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<font size="+1">[http://researchmap.jp/hidekazutsutsui/ 筒井 秀和]、[http://researchmap.jp/yasushiokamura 岡村 康司]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/hidekazutsutsui/ 筒井 秀和]、[http://researchmap.jp/yasushiokamura 岡村 康司]</font><br> | ||
''大阪大学 医学系研究科''<br> | ''大阪大学 医学系研究科''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年11月2日 原稿完成日:2013年11月18日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | ||
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捕食や逃避といった行動を考えると、神経伝達速度を上昇させることは、進化の過程で重要な選択圧であることが想像できる。 | 捕食や逃避といった行動を考えると、神経伝達速度を上昇させることは、進化の過程で重要な選択圧であることが想像できる。 | ||
長いλを実現するためには、例えば、[[wj:無脊椎動物|無脊椎動物]]である[[wj:イカ|イカ]]の[[巨大軸索]]に見られるように、[[軸索]]を太くしてRiを下げる例があるが、その一方で、[[wj:脊椎動物|脊椎動物]]では[[髄鞘]] | 長いλを実現するためには、例えば、[[wj:無脊椎動物|無脊椎動物]]である[[wj:イカ|イカ]]の[[巨大軸索]]に見られるように、[[軸索]]を太くしてRiを下げる例があるが、その一方で、[[wj:脊椎動物|脊椎動物]]では[[髄鞘]]を巻いてRmを大きくする方法が獲得された。髄鞘で囲まれていない間隙、すなわち、[[ランヴィエの絞輪]]には[[アンキリン]]などのタンパク質を足場にして[[電位依存性チャネル]]が集積し、これにより跳躍伝導が起き<ref name=ref2 />、高速(30-160 m/s)で減衰の無い信号伝達が実現されている。跳躍伝導は[[wj:クルマエビ |クルマエビ]]などの[[wj:節足動物|節足動物]]でも見られ、これは進化的に独立に獲得されたと考えられている<ref name=ref3><pubmed> 17208176</pubmed></ref>。 | ||
髄鞘を用いる方法は、太い軸索に比べて、 | 髄鞘を用いる方法は、太い軸索に比べて、 | ||
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#軸索を相対的にコンパクトにでき、集積化に適する。 | #軸索を相対的にコンパクトにでき、集積化に適する。 | ||
#イオン環境の変動が小さく、[[wj:恒常性|恒常性]]維持のためのエネルギー消費が節約できる。また集積化した際にも、神経線維間で電気信号の混線が起きにくい。 | #イオン環境の変動が小さく、[[wj:恒常性|恒常性]]維持のためのエネルギー消費が節約できる。また集積化した際にも、神経線維間で電気信号の混線が起きにくい。 | ||
# | #髄鞘の巻き数や絞輪の間隔を制御する事で、伝達速度の微妙な調節が可能、などの利点を持つと考えられる<ref name=ref3 />。 | ||
例えば、巨大軸索と比較した場合、スペースで1万5千倍、エネルギー消費で数千倍の節約効果があると見積もられている<ref name=ref4 />。 | |||
[[Image:Takeshiyoshimura fig 3.jpg|thumb|right|350px|<b>図1.長軸方向に切った髄鞘の模式図</b><br>吉村 武、池中 一裕による[[髄鞘]]の項目から。]] | |||
==構造== | ==構造== | ||
ランヴィエの絞輪の長さは神経線維の種類や太さにもよるが、典型的には1-2 μm程度で、間隔は1- | ランヴィエの絞輪の長さは神経線維の種類や太さにもよるが、典型的には1-2 μm程度で、間隔は1-2 mm程度である。この間隔は、活動電位の伝播に必要最低限な間隔よりも短い。実際の間隔と必要最低限の間隔の比を安全率(safety factor)と呼ぶ。健常な線維では、安全率は5-7程度と高い<ref name=ref2>'''I. Tasaki'''<br>"Conduction of the nerve impulse"<br>''Handbook of Physiology'' 1959, Section 1, 75</ref>。 | ||
