「実行機能」の版間の差分

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 実行機能の神経機構を調べる研究は、行動上の概念を直接脳領域に位置づけるという形ではなく、他の高次認知研究からの知見を柔軟に吸収しなつつ、独自に実行機能を脳と関連づけるという形での発展を見せている。しかし、現状においては[[前頭葉]]損傷が実行機能の減退を引き起こすという事以外には、研究者間での意見の一致はさほど多くなく、実行機能の下位要素あるいは[[前頭前野]]がどのように実行機能を担っているかについて様々な知見が混在している<ref>'''M T Banich'''<br>Executive function: the search for a integrated account<br>''Current Directions in Psychological Science, 18(2), 89-94'':2009</ref>。  
 実行機能の神経機構を調べる研究は、行動上の概念を直接脳領域に位置づけるという形ではなく、他の高次認知研究からの知見を柔軟に吸収しなつつ、独自に実行機能を脳と関連づけるという形での発展を見せている。しかし、現状においては[[前頭葉]]損傷が実行機能の減退を引き起こすという事以外には、研究者間での意見の一致はさほど多くなく、実行機能の下位要素あるいは[[前頭前野]]がどのように実行機能を担っているかについて様々な知見が混在している<ref>'''M T Banich'''<br>Executive function: the search for a integrated account<br>''Current Directions in Psychological Science, 18(2), 89-94'':2009</ref>。  


 ただし、大まかには'''[[腹外側前頭前野]]''' (ventrolateral prefrontal cortex: VLPFC) は課題セットの切り替えと抑制<ref><pubmed>15050513</pubmed></ref><ref><pubmed>18558854</pubmed></ref>、[['''背外側前頭前野''']] (dorsolateral prefrontal cortex: DLPFC) は課題関連情報を維持し、計画を立てること<ref><pubmed>12963473</pubmed></ref>、'''[[前帯状皮質]]''' (anterior cingulate cortex: ACC) は、葛藤の検出とモニタリング<ref><pubmed>10846167</pubmed></ref><ref><pubmed>9563953</pubmed></ref><ref><pubmed>10647008</pubmed></ref>、[['''吻側前頭前野''']] (rostral prefrontal cortex: RPFC) は複数課題の遂行やエピソード記憶の検索、他者の内的状態の推測に関与するとされる<ref><pubmed>16839301</pubmed></ref>。
 ただし、大まかには'''[[腹外側前頭前野]]''' (ventrolateral prefrontal cortex: VLPFC) は課題セットの切り替えと抑制<ref><pubmed>15050513</pubmed></ref><ref><pubmed>18558854</pubmed></ref>、'''[[背外側前頭前野]]''' (dorsolateral prefrontal cortex: DLPFC) は課題関連情報を維持し、計画を立てること<ref><pubmed>12963473</pubmed></ref>、'''[[前帯状皮質]]''' (anterior cingulate cortex: ACC) は、葛藤の検出とモニタリング<ref><pubmed>10846167</pubmed></ref><ref><pubmed>9563953</pubmed></ref><ref><pubmed>10647008</pubmed></ref>、'''[[吻側前頭前野]]''' (rostral prefrontal cortex: RPFC) は複数課題の遂行やエピソード記憶の検索、他者の内的状態の推測に関与するとされる<ref><pubmed>16839301</pubmed></ref>。


 しかし、特に前帯状皮質は議論の別れる領域であり、前帯状皮質損傷患者では葛藤の生じる課題においても課題成績に遜色がないとするデータもある他<ref><pubmed>14597698</pubmed></ref><ref><pubmed>16783368</pubmed></ref>、前帯状皮質は報酬と行為の連合を担っており、葛藤モニタリングはその下位機能に過ぎないとする説もある<ref><pubmed>17337237</pubmed></ref>。また、他の各領域の機能についても研究者間で意見の相違があり、今後の研究ではそれらの相違を克服するモデル構築が望まれる。
 しかし、特に前帯状皮質は議論の別れる領域であり、前帯状皮質損傷患者では葛藤の生じる課題においても課題成績に遜色がないとするデータもある他<ref><pubmed>14597698</pubmed></ref><ref><pubmed>16783368</pubmed></ref>、前帯状皮質は報酬と行為の連合を担っており、葛藤モニタリングはその下位機能に過ぎないとする説もある<ref><pubmed>17337237</pubmed></ref>。また、他の各領域の機能についても研究者間で意見の相違があり、今後の研究ではそれらの相違を克服するモデル構築が望まれる。