「嗅覚受容体」の版間の差分

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=== 構造 ===
=== 構造 ===
 昆虫ORは、脊椎動物ORと同様、7回膜貫通構造を有するが、その膜トポロジーは逆であり、N末端が細胞質に、C末端が細胞外領域に位置する<ref name=Benton2006><pubmed>16402857</pubmed></ref><ref name=Hopf2015><pubmed>25584517</pubmed></ref>(図2)。脊椎動物ORと異なり、GPCRとの相同性はない。全般的に種間での配列保存性は低いが、唯一、種を超えて保存性の高い共通のORが存在し、Orco (Olfactory receptor co-receptor)と呼ばれる。Orcoは、リガンド選択性を有するORとヘテロ多量体を形成して機能すると考えられている。近年、クライオ電子顕微鏡解析により、イチジク寄生バチの一種、Apocrypta bakerのOrco、および、イシノミ類の昆虫Machilis hrabeiのOR, MhOR5について、立体構造が明らかになった<ref name=Butterwick2018><pubmed>30111839</pubmed></ref><ref name=Del Mármol2021><pubmed>34349260</pubmed></ref>。Orcoは単独ではホモ4量体構造を形成することが示され、チャネルの開閉制御に重要な領域が明らかになった<ref name=Butterwick2018><pubmed>30111839</pubmed></ref>。MhOR5については、2種類の匂いリガンドとの共構造からリガンド結合によるチャネルの構造変化が示されるとともに、単一の受容体が多様な構造のリガンドを認識し得る構造基盤として、リガンド受容が複数の疎水的相互作用に基づくことも示された<ref name=Del Mármol2021><pubmed>34349260</pubmed></ref>。
 昆虫ORは、脊椎動物ORと同様、7回膜貫通構造を有するが、その膜トポロジーは逆であり、N末端が細胞質に、C末端が細胞外領域に位置する<ref name=Benton2006><pubmed>16402857</pubmed></ref><ref name=Hopf2015><pubmed>25584517</pubmed></ref>(図2)。脊椎動物ORと異なり、GPCRとの相同性はない。全般的に種間での配列保存性は低いが、唯一、種を超えて保存性の高い共通のORが存在し、Orco (Olfactory receptor co-receptor)と呼ばれる。Orcoは、リガンド選択性を有するORとヘテロ多量体を形成して機能すると考えられている。近年、クライオ電子顕微鏡解析により、イチジク寄生バチの一種、''Apocrypta baker''のOrco、および、イシノミ類の昆虫''Machilis hrabei''のOR, MhOR5について、立体構造が明らかになった<ref name=Butterwick2018><pubmed>30111839</pubmed></ref><ref name=DelMármol2021><pubmed>34349260</pubmed></ref>。Orcoは単独ではホモ4量体構造を形成することが示され、チャネルの開閉制御に重要な領域が明らかになった<ref name=Butterwick2018><pubmed>30111839</pubmed></ref>。MhOR5については、2種類の匂いリガンドとの共構造からリガンド結合によるチャネルの構造変化が示されるとともに、単一の受容体が多様な構造のリガンドを認識し得る構造基盤として、リガンド受容が複数の疎水的相互作用に基づくことも示された<ref name=DelMármol2021><pubmed>34349260</pubmed></ref>。
 
 IRは、イオンチャネル型グルタミン酸受容体(iGluR)と相同性が高く、3回膜貫通構造を持つ。IRにおいてもリガンド選択性を有するIR-Xと、Orco同様、リガンドに関わらず共通なIR-coY(ハエでは、IR8a, IR25a, IR76b)が存在する。チャネルとしての機能ユニットは、2つのIR-Xと2つのIR-coYから構成されるヘテロ4量体と考えられている<ref name=Abuin2011><pubmed> 21220098 </pubmed></ref><ref name=Abuin2019><pubmed> 30995910 </pubmed></ref>。IR-coYはアミノ末端ドメイン(amino-terminal domain, ATD), リガンド結合ドメイン(ligand-binding domain, LBD)、イオンチャネルドメインから構成され、iGluRと高度な保存性を有する一方、IR-XはATDを持たず、iGluRとの相同性が低く、特にLBDの保存度が低い。IRの立体構造は明らかになっていない。


 IRは、イオノトロピック型グルタミン酸受容体(iGluR)と相同性が高く、3回膜貫通構造を持つ。IRにおいてもリガンド選択性を有するIR-Xと、Orco同様、リガンドに関わらず共通なIR-coY(ハエでは、IR8a, IR25a, IR76b)が存在する。チャネルとしての機能ユニットは、2つのIR-Xと2つのIR-coYから構成されるヘテロ4量体と考えられている<ref name=Abuin2011><pubmed></pubmed></ref><ref name=Abuin2019><pubmed></pubmed></ref>。IR-coYはアミノ末端ドメイン(amino-terminal domain, ATD), リガンド結合ドメイン(ligand-binding domain, LBD)、イオンチャネルドメインから構成され、iGluRと高度な保存性を有する一方、IR-XはATDを持たず、iGluRとの相同性が低く、特にLBDの保存度が低い。IRの立体構造は明らかになっていない。
 GRはORと同様、7回膜貫通構造を持ち、N末端が細胞質側、C末端が細胞外側のトポロジーを示す。Gr21a, Gr63aそのものの構造は示されていないが、他のGrファミリーメンバーである、カイコBmGr9のホモロジーモデリングと変異体解析において、GRもORと同様のチャネル構造をもつことが示唆されている<ref name=Morinaga2022><pubmed>36209821</pubmed></ref>。
 GRはORと同様、7回膜貫通構造を持ち、N末端が細胞質側、C末端が細胞外側のトポロジーを示す。Gr21a, Gr63aそのものの構造は示されていないが、他のGrファミリーメンバーである、カイコBmGr9のホモロジーモデリングと変異体解析において、GRもORと同様のチャネル構造をもつことが示唆されている<ref name=Morinaga2022><pubmed>36209821</pubmed></ref>。