「脚橋被蓋核」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/kyasushi 小林 康]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/kyasushi 小林 康]</font><br>
''大阪大学 大学院生命機能研究科 脳神経工学講座''<br>
''大阪大学 大学院生命機能研究科 脳神経工学講座''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年5月11日 原稿完成日:2015年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年5月11日 原稿完成日:2015年4月24日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br>
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英語名:pedunculopontine tegmental nucleus、pedunculopontine nucleus 羅:nucleus tegmentalis pedunculopontinus
英語名:pedunculopontine tegmental nucleus、pedunculopontine nucleus 羅:nucleus tegmentalis pedunculopontinus、nucleus pedunculopontinus


英略称:PPN、PPTg、PPTN  
英略称:PPN、PPTg、PPTN  
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==脚橋被蓋核とは==
==脚橋被蓋核とは==
[[ファイル:脚橋被蓋核1.png|thumb|right|350px| '''. 脚橋被蓋核における複数の機能的単位''']]
[[ファイル:脚橋被蓋核2.png|thumb|right|350px| '''図1. 脚橋被蓋核の位置(ニホンザル)''']]
 [[脳幹]]の[[神経核]]であり、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の脳において最初に同定された<ref name="ref1"><pubmed> 8336832 </pubmed></ref>。 [[上小脳脚]]を取り囲み、[[黒質]]の尾側に位置する。
[[ファイル:脚橋被蓋核1.png|thumb|right|350px| '''図2. 脚橋被蓋核における複数の機能的単位''']]
 
 [[脳幹]]の[[神経核]]であり、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の脳において最初に同定された<ref name="ref1"><pubmed> 8336832 </pubmed></ref>。 [[上小脳脚]]を取り囲み、[[黒質]]の尾側に位置する(図1)。


 [[中枢神経系]]の[[アセチルコリン神経]]は、[[マイネルト核]]を含む[[前脳基底部細胞群]]と脚橋被蓋核を中心とする[[脚橋被蓋細胞群]]に大別されるが、脚橋被蓋核は近傍の[[背外側被蓋核]](laterodorsal tegmental nucleus; LDT)と並び脳幹内でアセチルコリン作動性ニューロンが豊富に存在する核である<ref name="ref2"><pubmed> 6320048 </pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed> 6646427 </pubmed></ref><ref name="ref4"><pubmed> 7915726 </pubmed></ref><ref name="ref5"><pubmed> 3251602 </pubmed></ref>。
 [[中枢神経系]]の[[アセチルコリン神経]]は、[[マイネルト核]]を含む[[前脳基底部細胞群]]と脚橋被蓋核を中心とする[[脚橋被蓋細胞群]]に大別されるが、脚橋被蓋核は近傍の[[背外側被蓋核]](laterodorsal tegmental nucleus; LDT)と並び脳幹内でアセチルコリン作動性ニューロンが豊富に存在する核である<ref name="ref2"><pubmed> 6320048 </pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed> 6646427 </pubmed></ref><ref name="ref4"><pubmed> 7915726 </pubmed></ref><ref name="ref5"><pubmed> 3251602 </pubmed></ref>。
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 実際に、脚橋被蓋核を局所微小電気刺激すると、皮質の[[アセチルコリン]]量が上昇する<ref name="ref7"><pubmed> 6050151 </pubmed></ref>、黒質の活動レベルが上昇し<ref name="ref10"><pubmed> 10392847 </pubmed></ref>その結果、[[線条体]]での[[ドーパミン]]量が上昇する<ref name="ref11"><pubmed> 12603265 </pubmed></ref>ことが知られている。これと共に [[歩行運動]]が誘発され<ref name="ref8"><pubmed> 2611678 </pubmed></ref>、また皮質の[[脳波]]が覚醒的な状態になる<ref name="ref9"><pubmed> 20146689 </pubmed></ref>。  
 実際に、脚橋被蓋核を局所微小電気刺激すると、皮質の[[アセチルコリン]]量が上昇する<ref name="ref7"><pubmed> 6050151 </pubmed></ref>、黒質の活動レベルが上昇し<ref name="ref10"><pubmed> 10392847 </pubmed></ref>その結果、[[線条体]]での[[ドーパミン]]量が上昇する<ref name="ref11"><pubmed> 12603265 </pubmed></ref>ことが知られている。これと共に [[歩行運動]]が誘発され<ref name="ref8"><pubmed> 2611678 </pubmed></ref>、また皮質の[[脳波]]が覚醒的な状態になる<ref name="ref9"><pubmed> 20146689 </pubmed></ref>。  
 基底核領域や視床方向へ投射する細胞は脚橋被蓋核の吻側部に、視蓋領域,中脳・橋網様体へ投射する細胞は尾側部に分布する傾向がある。このことは脚橋被蓋核が伝達物質・発火様式・線維投射などの異なる複数の細胞群、つまり、複数の機能的単位から構成されていることを示している。


