「ミクログリア」の版間の差分

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 神経系のダメージや機能不全により神経障害性疼痛と総称される慢性的な[[痛み]]が発症する。その発症と維持メカニズムはわかっていないが、近年脊髄におけるミクログリアの役割が注目されている。同疼痛の[[モデル動物]]である人為的な末梢神経損傷モデルや神経障害を伴う病態モデル(糖尿病、がん、[[脊髄損傷]]、帯状疱疹など)において、脊髄のミクログリアは肥大化し、突起の退縮が起こる。さらに、細胞マーカーCD11bやIba1の発現が増加し、損傷ニューロンで発現するCSF1によって[[細胞増殖]]が誘発され、細胞数が2~3倍に増加する<ref name=ref64><pubmed>15667933</pubmed></ref> <ref name=ref65><pubmed>26642091</pubmed></ref>。
 神経系のダメージや機能不全により神経障害性疼痛と総称される慢性的な[[痛み]]が発症する。その発症と維持メカニズムはわかっていないが、近年脊髄におけるミクログリアの役割が注目されている。同疼痛の[[モデル動物]]である人為的な末梢神経損傷モデルや神経障害を伴う病態モデル(糖尿病、がん、[[脊髄損傷]]、帯状疱疹など)において、脊髄のミクログリアは肥大化し、突起の退縮が起こる。さらに、細胞マーカーCD11bやIba1の発現が増加し、損傷ニューロンで発現するCSF1によって[[細胞増殖]]が誘発され、細胞数が2~3倍に増加する<ref name=ref64><pubmed>15667933</pubmed></ref> <ref name=ref65><pubmed>26642091</pubmed></ref>。


 神経障害性疼痛における脊髄ミクログリアの重要性は、プリン受容体のP2X4受容体の役割から見出された<ref name=ref66><pubmed>12917686</pubmed></ref>。神経障害性疼痛[[動物モデル]]の脊髄後角では、転写因子IRF8とIRF5によってP2X4受容体がミクログリアで特異的に高発現し、その受容体を遮断すること、あるいは遺伝子を[[ノックダウン]]や欠損させることで、[[アロディニア]]が著明に抑制された<ref name=ref66 /> <ref name=ref67><pubmed>    19515262</pubmed></ref> <ref name=ref68><pubmed>22832225</pubmed></ref> <ref name=ref69><pubmed>24818655</pubmed></ref>。ミクログリアのP2X4受容体がATPで刺激されることでBDNFなどの液性因子が産生放出され<ref name=ref70><pubmed>24818655</pubmed></ref>、それらが脊髄後角ニューロンの機能を変調し、神経障害性疼痛を発症することが報告されている<ref name=ref46 />。したがって、ミクログリアとニューロン間の病的連関が神経障害性疼痛の原因であろうと考えられている<ref name=ref71><pubmed></pubmed></ref>。ミクログリアにはP2X4受容体以外にも他の機能分子が発現し、神経障害性疼痛に関与している<ref name=ref72><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref73><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref74><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref75><pubmed></pubmed></ref>。
 神経障害性疼痛における脊髄ミクログリアの重要性は、プリン受容体のP2X4受容体の役割から見出された<ref name=ref66><pubmed>12917686</pubmed></ref>。神経障害性疼痛[[動物モデル]]の脊髄後角では、転写因子IRF8とIRF5によってP2X4受容体がミクログリアで特異的に高発現し、その受容体を遮断すること、あるいは遺伝子を[[ノックダウン]]や欠損させることで、[[アロディニア]]が著明に抑制された<ref name=ref66 /> <ref name=ref67><pubmed>    19515262</pubmed></ref> <ref name=ref68><pubmed>22832225</pubmed></ref> <ref name=ref69><pubmed>24818655</pubmed></ref>。ミクログリアのP2X4受容体がATPで刺激されることでBDNFなどの液性因子が産生放出され<ref name=ref70><pubmed>24818655</pubmed></ref>、それらが脊髄後角ニューロンの機能を変調し、神経障害性疼痛を発症することが報告されている<ref name=ref46 />。したがって、ミクログリアとニューロン間の病的連関が神経障害性疼痛の原因であろうと考えられている<ref name=ref71><pubmed>22837036</pubmed></ref>。ミクログリアにはP2X4受容体以外にも他の機能分子が発現し、神経障害性疼痛に関与している<ref name=ref72><pubmed>22740331</pubmed></ref> <ref name=ref73><pubmed>17965656</pubmed></ref> <ref name=ref74><pubmed>19840548</pubmed></ref> <ref name=ref75><pubmed>24948120</pubmed></ref>。


