「マイネルト基底核」の版間の差分

編集の要約なし
11行目: 11行目:
==構造==
==構造==
===細胞構築===
===細胞構築===
 前脳基底部に存在するコリン作動性神経核は吻部から尾部へ向かって順にCh1(内側中隔核)、Ch2(Broca対角帯核)、Ch3(Broca対角水平亜核)、Ch4(無名質-基底核複合体)と命名されており、マイネルト核はCh4に含まれている<ref><pubmed> 6320048 </pubmed></ref><pubmed> 16344145 </pubmed></ref>。マイネルト核を構成するコリン作動性神経細胞の細胞体は中型から大型(直径18~43 &mum)であり、形状は楕円形あるいは紡錘形である<ref name=gp1994>''' Larry L. Butcher'''<br>, 36 Cholinergic Neurons and Networks, George Paxinos editor, The Rat Nervous System Second Edition<br>''Academic Press'':1994</ref>。樹状突起は多極性である<ref name=gp1994 />。ラットでは左右の脳半球それぞれのCh4に7000から9000個のコリン作動性神経細胞が存在する<ref name = LD2004><pubmed> 14650905 </pubmed></ref>。ラットを用いた研究によると、前頭前皮質へ投射するマイネルト核の神経細胞の内19%がコリン作動性であり、52%がギャバ作動性、15%がグルタミン酸作動性である<ref><pubmed> 18279318</pubmed></ref>。
 前脳基底部に存在するコリン作動性神経核は吻部から尾部へ向かって順にCh1(内側中隔核)、Ch2(Broca対角帯核)、Ch3(Broca対角水平亜核)、Ch4(無名質-基底核複合体)と命名されており、マイネルト核はCh4に含まれている<ref><pubmed>6320048</pubmed></ref> <ref><pubmed>16344145 </pubmed></ref>。マイネルト核を構成するコリン作動性神経細胞の細胞体は中型から大型(直径18~43 &mum)であり、形状は楕円形あるいは紡錘形である<ref name=gp1994>''' Larry L. Butcher'''<br>, 36 Cholinergic Neurons and Networks, George Paxinos editor, The Rat Nervous System Second Edition<br>''Academic Press'':1994</ref>。樹状突起は多極性である<ref name=gp1994 />。ラットでは左右の脳半球それぞれのCh4に7000から9000個のコリン作動性神経細胞が存在する<ref name = LD2004><pubmed> 14650905 </pubmed></ref>。ラットを用いた研究によると、前頭前皮質へ投射するマイネルト核の神経細胞の内19%がコリン作動性であり、52%がギャバ作動性、15%がグルタミン酸作動性である<ref><pubmed> 18279318</pubmed></ref>。


===出力===
===出力===
 マイネルト核の神経細胞は大脳皮質全域および扁桃体へ投射する<ref name =PG1987 />。大脳皮質へのコリン性投射の多くは無髄繊維である<ref>'''Wainer BH, Mesulam M-M'''<br> Ascending cholinergic pathways in the rat brain. In: Steriade M, Biesold D, editors. Brain cholinergic systems<br>''Oxford University Press'':1990, p.65-119.</ref>。大脳皮質におけるコリン性入力の7~8割はマイネルト核からの投射であり<ref>'''Sharon L. Juliano, S. Essie Jacobs'''<br> Thre Rore of Acetylcholine in Barrel Cortex<br>''Plenum Press'':1995</ref><ref><pubmed> 6265265 </pubmed></ref><ref name=gp1994 />、残りの2~3割は大脳皮質に散在する双極性介在神経細胞(GABAおよびVIPを含む<ref><pubmed> 9200749 </pubmed></ref>)からと考えられている。
 マイネルト核の神経細胞は大脳皮質全域および扁桃体へ投射する<ref name =PG1987 />。大脳皮質へのコリン性投射の多くは無髄繊維である<ref>'''Wainer BH, Mesulam M-M'''<br> Ascending cholinergic pathways in the rat brain. In: Steriade M, Biesold D, editors. Brain cholinergic systems<br>''Oxford University Press'':1990, p.65-119.</ref>。大脳皮質におけるコリン性入力の7~8割はマイネルト核からの投射であり<ref>'''Sharon L. Juliano, S. Essie Jacobs'''<br> Thre Rore of Acetylcholine in Barrel Cortex<br>''Plenum Press'':1995</ref><ref><pubmed> 6265265 </pubmed></ref><ref name=gp1994 />、残りの2~3割は大脳皮質に散在する双極性介在神経細胞(GABAおよびVIPを含む<ref><pubmed> 9200749 </pubmed></ref>)からと考えられている。