==構造==
==構造==
=== 位置 ===
=== 位置 ===
 [[上小脳脚]]を取り囲み、[[黒質]]の尾側に位置する。
 脚橋被蓋核は[[中脳]]網様体の尾外側部を形成する。[[上小脳脚]]を取り囲み、[[黒質]]の尾側に位置する(図1)。


=== 局所回路  ===
=== 局所回路  ===
 脚橋被蓋核は[[中脳]]網様体の尾外側部を形成するが、脚橋被蓋核には小型のニューロンが疎に集合する前部分と大型のニューロンが密に集合する後部分がある。脚橋被蓋核前部は[[消散部]] ([[pars dissipata]])、後部は[[緻密部]] ([[pars compacta]])と命名されており、前部にはアセチルコリン、非アセチルコリン作動性ニューロンが混在し、後部は主にアセチルコリン作動性ニューロンが多く存在する([[アセチルコリン#投射神経(および代表的投射部位)|Ch5]]グループとも呼ばれる)。その他、[[グルタミン酸作動性ニューロン]]、[[GABA作動性ニューロン]]や、各種の[[神経ペプチド]]を産生するニューロンなどが混在する<ref name="ref6"><pubmed> 6197654 </pubmed></ref>。脚橋被蓋核ではアセチルコリンと[[グルタミン酸]]の双方が同一ニューロンの中に混在することなども明らかにされている<ref name="ref4"><pubmed> 7915726 </pubmed></ref>。  
 それぞれの細胞は伝達物質・発火様式・線維投射などが異なることから、脚橋被蓋核は複数の細胞群、つまり、複数の機能的単位から構成されていると考えられている(図2)。小型のニューロンが疎に集合する前部分と大型のニューロンが密に集合する後部分がある。脚橋被蓋核前部は[[消散部]] ([[pars dissipata]])、後部は[[緻密部]] ([[pars compacta]])と命名されており、前部にはアセチルコリン、非アセチルコリン作動性ニューロンが混在し、後部は主にアセチルコリン作動性ニューロンが多く存在する([[アセチルコリン#投射神経(および代表的投射部位)|Ch5]]グループとも呼ばれる)。その他、[[グルタミン酸作動性ニューロン]]、[[GABA作動性ニューロン]]や、各種の[[神経ペプチド]]を産生するニューロンなどが混在する<ref name="ref6"><pubmed> 6197654 </pubmed></ref>。脚橋被蓋核ではアセチルコリンと[[グルタミン酸]]の双方が同一ニューロンの中に混在することなども明らかにされている<ref name="ref4"><pubmed> 7915726 </pubmed></ref>。  


