「神経板」の版間の差分

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<div align="right"> 
<font size="+1">尾松 憩、[http://researchmap.jp/nomurahana 野村 真]</font><br>
''京都府立医科大学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月17日 原稿完成日:2013年3月28日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
</div>
[[image:神経板・図1.jpg|thumb|200px|'''図1.ヒト胚神経板を背側より見た模式図'''<br>(描画:尾松憩)]]
[[image:神経板・図1.jpg|thumb|200px|'''図1.ヒト胚神経板を背側より見た模式図'''<br>(描画:尾松憩)]]
[[image:神経板・図2.jpg|thumb|350px|'''図2.神経板の横断面'''<br>(描画:尾松憩)]]
[[image:神経板・図2.jpg|thumb|350px|'''図2.神経板の横断面'''<br>(描画:尾松憩)]]


{{box|text=
 [[wikipedia:ja:脊索動物|脊索動物]]の[[wikipedia:ja:胚|胚]]発生初期において、胚の背側に形成される肥厚した組織であり、中枢神経系の原基である(図1及び図2)。発生の進行に伴い、この肥厚組織の側方縁が[[神経板]]の正中線で接近し、互いに癒着して[[神経管]]を形成する。神経板の形成は、原腸陥入時に起こる神経領域の誘導([[神経誘導]])に依存している。また初期神経組織の[[領域化]](神経原基のパターン形成)といった、神経発生学的に重要なイベントが神経板形成と同時に進行する。
 [[wikipedia:ja:脊索動物|脊索動物]]の[[wikipedia:ja:胚|胚]]発生初期において、胚の背側に形成される肥厚した組織であり、中枢神経系の原基である(図1及び図2)。発生の進行に伴い、この肥厚組織の側方縁が[[神経板]]の正中線で接近し、互いに癒着して[[神経管]]を形成する。神経板の形成は、原腸陥入時に起こる神経領域の誘導([[神経誘導]])に依存している。また初期神経組織の[[領域化]](神経原基のパターン形成)といった、神経発生学的に重要なイベントが神経板形成と同時に進行する。
}}


== 神経誘導 ==
== 神経誘導 ==


 胚発生の進行に伴い、[[wikipedia:ja:外胚葉|外胚葉]]領域は[[骨形成タンパク質4]] ([[BMP4]]) の活性により[[wikipedia:ja:表皮|表皮]]として分化することが運命決定される。しかしながら、原腸形成期に[[オーガナイザー]]由来の[[BMP阻害分子]] ([[Chordin]]、[[Nogggin]]、[[Follistatin]]) が作用した外胚葉領域は、将来の神経組織として運命決定され、この領域から神経板が形成される。オーガナイザー由来の分子は前方の神経組織(将来の[[前脳]]および[[中脳]])を誘導するのに対し、[[WNT]]、[[線維芽細胞増殖因子]] ([[FGF]])、[[レチノイン酸]]といった分子は後方の神経組織を誘導する<ref><pubmed>15829523</pubmed></ref>。
 胚発生の進行に伴い、[[wikipedia:ja:外胚葉|外胚葉]]領域は[[骨形成タンパク質4]] ([[BMP4]]) の活性により[[wikipedia:ja:表皮|表皮]]として分化することが運命決定される。しかしながら、原腸形成期に[[オーガナイザー]]由来の[[BMP阻害分子]] ([[Chordin]]、[[Noggin]]、[[Follistatin]]) が作用した外胚葉領域は、将来の神経組織として運命決定され、この領域から神経板が形成される。オーガナイザー由来の分子は前方の神経組織(将来の[[前脳]]および[[中脳]])を誘導するのに対し、[[WNT]]、[[線維芽細胞増殖因子]] ([[FGF]])、[[レチノイン酸]]といった分子は後方の神経組織を誘導する<ref><pubmed>15829523</pubmed></ref>。


