「中枢パターン生成器」の版間の差分

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同義語:中枢パターン発生器、中枢パターン発生回路
同義語:中枢パターン発生器、中枢パターン発生回路


中枢パターン生成器(central pattern generator, CPG)は、外部からのリズミックな入力なしにリズミックな運動出力パターンを形成する回路である。脊椎動物においては、歩行や泳動のCPGは[[脊髄]]に局在している。CPGは[[興奮性ニューロン]]と[[抑制性ニューロン]]で構成され、興奮性ニューロンがリズムそのものを駆動し、抑制ニューロンが出力のタイミングおよび活動パターンを形成していることが多い。これらのCPGの活動は上位中枢および[[感覚]]入力によって制御・修飾されて動物にとって機能的な運動が実現されている。
中枢パターン生成器(central pattern generator, CPG)は、外部からのリズミックな入力なしにリズミックな運動出力パターンを形成する回路である。脊椎動物においては、歩行や泳動のCPGは[[脊髄]]に局在している。CPGは[[興奮性ニューロン]]と[[抑制性ニューロン]]で構成され、興奮性ニューロンがリズムそのものを駆動し、抑制ニューロンが出力のタイミングおよび活動パターンを形成していることが多い。これらのCPGの活動は上位中枢および[[感覚]]入力によって制御・修飾されて動物にとって機能的な運動が形成されている。


== 概念と研究の歴史==  
== 概念と研究の歴史==  
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===構成ニューロンの性質===
===構成ニューロンの性質===
これまでに同定されたレンショウ細胞やIa抑制性ニューロンといった[[脊髄介在ニューロン]]に関してはその性質が詳細に調べられているが、それに加えて、最近、胎生期においてそれぞれのニューロンの[[神経前駆細胞]] が発現する[[転写制御因子]]の組み合わせによってニューロンが分類されている。この分類によって分けられたそれぞれのニューロン群はほぼ共通の神経伝達物質と軸索投射様式を持つことが明らかになっている<ref name=ref17><pubmed>19543221</pubmed></ref>。これまでに、遺伝子改変技術を用いて、これらのニューロン群の形成あるいは機能を阻害したマウスの脊髄歩行中枢の機能解析が行なわれており、これらのニューロン群の歩行運動の時空間パターン形成における役割が明らかになりつつある<ref name=ref18><pubmed>20889331</pubmed></ref> 。
これまでに同定されたレンショウ細胞やIa抑制性ニューロンといった[[脊髄介在ニューロン]]に関してはその性質が詳細に調べられているが、それに加えて、最近、胎生期においてそれぞれのニューロンの[[神経前駆細胞]] が発現する[[転写制御因子]]の組み合わせによってニューロンが分類されている。この分類によって分けられたそれぞれのニューロン群はほぼ共通の[[神経伝達物質]]と軸索投射様式を持つことが明らかになっている<ref name=ref17><pubmed>19543221</pubmed></ref>。これまでに、遺伝子改変技術を用いて、これらのニューロン群の形成あるいは機能を阻害したマウスの脊髄歩行中枢の機能解析が行なわれており、これらのニューロン群の歩行運動の時空間パターン形成における役割が明らかになりつつある<ref name=ref18><pubmed>20889331</pubmed></ref> 。
 
