「微小管」の版間の差分

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<font size="+1">佐藤 啓介、[http://researchmap.jp/nana 寺田 純雄]</font><br>
<font size="+1">佐藤 啓介、[http://researchmap.jp/nana 寺田 純雄]</font><br>
''東京医科歯科大学 医歯薬学総合研究科 神経機能形態学分野''<br>
''東京医科歯科大学 医歯薬学総合研究科 神経機能形態学分野''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年10月31日 原稿完成日:2013年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年10月31日 原稿完成日:2014年4月28日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
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===C末端の脱チロシン化および再チロシン化===
===C末端の脱チロシン化および再チロシン化===
 α-チュブリンのC末端の[[チロシン]]は除去と付加を繰り返し受けている。チロシンが除去された状態で起こる脱[[グルタミン酸]](Δ2 チュブリンを生成する)は不可逆的である。
 α-チュブリンのC末端の[[チロシン]]は除去と付加を繰り返し受けている。神経系でみられるチロシンが除去された状態で起こる脱[[グルタミン酸]](Δ2 チュブリンを生成する)は再チロシン化ができず不可逆的である。


===グリシン化とグルタミン酸化===
===グリシン化とグルタミン酸化===
 重合した状態のチュブリのC末端付近に存在する複数のグルタミン酸残基は[[グリシン]]もしくはグルタミン酸の付加を受ける。グリシンやグルタミン酸は次々と付加されていき、[[wj:ポリグリシン|ポリグリシン]]もしくは[[wj:ポリグルタミン酸|ポリグルタミン酸]]の側鎖となる。
 重合した状態のチュブリンのC末端付近に存在する複数のグルタミン酸残基は[[グリシン]]もしくはグルタミン酸の付加を受ける。グリシンやグルタミン酸は次々と付加されていき、[[wj:ポリグリシン|ポリグリシン]]もしくは[[wj:ポリグルタミン酸|ポリグルタミン酸]]の側鎖となる。


===アセチル化===
===アセチル化===
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 これまでに数多くの微小管に結合するタンパク質が発見されており、その機能は多岐にわたっている(図参照)。
 これまでに数多くの微小管に結合するタンパク質が発見されており、その機能は多岐にわたっている(図参照)。


 [[古典的MAP]](Microtubule Associating Protein)もしくは構造的MAPに属する[[タウ]]や[[MAP2]]は微小管を安定化させることにより動態を変化させる<ref><pubmed> 16938900</pubmed></ref><ref><pubmed> 15642108</pubmed></ref>。
 [[古典的MAP]](Microtubule Associating Protein)もしくは構造的MAPに属する[[タウ]]や[[MAP2]]は微小管を安定化させることにより動態を変化させる<ref><pubmed> 16938900</pubmed></ref><ref><pubmed> 15642108</pubmed></ref>。なおMAP1A/Bの軽鎖サブユニットLC3はオートファゴソーム膜に局在する''([[オートファジー]]の項目参照)''


 微小管のプラス端に結合するものは[[+TIPs]]と総称される<ref><pubmed> 15661518</pubmed></ref>。+TIPsには、重合を促進するもの(例:[[XMAP215]])、重合を阻害するもの(例:[[CLASP]])、脱重合を促進するもの(例:[[キネシン-13]])、膜や細胞骨格など他の構造と微小管との連結をするもの(例:[[EB1]])等がある。
 微小管のプラス端に結合するものは[[+TIPs]]と総称される<ref><pubmed> 15661518</pubmed></ref>。+TIPsには、重合を促進するもの(例:[[XMAP215]])、重合を阻害するもの(例:[[CLASP]])、脱重合を促進するもの(例:[[キネシン-13]])、膜や細胞骨格など他の構造と微小管との連結をするもの(例:[[EB1]])等がある。
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====軸索と樹状突起における微小管====
====軸索と樹状突起における微小管====
 軸索内に存在する微小管は向きが揃っており、プラス端は先端に存在する<ref><pubmed> 19660553</pubmed></ref>(図A)。これは、プラス端に向かって動く微小管モーターであるキネシンによって、非常に長い突起の先端に効率よく物質を運ぶために有利だと考えられる。
 軸索内に存在する微小管は向きが揃っており、プラス端は先端に存在する<ref><pubmed> 19660553</pubmed></ref>(図A、拡大図上)。これは、プラス端に向かって動く微小管モーターであるキネシンによって、非常に長い突起の先端に効率よく物質を運ぶために有利だと考えられる。


