転写制御因子

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室山 優子斎藤 哲一郎
千葉大学大学院 医学研究院
DOI:10.14931/bsd.4360 原稿受付日:2013年11月8日 原稿完成日:2014年1月20日
担当編集委員:大隅 典子(東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)

英:transcription factor, transcriptional regulator, transcription regulatory factor 独:Transkriptionsfaktor 仏:facteur de transcription

同義語:転写調節因子、転写因子

 転写制御因子は、ゲノム DNA上の特定の塩基配列に結合し、RNAポリメラーゼによる転写を促進あるいは抑制するタンパク質の一群である[1]。DNAに結合するドメインと他のタンパク質などと相互作用し転写制御に関わるドメインを有する。構造上の特徴により、いくつかのファミリーに分類される[1]。転写制御因子はリン酸化などの様々な調節を受け、個体発生から脳高次機能までの多くの過程を制御する[2][3]。転写制御因子をコードすると推測される遺伝子は、ヒトゲノムにおいて約2000個存在する[4][5]

転写制御因子とは

 遺伝子の転写は、RNAポリメラーゼがDNAを鋳型として相補的なRNAを5’から3’の方向へ合成する反応である。転写においてRNAポリメラーゼの他に必要とされるタンパク質を転写因子 (transcription factor) という。その中で、転写制御因子はDNAに結合し、転写を調節するタンパク質であり、転写を促進するものを転写活性化因子、抑えるものを転写抑制因子という[1]。一方、DNAに直接結合せず、転写制御因子とRNAポリメラーゼなどとの仲介役として転写を調節するタンパク質複合体はメディエーターである。メディエーターの機能は多岐に渡り、転写を活性化するコアクチベーターや、転写を抑制するコリプレッサーとして働く[6][7]。メディエーター以外にも、コアクチベーターやコリプレッサーと呼ばれる因子があり、ヒストンアセチル化メチル化などを介して、クロマチンの状態を制御する[7][8]。DNA上で転写の活性化に働く領域はエンハンサー、転写を抑制する領域がサイレンサーであり、それぞれ複数の転写制御因子が結合することが多い[9][10][11]

転写制御機構

 In vitroの解析により、転写は TATAボックスなどのコアプロモーター上でTATA結合タンパク質 (TATA-binding protein; TBP) やTBP-associated factorsTAFs)などの基本転写因子がRNAポリメラーゼと転写開始前複合体を形成することにより開始されることが示されている[6][9][12]。これらの因子のみによる転写は基本転写と呼ばれる。生体内では、様々な転写制御因子が働き、その組み合わせにより遺伝子の転写量が組織や発生の時期で異なる[2][3][11]

図1 転写活性化機構
転写活性化因子(TF)はエンハンサーに結合し、メディエーターを介してプロモーターにおける転写開始前複合体の形成を促進する。

転写活性化の機構

 転写の活性化は、転写の開始と伸長で起こる。活性化の例として、エンハンサーに結合した転写活性化因子が基本転写因子と相互作用し、プロモーターにおける転写開始前複合体の形成を促進することが知られている[1][9][12]。一方、メディエーターは、転写制御因子の転写活性化ドメインとRNAポリメラーゼの双方に結合し、転写開始前複合体の形成を促し、コアクチベーターとして働く[6][7][13] (図1)。

 真核細胞のDNAはヒストンに巻きつき、ヌクレオソームを形成する。ヌクレオソーム構造を弛緩させ、転写制御因子などをDNAに作用しやすくし、転写を活性化する因子もコアクチベーターと呼ばれる。コアクチベーターのCREB-binding proteinCBP)は、ヒストンをアセチル化し、ヒストンとDNA間の親和性を弱める[8]ヒストンリモデリング因子switch/sucrose nonfermentableSWI/SNF)は、ATP加水分解で生じるエネルギーを用いてクロマチン構造を変化させる[14]

 RNAポリメラーゼは数十塩基程度の短いRNAを転写後、DRB-sensitivity inducing factorDSIF)やnegative elongation factorNELF)などの伸長阻害因子の働きにより転写を休止する[15]。Mycなどの転写制御因子は、プロテインキナーゼpositive transcription elongation factor bP-TEFb)の作用を介して転写の休止を解除し、RNA伸長を再開させることが知られている[15]