 
==魚類の泳動のCPG==
==魚類の泳動のCPG==
===ヤツメウナギの泳動のCPG===
===ヤツメウナギの泳動のCPG===
[[image:F3-lamprey-network.jpg|thumb|150px|'''図3 ヤツメウナギのCPG'']][[image:F4-Lamprey-ion.jpg|thumb|200px|'''図4 ヤツメウナギのCPGニューロンのリズム形成のしくみ'']][[wikipedia:ja:ヤツメウナギ|ヤツメウナギ]] の中枢神経系および脊髄の構造はより高次の脊椎動物と似ている点が多く、脊椎動物のなかでは、比較的単純な運動のCPGモデルとして機能解析が進んでいる。ヤツメウナギは100程度の体節からなる。左右の体節の筋は対応する脊髄髄節に局在する運動ニューロンに支配されている。一つの髄節には約 1000 個のニューロンが局在しており、それぞれの脊髄髄節には同側の運動ニューロンを興奮させる[[興奮性ニューロン]]群(グルタミン酸作動性)と脊髄の反対側の回路を抑制する抑制性ニューロン群(グリシン作動性)からなる局所回路がある(図3)。この髄節ごとの局所回路が互いに結合し、動物が前進するときには吻側から尾側に興奮の波が伝えられる。これによって、吻尾方向に体節の左右の筋が交互に収縮し、S字状に体を動かすこととで推進力を生み出す<ref name=ref7><pubmed>7571002</pubmed></ref>。この際の リズミックな運動出力は、上述のグルタミン酸を介した興奮シナプス入力と[[グリシン]]を介した抑制性シナプス入力によって生み出されている(図4)。強い興奮性シナプス入力によってニューロンの細胞膜が脱分極し発火するとともに[[NMDA型グルタミン酸受容体]]および電位依存性L型[[カルシウムチャンネル]]が活性化され、[[カルシウムイオン]]が細胞内に流入する。この細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が、[[カルシウムイオン依存性カリウムチャンネル]]を活性化し、細胞膜は再分極し始める。そして抑制性シナプス入力によってニューロンの発火が抑制される<ref name=ref7><pubmed>7571002</pubmed></ref>。
[[image:F3-lamprey-network.jpg|thumb|150px|'''図3 ヤツメウナギのCPG'']][[image:F4-Lamprey-ion.jpg|thumb|200px|'''図4 ヤツメウナギのCPGニューロンのリズム形成のしくみ'']][[wikipedia:ja:ヤツメウナギ|ヤツメウナギ]] の中枢神経系および脊髄の構造はより高次の脊椎動物と似ている点が多く、脊椎動物のなかでは、比較的単純な運動のCPGモデルとして機能解析が進んでいる。ヤツメウナギは100程度の[[体節]]からなる。左右の体節の筋は対応する脊髄髄節に局在する運動ニューロンに支配されている。一つの髄節には約 1000 個のニューロンが局在しており、それぞれの脊髄髄節には同側の運動ニューロンを興奮させる[[興奮性ニューロン]]群(グルタミン酸作動性)と脊髄の反対側の回路を抑制する抑制性ニューロン群(グリシン作動性)からなる局所回路がある(図3)。この髄節ごとの局所回路が互いに結合し、動物が前進するときには吻側から尾側に興奮の波が伝えられる。これによって、吻尾方向に体節の左右の筋が交互に収縮し、S字状に体を動かすこととで推進力を生み出す<ref name=ref7><pubmed>7571002</pubmed></ref>。この際の リズミックな運動出力は、上述の[[グルタミン酸]]を介した興奮シナプス入力と[[グリシン]]を介した抑制性シナプス入力によって生み出されている(図4)。強い興奮性シナプス入力によってニューロンの細胞膜が脱分極し発火するとともに[[NMDA型グルタミン酸受容体]]および電位依存性L型[[カルシウムチャンネル]]が活性化され、[[カルシウムイオン]]が細胞内に流入する。この細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が、[[カルシウムイオン依存性カリウムチャンネル]]を活性化し、細胞膜は再分極し始める。そして抑制性シナプス入力によってニューロンの興奮が抑制される<ref name=ref7><pubmed>7571002</pubmed></ref>。
===ゼブラフィッシュの泳動CPG===
===ゼブラフィッシュの泳動CPG===
最近、運動や行動の神経機構の解析のモデル動物としてインド原産の熱帯魚の[[ゼブラフィッシュ]]が脚光を浴びている<ref name=ref19><pubmed>21749961</pubmed></ref>  。特に泳動の神経回路では、体が半透明の幼生を用いて遺伝学・分子生物学・電気生理学そして最近は[[光遺伝学]]を駆使して、回路を構成するニューロンの同定と結合様式が解明されつつある<ref name=ref20><pubmed>20970321 </pubmed></ref> 。
最近、運動や行動の神経機構の解析のモデル動物としてインド原産の熱帯魚の[[ゼブラフィッシュ]]が脚光を浴びている<ref name=ref19><pubmed>21749961</pubmed></ref>  。特に泳動の神経回路では、体が半透明の幼生を用いて遺伝学・分子生物学・電気生理学そして最近は[[光遺伝学]]を駆使して、回路を構成するニューロンの同定と結合様式が解明されつつある<ref name=ref20><pubmed>20970321 </pubmed></ref> 。
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