 伸長している軸索の[[細胞体]]に近い方に存在する微小管は安定で寿命が長く、脱チロシン化かつアセチル化されたチュブリンで構成されている。先端部に行くほど微小管はより動的で、チロシン化されているがアセチル化を受けていないチュブリンに富んでいる<ref><pubmed> 20541813</pubmed></ref>。特に[[成長円錐]](growth cone)では微小管は非常に動的で形態も複雑である<ref><pubmed> 19377501</pubmed></ref>。
 伸長している軸索の[[細胞体]]に近い方に存在する微小管は安定で寿命が長く、脱チロシン化かつアセチル化されたチュブリンで構成されている。先端部に行くほど微小管はより動的で、チロシン化されているがアセチル化を受けていないチュブリンに富んでいる<ref><pubmed> 20541813</pubmed></ref>。特に[[成長円錐]](growth cone)では微小管は非常に動的で形態も複雑である<ref><pubmed> 19377501</pubmed></ref>。


 樹状突起では、近位部では異なる向きの微小管が混在し、総体としてみると極性の無い状態になっている。一方、遠位部では先端にプラス端を向けた極性を持っている<ref><pubmed> 19660553</pubmed></ref>(図B)。[[ショウジョウバエ]]のニューロンでは、樹状突起の分岐点に存在する[[ゴルジ体]](Golgi outpostと呼ばれる)から微小管が伸長し、樹状突起の形態形成に重要な役割を果たしていることが明らかになっている<ref><pubmed> 23217741</pubmed></ref>。哺乳類のニューロンにおいても樹状突起の分岐点にGolgi outpostが見つかっているが、そこから微小管の伸長が起こるかは検討されていない<ref><pubmed> 16337914</pubmed></ref>。また、以前は樹状突起の[[棘突起]]([[spine]])には微小管は存在しないと考えられていたが、近年の研究で棘突起内に非常に動的な微小管が存在することが明らかになり、棘突起形成に関与していることが示されている。
 樹状突起では、近位部では異なる向きの微小管が混在し、総体としてみると極性の無い状態になっている。一方、遠位部では先端にプラス端を向けた極性を持っている<ref><pubmed> 19660553</pubmed></ref>(図A、拡大図下)。[[ショウジョウバエ]]のニューロンでは、樹状突起の分岐点に存在する[[ゴルジ体]](Golgi outpostと呼ばれる)から微小管が伸長し、樹状突起の形態形成に重要な役割を果たしていることが明らかになっている<ref><pubmed> 23217741</pubmed></ref>。哺乳類のニューロンにおいても樹状突起の分岐点にGolgi outpostが見つかっているが、そこから微小管の伸長が起こるかは検討されていない<ref><pubmed> 16337914</pubmed></ref>。また、以前は樹状突起の[[棘突起]]([[spine]])には微小管は存在しないと考えられていたが、近年の研究で棘突起内に非常に動的な微小管が存在することが明らかになり、棘突起形成に関与していることが示されている。


 前述したように、軸索と樹状突起では結合タンパク質の分布が異なり、例えばタウは軸索に、[[MAP2]]は樹状突起にほぼ特異的に存在している<ref><pubmed> 15642108</pubmed></ref>。また、[[MAP1A]]が成熟したニューロンに発現し、樹状突起に多く存在する一方で、MAP1Bは発生初期の段階で高発現し、伸長中の軸索、特に成長円錐に集積している<ref><pubmed> 16938900</pubmed></ref>。これらのMAPsは、微小管の安定化や他のタンパク質との結合を調節することにより、微小管の機能を制御していると考えられる。
 前述したように、軸索と樹状突起では結合タンパク質の分布が異なり、例えばタウは軸索に、[[MAP2]]は樹状突起にほぼ特異的に存在している<ref><pubmed> 15642108</pubmed></ref>。また、[[MAP1A]]が成熟したニューロンに発現し、樹状突起に多く存在する一方で、MAP1Bは発生初期の段階で高発現し、伸長中の軸索、特に成長円錐に集積している<ref><pubmed> 16938900</pubmed></ref>。これらのMAPsは、微小管の安定化や他のタンパク質との結合を調節することにより、微小管の機能を制御していると考えられる。
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;中期
;中期
:[[wj:染色分体|染色分体]]のそれぞれの動原体に両側の極から伸びた微小管が結合し、全ての染色体が[[wj:中期板|中期板]]に沿って配置される。この状態が中期である。
:[[wj:染色分体|染色分体]]のそれぞれの動原体に両側の極から伸びた微小管が結合し、全ての染色体が[[wj:中期板|中期板]]に沿って配置される。この状態が中期である(図B)。