転写抑制の機構

 転写抑制では、サイレンサーに結合した転写抑制因子がtransducin-like Enhancer of split/groucho-related geneTLE/Grg)やnuclear receptor corepressor/silencing mediator for retinoic and thyroid receptorsNcoR/SMRT)などのコリプレッサーを介してヒストン脱アセチル化酵素を引き寄せ、ヒストンのアセチル基を除去することによりヌクレオソームを安定化させ遺伝子を不活化する[16][17]。また、ヒストンメチル基転移酵素を引き寄せ、ヒストンの特定の部位をメチル化し、転写が起きないクロマチン状態を維持することにより抑制する場合もある[7][8]

 転写抑制因子のneuron-restrictive silencer factor/RE1-silencing transcription factorNRSF/REST)は、サイレンサー中の塩基配列neural restrictive silencer element/repressor element 1NRSE/RE1)に結合し、コリプレッサーを介したヒストン脱アセチル化酵素やヒストンメチル基転移酵素の作用により、神経細胞で働くsuperior cervical ganglia 10SCG10 などの遺伝子の転写を非神経細胞で抑える[18]

 サイクリン依存性タンパク質キナーゼ8 Cyclin dependent kinase 8CDK8)などのコリプレッサーは、転写制御因子をリン酸化し分解を促進したり、基本転写因子をリン酸化し転写開始前複合体の形成を阻害する[7][13]

転写制御配列

 転写制御因子のDNA結合ドメインは、多くの場合、4から10塩基の特定の配列(コンセンサス配列)に結合する。エンハンサーやサイレンサーには、通常、転写制御因子の結合する場所(転写制御因子結合部位)がいくつかあり、複数種の転写制御因子で転写が調節される[10][11]。 遺伝子の転写が複数のエンハンサーで調節されることも多く、発生段階に特異的なエンハンサーと組織特異的なエンハンサーなどに分離できることもある。

 DNA配列における転写制御因子結合部位は、MatInspectorや、PAZARなどで予測できる。

 ENCODEプロジェクトなどにより、ゲノムのかなりの領域が転写されることが明らかとなった[19]。エンハンサー部位で合成されるenhancer RNAeRNA)などの非翻訳RNAが転写に関わることが示唆されている[20][21]

Homeobox domain
1AHD.pdb
DNAに結合に結合したホメオドメイン型転写因子ショウジョウバエAntennapedia1ahd​による[22]
Identifiers
Symbol Homeobox
Pfam PF00046
Pfam clan CL0123
InterPro IPR001356
SMART SM00389
PROSITE PS50071
SCOP 1ahd
SUPERFAMILY 1ahd
Zinc finger, C2H2 type
1ZAA.pdb
DNA結合に結合したZinc finger型転写因子ZIF2681zaa​による[23]
Identifiers
Symbol zf-C2H2
Pfam PF00096
Pfam clan CL0361
InterPro IPR007087
PROSITE PS00028
basic helix-loop-helix DNA-binding domain
1MDY.pdb
DNAに結合したbHLH型転写因子MyoD。1mdy​による[24]
Identifiers
Symbol bHLH
Pfam PF00010
InterPro IPR001092
SMART SM00353
PROSITE PDOC00038
SCOP 1mdy
SUPERFAMILY 1mdy
bZIP transcription factor
1DH3.pdb
DNAに結合したbasic-Leucin Zipper型転写因子CREB1DH3​による[25]
Identifiers
Symbol bZIP_1
Pfam PF00170
InterPro IPR011616
PROSITE PDOC00036
SCOP 1ysa
SUPERFAMILY 1ysa
HMG (high mobility group) box
2LEF.pdb
DNAに結合したHMGボックスドメインタンパク質LEF12LEF​による[26]
Identifiers
Symbol PF00505
Pfam PF00505
InterPro IPR009071
SCOP 1hsm
SUPERFAMILY 1hsm

