「視交叉上核」の版間の差分

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=== 出力 ===
=== 出力 ===
 脳神経核の一つである視交叉上核は、強い神経出力を持っている。解剖学的には、視交叉上核からの直接投射は、[[室傍核下部領域]] (SPVZ)、[[視束前野]] (POA)、[[腹内側核]] (VMH)、[[背内側核]] (DMH)、[[視床室傍核]] (PVT)、[[外側中隔核]] (LS) の6つの投射先が認められている。この視交叉上核からの遠心性線維のうち、SPVZへの投射が、7割以上を占める。この神経線維は視交叉上核の辺縁部から始まって背尾側へ走り、視床下部室傍核の腹側の境界部のSPVZへいたる。SPVZは、室傍核、室周囲核、視床前核、腹内側核、背内側核といった視床下部緒核、さらに、[[中脳中心灰白質]]、[[橋側腕核]]、[[弧束核]]、[[迷走神経背側核]]、延髄[[網様体]]、[[脊髄中間質側核]]など、中枢の自律神経系の核群と密接に連絡している。実際、光照射刺激は、視交叉上核を介して、生体各部位の[[交感神経]]活動を上昇させ、[[副交感神経]]活動を減弱させる<ref name=ref17><pubmed>1464695 </pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>12562939</pubmed></ref>。
 脳神経核の一つである視交叉上核は、強い神経出力を持っている。解剖学的には、視交叉上核からの直接投射は、[[室傍核下部領域]] (SPVZ)、[[視束前野]] (POA)、[[腹内側核]] (VMH)、[[背内側核]] (DMH)、[[視床室傍核]] (PVT)、[[外側中隔核]] (LS) の6つの投射先が認められている。この視交叉上核からの遠心性線維のうち、SPVZへの投射が、7割以上を占める。この神経線維は視交叉上核の辺縁部から始まって背尾側へ走り、視床下部室傍核の腹側の境界部のSPVZへいたる。SPVZは、室傍核、室周囲核、視床前核、腹内側核、背内側核といった視床下部緒核、さらに、[[中脳中心灰白質]]、[[橋側腕核]]、[[弧束核]]、[[迷走神経背側核]]、延髄[[網様体]]、[[脊髄中間質側核]]など、中枢の自律神経系の核群と密接に連絡している。
 
 さらに、自律神経系の調節のみにとどまらず、光照射刺激は、視交叉上核-脊髄中間質外側核-副腎交感神経を介して、副腎のPer1の発現を誘導して、副腎皮質の糖質コルチコイドの分泌を惹起する<ref name=ref19><pubmed>16271530</pubmed></ref>。糖質コルチコイドは、糖質コルチコイド受容体(全身のほとんど全ての[[wikipedia:ja:臓器|臓器]]で発現している)に作用し、glucocorticoid responsive elementを介してPer1の転写を活性化し、臓器の時間をリセットすると想定される。概日リズム形成においても、この視交叉上核からの神経出力が[[wikipedia:ja:副腎|副腎]]においてホルモン分子へと変換される機構は、時間情報を全身に伝達する経路として注目されている。


==機能==
==機能==
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===時間シグナルの出力===
===時間シグナルの出力===
 視交叉上核の時間シグナルが、どのように出力されるのかは古くより議論がなされている。Silver らは<ref name=ref14><pubmed>8752274</pubmed></ref> 、視交叉上核を破壊し概日リズムを消失させたハムスターに、別個体の視交叉上核を、液性成分は通すが神経線維は通さない特殊な半透膜に包んで移植し、行動リズムを回復させることに成功した。この結果は、視交叉上核の液性成分にリズム惹起能力があることを証明している。視交叉上核細胞から分泌されるVIPが[[パラクリン]]制御により他の視交叉上核細胞のリズムを惹起させることが明らかにされたように<ref name=ref15><pubmed>21788520</pubmed></ref>、ペプチドは液性の候補物質である。以前より、視交叉上核細胞から分泌されたAVPが脳脊髄液中で著明な概日リズムを形成することが知られている<ref name=ref16><pubmed>4045552</pubmed></ref>。ペプチドに限らず、視交叉上核からの液性因子が、どのような分子メカニズムを経て、高次脳機能の日内変動を惹起するのかが注目される。
 視交叉上核の時間シグナルが、どのように出力されるのかは古くより議論がなされている。Silver らは<ref name=ref14><pubmed>8752274</pubmed></ref> 、視交叉上核を破壊し概日リズムを消失させたハムスターに、別個体の視交叉上核を、液性成分は通すが神経線維は通さない特殊な半透膜に包んで移植し、行動リズムを回復させることに成功した。この結果は、視交叉上核の液性成分にリズム惹起能力があることを証明している。視交叉上核細胞から分泌されるVIPが[[パラクリン]]制御により他の視交叉上核細胞のリズムを惹起させることが明らかにされたように<ref name=ref15><pubmed>21788520</pubmed></ref>、ペプチドは液性の候補物質である。以前より、視交叉上核細胞から分泌されたAVPが脳脊髄液中で著明な概日リズムを形成することが知られている<ref name=ref16><pubmed>4045552</pubmed></ref>。ペプチドに限らず、視交叉上核からの液性因子が、どのような分子メカニズムを経て、高次脳機能の日内変動を惹起するのかが注目される。
 光照射刺激は、視交叉上核を介して、生体各部位の[[交感神経]]活動を上昇させ、[[副交感神経]]活動を減弱させる<ref name=ref17><pubmed>1464695 </pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>12562939</pubmed></ref>。さらに、自律神経系の調節のみにとどまらず、光照射刺激は、視交叉上核-脊髄中間質外側核-副腎交感神経を介して、副腎のPer1の発現を誘導して、副腎皮質の糖質コルチコイドの分泌を惹起する<ref name=ref19><pubmed>16271530</pubmed></ref>。糖質コルチコイドは、糖質コルチコイド受容体(全身のほとんど全ての[[wikipedia:ja:臓器|臓器]]で発現している)に作用し、glucocorticoid responsive elementを介してPer1の転写を活性化し、臓器の時間をリセットすると想定される。概日リズム形成においても、この視交叉上核からの神経出力が[[wikipedia:ja:副腎|副腎]]においてホルモン分子へと変換される機構は、時間情報を全身に伝達する経路として注目されている。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==