「蓋板」の版間の差分

180 バイト追加 、 2013年3月11日 (月)
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<br> 菱脳分節1背側部からはまた、青斑核のノルアドレナリン作動性ニューロンが分化する。青斑核ニューロンはMash1陽性の脳室帯で産生され、ホメオドメイン転写因子であるPhox2a、Phox2bを発現して最終的な分布領域である橋の背側部に移動する。ニワトリで中脳後脳境界部にnogginを加えてBMPシグナルを阻害するとPhox2陽性のニューロンが完全に失われるか、あるいは背側にずれる<ref><pubmed>11861481</pubmed></ref>。  
<br> 菱脳分節1背側部からはまた、青斑核のノルアドレナリン作動性ニューロンが分化する。青斑核ニューロンはMash1陽性の脳室帯で産生され、ホメオドメイン転写因子であるPhox2a、Phox2bを発現して最終的な分布領域である橋の背側部に移動する。ニワトリで中脳後脳境界部にnogginを加えてBMPシグナルを阻害するとPhox2陽性のニューロンが完全に失われるか、あるいは背側にずれる<ref><pubmed>11861481</pubmed></ref>。  


<br> マウスの吻側中枢神経系の蓋板ではBMPシグナルのエフェクターであるMsx1が発現しており、そのノックアウトマウスは間脳の蓋板を特異的に欠失している。その結果、正中の両側でPax6/7やLim1の発現が抑制され、交連下器官の形成不全が起きて胎生期水頭症になる<ref><pubmed>12874124</pubmed></ref>。また、En1を間脳の背側正中部で異所性に発現するトランスジェニックマウスでは蓋板、ひいては交連下器官ができず、また後交連も形成されない。これらのマウス系統ではどちらも、間脳背側の最前部にできる松果体の形成が不全である&lt;&lt;Louvi 2000&gt;&gt;。また、ゼブラフィッシュにおいても正常な背側正中部の形成とnodalのシグナルが松果体の正確なパターニングに必要である&lt;&lt;Concha 2000, Liang 2000&gt;&gt;。  
<br> マウスの吻側中枢神経系の蓋板ではBMPシグナルのエフェクターであるMsx1が発現しており、そのノックアウトマウスは間脳の蓋板を特異的に欠失している。その結果、正中の両側でPax6/7やLim1の発現が抑制され、交連下器官の形成不全が起きて胎生期水頭症になる<ref><pubmed>12874124</pubmed></ref>。また、En1を間脳の背側正中部で異所性に発現するトランスジェニックマウスでは蓋板、ひいては交連下器官ができず、また後交連も形成されない。これらのマウス系統ではどちらも、間脳背側の最前部にできる松果体の形成が不全である<ref><pubmed>10952903</pubmed></ref>。また、ゼブラフィッシュにおいても正常な背側正中部の形成とnodalのシグナルが松果体の正確なパターニングに必要である<ref><pubmed>11144351</pubmed></ref>, <ref><pubmed>11060236</pubmed></ref>。  


<br> 終脳領域では蓋板を含む背側正中領域は陥入して2つの大脳半球の間に潜り込む。蓋板は後に脈略叢およびcortical hemとなる。Gdf7-DTAマウスで終脳の蓋板を破壊すると、脈略叢とcortical hemの細胞が劇的に減少するだけでなく、隣接する皮質領域も低形成となり、Lhx2の発現が低下する。すなわち、脈略叢とcortical hemはLhx2発現領域のパターニングに重要である。蓋板とそれに由来する脈略叢とcortical hemにはBMPやWNTのシグナル分子が発現している。BMPシグナルの終脳背側のパターニングへの関与を示すデータとしては、外来性のBMPがニワトリ前脳のパターニングに異常を引き起こすこと&lt;&lt;Golden 1999&gt;&gt;、Bmp5/Bmp7のダブルノックアウトマウスやBMPシグナルのアンタゴニストであるChordinあるいはNogginを投与したマウスにおいて前脳の低形成あるは形成異常が認められること&lt;&lt;solloway 1999, bachiller 2000&gt;&gt;、などがある。また、Foxg1-Creマウスを用いてBMPレセプターBmpr1aを終脳特異的に欠失させると、脈略叢が特異的に失われた&lt;&lt;Hebert 2002&gt;&gt;。一方、nestinエンハンサーを用いて活性型のBmpr1aを強制発現させると終脳の翼板(神経管の背側半分)がすべて脈略叢になった&lt;&lt;Panchision 2001&gt;&gt;。これらの結果は、終脳においてはBMPシグナルは広い領域に濃度依存的に作用するのではなく、正中領域のパターニングのみに必要であることを示唆している。  
<br> 終脳領域では蓋板を含む背側正中領域は陥入して2つの大脳半球の間に潜り込む。蓋板は後に脈略叢およびcortical hemとなる。Gdf7-DTAマウスで終脳の蓋板を破壊すると、脈略叢とcortical hemの細胞が劇的に減少するだけでなく、隣接する皮質領域も低形成となり、Lhx2の発現が低下する。すなわち、脈略叢とcortical hemはLhx2発現領域のパターニングに重要である。蓋板とそれに由来する脈略叢とcortical hemにはBMPやWNTのシグナル分子が発現している。BMPシグナルの終脳背側のパターニングへの関与を示すデータとしては、外来性のBMPがニワトリ前脳のパターニングに異常を引き起こすこと<ref><pubmed>10051661</pubmed></ref>、Bmp5/Bmp7のダブルノックアウトマウスやBMPシグナルのアンタゴニストであるChordinあるいはNogginを投与したマウスにおいて前脳の低形成あるは形成異常が認められること<ref><pubmed>10079236</pubmed></ref>, <ref><pubmed>10688202</pubmed></ref>などがある。また、Foxg1-Creマウスを用いてBMPレセプターBmpr1aを終脳特異的に欠失させると、脈略叢が特異的に失われた<ref><pubmed>12354394</pubmed></ref>。一方、nestinエンハンサーを用いて活性型のBmpr1aを強制発現させると終脳の翼板(神経管の背側半分)がすべて脈略叢になった<ref><pubmed>11511541</pubmed></ref>。これらの結果は、終脳においてはBMPシグナルは広い領域に濃度依存的に作用するのではなく、正中領域のパターニングのみに必要であることを示唆している。  


