「ワイルダー・グレイヴス・ペンフィールド」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0168034 蔵田 潔]</font><br>
''弘前大学 大学院医学研究科 統合機能生理学講座''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年12月6日 原稿完成日:2016年1月12日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/keijitanaka 田中 啓治](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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|birth_name              =  {{Dr}} Wilder Graves Penfield
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Penfield, Wilder Graves
英:Penfield, Wilder Graves


 [[wikipedia:ja:アメリカ合衆国|アメリカ合衆国]]、[[wikipedia:ja:カナダ|カナダ]]の脳神経外科医。米国[[wikipedia:ja:ワシントン州|ワシントン州]][[wikipedia:ja:スポケーン|スポケーン]]生まれ。米国[[wikipedia:ja:プリンストン大学|プリンストン大学]]卒業後、[[wikipedia:ja:イギリス|イギリス]]・[[wikipedia:ja:オックスフォード|オックスフォード]]の[[wikipedia:Merton College, Oxford|マートン・カレッジ]]で[[wikipedia:Charles Scott Sherrington|シェリントン]]の下で神経科学を学んだ。また、オックスフォードでは今日の医学教育・医療の基礎を築いたことで知られる[[wikipedia:ja:ウイリアム・オスラー|ウイリアム・オスラー]]とも出会っている。米国に戻り、[[wikipedia:ja:ボルチモア|ボルチモア]]の[[wikipedia:ja:ジョンズ・ホプキンス大学|ジョンズ・ホプキンス大学]]で医学博士号を取得後、[[wikipedia:ja:クッシング病]|クッシング病]]でその名の残る[[wikipedia:ja:ハーヴェイ・ウィリアムス・クッシング|ハーヴェイ・クッシング]]のもとで脳外科の薫陶を受けた。その後、[[wikipedia:Neurological Institute of New York|ニューヨーク神経学研究所]]に移り、[[てんかん]]の脳外科手術を手がけるようになった。1928年にPenfieldは[[wikipedia:ja:カナダ|カナダ]]の[[wikipedia:ja:モントリオール|モントリオール]]にある[[wikipedia:ja:マギル大学|マギル大学]]に招聘され、同大学に1934年に設立された[[wikipedia:Montreal Neurological Institute|モントリオール神経学研究所]]の初代所長となった。
{{box|text= アメリカ合衆国、カナダの脳神経外科医。脳外科手術時にさまざまな脳領域の刺激により、大脳一次運動野と一次体性感覚野のホムンクルスとして知られる体性地図の存在を明らかにするなど、ヒト脳の大脳皮質に機能局在があることを明らかにした。さらに、同様の方法を用いて、補足運動野の存在や、側頭皮質が視覚記憶に関与することを明らかにした。}}
 
 その経歴を通して、今日の脳科学の基礎となる脳外科学のみならず、今日に至る神経科学の発展に多大な貢献をした。てんかんの外科治療の先駆者であるとともに、脳外科手術時に[[wikipedia:ja:全身麻酔|全身麻酔]]を行わず、切開部の局所麻酔で行った。脳そのものには痛みを含む[[感覚受容体]]がないためこのような術式が可能である。この術式を用いると手術中も患者に意識があるため、[[大脳皮質]]の電気刺激による脳局所の機能同定を行なうことができ、疾患のある脳領域の切除部決定をするにあたって、機能保存すべき大脳皮質領域の決定が可能になった。世界的に麻酔の安全性を優先させるため脳外科手術も全身麻酔で行われるようになったため、このような術式は行われることが少なくなったが、最近になって麻酔全般の安全性向上にともなって復活してきている。


[[ファイル:Somatosensory cortex ja.png|thumb|right|200px|'''図 体性感覚野で観察されるホムンクルス''']]
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 Penfieldはさまざまな脳領域の刺激に基づく膨大な知見をもとに、ヒト大脳の[[一次運動野]]と[[一次体性感覚野]]の[[ホムンクルス]](homunculus, 小人間像)として知られる[[体性地図]]の存在を明らかにするなど、ヒト脳の大脳皮質に[[機能局在]]があることを明らかにした<文献1>。さらに、同様の方法を用いて、[[運動連合野]]である[[補足運動野]]の存在を明らかにしたとともに<文献2>、ヒト側頭葉の電気刺激により過去の記憶が誘発されたことから側頭皮質が視覚記憶に関与することを明らかにした<文献3>ことなど、ヒト脳の機能地図を発見したパイオニアである。その後サルの大脳皮質にも一次運動野および補足運動野の存在が確認されたが、近年の研究により、大脳前頭皮質には一次運動野および補足運動野の他にも多数の運動領野が存在し、それぞれが機能特異性を有していることが明らかにされてきた。またサル側頭葉が短期および長期記憶に重要な役割を果たしていることなどが明らかにされてきた<文献4>。
 Penfieldはさまざまな脳領域の刺激に基づく膨大な知見をもとに、[[ヒト]]大脳の[[一次運動野]]と[[一次体性感覚野]]の[[ホムンクルス]](homunculus, 小人間像)として知られる[[体性地図]]の存在を明らかにするなど、ヒト脳の大脳皮質に[[機能局在]]があることを明らかにした<ref>'''Penfield, W. & Rasmussen, T.'''<br>The Cerebral Cortex of Man.<br>MacMillan, New York, 1950</ref>。さらに、同様の方法を用いて、[[運動連合野]]である[[補足運動野]]の存在を明らかにしたとともに<ref><pubmed> 14867993</pubmed></ref>、ヒト側頭葉の電気刺激により過去の記憶が誘発されたことから側頭皮質が視覚記憶に関与することを明らかにした}}


