脳弓

提供:脳科学辞典
2014年6月6日 (金) 16:58時点におけるTfuruya (トーク | 投稿記録)による版

ナビゲーションに移動 検索に移動

藤山 文乃(執筆者)
同志社大学 脳科学研究科
赤沢 年一(執筆協力)
DOI:10.14931/bsd.1700 原稿受付日:2012年8月15日 原稿完成日:2012年9月20日
担当編集委員:藤田 一郎(大阪大学 大学院生命機能研究科)

図1.脳の断面図(脳梁と脳弓)
図中灰色が脳梁(交連線維)と脳弓(連合線維)
神経解剖学講義ノート 寺島俊雄著 金芳堂 p143より改変して転載

羅:fornix 英:fornix 

 脳弓は主として海馬体から出て乳頭体中隔核に至る神経線維束で、脳梁の下で左右対をなして弓形を画く(図1-3)。これは脳弓柱脳弓体脳弓脚および海馬采に区分される。

解剖

図2.脳弓
赤で示した部分が脳弓である。
図3.脳弓
[1]より改変。右が吻側。
図4.交連前脳弓と交連後脳弓
左側が吻側。神経解剖学講義ノート 寺島俊雄著 金芳堂 p149より改変して転載。

 脳の白質には左右の脳を結ぶ交連線維と同側の大脳半球の異なる領域を繋ぐ連合線維(association fiber)が存在し、後者には隣接する脳回を繋ぐ短い連合線維と異なる領域にまたがる長い連合線維が存在するが、脳弓は長い連合線維の代表的なもので海馬体から出て乳頭体などに至る線維束である。また、対側海馬へ投射する交連線維も含まれる。

 海馬台や狭義の海馬(アンモン角)の錐体細胞軸索は、海馬白板を通り、海馬采 (fimbria)に集められる。両側の海馬采は後方へ進むにつれて太くなり、海馬の後端に至って脳梁膨大の下を脳弓脚となって弧を描いて上ると同時に両側のものが互いに近づいてくる。このあたりで多数の線維が反対側の脳弓に入る。すなわち交連線維が薄く板状に広がって、一部は脳弓交連 (fornical comissure)を形成する。両側の脚 (crus fornicis) は合して脳弓体 (body of the fornix)となり脳梁の直下を前方に視床の吻側端まで行き、ここで再び線維束が左右に分かれ脳弓柱 (colums of the fornix)として室間孔から前交連の後ろまで腹方に曲がる(図3)。神経線維が薄い帯状になった海馬采は脳弓のほぼ全経過にわたって外側に位置しているが、吻側では脳弓の本体である脳弓柱に混ざる。脳弓線維のほぼ半数は前交連の尾側を交連後脳弓として下行し、残りは前交連の前方を交連前脳弓として走る(図4)[2]

機能

図5.Papezの回路
左側が吻側。神経解剖学講義ノート 寺島俊雄著 金芳堂 p120より改変して転載。

 脳弓は大脳辺縁系の複数の領域をつなぐ。大脳辺縁系の領域は文献により異なるが、古くは1937年に、アメリカの神経解剖学者である James Papez が「帯状回が興奮すると、海馬体、乳頭体、視床前核を経て帯状回に刺激が戻る」という神経回路を想定し、このモデルは古典的な「パペッツの情動回路 Papez circuit」として知られている(図5)。この場合、情動の受容部位は帯状回皮質である。マクレーン Paul D.MacLean はこの理論を発展させ、Brocaが大脳辺縁葉と呼んだ領域(帯状回、海馬傍回、梁下回、海馬)およびそれと神経結合している視床下部などの皮質下組織を「大脳辺縁系」と提唱した。現在は辺縁系のうち、扁桃体と海馬体の機能が解明されてきている。

関連項目

参考文献

  1. Henry Gray
    Anatomy of the Human Body
    Longman Ltd., Edinburgh, 1973
  2. カーペンター
    神経解剖学 Malcolm B. Carpenter, Jerome Sutin,
    西村書店