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Junko kurahashi (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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''山形大学医学部生理学講座''<br> | ''山形大学医学部生理学講座''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2018年4月2日 原稿完成日:2018年6月11日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学大学院医学系研究科)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学大学院医学系研究科)<br> | ||
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英語名:cable theory 独:kabeltheorie | |||
同義語:ケーブル特性 | 同義語:ケーブル特性 | ||
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== 歴史 == | == 歴史 == | ||
ケーブル理論は、1850年代に通信用海底ケーブルにおける信号減衰の数理モデルとして[[Kelvin]]により提案された。海底ケーブルは[[wj:導体|導体]]から構成され、被覆物によって周囲の海水から絶縁されている。神経突起も円筒状の導体であり、[[細胞膜]]によって細胞外の[[wj:電解質溶液|電解質溶液]] | ケーブル理論は、1850年代に通信用海底ケーブルにおける信号減衰の数理モデルとして[[Kelvin]]により提案された。海底ケーブルは[[wj:導体|導体]]から構成され、被覆物によって周囲の海水から絶縁されている。神経突起も円筒状の導体であり、[[細胞膜]]によって細胞外の[[wj:電解質溶液|電解質溶液]]から隔されているため、海底ケーブルと類似した性質を持つと考えられる。[[神経突起]]のケーブル特性は1937年に[[wj:アラン・ロイド・ホジキン|Hodgkin]]により実験的に確かめられ<ref name=Hodgkin1937><pubmed>16994885</pubmed></ref>、そしてHodgkinと[[w:W. A. H. Rushton|Rushton]]によりケーブル理論が神経[[軸索]]における[[電気緊張性電位]]の解析に用いられた<ref><pubmed>20281590</pubmed></ref>。 | ||
神経突起に対しては、神経突起を「誘電体によって絶縁された導電体が抵抗の小さい媒体中に沈んだもの」というモデルとみなし、このモデルの電気的性質を理論的に取扱うものとしてケーブル理論が適用されている<ref>'''宮川博義 井上雅司'''<br>ニューロンの生物物理<br>丸善: 2003</ref>。 | 神経突起に対しては、神経突起を「誘電体によって絶縁された導電体が抵抗の小さい媒体中に沈んだもの」というモデルとみなし、このモデルの電気的性質を理論的に取扱うものとしてケーブル理論が適用されている<ref>'''宮川博義 井上雅司'''<br>ニューロンの生物物理<br>丸善: 2003</ref>。 | ||
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さらに、神経突起の半径をa、神経突起断面における膜の単位面積あたりの膜抵抗をRm、突起の断面積あたりの内部抵抗を Ri とすると、 | さらに、神経突起の半径をa、神経突起断面における膜の単位面積あたりの膜抵抗をRm、突起の断面積あたりの内部抵抗を Ri とすると、 | ||
: <math> r_i=\sqrt{\frac{R_i}{{\pi}a^2}}</math> <math> r_m=\sqrt{\frac{R_m}{2{\pi}}}</math> | : <math> r_i=\sqrt{\frac{R_i}{{\pi}a^2}}</math> <math> r_m=\sqrt{\frac{R_m}{2{\pi}a}}</math> | ||
なので、長さ定数λ は以下のように表すことができる。 | なので、長さ定数λ は以下のように表すことができる。 | ||
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文献<ref name=Kendel1991/> より改変。]] | 文献<ref name=Kendel1991/> より改変。]] | ||
神経細胞は、他の神経細胞からの[[シナプス]]を介した信号を複数の樹状突起および細胞体の膜で受容し、その結果、神経細胞はこれらの細胞膜に発生した局所電位の変化を積算して活動電位として表出する。ケーブル特性はシナプスにおけるこの統合過程の物理的基盤となっている。シナプス後細胞でおこるシナプス反応の空間的加重や時間的加重、すなわち反応の局所的統合は、膜の(閾値下の)ケーブル特性によって行われる | 神経細胞は、他の神経細胞からの[[シナプス]]を介した信号を複数の樹状突起および細胞体の膜で受容し、その結果、神経細胞はこれらの細胞膜に発生した局所電位の変化を積算して活動電位として表出する。ケーブル特性はシナプスにおけるこの統合過程の物理的基盤となっている。シナプス後細胞でおこるシナプス反応の空間的加重や時間的加重、すなわち反応の局所的統合は、膜の(閾値下の)ケーブル特性によって行われる<ref name=Kendel1991/>。 | ||
空間的加重や時間的加重の程度は、それぞれ長さ定数と時定数によって規定される('''図4''')。ただし、樹状突起では、時定数が大きい場合に電位変化が長く持続することになり、その結果、時間的加重がより大きくなるのに対し、軸索においては、上述の通り逆に時定数が短い方が膜の隣接部位がより早く閾値に達することになるので、伝導速度は速くなる。 | |||
また、長さ定数が大きい場合は、信号が閾値以下に減衰する前に遠くへ到達することになるため、伝導速度は速くなる。ケーブル特性を決定するパラメータによって、電気緊張性電位の波及による局所電流や活動電位が、生体組織においてどのように広がるかが規定されている。このことは、小さな神経細胞より発生した膜電位の変化が、遠方の細胞まで確実に伝達されるための巧妙な細胞内機構が備わっていることを示すものである。 | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> |