「島」の版間の差分

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==臨床==
==臨床==
 島の過剰な活動が、肥満患者における旺盛な食欲の原因であるという説がある(Frank et al 2013)。一方、島の活動が抑制されると離人症性障害を生ずるという説がある(Phillips et al 2001, Sierria and David 2011)。またごく稀に両側島が障害されると、例えば針で突き刺されたとき、それが鋭い尖ったものによる刺激だと理解はできても、恐怖や嫌悪、自律神経反応、逃避反応などは消失する。こうした痛みにおける感覚と情動の乖離は疼痛表象不能と呼ばれる(Berthier et al 1988)。染色体17p11.2が欠損し、精神発達遅滞や多動、痛み反応の減弱などを伴うSmith-Magenis症候群では、島の灰[[白質]]密度が低下するなどの異常が認められる(Boddaert 2003)。島は内受容によって薬物希求を表象するとされる。このためマリファナ(Filbey et al 2009)や[[コカイン]](Kilts et al 2001, Bonson et al 2002)の濫用患者の島は、薬物希求が高まると活動する。一方、島の損傷によってタバコの濫用が軽快・消失したり(Naqvi et al 2007)、ラットの島を不活化させると[[アンフェタミン]]希求が減弱したりするとされる(Contreas et al 2007)。[[パニック障害]]の病態生理として、島の異常が想定されている。不快刺激の予測信号が増大すると不安を生ずるが、不快刺激の予測には内受容の[[遠心性コピー]]が利用されていると考えられる。内受容の変調が身体の変調として知覚されればパニック障害となる(Paulus and Stein 2006)。大うつ病性障害では、うつ評価尺度と島の灰白質容量の低下とに相関があるとされる(Sprengelmeyer et al 2011)。また、本来は痛みに対して活動する後部に、本来は前部にしか見られない情動に対する活動領域が広がり、機能トポグラフの再構成が生じているとされる(Mutschler et al 2012)。平時における島の過活動がうつ病者の認知や行動の特徴を説明できるという報告もある(Sliz and Hayley 2012)。一方、幻聴は、音源が自身の思考由来なのか、外部環境由来なのかを判別する能力が低下し、前者を後者に誤帰属するため生ずる。統合失調症では、自己意識の座とされる前部島の灰白質容量が低下し、灰白質容量と臨床症状評価尺度との相関も認められるとされ(Wylie and Tregellas 2010)、幻聴の誤帰属仮説の傍証となっている。
 島の過剰な活動が、肥満患者における旺盛な食欲の原因であるという説がある<ref name=ref83><pubmed>23986683</pubmed></ref>。一方、島の活動が抑制されると離人症性障害を生ずるという説がある<ref name=ref84><pubmed>11756013</pubmed></ref> <ref name=ref85><pubmed>21087873</pubmed></ref>。またごく稀に両側島が障害されると、例えば針で突き刺されたとき、それが鋭い尖ったものによる刺激だと理解はできても、恐怖や嫌悪、自律神経反応、逃避反応などは消失する。こうした痛みにおける感覚と情動の乖離は疼痛表象不能と呼ばれる<ref name=ref86><pubmed>3415199</pubmed></ref>。染色体17p11.2が欠損し、精神発達遅滞や多動、痛み反応の減弱などを伴うSmith-Magenis症候群では、島の灰[[白質]]密度が低下するなどの異常が認められる<ref name=ref87><pubmed>15006669</pubmed></ref>。島は内受容によって薬物希求を表象するとされる。このためマリファナ<ref name=ref88><pubmed>19651613</pubmed></ref>や[[コカイン]]<ref name=ref89><pubmed>11296093</pubmed></ref> <ref name=ref90><pubmed>11850152</pubmed></ref>の濫用患者の島は、薬物希求が高まると活動する。一方、島の損傷によってタバコの濫用が軽快・消失したり<ref name=ref91><pubmed>17255515</pubmed></ref>、ラットの島を不活化させると[[アンフェタミン]]希求が減弱したりするとされる<ref name=ref92><pubmed>17962567</pubmed></ref>。[[パニック障害]]の病態生理として、島の異常が想定されている。不快刺激の予測信号が増大すると不安を生ずるが、不快刺激の予測には内受容の[[遠心性コピー]]が利用されていると考えられる。内受容の変調が身体の変調として知覚されればパニック障害となる<ref name=ref93><pubmed>16780813</pubmed></ref>。大うつ病性障害では、うつ評価尺度と島の灰白質容量の低下とに相関があるとされる<ref name=ref94><pubmed>21531027</pubmed></ref>。また、本来は痛みに対して活動する後部に、本来は前部にしか見られない情動に対する活動領域が広がり、機能トポグラフの再構成が生じているとされる<ref name=ref95><pubmed>22503725</pubmed></ref>。平時における島の過活動がうつ病者の認知や行動の特徴を説明できるという報告もある<ref name=ref96><pubmed>23227005</pubmed></ref>。一方、幻聴は、音源が自身の思考由来なのか、外部環境由来なのかを判別する能力が低下し、前者を後者に誤帰属するため生ずる。統合失調症では、自己意識の座とされる前部島の灰白質容量が低下し、灰白質容量と臨床症状評価尺度との相関も認められるとされ<ref name=ref97><pubmed>20832997</pubmed></ref>、幻聴の誤帰属仮説の傍証となっている。


==参考文献==
==参考文献==
<references />
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