中枢神経系では[[オリゴデンドロサイト]]が、末梢神経系では[[シュワン細胞]] | 中枢神経系では[[オリゴデンドロサイト]]が、末梢神経系では[[シュワン細胞]]が髄鞘形成を担うが、ランヴィエの絞輪の微細構造も、中枢と末梢では大きく異なる(図1)<ref name=ref4 />。例えば、末梢神経では、髄鞘をつくるシュワン細胞から多くの[[wj:微絨毛|微絨毛]]が絞輪部まで伸び、その先端部はほぼ垂直に[[細胞膜]]近傍に位置する。これに対し、中枢神経では、[[アストロサイト]]がランヴィエの絞輪の近傍まで微細突起を伸ばしている事が多い。どちらにおいても軸索の太さは、ランヴィエの絞輪では細くなっている。 | ||
太い線維においては、ランヴィエの絞輪部では、髄鞘が被っている部分([[インターノード]])における軸索径に比べて1/5の程度の細さにまでなる<ref name=ref4><pubmed>9208851</pubmed></ref>。 | |||
またランヴィエの絞輪部の軸索には[[intramembranous particles]] (IMP)と呼ばれる顆粒構造が存在し、これは[[電位依存性Na+チャネル]]を含んだものだと考えられている。 | またランヴィエの絞輪部の軸索には[[intramembranous particles]] (IMP)と呼ばれる顆粒構造が存在し、これは[[ナトリウムチャネル|電位依存性Na<sup>+</sup>チャネル]]を含んだものだと考えられている。 | ||
ランヴィエの絞輪の両端には[[パラノード]](paranode)とよばれる構造が隣接する。パラノード部では髄鞘が肥大し細胞質成分が観察され、paranodal loopと呼ばれる構造を示す。パラノード部では、40個以上のparanodal loopがらせん状に軸索と[[接着分子]]を介して密着し、電気的な絶縁と、分子の拡散障壁部を形成している。この構造は、ボルト(=軸索)とナット(=paranodal loop)にもたとえられる。 | |||
パラノード部の両遠部には、[[傍パラノード]]部(juxtaparanode)があり、その両遠部がインターノード部(internode)となる。 | |||
==分子== | ==分子== | ||
ランヴィエの絞輪部には[[足場タンパク質]]として[[スペクトリン]]、[[アンキリンG]]が存在する。これらを足場として[[Nav1.6]]、[[KCNQ]]等のチャネルや[[Na+-K+-ATPase|Na<sup>+</sup>-K<sup>+</sup>-ATPase]]が集積する。この状況は、[[軸索起始部]]と似ており、その相同性が示されている。パラノード部には、[[caspr]], [[neurofasin]] などの[[接着分子]]が発現する。傍パラノード部には[[Kv1.1]]、[[Kv1.2]],などの[[電位依存性カリウムチャネル]] (K<sup>+</sup>チャネル)が存在する<ref name=ref5 ><pubmed> 10811725 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16791144 </pubmed></ref> | ランヴィエの絞輪部には[[足場タンパク質]]として[[スペクトリン]]、[[アンキリンG]]が存在する。これらを足場として[[Nav1.6]]、[[KCNQ]]等のチャネルや[[Na+-K+-ATPase|Na<sup>+</sup>-K<sup>+</sup>-ATPase]]が集積する。この状況は、[[軸索起始部]]と似ており、その相同性が示されている。パラノード部には、[[caspr]], [[neurofasin]] などの[[接着分子]]が発現する。傍パラノード部には[[Kv1.1]]、[[Kv1.2]],などの[[電位依存性カリウムチャネル]] (K<sup>+</sup>チャネル)が存在する<ref name=ref5 ><pubmed> 10811725 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16791144 </pubmed></ref>。Na<sup>+</sup>チャネル、K<sup>+</sup>チャネルがこのように空間的に相補的な発現をする事の生理学的意義については議論が続けられている。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== | ||
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*[[シュワン細胞]] | *[[シュワン細胞]] | ||
*[[跳躍伝導]] | *[[跳躍伝導]] | ||
*[[ケーブル理論]] | |||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references /> | <references /> |