構造

 転写活性化因子の転写活性化ドメインは、コアクチベーターなどのタンパク質と結合し、酸性アミノ酸、もしくはグルタミン酸プロリンのいずれかに富む領域などに分類される。転写抑制因子の転写抑制ドメインには、トリプトファンアルギニン、プロリンからなるWRPWドメインや、芳香族アミノ酸疎水性アミノ酸からなるengrailed homology 1EH1)ドメインなどがあり、コリプレッサーとの結合に必須である[27][28]ジンクフィンガー型因子などは、リガンドと結合するドメインも有する。

 転写制御因子の構造については、Protein Data BankPfamなどのデータベースで検索できる。

DNA結合ドメインによる分類

 転写制御因子は、DNA結合ドメインの構造モチーフに基づき、ホメオドメイン、ジンクフィンガー、塩基性へリックス・ループ・へリックスなどのファミリーに分けられる。

ホメオドメイン

homeodomain

 ホメオボックスがコードする約60個のアミノ酸配列である。ショウジョウバエ体節形成の研究で発見され、ヒトを含む高等動物までホモログ間でよく保存されている[29]へリックス・ターン・へリックス構造をとり、2番目のヘリックスがDNAの主溝に入り込んで結合する。アミノ酸配列の類似性やホメオドメインの外のモチーフから、さらにサブファミリーに分けられる。ホメオドメインが結合するコンセンサス配列の代表としてATTAが知られ、サブファミリーにより認識配列が異なる[30]

ジンクフィンガー

zinc finger

 GATAファミリーの因子などに見られる構造で、亜鉛イオンに2個のシステインと2個のヒスチジンが配位結合するC2H2タイプや、4個のシステインが配位結合するC4タイプなどがある[31]。亜鉛に配位したシステインあるいはヒスチジン残基に挟まれたアミノ酸領域が指状のループをつくる。ステロイドホルモン受容体などの核内受容体は、リガンドと直接結合すると核内に入り転写制御能を発揮するようになる[32][33]。コンセンサス配列にはGATAファミリーの因子が結合するGATAなどがある。

塩基性へリックス・ループ・へリックス

basic helix-loop-helix、bHLH

 Mammalian achaete-scute homolog 1/achaete-scute complex homolog 1Mash1/Ascl1)やmammalian atonal homolog 1/atonal homolog 1Math1/Atoh1)などの神経分化を開始させるプロニューラル因子などに見られる[34]transcription factor 3E12/Tcf3)タンパク質などのへリックス・ループ・へリックスドメインとヘテロ二量体を形成し、DNAに結合する。コンセンサス配列として、プロニューラル因子などの転写活性化因子が結合するE box (CANNTG) と、hairy, Enhancer of split 1Hes1)などの転写抑制因子が結合するN box (CACNAG) などが知られている[35]

ロイシンジッパー

leucine zipper

 c-FosやMycなどに見られ、7アミノ酸ごとにロイシンが配置されたコイルドコイルと呼ばれる構造を取る。同様の構造を持つ因子とコイルドコイル間でヘテロ二量体を形成し、コイルドコイルのN端側に存在する塩基性アミノ酸に富む領域でDNAに結合する。コンセンサス配列にはサイクリックAMP応答配列結合タンパク質 cAMP-responsive element-binding proteinCREB)が結合するサイクリックAMP応答配列(TGACGTCA)などがある[36]

HMG(high mobility group)ボックス

 クロマチンから0.35 M塩化ナトリウムによって抽出され、電気泳動で高い移動度を示すタンパク質のDNA結合領域で見つかった。約80アミノ酸からなり、三つのαへリックスを形成する[37]。特に、性決定遺伝子Sry がコードするタンパク質と高い相同性を持つ因子はSoxファミリーと呼ばれる。コンセンサス配列にはSoxファミリーの結合するT(A/T)(A/T)CAAGなどがある。