== 神経板における領域化 ==
== 神経板における領域化 ==


 神経板が形成されると同時に、神経板の各領域が将来どのような神経組織として分化するかが決定される。この領域依存的な運命決定機構を「領域化」あるいは「[[パターン形成]]」と呼ぶ。この現象には、局所的オーガナイザー由来の分子によって誘導される特異的な転写因子の発現、転写因子同士の発現抑制機構、および[[転写因子]]によって誘導される[[細胞表面分子]]の機能に依存した[[細胞選別機構]]が関わっている。
 神経板が形成されると同時に、神経板の各領域が将来どのような神経組織として分化するかが決定される。この領域依存的な運命決定機構を「領域化」あるいは「[[パターン形成]]」と呼ぶ。この現象には、局所的オーガナイザー由来の分子によって誘導される特異的な転写因子の発現、転写因子同士の発現抑制機構、および[[転写因子]]によって誘導される[[細胞表面分子]](編集コメント:これは細胞接着因子と同義でしょうか?)の機能に依存した[[細胞選別機構]]が関わっている。


=== 前脳の領域化 ===
=== 前脳の領域化 ===
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=== 後脳の領域化 ===
=== 後脳の領域化 ===


 後脳領域の発生でのその初期に[[ロンボメア]]と呼ばれる特異的な分節構造が形成される。それぞれのロンボメアは、[[Hoxファミリー分子]]や[[Krox20]]などの転写因子によってその運命が決定される。各ロンボメアを構成する[[神経上皮細胞]]は集合する活性をもち、これによりロンボメアの境界を越えての細胞移動の制限が生じる<ref><pubmed>2320110</pubmed></ref>。実際にロンボメアの細胞の親和性決定に機能している分子の1つが[[Eph受容体]]とそのリガンドである[[ephrin]]である。異なるロンボメアの細胞は特異的なEph受容体とephrinのセットを発現しており、これらの分子の反発活性によりロンボメア境界で細胞選別が起こると考えられる<ref><pubmed>11972963</pubmed></ref>。
 後脳領域の発生でのその初期に[[ロンボメア]]と呼ばれる特異的な分節構造が形成される。それぞれのロンボメアは、[[Hoxファミリー分子]]や[[Krox20]]などの転写因子によってその運命が決定される。各ロンボメアを構成する[[神経上皮細胞]]は集合する活性をもち、これによりロンボメアの境界を越えての細胞移動の制限が生じる<ref><pubmed>2320110</pubmed></ref>。実際にロンボメアの細胞の親和性決定に機能している分子の1つが[[Eph受容体]]とそのリガンドである[[エフリン]]である。異なるロンボメアの細胞は特異的なEph受容体とエフリンのセットを発現しており、これらの分子の反発活性によりロンボメア境界で細胞選別が起こると考えられる<ref><pubmed>11972963</pubmed></ref>。


== 神経板形成に関連した発生異常 ==
== 神経板形成に関連した発生異常 ==
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 脊髄神経管の閉鎖不全によって生じる。神経管の背側での融合が起きないことで、神経管周囲に形成されるべき[[wikipedia:ja:脊椎骨|脊椎骨]]の形成も阻害される場合が多い。[[二分脊椎]]は、脊椎と脊髄の両方に分裂が生じ、体表面に開放部が存在する重篤なもの ([[嚢胞性二分脊椎]]) から、体表面からその異常が確認できないもの軽度なもの([[潜在性二分脊椎]])まで様々な障害の程度が存在する。
 脊髄神経管の閉鎖不全によって生じる。神経管の背側での融合が起きないことで、神経管周囲に形成されるべき[[wikipedia:ja:脊椎骨|脊椎骨]]の形成も阻害される場合が多い。[[二分脊椎]]は、脊椎と脊髄の両方に分裂が生じ、体表面に開放部が存在する重篤なもの ([[嚢胞性二分脊椎]]) から、体表面からその異常が確認できないもの軽度なもの([[潜在性二分脊椎]])まで様々な障害の程度が存在する。
==関連項目==
*[[前後軸]]
*[[神経管]]
*[[無脳症]]
*[[二分脊椎]]


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
<references />
(執筆者:尾松憩、野村真 担当編集委員:大隅典子)

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