「ナルコレプシー」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
44行目: 44行目:
 ナルコレプシー発症の原因は未解明である。オレキシン発見の契機となったイヌモデル(25)とは異なり、ナルコレプシーの原因としてオレキシンやその受容体の遺伝子異常は見出されていない(19)。一方で、HLA遺伝子型自体がナルコレプシーの一遺伝子である(homozygoteはheterozygoteの4-5倍の有病率)。また健常者をMSLTの結果で群分けすると入眠時レム睡眠数や眠気が強い群ほど(つまりナルコレプシー診断基準に近いほど)HLA-DQB1*06:02遺伝子型をもつ頻度が高まること(26)、さらにこのHLA遺伝子型をもつ人は疲労度や眠気尺度が高く、部分断眠後でも徐波睡眠持続が悪く、睡眠が分断化する傾向があること(27)、からHLA遺伝子自体が睡眠制御機能をもつことが示唆されている。
 ナルコレプシー発症の原因は未解明である。オレキシン発見の契機となったイヌモデル(25)とは異なり、ナルコレプシーの原因としてオレキシンやその受容体の遺伝子異常は見出されていない(19)。一方で、HLA遺伝子型自体がナルコレプシーの一遺伝子である(homozygoteはheterozygoteの4-5倍の有病率)。また健常者をMSLTの結果で群分けすると入眠時レム睡眠数や眠気が強い群ほど(つまりナルコレプシー診断基準に近いほど)HLA-DQB1*06:02遺伝子型をもつ頻度が高まること(26)、さらにこのHLA遺伝子型をもつ人は疲労度や眠気尺度が高く、部分断眠後でも徐波睡眠持続が悪く、睡眠が分断化する傾向があること(27)、からHLA遺伝子自体が睡眠制御機能をもつことが示唆されている。


 慢性関節リウマチなど既知のHLA関連疾患はすべて自己免疫機序をもつことから、ナルコレプシーの病態にも自己免疫機序が関与することが信じられてきた。ナルコレプシーの自己免疫仮説を支持する知見、否定的な知見の主なものを表2に示す。自己免疫疾患仮説を支持する最大の根拠は、HLA遺伝子型との関連、そして全ゲノム遺伝子関連解析で同定されたT細胞受容体alpha遺伝子座にあるSNPとの関連である(この際HLA遺伝子型を合わせた対照群が用いられている)(28)。特定のHLA分子とT細胞受容体を介して免疫反応の司令塔であるT細胞の賦活化され、自己反応性T細胞が生じる可能性がある(29)。最近ナルコレプシー症例の16-26%に、疾患特異的にTRIB2自己抗原が同定された(30-32)。TRIB2自己抗体の臨床的意義は未解明であるが、視床下部ではオレキシン細胞に共局在するため、TRIB2自己抗体がオレキシン細胞を標的とする可能性も示唆されている(30)。一方、自己免疫仮説に否定的な知見としては、血清学的検査所見(赤血球沈降速度、CRPレベル、補体レベル、リンパ球サブセットの割合、免疫グロブリンレベル)に、炎症を示す異常値がないこと(33)、また脳脊髄液中のoligoclonal bandの増加やIgG指標の増加や抗核抗体など通常の自己免疫疾患に合併しうる自己抗体も見られないこと(34)、さらに大部分のナルコレプシー症例では抗オレキシン自己抗体や2つのオレキシン受容体に対する自己抗体は検出されず(35)、オレキシン神経細胞が局在する視床下部外側野において、自己免疫機序の組織学的な特徴であるHLA分子の発現増強や、神経変性疾患の特徴である反応性のミクログリアやアストログリア増生が欠落していること(19, 36)、があげられる。通常の自己免疫疾患とは様々な点で異なるため、研究により病態生理の探究が進むことが望まれる。
 慢性関節リウマチなど既知のHLA関連疾患はすべて自己免疫機序をもつことから、ナルコレプシーの病態にも自己免疫機序が関与することが信じられてきた。ナルコレプシーの自己免疫仮説を支持する知見、否定的な知見の主なものを表2に示す。自己免疫疾患仮説を支持する最大の根拠は、HLA遺伝子型との関連、そして全ゲノム遺伝子関連解析で同定されたT細胞受容体alpha遺伝子座にあるSNPとの関連である(この際HLA遺伝子型を合わせた対照群が用いられている)(28)。特定のHLA分子とT細胞受容体を介して免疫反応の司令塔であるT細胞の賦活化され、自己反応性T細胞が生じる可能性がある(29)。最近ナルコレプシー症例の16-26%に、疾患特異的にTRIB2自己抗原が同定された(30-32)。TRIB2自己抗体の臨床的意義は未解明であるが、視床下部ではオレキシン細胞に共局在するため、TRIB2自己抗体がオレキシン細胞を標的とする可能性も示唆されている(30)。一方、自己免疫仮説に否定的な知見としては、血清学的検査所見(赤血球沈降速度、CRPレベル、補体レベル、リンパ球サブセットの割合、免疫グロブリンレベル)に、炎症を示す異常値がないこと(33)、また脳脊髄液中のoligoclonal bandの増加やIgG指標の増加や抗核抗体など通常の自己免疫疾患に合併しうる自己抗体も見られないこと(34)、さらに大部分のナルコレプシー症例では抗オレキシン自己抗体や2つのオレキシン受容体に対する自己抗体は検出されず(35)、オレキシン神経細胞が局在する視床下部外側野において、自己免疫機序の組織学的な特徴であるHLA分子の発現増強や、神経変性疾患の特徴である反応性のミクログリアやアストログリア増生が欠落していること(19, 36)、があげられる。通常の自己免疫疾患とは様々な点で異なるため、研究により病態生理の探究が進むことが望まれる。
 
 
'''表2.ナルコレプシーの自己免疫仮説について'''
 
{| width="850" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" height="389"
|-
| style="text-align:left" | '''支持する知見'''
| style="text-align:left" | '''否定的な知見'''
|-
| HLA-DR2(血清型) HLA-DQB1*06:02(遺伝子型)との密接な相関<br><br>
| オレキシン神経細胞が局在する視床下部にHLA発現増強やリンパ球浸潤などの炎症所見がない
|-
| HLA遺伝子型を合わせた対照群との比較で、T細胞受容体α遺伝子座のSNPとの関連
| 既知の自己免疫疾患との合併や、既知の抗核抗体との関連が稀である<br><br>
|-
| 特に若年症例の発症期における溶連菌感染への抗体価の上昇
| オレキシンやその受容体に対する自己抗体が存在しない
|-
| Trib2に対する自己抗体の存在(14-26%)
| 脳脊髄液中のオリゴクロナルバンドの増加なし
|-
| H1N1インフルエンザワクチン後またはインフルエンザ流行後の発症率増加
| 一般的な血液生化学検査で正常所見、T細胞サブセットマーカーも正常<br><br>
|-
|
| 臨床症状が寛解増悪を反復する経過を示さない
|-
| 思春期発症
| 性差がない
|}


== 治療 ==
== 治療 ==