<br> ニワトリ神経板の吻側部あるいは全胚に様々な濃度のWntやWntシグナルのアンタゴニストであるfrizzled receptor 8タンパク質の可溶性フラグメントを添加すると、腹側性の細胞運命を抑え、Pax6やNgn2の発現など、終脳の初期の背側性の性質を誘導する&lt;&lt;Gunhaga 2003&gt;&gt;。その後、WntシグナルとFgfシグナルが共存することによって終脳背側に決定されたEmx1陽性の細胞が誘導される。Fgfシグナルは背側正中領域の細胞の産生にも重要である&lt;&lt;Crossley 2001, Storm 2003&gt;&gt;。正中領域が決定された後、Wnt3aはcortical hemに発現する。Wnt3aノックアウトマウスではcortical hemの隣から分化する海馬が完全に欠失する&lt;&lt;Lee 2000&gt;&gt;。  
<br> ニワトリ神経板の吻側部あるいは全胚に様々な濃度のWntやWntシグナルのアンタゴニストであるfrizzled receptor 8タンパク質の可溶性フラグメントを添加すると、腹側性の細胞運命を抑え、Pax6やNgn2の発現など、終脳の初期の背側性の性質を誘導する<ref><pubmed>12766771</pubmed></ref>。その後、WntシグナルとFgfシグナルが共存することによって終脳背側に決定されたEmx1陽性の細胞が誘導される。Fgfシグナルは背側正中領域の細胞の産生にも重要である<ref><pubmed>11734354</pubmed></ref>, <ref><pubmed>12574514</pubmed></ref>。正中領域が決定された後、Wnt3aはcortical hemに発現する。Wnt3aノックアウトマウスではcortical hemの隣から分化する海馬が完全に欠失する<ref><pubmed>10631167</pubmed></ref>。  


== 交連性神経の軸索誘導  ==
== 交連性神経の軸索誘導  ==
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 蓋板は腹側の交連性神経の軸索に対して反発性のシグナルを分泌している。また、背側の交連性神経の軸側に対しても、その走行を制御していると考えられている。  
 蓋板は腹側の交連性神経の軸索に対して反発性のシグナルを分泌している。また、背側の交連性神経の軸側に対しても、その走行を制御していると考えられている。  


<br> 蓋板から分泌されるBmp7は、dI1の軸索に対してchemoattractantとして作用し、腹側に伸びるよう方向性を与えている&lt;&lt;Auguburger 1999&gt;&gt;。別のBMP分子であるGdf7はBmp7とヘテロダイマーを形成してBmp7の作用を増強している&lt;&lt;Butler 2003&gt;&gt;。また、このBMPシグナルはLimk1 (Lim domain kinase 1)を介して交連神経の軸索伸長速度を調節している&lt;&lt;Phan 2010&gt;&gt;。  
<br> 蓋板から分泌されるBmp7は、dI1の軸索に対してchemoattractantとして作用し、腹側に伸びるよう方向性を与えている<ref><pubmed>10677032</pubmed></ref>。別のBMP分子であるGdf7はBmp7とヘテロダイマーを形成してBmp7の作用を増強している<ref><pubmed>12741987</pubmed></ref>。また、このBMPシグナルはLimk1 (Lim domain kinase 1)を介して交連神経の軸索伸長速度を調節している<ref><pubmed>21084599</pubmed></ref>


<br> ニワトリ間脳後部の蓋板から形成される交連下器官(Subcommissural organ, SCO)の外側部はSCO-spondinという糖タンパク質を分泌している。SCO-spondinには後交連の軸索を束にする活性があると考えられ、実際、SCO-spondin陽性部の上部では後交連の軸索は束となって走行している&lt;&lt;Stanic 2010&gt;&gt;。  
<br> ニワトリ間脳後部の蓋板から形成される交連下器官(Subcommissural organ, SCO)の外側部はSCO-spondinという糖タンパク質を分泌している。SCO-spondinには後交連の軸索を束にする活性があると考えられ、実際、SCO-spondin陽性部の上部では後交連の軸索は束となって走行している<ref><pubmed>20730872</pubmed></ref>。  


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