。これら2つのextrusion、ならびに第3bladeより構成される構造でプレキシンとセマフォリンの結合が制御される。例えば、αヘリック構造からなるextrusion 2には、相互作用に必要なアミノ酸が含まれている(Sema6Aとplexin-A2の場合、それぞれK393と A396)。また、Sema6A—Plexin-A2結合における結晶構造解析より、plexin-A2は、Sema6A非結合時にはリガンド結合部位にてホモフィリックな(同種分子間での)結合様式をとり、一方、Sema6Aの存在下では同様な部位にてSema6A結合すること、すなわち、リガンドの存在、非存在下において結合相手を代えることが明らかとなっている。


== Plexin subfamily ==
==サブファミリー==
[[ファイル:プレキシンサブファミリー.png|300px|thumb|右|プレキシンサブファミリーについて]]
[[ファイル:プレキシンサブファミリー.png|300px|thumb|右|プレキシンサブファミリーについて]]
脊椎動物において、9つのプレキシン分子はアミノ酸配列の類似性をもとに4つのサブファミリーに分類される。これらの構成は、A-type plexin (4分子: plexin-A1 , plexin-A2 , plexin-A3, plexin-A4)、B-type plexin (3分子: plexin-B1, plexin-B2, plexin-B3), C-type plexin (1分子: plexin-C1)、D-type plexin (1分子: plexin-D1)である。
脊椎動物において、9つのプレキシン分子はアミノ酸配列の類似性をもとに4つのサブファミリーに分類される。これらの構成は、A-type plexin (4分子: plexin-A1 , plexin-A2 , plexin-A3, plexin-A4)、B-type plexin (3分子: plexin-B1, plexin-B2, plexin-B3), C-type plexin (1分子: plexin-C1)、D-type plexin (1分子: plexin-D1)である。
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==== 細胞内領域での結合分子 ====
==== 細胞内領域での結合分子 ====
細胞内領域には細胞骨格系を制御する分子との相互作用が知られている。これまでに、small GTP結合分子(Rnd分子ファミリー、R-Ras, M-Rasなど)やFynチロシンキナーゼが結合することが報告されている。また、A-type plexinは、juxtamembrane 付近でFERM-domain を含むFARM1, FARM2と、また、B-type plexinはC末端にてPDZ-domaiを含むLARG, PDZ-RhoGEFと結合する。
細胞内領域には細胞骨格系を制御する分子との相互作用が知られている。これまでに、低分子GTP結合タンパク質(Rnd分子ファミリー、R-Ras, M-Rasなど)やFynチロシンキナーゼが結合することが報告されている。また、A-type plexinは、juxtamembrane 付近でFERMドメイン を含むFARM1, FARM2と、また、B-type plexinはC末端にてPDZドメインを含むLARG, PDZ-RhoGEFと結合する。


== 機能と役割 ==
== 機能と役割 ==
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== 疾患との関連 ==
== 疾患との関連 ==
プレキシンは神経回路形成の多様な現象に関与することから、精神・神経疾患との関連が指摘されている。疾患患者のゲノムDNAの解析から、plexin-D1がカルマン症候群の患者にて遺伝子変異が生じていることや、plexin-A2が統合失調症、plexin-A4が自閉症の脆弱性と関連することなどが指摘されている。
プレキシンは神経回路形成の多様な現象に関与することから、精神・神経疾患との関連が指摘されている。疾患患者のゲノムDNAの解析から、plexin-D1がカルマン症候群の患者にて遺伝子変異が生じていることや、plexin-A2が統合失調症、plexin-A4が自閉症の脆弱性と関連することなどが指摘されている。
==関連項目==
* [[セマフォリン]]
==参考文献==
<references />