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Atsuhikoishida (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0018043 石田 敦彦]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0018043 石田 敦彦]</font><br> | ||
''広島大学 | ''広島大学 大学院統合生命科学研究科''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年8月29日 原稿完成日:2012年9月10日 一部改訂:2021年8月28日<br> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年8月29日 原稿完成日:2012年9月10日 一部改訂:2021年8月28日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀] | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](京都大学大学院医学研究科)<br> | ||
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酵素は生体内の各種の化学反応を円滑に行わせるための生体触媒であり、脳内においても情報伝達や物質代謝など、あらゆる生化学反応に関わっている。そのため生体を理解する上で、個々の酵素の性質を明らかにすることは極めて重要である。1992年に[[ジーンターゲティング]]の手法を用いて、[[空間記憶]]に関わる酵素として[[CaMキナーゼⅡ]]が初めて特定された<ref><pubmed>1378648</pubmed></ref><ref><pubmed>1321493</pubmed></ref>が、この輝かしい研究成果も、それを遡ること十数年に渡る本酵素に関する地道で精力的な研究の積み重ね<ref><pubmed>12045104</pubmed></ref>があったればこそのものであろう。 | 酵素は生体内の各種の化学反応を円滑に行わせるための生体触媒であり、脳内においても情報伝達や物質代謝など、あらゆる生化学反応に関わっている。そのため生体を理解する上で、個々の酵素の性質を明らかにすることは極めて重要である。1992年に[[ジーンターゲティング]]の手法を用いて、[[空間記憶]]に関わる酵素として[[CaMキナーゼⅡ]]が初めて特定された<ref><pubmed>1378648</pubmed></ref><ref><pubmed>1321493</pubmed></ref>が、この輝かしい研究成果も、それを遡ること十数年に渡る本酵素に関する地道で精力的な研究の積み重ね<ref><pubmed>12045104</pubmed></ref>があったればこそのものであろう。 | ||
酵素の生化学的研究をおこなうにあたっては、酵素の性質を定量的に扱うことが大前提となる。その理論的基盤となるものが、1913年に[[wj:レオノール・ミカエリス|L. Michaelis]]と[[wj:モード・メンテン|M. L. Menten]]によって[[wj:インベルターゼ|インベルターゼ]] | 酵素の生化学的研究をおこなうにあたっては、酵素の性質を定量的に扱うことが大前提となる。その理論的基盤となるものが、1913年に[[wj:レオノール・ミカエリス|L. Michaelis]]と[[wj:モード・メンテン|M. L. Menten]]によって[[wj:インベルターゼ|インベルターゼ]]に関する研究において導かれたミカエリス・メンテンの式である<ref name=Michaelis1913><pubmed>21888353</pubmed></ref>。この式は、以下に詳述するように、酵素基質複合体が迅速に形成され、尚且つ結合と解離の平衡状態にあることなどを仮定した反応モデルに基づいて導かれたものであるが、発表当時は酵素の化学的実体が未だ明確にされてはいなかった時代であった。そのような時代に数理モデルに基づいて式が確立され、それが 100年以上たった今日でも未だ各方面で利用されているというのは、理論よりも実験が先行する生化学分野においては極めて珍しい例ではなかろうか。ちなみにMentenは当時としては珍しい女性研究者である<ref>'''鈴木紘一、笠井献一、宗川吉汪 監訳 (2008).'''<br>ホートン生化学 第4版 ''東京化学同人 (東京)''</ref>。さらに1925年に[[w:George Edward Briggs|G. E. Briggs]]と[[wj:J・B・S・ホールデン|J. B. S. Haldane]]が、定常状態近似と呼ばれる、より一般化された仮定を用いて同じ式を導出した<ref name=Briggs1925><pubmed>16743508</pubmed></ref>。<math>K_m</math>の定義が異なっているので、両者は厳密には別の式であるが、形式が全く同じであるので、実際には混同して用いられることが多い。 | ||
==誘導法== | ==誘導法== | ||
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<br> <math>v = k_3[ES]\,</math> (3) | <br> <math>v = k_3[ES]\,</math> (3) | ||
<br> ここで酵素の全濃度<math>[E]_0 | <br> ここで酵素の全濃度<math>[E]_0</math>は | ||
<br> <math>[E]_0 = [E] + [ES]\,</math> (4) | <br> <math>[E]_0 = [E] + [ES]\,</math> (4) | ||
51行目: | 51行目: | ||
<br> <math>v = k_3[ES] = \frac{V_{max}[S]}{K_m +[S]}</math> (7) | <br> <math>v = k_3[ES] = \frac{V_{max}[S]}{K_m +[S]}</math> (7) | ||
この(7)式をミカエリス・メンテンの式と呼び、1913年にドイツの学術雑誌に発表された<ref><pubmed>21888353</pubmed></ref>。ミカエリス定数<math>K_m</math>は基質濃度無限大の時の最大反応速度<math>V_{max}</math>の1/2の速度を与える時の基質濃度に一致する。<math>K_m</math>はES complexの解離平衡定数<math>K_d</math>であるから、酵素と基質の親和性の尺度となり、値が小さいほど酵素と基質の親和性が強い。 | この(7)式をミカエリス・メンテンの式と呼び、1913年にドイツの学術雑誌に発表された<ref name=Michaelis1913><pubmed>21888353</pubmed></ref>。ミカエリス定数<math>K_m</math>は基質濃度無限大の時の最大反応速度<math>V_{max}</math>の1/2の速度を与える時の基質濃度に一致する。<math>K_m</math>はES complexの解離平衡定数<math>K_d</math>であるから、酵素と基質の親和性の尺度となり、値が小さいほど酵素と基質の親和性が強い。 | ||
