「妄想」の版間の差分

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===一次妄想===
===一次妄想===
 一次妄想primary delusion(真正妄想true delusionも同義)とは、最終的に発生的了解が不能である、すなわちそれが他の心的現象に反応して生じたものであるという縦断的な意味関連がわからない妄想である。一次妄想の確信は直接的かつ明白に出現する。一次妄想の形式には妄想気分、妄想着想、妄想知覚がある。
 一次妄想primary delusion(真正妄想true delusionも同義)とは、最終的に発生的了解が不能である、すなわちそれが他の心的現象に反応して生じたものであるという縦断的な意味関連がわからない妄想である。一次妄想の確信は直接的かつ明白に出現する。一次妄想の形式には[[妄想気分]]、[[妄想着想]]、妄想知覚がある。


====妄想気分====
====妄想気分====
delusional mood
delusional mood


 何かが起きているというただならぬ気配を感じ、それに巻き込まれていると感じるが明確にわからない。外的事象に対する漠然とした意味付け(自己関係付け傾向)が生じてはいるが、特定の意味付けはまだ生じていない。これは統合失調症の急性期の最初の症状であることが多い。自己関係付けに特定の意味が伴うと、妄想知覚が形成される。妄想着想もまた妄想気分に続いて生じることがある。
 何かが起きているというただならぬ気配を感じ、それに巻き込まれていると感じるが明確にわからない。外的事象に対する漠然とした意味付け(自己関係付け傾向)が生じてはいるが、特定の意味付けはまだ生じていない。これは統合失調症の急性期の最初の症状であることが多い。自己関係付けに特定の意味が伴うと、妄想知覚が形成される。妄想着想もまた妄想気分に続いて生じることがある。


 統合失調症の前駆期にみられる緊迫した気分は、それを外界の事象に関係付ける傾向が生じていない点が妄想気分と異なる。
 統合失調症の前駆期にみられる緊迫した気分は、それを外界の事象に関係付ける傾向が生じていない点が妄想気分と異なる。
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delusion percept(ion)
delusion percept(ion)


 合理的にも感情的にも了解可能な動機なしに、真の知覚に異常な意味が付与されるものである。たとえば、患者は自宅の前に自動車が止まっているのを見ると、「自分を狙っている組織があり、見張られている」と確信する。付与される意味はほとんどが被害的自己関係付けであるが、あらゆる了解可能な意味の背後に、無人称的な他者(たとえば上の例では「組織」)が出現することが特徴である。妄想の形式の中では、この妄想知覚のみがSchneiderの一級統合失調症状(表1)(以下、一級症状と記す)である。一級症状は統合失調症に特徴的な症状であるが、統合失調症に必ず認められる徴候ではなく、また他の多くの統合失調症状と同様に、器質性・中毒性の病態でも出現しうる。
 合理的にも感情的にも了解可能な動機なしに、真の知覚に異常な意味が付与されるものである。たとえば、患者は自宅の前に自動車が止まっているのを見ると、「自分を狙っている組織があり、見張られている」と確信する。付与される意味はほとんどが被害的自己関係付けであるが、あらゆる了解可能な意味の背後に、無人称的な他者(たとえば上の例では「組織」)が出現することが特徴である。妄想の形式の中では、この妄想知覚のみが[[wj:クルト・シュナイダー|Schneider]]の一級統合失調症状(表1)(以下、一級症状と記す)である。一級症状は統合失調症に特徴的な症状であるが、統合失調症に必ず認められる徴候ではなく、また他の多くの統合失調症状と同様に、[[器質性精神障害|器質性]]・[[器質性精神障害|中毒性]]の病態でも出現しうる。


 妄想知覚の体験構造は二分節性と呼ばれる。すなわち、患者から知覚された対象に関する了解可能な意味解釈までからなるに至る第1分節(上の例では「家の前に自動車が止まっている」)と、了解可能なあらゆる意味解釈の背後で始まる、合理的にも[[情動]]的にも了解不能な意味付けである第2分節(上の例では「自分を狙っている組織がある」)からなる。
 妄想知覚の体験構造は二分節性と呼ばれる。すなわち、患者から知覚された対象に関する了解可能な意味解釈までからなるに至る第1分節(上の例では「家の前に自動車が止まっている」)と、了解可能なあらゆる意味解釈の背後で始まる、合理的にも[[情動]]的にも了解不能な意味付けである第2分節(上の例では「自分を狙っている組織がある」)からなる。


{| class="wikitable"
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|+ 表1.Schneiderの1級症状<ref name=ref7>'''針間博彦,岡田直大'''<BR>シュナイダーの1級症状について.妄想の臨床<BR>''新興医学出版社''、東京、p98-110,2013</ref>
|+ 表1.Schneiderの1級症状<ref name=ref7>'''針間博彦,岡田直大'''<BR>シュナイダーの1級症状について.妄想の臨床<BR>''新興医学出版社''、東京、p98-110,2013</ref>
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| '''・3種の幻声'''<br>  考想化声、言い合う形の幻声、自身の行動と共に発言する幻声
| '''・3種の幻声'''<br>  [[考想化声]]、言い合う形の幻声、自身の行動と共に発言する幻声<br>
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'''・妄想知覚'''<br>
| '''・妄想知覚'''
'''・自我障害'''<br>
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  考想被影響体験([[考想奪取]]、[[考想吹入]]、[[考想伝播]])<br>
| '''・自我障害'''<br>
  考想被影響体験 (考想奪取、考想吹入、考想伝播)<br>
  身体的被影響体験<br>
  身体的被影響体験<br>
  感情・欲動・意志の領域における他者によるすべてのさせられ体験・被影響体験<br>
  [[感情]]・[[欲動]]・[[意志]]の領域における他者によるすべてのさせられ体験・被影響体験<br>
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