 複合性局所疼痛症候群(CRPS)の患者の脊髄において、CD68陽性ミクログリアの活性化が報告されている<ref name=ref76><pubmed></pubmed></ref>。
 複合性局所疼痛症候群(CRPS)の患者の脊髄において、CD68陽性ミクログリアの活性化が報告されている<ref name=ref76><pubmed>18786633</pubmed></ref>。


===アルツハイマー===
===アルツハイマー===
 アルツハイマー病(AD)モデルマウスやAD患者の脳では老人斑周囲にミクログリアや単球、マクロファージの集積が認められる。ミクログリアには可溶性Aβオリゴマーや線維性Aβが結合するscavenger receptor A, CD36、RAGEなど多くの受容体が発現しているが、これらの発現レベルやAβの分解酵素、[[オートファジー]]がADモデルマウスで低下し<ref name=ref77><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref78><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref79><pubmed></pubmed></ref>、それがAβ蓄積の原因の一つであろうと想定されている<ref name=ref80><pubmed></pubmed></ref>。Aβクリアランスにはミクログリアの細胞貪食が重要であるとされている一方で、ミクログリアの除去マウスでAβに劇的な変化が認められないという報告もあり<ref name=ref81><pubmed></pubmed></ref>、その関与は単純ではない。また、三次元電顕解析<ref name=ref82><pubmed></pubmed></ref>やミクログリアのin vivoイメージング解析<ref name=ref83><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref84><pubmed></pubmed></ref>などでも、ミクログリアのAβプラークの貪食やクリアランスを支持する結果が得られていない。貪食関連分子の発現低下やミクログリアの老化などが同細胞の機能低下に関連している可能性も指摘されている<ref name=ref85><pubmed></pubmed></ref>。
 アルツハイマー病(AD)モデルマウスやAD患者の脳では老人斑周囲にミクログリアや単球、マクロファージの集積が認められる。ミクログリアには可溶性Aβオリゴマーや線維性Aβが結合するscavenger receptor A, CD36、RAGEなど多くの受容体が発現しているが、これらの発現レベルやAβの分解酵素、[[オートファジー]]がADモデルマウスで低下し<ref name=ref77><pubmed>18701698</pubmed></ref> <ref name=ref78><pubmed>23577177</pubmed></ref> <ref name=ref79><pubmed>24012002</pubmed></ref>、それがAβ蓄積の原因の一つであろうと想定されている<ref name=ref80><pubmed>   21148344</pubmed></ref>。Aβクリアランスにはミクログリアの細胞貪食が重要であるとされている一方で、ミクログリアの除去マウスでAβに劇的な変化が認められないという報告もあり<ref name=ref81><pubmed></pubmed></ref>、その関与は単純ではない。また、三次元電顕解析<ref name=ref82><pubmed></pubmed></ref>やミクログリアのin vivoイメージング解析<ref name=ref83><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref84><pubmed></pubmed></ref>などでも、ミクログリアのAβプラークの貪食やクリアランスを支持する結果が得られていない。貪食関連分子の発現低下やミクログリアの老化などが同細胞の機能低下に関連している可能性も指摘されている<ref name=ref85><pubmed></pubmed></ref>。


 末梢からの単球の集積にはケモカイン受容体CCR2の関与が報告され、この病態初期の単球の集積を阻害することでADモデルマウスの死亡率やAβの蓄積の増加がみられることから、脳へ浸潤した単球がAD病態に保護的に働いている可能性が示唆されている<ref name=ref86><pubmed></pubmed></ref>。また、Aβの分解は末梢性マクロファージの方がより効率的であるという報告もある<ref name=ref85 />。しかし、末梢単球やマクロファージの脳内浸潤については放射線照射による骨髄キメラマウス等が使われているため今後の検討が必要である。Aβの脳血管周囲への沈着はAD患者で高頻度に観察されるが、ADモデルマウスの血管周囲マクロファージの除去により脳血管周囲のAβ沈着が悪化することも報告されている<ref name=ref87><pubmed></pubmed></ref>。
 末梢からの単球の集積にはケモカイン受容体CCR2の関与が報告され、この病態初期の単球の集積を阻害することでADモデルマウスの死亡率やAβの蓄積の増加がみられることから、脳へ浸潤した単球がAD病態に保護的に働いている可能性が示唆されている<ref name=ref86><pubmed></pubmed></ref>。また、Aβの分解は末梢性マクロファージの方がより効率的であるという報告もある<ref name=ref85 />。しかし、末梢単球やマクロファージの脳内浸潤については放射線照射による骨髄キメラマウス等が使われているため今後の検討が必要である。Aβの脳血管周囲への沈着はAD患者で高頻度に観察されるが、ADモデルマウスの血管周囲マクロファージの除去により脳血管周囲のAβ沈着が悪化することも報告されている<ref name=ref87><pubmed></pubmed></ref>。