ホメオボックス

ホメオドメインから転送)

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古川 貴久
大阪大学蛋白質研究所 分子発生学研究室
DOI:10.14931/bsd.3185 原稿受付日:2013年1月24日 原稿完成日:2014年3月25日
担当編集委員:村上 富士夫(大阪大学 大学院生命機能研究科)

英語名:homeobox 独:Homöobox 仏:homéoboîte

Homeobox domain
Homeodomain-dna-1ahd.png
The Antennapedia homeodomain protein from Drosophila melanogaster bound to a fragment of DNA[1]. The recognition helix and unstructured N-terminus are bound in the major and minor grooves respectively.
Identifiers
Symbol Homeobox
Pfam PF00046
Pfam clan CL0123
InterPro IPR001356
SMART SM00389
PROSITE PS50071
SCOP 1ahd
SUPERFAMILY 1ahd

 180塩基対の塩基配列であり、DNAに結合する機能を有するヘリックスターンヘリックス構造モチーフである「ホメオドメイン」をコードする。ホメオドメインは60アミノ酸から成る。ホメオボックスを持つ遺伝子はホメオボックス遺伝子と呼ばれ、主に発生における形態形成、器官形成、細胞分化などに関わる転写因子(transcription factor)をコードする。この発見により、発生生物学が大いに進展した。

ファミリー

 
図1.ショウジョウバエのアンテナペディア遺伝子複合体とバイソラックス遺伝子複合体およびマウス(哺乳類)におけるホモログであるHox遺伝子のクラスター
ショウジョウバエにおけるアンテナペディア遺伝子複合体とバイソラックス遺伝子複合体は進化の過程で遺伝子重複が起こり、哺乳類においてはそのホモログであるHox遺伝子が異なる染色体上に4個のクラスターを形成している。ショウジョウバエと哺乳類における相同の遺伝子は同じ色で示している。哺乳類において、異なる染色体上の同じ番号の遺伝子はパラログ群を形成している。これらの遺伝子は3’側から5’側へと順に発現し、胚の前後軸の形成を誘導する。
 
図2.ショウジョウバエアンテナペディア変異体
脚を形成する遺伝子群の転写を活性化するタンパク質(転写因子)をコードするAntennapedia遺伝子の突然変異により、ショウジョウバエの触覚の代わりに、脚が生えてしまう。Wikipediaより。

 ホメオボックス遺伝子は生物に普遍的に存在し、ゲノム中に特徴的なクラスターを形成しているHox遺伝子群と、Hox以外のゲノム中に散在するnon-Hox遺伝子に大別される。

 哺乳類では、Hox geneは異なった染色体上に4個のクラスターを形成しており、発生過程ではこの順番に対応して前後軸に沿って発現し、その位置に特徴的な体節構造を誘導する(図1)。ホメオボックス遺伝子の変異により、多細胞生物体の一部の器官が本来の形をとらず他の相同な器官に転換する変化が起こることがあり、これをホメオティック突然変異と呼ぶ[2][3] 。ホメオティック突然変異の例として、1980年代に責任遺伝子がクローニングされたショウジョウバエの「Antennapediaアンテナペディア)変異体」が有名である(図2)[4][5]。脚を形成する遺伝子群の転写を活性化するタンパク質(転写因子)をコードするAntennapedia遺伝子の突然変異により、ショウジョウバエの触覚の代わりに、脚が生えてしまう。

 これに関連する研究「初期胚発生の遺伝子コントロールに関する研究」にて、1995年、 クリスチャーネ・ニュスライン=フォルハルト(Christiane Nüsslein-Volhard)、 エドワード・ルイス(Edward B. Lewis)、 エリック・ヴィーシャウス(Eric Wieschaus)の3人が ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

機能

 ホメオティック遺伝子群Hox genesは、動物の胚発生の初期において組織の前後軸および体節制を決定する遺伝子であり、胚段階で体節に関わる構造の適切な数量と配置について決定的な役割を持つ。ホメオティック遺伝子群により産生されたタンパク質は転写因子として特定の配列「TAAT」をコアとしたターゲット配列のDNAに結合することにより、その下流の遺伝子の転写を制御する。ホメオティックタンパク質はエンハンサーと呼ばれる遺伝子の制御領域に結合し、特定の遺伝子の転写を活性化したり、抑制したりする。

 同一のホメオティックタンパク質が、ある遺伝子では抑制的に働き、他の遺伝子では促進的に働くことがありえる。たとえば、先ほどのショウジョウバエの例では、ホメオティック遺伝子の産生タンパク質であるAntennapediaは、脚と翅を含む第2胸節の構造を規定している遺伝子群の転写を活性化させるが、眼と触覚の形成に関係している遺伝子群の転写を抑制する。従って、Antennapediaタンパク質が存在する部位では、どこであろうと眼と触覚ではなく脚と翅が形成されることになる。ホメオボックスタンパク質群で制御されている遺伝子群は、リアライゼーター遺伝子 (realisator genes)と呼ばれており、これらが産生するタンパク質が、実際の組織や細胞内小器官を構成する要素となっている。

神経系における働き

 神経系の発生においても、ホメオボックス遺伝子は重要な機能を果たすことが知られている。様々なホメオボックス遺伝子が脳の形成、領域化、神経細胞の分化、生存など神経系の発生と維持の様々な局面で重要な役割を果たしている。例えば、Otx2前脳から中脳にかけて発現し、頭部の形態形成に機能している。En1は中脳と後脳の境界領域に発現し、その形成に必要である。

関連項目

外部リンク

参考文献

  1. Billeter, M., Qian, Y.Q., Otting, G., Müller, M., Gehring, W., & Wüthrich, K. (1993).
    Determination of the nuclear magnetic resonance solution structure of an Antennapedia homeodomain-DNA complex. Journal of molecular biology, 234(4), 1084-93. [PubMed:7903398] [WorldCat] [DOI]
  2. Lewis, E.B. (1978).
    A gene complex controlling segmentation in Drosophila. Nature, 276(5688), 565-70. [PubMed:103000] [WorldCat] [DOI]
  3. Nüsslein-Volhard, C., & Wieschaus, E. (1980).
    Mutations affecting segment number and polarity in Drosophila. Nature, 287(5785), 795-801. [PubMed:6776413] [WorldCat] [DOI]
  4. Garber, R.L., Kuroiwa, A., & Gehring, W.J. (1983).
    Genomic and cDNA clones of the homeotic locus Antennapedia in Drosophila. The EMBO journal, 2(11), 2027-36. [PubMed:6416827] [PMC] [WorldCat]
  5. Postlethwait, J.H., & Schneiderman, H.A. (1969).
    A clonal analysis of determination in Antennapedia a homoeotic mutant of Drosophila melanogaster. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 64(1), 176-83. [PubMed:5263000] [PMC] [WorldCat] [DOI]