「分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ」の版間の差分

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===神経系とp38との関わり===
===神経系とp38との関わり===
 海馬では繰り返しの高周波による脱分極刺激によって記憶の[[長期抑制]]が起こることが知られているが、海馬の[[CA1]]領域において長期抑制が起こっている際にp38が活性化されていること、そしてp38の阻害剤によってその長期抑制が阻害されることが明らかになっている<ref><pubmed> 11036267 </pubmed></ref>。神経細胞においてp38が[[酸化ストレス]]や炎症性サイトカイン刺激によって活性化すると、[[細胞骨格]]タンパク質のリン酸化、サイトカインの産生や[[wikipedia:ja:一酸化窒素合成酵素|NOS]]の発現を介する[[wikipedia:ja:一酸化窒素|NO]]の産生によって神経変性を促進することが知られている。
 海馬CA1ではシェファー側枝を低頻度刺激すると長期抑圧が起きるが、この際にシナプス後部細胞においてp38が活性化され、逆にp38を阻害すると長期抑圧が起きないことが明らかになっている<ref><pubmed> 11036267 </pubmed></ref>。一方小脳プルキンエ細胞における長期抑圧にはp38は関与しない。神経細胞においてp38が[[酸化ストレス]]や炎症性サイトカイン刺激によって活性化すると、[[細胞骨格]]タンパク質のリン酸化、サイトカインの産生や[[wikipedia:ja:一酸化窒素合成酵素|NOS]]の発現を介する[[wikipedia:ja:一酸化窒素|NO]]の産生によって神経変性を促進することが知られている。


 [[筋萎縮側索硬化症]] (Amyotrophic Lateral Sclerosis, ALS) はその発症原因として[[運動神経]]の[[細胞死]]との関連が示唆されているが、ALSのモデルとして用いられている[[SOD1]]変異体を発現しているトランスジェニックマウスにおいては、ALSの進行時のマウスの腰椎に存在する運動神経にp38が多量に発現していることから、ALSの進行とp38の関連が示唆されている<ref><pubmed> 12812752 </pubmed></ref>。
 [[筋萎縮側索硬化症]] (Amyotrophic Lateral Sclerosis, ALS) はその発症原因として[[運動神経]]の[[細胞死]]との関連が示唆されているが、ALSのモデルとして用いられている[[SOD1]]変異体を発現しているトランスジェニックマウスにおいては、ALSの進行時のマウスの腰髄に存在する運動神経にp38が多量に発現していることから、ALSの進行とp38の関連が示唆されている<ref><pubmed> 12812752 </pubmed></ref>。


 神経障害性疼痛の症状を呈する患者に対してp38の阻害剤の経口投与を行った臨床実験においては、対照群と比較して有意に痛みが減少したという報告もなされている<ref><pubmed> 21576029 </pubmed></ref>。神経細胞周囲においてグルタミン酸濃度が高濃度に達することでグルタミン酸興奮毒性が起こるが、その結果引き起こされる神経細胞のアポトーシスの過程において[[Rhoキナーゼ]]の活性化に伴うp38の活性化の必要性が示唆されている<ref><pubmed> 17369826 </pubmed></ref>。視床下部のCA3とCAにおいてp38がグルタミン酸受容体依存的なLTDの誘導に必要であるという報告もなされている<ref><pubmed> 11036267 </pubmed></ref>。
 神経障害性疼痛の症状を呈する患者に対してp38の阻害剤の経口投与を行った臨床実験においては、対照群と比較して有意に痛みが減少したという報告もなされている<ref><pubmed> 21576029 </pubmed></ref>。神経細胞周囲においてグルタミン酸濃度が高濃度に達することでグルタミン酸興奮毒性が起こるが、その結果引き起こされる神経細胞のアポトーシスの過程において[[Rhoキナーゼ]]の活性化に伴うp38の活性化の必要性が示唆されている<ref><pubmed> 17369826 </pubmed></ref>。


==JNK==
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