「行動嗜癖」の版間の差分

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 依存性物質や、飲食、[[wj:性行為|性行為]]などの快[[情動]]をもたらす自然の強化因子は、腹側被蓋野から側坐核へ一過性のドーパミン放出を誘発することで、報酬系を活性化させる。なお、腹側被蓋野は、必ずしも報酬により快感覚を得られる状況だけではなく、報酬を期待して行動をしているときにも活性化するため、日常生活における意欲の向上や動機づけにおいても重要な役割を担う。
 依存性物質や、飲食、[[wj:性行為|性行為]]などの快[[情動]]をもたらす自然の強化因子は、腹側被蓋野から側坐核へ一過性のドーパミン放出を誘発することで、報酬系を活性化させる。なお、腹側被蓋野は、必ずしも報酬により快感覚を得られる状況だけではなく、報酬を期待して行動をしているときにも活性化するため、日常生活における意欲の向上や動機づけにおいても重要な役割を担う。


 側坐核が刺激されると、その神経細胞間での多量の内部伝達が誘発され、それによりドーパミンの放出が惹起され、快感や高揚感がもたらされる。つまりドーパミンは反復行動の強化と動機づけに重要な役割を果たすと考えられており、報酬系と遊離ドーパミンの濃度が物質乱用や嗜癖に関わっていることを示す知見は数多く存在する。[[パーキンソン症候群]]の治療薬であるドーパミン[[作動薬]]が、[[衝動制御障害]]を誘発する危険因子であることも指摘されている<ref name=ref6><pubmed>20457959</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>19346328</pubmed></ref>。
 腹側被蓋野からドパミン伝達により側坐核が刺激されると、快感や高揚感がもたらされる。つまりドーパミンは反復行動の強化と動機づけに重要な役割を果たすと考えられており、報酬系と遊離ドーパミンの濃度が物質乱用や嗜癖に関わっていることを示す知見は数多く存在する。[[パーキンソン症候群]]の治療薬であるドーパミン[[作動薬]]が、[[衝動制御障害]]を誘発する危険因子であることも指摘されている<ref name=ref6><pubmed>20457959</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>19346328</pubmed></ref>。


 そして側坐核のみでなく、腹側被蓋野領域から扁桃体、眼窩前頭皮質、前部帯状回皮質、海馬、前頭前野へも一過性のドーパミン放出が惹起される。扁桃体と眼窩前頭皮質は、報酬を予期させるものと、それにより実際に生じた報酬である快情動とを関連づけることに重要な役割を担うとされている。さらに眼窩前頭皮質は、その得られた報酬の価値を[[符号化]]し情報を更新することに関連している。また、[[中脳]]からのドーパミン伝達により、海馬依存性の[[長期記憶]]形成が強化されるため、その報酬に関連した刺激や状況が記憶され、その後の嗜癖形成への発展につながる。前部帯状回は、嗜癖行動とそれにより得られる報酬とを関連づけ、得られる報酬によって行動を選択・制御する。そして、報酬系ドーパミン伝達により、理性的思考により衝動行為を制御する前頭前野の機能が低下する。眼窩前頭皮質と前部帯状回を経由して、トップダウンの信号が中脳辺縁系領域に再び到達し、報酬探索の動機が制御される<ref name=ref8><pubmed>22011681</pubmed></ref>。
 そして側坐核のみでなく、腹側被蓋野領域から扁桃体、眼窩前頭皮質、前部帯状回皮質、海馬、前頭前野へも一過性のドーパミン放出が惹起される。扁桃体と眼窩前頭皮質は、報酬を予期させるものと、それにより実際に生じた報酬である快情動とを関連づけることに重要な役割を担うとされている。さらに眼窩前頭皮質は、その得られた報酬の価値を[[符号化]]し情報を更新することに関連している。また、[[中脳]]からのドーパミン伝達により、海馬依存性の[[長期記憶]]形成が強化されるため、その報酬に関連した刺激や状況が記憶され、その後の嗜癖形成への発展につながる。前部帯状回は、嗜癖行動とそれにより得られる報酬とを関連づけ、得られる報酬によって行動を選択・制御する。そして、報酬系ドーパミン伝達により、理性的思考により衝動行為を制御する前頭前野の機能が低下する。眼窩前頭皮質と前部帯状回を経由して、トップダウンの信号が中脳辺縁系領域に再び到達し、報酬探索の動機が制御される<ref name=ref8><pubmed>22011681</pubmed></ref>。
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