== 参考文献 ==
 [[wj:アメリカ合衆国|アメリカ合衆国]]、[[wj:カナダ|カナダ]]の[[脳神経]]外科医。米国[[wj:ワシントン州|ワシントン州]][[wj:スポケーン|スポケーン]]生まれ。米国[[wj:プリンストン大学|プリンストン大学]]卒業後、[[wj:イギリス|イギリス]]・[[wj:オックスフォード|オックスフォード]]の[[w:Merton College, Oxford|マートン・カレッジ]]で[[w:Charles Scott Sherrington|シェリントン]]の下で神経科学を学んだ。また、オックスフォードでは今日の医学教育・医療の基礎を築いたことで知られる[[wj:ウイリアム・オスラー|ウイリアム・オスラー]]とも出会っている。米国に戻り、[[wj:ボルチモア|ボルチモア]]の[[wj:ジョンズ・ホプキンス大学|ジョンズ・ホプキンス大学]]で医学博士号を取得後、[[wj:クッシング病|クッシング病]]でその名の残る[[wj:ハーヴェイ・ウィリアムス・クッシング|ハーヴェイ・クッシング]]のもとで脳外科の薫陶を受けた。その後、[[w:Neurological Institute of New York|ニューヨーク神経学研究所]]に移り、[[てんかん]]の脳外科手術を手がけるようになった。1928年にPenfieldは[[wj:カナダ|カナダ]]の[[wj:モントリオール|モントリオール]]にある[[wj:マギル大学|マギル大学]]に招聘され、同大学に1934年に設立された[[w:Montreal Neurological Institute|モントリオール神経学研究所]]の初代所長となった。
1. '''Penfield, W. & Rasmussen, T.'''<br>The Cerebral Cortex of Man.<br>MacMillan, New York, 1950.


2. '''Penfield, W. & Welch, K.'''<br>The supplementary motor area of the cerebral cortex. A clinical and experimental study.<br>''Arch. Neurol. Psychiatr.''; 1951, 66, 289-317.
 その経歴を通して、今日の脳科学の基礎となる脳外科学のみならず、今日に至る神経科学の発展に多大な貢献をした。てんかんの外科治療の先駆者であるとともに、脳外科手術時に[[wj:全身麻酔|全身麻酔]]を行わず、切開部の局所麻酔で行った。脳そのものには痛みを含む[[感覚受容体]]がないためこのような術式が可能である。この術式を用いると手術中も患者に意識があるため、[[大脳皮質]]の電気刺激による脳局所の機能同定を行なうことができ、疾患のある脳領域の切除部決定をするにあたって、機能保存すべき大脳皮質領域の決定が可能になった。世界的に麻酔の安全性を優先させるため脳外科手術も全身麻酔で行われるようになったため、このような術式は行われることが少なくなったが、最近になって麻酔全般の安全性向上にともなって復活してきている。


3. '''Penfield, W. '''<br>Memory Mechanisms. AMA Archives of Neurology and Psychiatry 1952, 67,178-198.
 Penfieldはさまざまな脳領域の刺激に基づく膨大な知見をもとに、[[ヒト]]大脳の[[一次運動野]]と[[一次体性感覚野]]の[[ホムンクルス]](homunculus, 小人間像)として知られる[[体性地図]]の存在を明らかにするなど、ヒト脳の大脳皮質に[[機能局在]]があることを明らかにした<ref>'''Penfield, W. & Rasmussen, T.'''<br>The Cerebral Cortex of Man.<br>MacMillan, New York, 1950</ref>。さらに、同様の方法を用いて、[[運動連合野]]である[[補足運動野]]の存在を明らかにしたとともに<ref><pubmed> 14867993</pubmed></ref>、ヒト側頭葉の電気刺激により過去の記憶が誘発されたことから側頭皮質が視覚記憶に関与することを明らかにした<ref><pubmed> 14893992 </pubmed></ref>ことなど、ヒト脳の機能地図を発見したパイオニアである。大脳皮質の機能局在についてはその後主にサルを使った詳細な実験が行われ、Penfieldの発見には一部修正もある<ref> '''Kandel, E. et al.'''<br>Principles of Neural Science 5th ed..<br>McGraw-Hill, New York.</ref>。


4. "Kandel, E. et al."<br>Principles of Neural Science 5th ed..<br>McGraw-Hill, New York.
== 参考文献 ==
 
<references />
(執筆者:蔵田潔 担当編集委員:伊佐正)

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