== ブリッグス・ホールデンの式 == | == ブリッグス・ホールデンの式 == | ||
しかしながら、上記、Michaelis とMentenの考えではいくつかの仮定を設けており、常にこれらの仮定が成立するとは限らない。そこで1925年に[[w:George Edward Briggs|G. E. Briggs]]と[[wj:J・B・S・ホールデン|J. B. S. Haldane]]は、ミカエリス・メンテンの式の、より一般化された誘導法を示した<ref><pubmed>16743508</pubmed></ref>。上記(1)の反応スキームにおいて、彼らは酵素反応が直線的に進行する定常状態ではES complexの形成速度と分解速度が釣り合っていて、見かけ上<math>[ES]</math>が一定になると仮定した(定常状態近似)。すなわち、 ''' | しかしながら、上記、Michaelis とMentenの考えではいくつかの仮定を設けており、常にこれらの仮定が成立するとは限らない。そこで1925年に[[w:George Edward Briggs|G. E. Briggs]]と[[wj:J・B・S・ホールデン|J. B. S. Haldane]]は、ミカエリス・メンテンの式の、より一般化された誘導法を示した<ref name=Briggs1925><pubmed>16743508</pubmed></ref>。上記(1)の反応スキームにおいて、彼らは酵素反応が直線的に進行する定常状態ではES complexの形成速度と分解速度が釣り合っていて、見かけ上<math>[ES]</math>が一定になると仮定した(定常状態近似)。すなわち、 ''' | ||
<br> <math>\frac{d[ES]}{dt} = 0 = k_1[E][S] - k_2[ES] -k_3[ES]</math> (8) | <br> <math>\frac{d[ES]}{dt} = 0 = k_1[E][S] - k_2[ES] -k_3[ES]</math> (8) | ||
73行目: | 73行目: | ||
<br> (10)(11)より | <br> (10)(11)より | ||
<br> <math>v = \frac{k_1k_3[E]_0 | <br> <math>v = \frac{k_1k_3[E]_0[S]}{k_1[S]+(k_2 + k_3)} = \frac{k_3[E]_0[S]}{[S]+\frac{k_2 + k_3}{k_1}}</math> (12) | ||
<br> ここで <math>(k_2+k_3) / k_1 = K_m</math>、<math>k_3[E]_0 = V_{max}</math>とおくと | <br> ここで <math>(k_2+k_3) / k_1 = K_m</math>、<math>k_3[E]_0 = V_{max}</math>とおくと | ||
99行目: | 99行目: | ||
== 速度論的パラメータの意味 == | == 速度論的パラメータの意味 == | ||
前にも述べたように、<math>K_m</math>は<math>V_{max}</math>の1/2の速度を与える時の基質濃度として定義され、酵素と基質の親和性の尺度となる。また、<math>V_{max}</math>は基質濃度無限大、つまり酵素分子全てが基質で飽和された時の反応速度である。定義により、<math>V_{max}=k_3[E]_0 | 前にも述べたように、<math>K_m</math>は<math>V_{max}</math>の1/2の速度を与える時の基質濃度として定義され、酵素と基質の親和性の尺度となる。また、<math>V_{max}</math>は基質濃度無限大、つまり酵素分子全てが基質で飽和された時の反応速度である。定義により、<math>V_{max}=k_3[E]_0</math>であるが、この<math>k_3</math>を[[触媒定数]]、或いはターンオーバー・ナンバーと呼び、通常<math>k_{cat}</math>で表す。すなわち | ||
<br> <math>k_{cat} = \frac{V_{max}}{[E]_0}</math> (15) | <br> <math>k_{cat} = \frac{V_{max}}{[E]_0}</math> (15) | ||
<br> である(<math>[E]_0 | <br> である(<math>[E]_0</math>は全酵素濃度)。<math>k_{cat}</math>は酵素が基質で飽和された状態において、1モルの酵素(或いは活性部位)が1秒間に生成物へ変換できる基質のモル数を表し、単位は<math>s^{-1}</math>である。すなわち<math>k_{cat}</math>は酵素の触媒効率を表す指標である。また、(7)または(13)式の<math>V_{max}</math>を(15)式により、<math>k_{cat}[E]_0</math>で置き換えると | ||
<br> <math>v = k_3[ES] = \frac{k_{cat}[E]_0 | <br> <math>v = k_3[ES] = \frac{k_{cat}[E]_0[S]}{K_m +[S]}</math> (16) | ||
<br> ここで基質濃度が非常に希薄な<math>[S] << K_m</math>の濃度領域を考えると | <br> ここで基質濃度が非常に希薄な<math>[S] << K_m</math>の濃度領域を考えると | ||
<br> <math>v = \frac{k_{cat}[E]_0 | <br> <math>v = \frac{k_{cat}[E]_0[S]}{K_m +[S]} \approx \frac{k_{cat}[E]_0[S]}{K_m} = \frac{k_{cat}}{K_m}[E]_0[S]</math> (17) | ||
<br> 基質が非常に薄い条件下では、基質は殆ど酵素に結合していないと考えられるから<math>[ | <br> 基質が非常に薄い条件下では、基質は殆ど酵素に結合していないと考えられるから<math>[E]_0\approx[E]</math> | ||
従って | 従って | ||
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