DNA結合ドメイン ファミリー
ホメオドメイン Hox HoxA1, HoxC8
Pax Pax2, Pax6
Dlx Dlx1, Dlx2
Emx Emx2
Nkx Nkx2.2, Nkx6.1
En En1
Bar Barh1, Barh2
paired-like Phox2a, DRG11
POU Brn3a
ジンクフィンガー C2H2 Gli1, NRSF/REST, Zif268, Krox20, Fezl
krüppel-like Klf4
Gata Gata2, Gata3
核内受容体 RARα1, RXR
塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス bHLH Mash1/Ascl1, Math1/Atoh1, Neurogenin1, NeuroD, Ptf1a, Hes1, Olig2, Scl/Tal1, E12/Tcf3
bHLH-PAS Per1, Clk
bHLH-ロイシンジッパー Myc, MycN/N-Myc
ロイシンジッパー c-Fos, CREB
HMG box Sox Sox2, Sox9, Sox10
Tcf/Lef Tcf1/Lef1
Ets Pea3, Er81
T box Tbr1
forkhead Fox FoxG1/Bf1, FoxO, FoxP2
Rel homology Rbpj/CBF1, NF-κB
MH1 Smad Smad2, Smad4
SH2 STAT STAT3

転写制御因子の活性制御

 転写制御因子の活性は、細胞の分化段階や細胞外からの刺激などにより制御され、リン酸化やリガンド結合、ユビキチン化などの影響を受ける[2]。また、転写制御因子には、構造的に類似した因子同士で二量体を形成し機能するものも多い。へリックス・ループ・へリックス因子の一つであるIdファミリーは塩基性領域を欠き、塩基性へリックス・ループ・へリックス因子のE12/Tcf3などとへテロ二量体を形成し、E12/Tcf3がDNAに結合することを阻害する[38]

 transforming growth factor-βTGF-β)ファミリーの分泌タンパク質が膜受容体に結合すると、Mad homology 1MH1)ドメイン型因子のSmad2Smad3はリン酸化され、Smad4とヘテロ二量体を形成後、核に移行して転写を制御する[39]

 インターフェロンなどのサイトカインホルモンが受容体に結合すると、Janus kinaseJak)によってSrc homology 2SH2)ドメイン型因子のシグナル伝達兼転写活性化因子 (signal transducers and activator of transcription; STAT) がリン酸化される。リン酸化されたSTATはSH2ドメインを介して二量体を形成し、核に移行する[40]

 Hedgehogが膜上の受容体Patchedに結合すると、膜タンパク質Smoothendを介してジンクフィンガー型因子のGliが活性化される。活性化したGliは核に移行し、標的遺伝子の転写を制御する[41]

 DeltaJaggedが受容体Notchに結合すると、γセクレターゼの作用によりNotch受容体の細胞内ドメインが切り出される。Notchの細胞内ドメインは核内に移行し、Rel homology型因子recombination signal sequence-binding protein J/C promoter-binding factor 1Rbpj/CBF-1)やコアクチベーターMastermind-like 1Maml1)と複合体を形成しHes1などの転写を活性化する[42]

 Wntが膜受容体Frizzledと結合するとβ-cateninが遊離され、このβ-cateninはHMGボックス型因子のT-cell factor 1/lymphoid enhancer binding factor 1Tcf1/Lef1)とヘテロ二量体を形成後、核内に移行し転写を制御する[43][44]

 ロイシンジッパー型因子のCREBは、サイクリックAMP濃度の上昇などの様々な刺激によりサイクリックAMP依存性プロテインキナーゼカルシウムカルモジュリン依存性プロテインキナーゼなどによるリン酸化を受け、活性化する[36][45]

 paired box 6Pax6)やMycN/N-mycなどの転写制御因子はユビキチン化され、ユビキチン・プロテアソーム系によって分解されることが明らかとなっている[46]

生体内での役割

発生・細胞分化

 発生過程では、多数の転写制御因子が働く。神経発生の初期においては、Pax6empty spiracles homeobox 2Emx2)、NK6 homeobox 6.1Nkx6.1)などのホメオドメイン型因子が神経管前後軸背腹軸に沿って特異的に発現し、終脳形成を制御する[47]。Hoxファミリーのタンパク質は、後脳脊髄の前後軸沿いの特定の領域の個性に関わり、運動神経細胞などの分化を正常に進めるために必須である[48]

 Mash1/Ascl1 やMath1/Atoh1 などのプロニューラル因子神経分化の開始を司り、神経細胞の分化や個性を制御する遺伝子の転写を活性化する[34]神経幹細胞神経前駆細胞ではNotchがHes1やHes5を活性化し、Hes1やHes5タンパク質がプロニューラル遺伝子の上流などに結合し、転写を抑える[35]