 [[wikipedia:ja:ラット|ラット]]脳幹[[スライス標本]]を用いた脚橋被蓋核細胞の[[細胞内記録]]より、脚橋被蓋核細胞の[[発火]]活動は大きく2群に分けられる。
 [[wikipedia:ja:ラット|ラット]]脳幹[[スライス標本]]を用いた脚橋被蓋核細胞の[[細胞内記録]]より、脚橋被蓋核細胞の[[発火]]活動は大きく2群に分けられる。
*不規則でしばしば一過性高頻度発火活動を示す細胞群
*不規則でしばしば一過性高頻度発火活動を示す細胞群
*自発的な律動的発火活動を示す細胞群である<ref name="ref18"><pubmed> 8842892 </pubmed></ref><ref name="ref20"><pubmed> 9153657 </pubmed></ref><ref name="ref21"><pubmed> 9219969 </pubmed></ref>。  
*自発的な律動的発火活動を示す細胞群である<ref name="ref18"><pubmed> 8842892 </pubmed></ref><ref name="ref20"><pubmed> 9153657 </pubmed></ref><ref name="ref21"><pubmed> 9219969 </pubmed></ref>。  
 前者はほぼすべてが非コリン細胞、後者の3分の2がコリン細胞である。また後者の細胞はスパイク幅の狭い細胞と幅の広い細胞の2つのサブタイプから構成される。
 前者はほぼすべてが非コリン細胞、後者の3分の2がコリン細胞である。また後者の細胞はスパイク幅の狭い細胞と幅の広い細胞の2つのサブタイプから構成される。
*スパイク幅の狭い細胞は発火頻度が高く(8-20Hz)、小、中型の[[細胞体]]を持ち、脚橋被蓋核にほぼ均等に分布する。
*スパイク幅の狭い細胞は発火頻度が高く(8-20Hz)、小、中型の[[細胞体]]を持ち、脚橋被蓋核にほぼ均等に分布する。


*スパイク幅の広い細胞は発火頻度が低く(3-10Hz)、大型の細胞体を持ち、脚橋被蓋核の尾側部に位置する。コリン細胞の平均自発発射頻度は約10Hzである。
*スパイク幅の広い細胞は発火頻度が低く(3-10Hz)、大型の細胞体を持ち、脚橋被蓋核の尾側部に位置する。コリン細胞の平均自発発射頻度は約10Hzである。
=== 入出力 ===
=== 入出力 ===
 脚橋被蓋核への線維入力は、主に大脳皮質、[[扁桃体]]、[[黒質網様部]]、[[淡蒼球]]、[[視床下核]]などが由来である。なお、脚橋被蓋核はこれら大脳基底核群と双方性結合をもっている<ref name="ref12"><pubmed> 6886052 </pubmed></ref><ref name="ref13"><pubmed> 15374668 </pubmed></ref>。この大脳基底核群との密接な結合関係から、最近では脚橋被蓋核が大脳基底核群の一部として議論されることもある <ref name="ref13"><pubmed> 15374668 </pubmed></ref>。また、脚橋被蓋核の後部と前部で機能が分かれていると考えられている<ref name="ref47"><pubmed> 18585079 </pubmed></ref>。
 脚橋被蓋核への線維入力は、主に大脳皮質、[[扁桃体]]、[[黒質網様部]]、[[淡蒼球]]、[[視床下核]]などが由来である。なお、脚橋被蓋核はこれら大脳基底核群と双方性結合をもっている<ref name="ref12"><pubmed> 6886052 </pubmed></ref><ref name="ref13"><pubmed> 15374668 </pubmed></ref>。この大脳基底核群との密接な結合関係から、最近では脚橋被蓋核が大脳基底核群の一部として議論されることもある <ref name="ref13"><pubmed> 15374668 </pubmed></ref>。また、脚橋被蓋核の後部と前部で機能が分かれていると考えられている<ref name="ref47"><pubmed> 18585079 </pubmed></ref>。


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*中脳・橋網様体への下行性投射
*中脳・橋網様体への下行性投射


 を持つことが知られている。
 を持つことが知られている。基底核領域や視床方向へ投射する細胞は脚橋被蓋核の吻側部に、視蓋領域,中脳・橋網様体へ投射する細胞は尾側部に分布する傾向がある。


==機能==
==機能==

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