 マイネルト核からのコリン性軸索は大脳皮質の全層に投射している<ref name = md2000><pubmed>11064369</pubmed></ref>。このコリン性軸索の単位体積当たりの長さをラットの大脳皮質の層毎に比較すると、前頭葉では差が見られない(12.6~13.5 m/mm<sup>3</sup>)が頭頂葉や後頭葉では差がある<ref name=md2000 />。例えば頭頂葉の第一層では投射繊維の長さが12.8 m/mm<sup>3</sup>に対して、第2/3層や第四層では7.3~8.1 m/mm<sup>3</sup>と短い<ref name=md2000 />。投射繊維の長さを大脳皮質の領域間で比較すると前頭皮質(13.0 m/mm<sup>3</sup>)は頭頂葉(9.9 m/mm<sup>3</sup>)や後頭葉(11.0 m/mm<sup>3</sup>)よりも長い<ref name=md2000 />。これらのコリン性軸索投射には軸索長さ10 &mum当たり4つ程度の軸索瘤(平均直径0.57 &mum)が存在する<ref name=md2000 /><ref name = LD2004 />。軸索瘤の内16%はシナプス性結合を形成し、残りの84%は非シナプス性(asynaptic)に拡散伝達(diffuse transmission)を行う<ref name = LD2004 />。コリン作動性のシナプス数は大脳皮質に存在するシナプス1500個当り1つと想定されている<ref name = LD2004 />。なお、マイネルト核の軸索投射は大脳皮質の神経細胞だけでなく血管にも直接投射していると示唆されている<ref name = PG1987 />。
 マイネルト核からのコリン性軸索は大脳皮質の全層に投射している<ref name = md2000><pubmed>11064369</pubmed></ref>。このコリン性軸索の単位体積当たりの長さをラットの大脳皮質の層毎に比較すると、前頭葉では差が見られない(12.6~13.5 m/mm<sup>3</sup>)が頭頂葉や後頭葉では差がある<ref name=md2000 />。例えば頭頂葉の第一層では投射繊維の長さが12.8 m/mm<sup>3</sup>に対して、第2/3層や第四層では7.3~8.1 m/mm<sup>3</sup>と短い<ref name=md2000 />。投射繊維の長さを大脳皮質の領域間で比較すると前頭皮質(13.0 m/mm<sup>3</sup>)は頭頂葉(9.9 m/mm<sup>3</sup>)や後頭葉(11.0 m/mm<sup>3</sup>)よりも長い<ref name=md2000 />。これらのコリン性軸索投射には軸索長さ10 &mum当たり4つ程度の軸索瘤(平均直径0.57 &mum)が存在する<ref name=md2000 /> <ref name = LD2004 />。軸索瘤の内16%はシナプス性結合を形成し、残りの84%は非シナプス性(asynaptic)に拡散伝達(diffuse transmission)を行う<ref name = LD2004 />。コリン作動性のシナプス数は大脳皮質に存在するシナプス1500個当り1つと想定されている<ref name = LD2004 />。なお、マイネルト核の軸索投射は大脳皮質の神経細胞だけでなく血管にも直接投射していると示唆されている<ref name = PG1987 />。


===入力===
===入力===
 マイネルト核の神経細胞(ACh神経および非ACh神経)へは脳幹網様体賦活系からの軸索投射がある。この投射は視床下部の内側前脳束を上行しており、種々の伝達物質(ドパミン、コリン、セロトニン、ノルアドレナリン、グルタミン酸)を含む神経線維によって構成されている<ref name=as2006>'''有田秀穂'''<br>脳内物質のシステム神経生理学<br>''中外医学社'':2006</ref>。これらの内でマイネルト核のコリン作動性神経細胞へ直接投射しているのは青斑核のノルアドレナリン(NA)神経と背側縫線核のセロトニン(5-HT)神経、網様体のグルタミン酸(Glu)神経である<ref name = BJ1999>'''Jones BE, Muhlethaler M'''<br> Cholinergic and GABAergic neurons of the basal forebrain : role in cortical activation. In: Lydic R, Baghdoyan HA, editors. Handbook of behavioral state control<br>’’London CRC Press’’:1999, p.213-233.</ref>。マイネルト核のコリン作動性神経細胞に対してGluとNAは興奮性に作用し、5-HTは抑制性に作用する<ref name=as2006 />。�^%$%M%k%H3K$N�GABA神経細胞はNAやAChに対する応答性の違いからいくつかに分類されている<ref name = BJ1999 />。多くのGABA神経細胞はNAによって興奮するが、抑制されるものも存在する<ref name = BJ1999 />。
 マイネルト核の神経細胞(ACh神経および非ACh神経)へは脳幹網様体賦活系からの軸索投射がある。この投射は視床下部の内側前脳束を上行しており、種々の伝達物質(ドパミン、コリン、セロトニン、ノルアドレナリン、グルタミン酸)を含む神経線維によって構成されている<ref name=as2006>'''有田秀穂'''<br>脳内物質のシステム神経生理学<br>''中外医学社'':2006</ref>。これらの内でマイネルト核のコリン作動性神経細胞へ直接投射しているのは青斑核のノルアドレナリン(NA)神経と背側縫線核のセロトニン(5-HT)神経、網様体のグルタミン酸(Glu)神経である<ref name = BJ1999>'''Jones BE, Muhlethaler M'''<br> Cholinergic and GABAergic neurons of the basal forebrain : role in cortical activation. In: Lydic R, Baghdoyan HA, editors. Handbook of behavioral state control<br>’’London CRC Press’’:1999, p.213-233.</ref>。マイネルト核のコリン作動性神経細胞に対してGluとNAは興奮性に作用し、5-HTは抑制性に作用する<ref name=as2006 />。GABA神経細胞はNAやAChに対する応答性の違いからいくつかに分類されている<ref name = BJ1999 />。多くのGABA神経細胞はNAによって興奮するが、抑制されるものも存在する<ref name = BJ1999 />。


==生理機能==
==生理機能==