 Math1はBar型ホメオボックス遺伝子Bar-class homeobox 1Barh1Barh2 を直接活性化し、Barh1とBarh2タンパク質が脊髄の交連神経細胞の個性を決定する[49][50]小脳ではMath1/Atoh1は、グルタミン酸作動性の顆粒細胞の分化を促進する一方、γ-aminobutyric acidGABA)作動性神経細胞産生に必須なpancreas transcription factor 1aPtf1a の発現を抑える[51]

 脊髄において、塩基性へリックス・ループ・へリックス型因子のOlig2は運動神経細胞の分化とオリゴデンドロサイトの産生に必須な一方、Scl/Tal1介在神経細胞の分化とアストロサイトの産生を制御する[52]

 ホメオボックス遺伝子のdistal-less homeobox 1Dlx1Dlx2 は、大脳基底核原基由来の細胞で発現し、大脳のGABA作動性神経細胞の産生に必須である[53]

 HMGボックス型因子のSox2は、プロニューラル因子と拮抗的に働き、神経分化を抑制する[54]。また、Sox9やSox10はオリゴデンドロサイトの前駆細胞で発現し、オリゴデンドロサイトの分化を促進するとともに、ミエリン塩基性タンパク質などの遺伝子の転写を活性化する[54]。    

軸索伸長、細胞極性

 プロニューラル因子のNeurogenin2は、神経細胞の移動軸索投射にも関与する[55][56]

 脊髄交連神経の軸索投射は、Bar型やLIM型 のホメオドメイン型因子によって制御される。Barh1 とBarh2の下流では、LIM homeobox 2Lhx2 を介したRb-inhibiting gene 1/roundabout homolog 3Rig1/Robo3の転写調節とともに、Lhx2を介さないNeuropilin2の転写調節が行われる[50]

 運動神経や感覚神経では、軸索が標的筋肉の近傍に到着すると、polyomavirus enhancer activator 3Pea3ets-related protein 81Er81 などのEtsファミリー遺伝子の転写が誘導され、軸索の枝分かれが制御される[48]。また、フォークヘッド型因子forkhead box OFoxO)は、p21 protein-activated kinase 1Pak1 などの細胞極性を制御する遺伝子の転写を調節し、神経細胞の形態制御に関わる[57]

高次機能

 CREBは、神経活動で活性化されシナプスの構造を制御する遺伝子の転写を調節し、長期記憶の形成に関与する[36][45]

 Rel homology型因子のNF-κB (nuclear factor-κB) は、発生過程において神経軸索の伸長や樹状突起の枝分かれなど神経突起の発達に重要な役割を果たす一方、成体では樹状突起スパイン数やシナプス形成などを介して学習記憶に関わることが示唆されている[45][58]

 ロイシンジッパー型因子のc-Fosやジンクフィンガー型因子のZif268は、神経活動などの刺激により一過的に誘導される最初期遺伝子であり、神経回路の可塑的変化への関与が示唆されている[45]

 フォークヘッド型因子のforkhead box P2(FoxP2)は、発声や言語発達に関わることが示唆されている[59]

環境への応答

 低酸素状態では、塩基性へリックス・ループ・へリックス型因子のhypoxia inducible factor 1 αHIF-1α)が安定化され、HIF-1βとヘテロ二量体を形成して血管新生解糖系に関わる遺伝子群の転写を活性化する[60]

 時計遺伝子Periodは塩基性へリックス・ループ・へリックス型因子をコードし、光刺激により誘導される。Periodの転写は他の塩基性へリックス・ループ・へリックス型因子のClockbrain and muscle Arnt-like 1Bmal1)により調節されており、これらの因子がネガティブフィードバックループを形成し、約24時間周期で発現が変動する[61]

病理

 ヒトの疾患の原因となる転写制御因子の変異はTRANSFACOMIM Morbid Mapなどのデータベースなどで調べられる。

転写制御因子データベース

 転写制御因子のリストはTRANSFACデータベースから入手可能である。また、転写制御因子についてのレビューもデータベース化されている Transcription Factor Encyclopedia [62]

関連項目

参考文献

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