「味覚受容体」の版間の差分

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 味覚受容体は、接触した化学物質を検出するための受容体で、1999年に、味細胞に発現する7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体として初めて哺乳類から同定された。その後、分子生物学的手法やゲノムプロジェクトの発展に伴い、各種モデル動物の味覚受容体遺伝子のクローニングが進み、同時に受容体に対するリガンド(ligand)も特定されていった。
 味覚受容体は、接触した化学物質を検出するための受容体で、1999年に、味細胞に発現する7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体として初めて哺乳類から同定された。その後、分子生物学的手法やゲノムプロジェクトの発展に伴い、各種モデル動物の味覚受容体遺伝子のクローニングが進み、同時に受容体に対するリガンド(ligand)も特定されていった。


 哺乳類にとって、味には、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5基本味がある。それぞれの基本味は、異なる受容体で検知されていると考えられているが、2012年現在、それぞれの基本味に対する受容機構の全貌は甘味を除いて解明されていない。また、基本味以外にも、カルシウム味や脂肪味などに応答する味細胞が存在することが報告されているが、それらに対する受容機構の研究は始まったばかりである。
 哺乳類にとって、味には、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5基本味がある。それぞれの基本味は、異なる受容体で検知されていると考えられているが、2012年現在、それぞれの基本味に対する受容機構の全貌は甘味を除いて解明されていない。また、基本味以外にも、カルシウム味や脂肪味などに応答する味細胞が存在することが報告されているが、それらに対する受容機構の研究は始まったばかりである。ここでは、哺乳類(主にマウス)と昆虫(ショウジョウバエ)の知見を基に、味覚受容体を概説する。
 
 ここでは、哺乳類(主にマウス)と昆虫(ショウジョウバエ)の知見を基に、味覚受容体を概説する。


==哺乳類の味覚受容体==
==哺乳類の味覚受容体==
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 味覚受容体は、一般的なGタンパク質共役型受容体と比較すると種間の配列の相違が大きく、その配列の相違が種間の味覚の違いをうんでいることが示されている。うま味受容体を例にとると、マウスでは、大部分のL型アミノ酸がうま味として認識されるのに対して、ヒトではL型グルタミン酸やL型アスパラギン酸しか強く認識されないのは、受容体の配列の違いによるものである。
 味覚受容体は、一般的なGタンパク質共役型受容体と比較すると種間の配列の相違が大きく、その配列の相違が種間の味覚の違いをうんでいることが示されている。うま味受容体を例にとると、マウスでは、大部分のL型アミノ酸がうま味として認識されるのに対して、ヒトではL型グルタミン酸やL型アスパラギン酸しか強く認識されないのは、受容体の配列の違いによるものである。


 '''うま味/甘味受容体(T1Rファミリー)''' 
'''うま味/甘味受容体(T1Rファミリー)''' T1Rファミリーには、T1R1、T1R2、T2R3の3種類のサブユニットがあり、T1R1とT1R3がヘテロ2量体を形成している場合はグルタミン酸などのうま味物質の受容体として、T1R2とT1R3がヘテロ2量体を形成している際は糖やグリシン、甘味を持つタンパク質(モネリンやソーマチン)などの受容体として機能する。
T1Rファミリーには、T1R1、T1R2、T2R3の3種類のサブユニットがあり、T1R1とT1R3がヘテロ2量体を形成している場合はグルタミン酸などのうま味物質の受容体として、T1R2とT1R3がヘテロ2量体を形成している際は糖やグリシン、甘味を持つタンパク質(モネリンやソーマチン)などの受容体として機能する。


 '''苦味受容体(T2Rファミリー)'''
'''苦味受容体(T2Rファミリー)''' T2Rファミリーの受容体は、マウスに30種類ほどあるように、複数種が存在し、その大部分が同じ細胞に共発現して、ヘテロオリゴマーを形成して、苦味物質を検出する。
T2Rファミリーの受容体は、マウスに30種類ほどあるように、複数種が存在し、その大部分が同じ細胞に共発現して、ヘテロオリゴマーを形成して、苦味物質を検出する。


===イオンチャネル型受容体===
===イオンチャネル型受容体===
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 Gタンパク質共役型受容体が味物質と結合してセカンドメッセンジャーを活性化するのと対照的に、イオンチャネル型受容体は、H+(酸味)やNa+(塩味)などのイオンのセンサーとして働き、最終的には自身がそうしたイオンのチャネルとして働いて、味細胞を脱分極させる。
 Gタンパク質共役型受容体が味物質と結合してセカンドメッセンジャーを活性化するのと対照的に、イオンチャネル型受容体は、H+(酸味)やNa+(塩味)などのイオンのセンサーとして働き、最終的には自身がそうしたイオンのチャネルとして働いて、味細胞を脱分極させる。


 '''酸味受容体'''
'''酸味受容体''' Transient receptor potential channel(TRP)の1種であるPKD2L1を発現している味細胞が、酸を感知することが知られている。しかしながら、PKD2L1の膜局在に必要なPKD1L3の欠損マウスでも、酸味に対する応答が減少しないことから、PKD2L1が受容体として働いているわけではないようである。現在、Zn2+感受性のH+チャンネルが、酸味受容体として働いていることが示されているが、どのチャネルかは未同定である。
 Transient receptor potential channel(TRP)の1種であるPKD2L1を発現している味細胞が、酸を感知することが知られている。しかしながら、PKD2L1の膜局在に必要なPKD1L3の欠損マウスでも、酸味に対する応答が減少しないことから、PKD2L1が受容体として働いているわけではないようである。現在、Zn2+感受性のH+チャンネルが、酸味受容体として働いていることが示されているが、どのチャネルかは未同定である。


 '''塩味受容体'''
'''塩味受容体''' 低濃度の塩味(Na+イオン)に対するマウスの嗜好性は、アミロライドによって抑制されるので、上皮性アミロライド感受性Naチャネル(ENaC)によって、塩味は受容されると考えられている。高濃度の塩味に対する嫌悪は、アミロライドによって抑制されないことから、高濃度の塩味に対する受容は別の機構によると考えられているが、受容体は同定されていない。
 低濃度の塩味(Na+イオン)に対するマウスの嗜好性は、アミロライドによって抑制されるので、上皮性アミロライド感受性Naチャネル(ENaC)によって、塩味は受容されると考えられている。高濃度の塩味に対する嫌悪は、アミロライドによって抑制されないことから、高濃度の塩味に対する受容は別の機構によると考えられているが、受容体は同定されていない。




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