;後期
;後期
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===鞭毛・繊毛===
===鞭毛・繊毛===
 細胞表面に存在する繊毛や鞭毛、一次繊毛の内部には微小管が通っており、軸糸を形成している。繊毛や鞭毛の軸糸は、2本のシングレット微小管(中心対小管)からなる中心対と、中心対を囲むように配置された9つのダブレット微小管からなる。各々のダブレット微小管は13本のプロトフィラメントからなるA管と10本のプロトフィラメントからなるB管でできている。中心対小管どうしは中心架橋で結ばれており、ダブレット微小管は[[wj:ネキシン|ネキシン]]という構造でお互いに架橋されている。一次繊毛の軸糸には中心対が存在しない。
 細胞表面に存在する繊毛や鞭毛、一次繊毛の内部には微小管が通っており、軸糸を形成している。繊毛や鞭毛の軸糸は、2本のシングレット微小管(中心対小管)からなる中心対と、中心対を囲むように配置された9つのダブレット微小管からなる(図C)。各々のダブレット微小管は13本のプロトフィラメントからなるA管と10本のプロトフィラメントからなるB管でできている。中心対小管どうしは中心架橋で結ばれており、ダブレット微小管は[[wj:ネキシン|ネキシン]]という構造でお互いに架橋されている。一次繊毛の軸糸には中心対が存在しない。


 ダブレット微小管には細胞質ダイニンとは異なるダイニン([[wj:軸糸ダイニン|軸糸ダイニン]])が結合している。隣接するダブレット微小管の間を軸糸ダイニンが移動することによって生じる微小管の「滑り」が繊毛や鞭毛の波打ち運動を起こしていると考えられる<ref><pubmed> 20145000</pubmed></ref>。
 ダブレット微小管には細胞質ダイニンとは異なるダイニン([[wj:軸糸ダイニン|軸糸ダイニン]])が結合している。隣接するダブレット微小管の間を軸糸ダイニンが移動することによって生じる微小管の「滑り」が繊毛や鞭毛の波打ち運動を起こしていると考えられる<ref><pubmed> 20145000</pubmed></ref>。
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==疾患との関連==
==疾患との関連==
 チュブリンの変異が原因となって起こる病気が多数報告されており、その症状は脳の発達や神経の形態に異常を来すものがほとんどである<ref><pubmed> 19864038</pubmed></ref>。
 チュブリンの変異が原因となって起こる病気が多数報告されており、その症状は脳の発達や神経系の形態に異常を来すものがほとんどである<ref><pubmed> 19864038</pubmed></ref>。


===チュブリン遺伝子異常===
===チュブリン遺伝子異常===
130行目: 130行目:
 微小管結合や関連するタンパク質をコードする遺伝子が病気の原因遺伝子として同定された報告も多い<ref><pubmed> 21288712</pubmed></ref>。
 微小管結合や関連するタンパク質をコードする遺伝子が病気の原因遺伝子として同定された報告も多い<ref><pubmed> 21288712</pubmed></ref>。


 例えばダイニンに結合してその活性を制御する[[LIS1]]やLIS1結合タンパク質[[Doublecortin]]をコードする遺伝子が滑脳症の原因遺伝子として、また多くの中心体タンパク質をコードする遺伝子が小頭症の原因遺伝子として同定されている。
 例えば[[ダイニン]]に結合してその活性を制御する[[LIS1]]やLIS1結合タンパク質[[Doublecortin]]をコードする遺伝子が滑脳症の原因遺伝子として、また多くの中心体タンパク質をコードする遺伝子が小頭症の原因遺伝子として同定されている。


 タウの異常な凝集は[[アルツハイマー型認知症]]や[[前頭側頭葉変性症]]などの[[神経変性疾患]]で観察され、[[タウオパチー]](tauopathy)と総称されている。
 タウの異常な凝集は[[アルツハイマー型認知症]]や[[前頭側頭葉変性症]]などの[[神経変性疾患]]で観察され、[[タウオパチー]](tauopathy)と総称されている。