「認知症」の版間の差分

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== 診断 ==
== 診断 ==
=== 診断基準 ===
=== 診断基準 ===
 認知症の診断基準のうち、国際的に広く用いられているものとしては[[wikipedia:ja:世界保健機関|世界保健機関]]によるICD-10や、[[wikipedia:ja:米国精神学会|米国精神学会]]による[[DSM-Ⅲ]]、[[DSM-Ⅳ]]-TRおよび2013年5月に公開された[[DSM-5]]などが挙げられる。
 認知症の診断基準のうち、国際的に広く用いられているものとしては[[wikipedia:ja:世界保健機関|世界保健機関]]による[[ICD-10]]や、[[wikipedia:ja:米国精神学会|米国精神学会]]による[[DSM-Ⅲ]]、[[DSM-Ⅳ]]-TRおよび2013年5月に公開された[[DSM-5]]などが挙げられる。


 ICD-10は1990年の第43回世界保健総会において採択された「疾病および関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)」第10版であり、dementiaを「脳疾患により慢性(6ヶ月以上)あるいは進行性に]]記憶]]、[[思考]]、[[見当識]]、[[理解]]、[[計算]]、[[学習能力]]、[[言語]]、[[判断]]を含む高次皮質機能障害を示す症候群で、意識は清明である」としている。ICD-10における認知症の具体的な診断基準の要約を'''表1'''に示す。2017年にはICD-11が制定・公表される予定である。<br>
 ICD-10は1990年の第43回世界保健総会において採択された「疾病および関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)」第10版であり、dementiaを「脳疾患により慢性(6ヶ月以上)あるいは進行性に[[記憶]]、[[思考]]、[[見当識]]、[[理解]]、[[計算]]、[[学習能力]]、[[言語]]、[[判断]]を含む高次皮質機能障害を示す症候群で、意識は清明である」としている。ICD-10における認知症の具体的な診断基準の要約を'''表1'''に示す。2017年にはICD-11が制定・公表される予定である。<br>
   
   
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<u>(編集部コメント:DSM各版の比較は、概念の歴史的変遷を俯瞰するのには良いかもしれませんが、記事の長さも限られているのでDSM−5を除いて省いてはと思います。)</u>
<u>(編集部コメント:DSM各版の比較は、概念の歴史的変遷を俯瞰するのには良いかもしれませんが、記事の長さも限られているのでDSM−5を除いて省いてはと思います。)</u>
 DSM-Ⅲは1980年出版の「精神障害の診断統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」第3版であり、1987年にはその改訂版であるDSM-Ⅲ-Rが出版されている。DSM-Ⅲ-Rにおける認知症の診断基準の要約を'''表2'''に示す。また1994年には第4版にあたるDSM-Ⅳが出版され、2000年にDSM-Ⅳ-TRとして改訂されている。DSM-Ⅳ-TRにおける認知症の診断基準の要約を'''表3'''に示す。<br>
 DSM-Ⅲは1980年出版の「[[精神障害]]の診断統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」第3版であり、1987年にはその改訂版であるDSM-Ⅲ-Rが出版されている。DSM-Ⅲ-Rにおける認知症の診断基準の要約を'''表2'''に示す。また1994年には第4版にあたるDSM-Ⅳが出版され、2000年にDSM-Ⅳ-TRとして改訂されている。DSM-Ⅳ-TRにおける認知症の診断基準の要約を'''表3'''に示す。<br>


{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="550" height="20""
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|+ '''表2.DSM-Ⅲ-Rによる認知症の診断基準の要約'''  
|+ '''表2.DSM-Ⅲ-Rによる認知症の診断基準の要約'''  
| A.短期・長期記憶障害の明らかな証拠が存在する。
| A.短期・[[長期記憶]]障害の明らかな証拠が存在する。
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| B.以下のうち少なくとも1項目以上を認める。<br>
| B.以下のうち少なくとも1項目以上を認める。<br>
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| A.多彩な認知機能障害の発現として以下の2項目がある。<br>
| A.多彩な認知機能障害の発現として以下の2項目がある。<br>
1) 記憶障害(新規情報の学習や、過去に学習した情報の想起の障害)<br>
1) 記憶障害(新規情報の学習や、過去に学習した情報の想起の障害)<br>
 (a)即時記憶は数字の順唱、逆唱により、近時記憶は言葉や物品の遅延再生により評価する。<br>
 (a)[[即時記憶]]は数字の順唱、逆唱により、近時記憶は言葉や物品の遅延再生により評価する。<br>
 (b)遠隔記憶は随伴者に確認可能な個人情報(誕生日や卒業年、結婚記念日など)もしくは被
 (b)[[遠隔記憶]]は随伴者に確認可能な個人情報(誕生日や卒業年、結婚記念日など)もしくは被
   験者の教育レベル・文化背景に合った一般知識の質問により評価する。<br>
   験者の教育レベル・文化背景に合った一般知識の質問により評価する。<br>


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 (b)失行(運動機能は障害されていないのに運動の遂行が障害される)<br>
 (b)失行(運動機能は障害されていないのに運動の遂行が障害される)<br>
 (c)失認(感覚機能は障害されていないのに対象を認識もしくは同定できない)<br>
 (c)失認(感覚機能は障害されていないのに対象を認識もしくは同定できない)<br>
 (d)遂行機能(計画を立てる、組織化する、順序立てる、抽象化すること)の障害
 (d)[[遂行機能]](計画を立てる、組織化する、順序立てる、抽象化すること)の障害
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| B.上記A-1)、A-2)の認知機能障害各々が社会的もしくは職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前の機能水準からの著しい低下を示す。
| B.上記A-1)、A-2)の認知機能障害各々が社会的もしくは職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前の機能水準からの著しい低下を示す。
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|+ '''表4.DSM-5による認知症(major neurocognitive disorder)の診断基準の要約'''  
|+ '''表4.DSM-5による認知症(major neurocognitive disorder)の診断基準の要約'''  
| A.1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習と記憶、言語、知覚-運動、社会的認知)において過去の水準から明らかな認知の低下を来しているという以下に基づく証拠がある。<br>
| A.1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習と記憶、言語、[[知覚]]-運動、社会的認知)において過去の水準から明らかな認知の低下を来しているという以下に基づく証拠がある。<br>
1) 本人、本人を良く知る情報提供者、もしくは臨床医による認知機能の明らかな低下があるという懸念。<br>
1) 本人、本人を良く知る情報提供者、もしくは臨床医による認知機能の明らかな低下があるという懸念。<br>
2) できれば標準化された神経心理学的検査で記録される形で、それが無い場合は他の定量化された臨床的評価によって確認された認知機能の明らかな障害。
2) できれば標準化された神経心理学的検査で記録される形で、それが無い場合は他の定量化された臨床的評価によって確認された認知機能の明らかな障害。
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| C.認知機能障害はせん妄の経過中にのみ起こるものではない。
| C.認知機能障害はせん妄の経過中にのみ起こるものではない。
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| D.認知機能障害は他の精神疾患ではうまく説明されない(例:うつ病、統合失調症)。
| D.認知機能障害は他の[[精神疾患]]ではうまく説明されない(例:うつ病、統合失調症)。
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 せん妄は症状に類似点も多く、各種診断基準においても除外項目に挙げられることが多いが、本質は意識障害であり急性発症である点、興奮や幻覚で発症することが多い点、日内変動が見られやすい点、数日から数週間で軽快することが多い点などが鑑別点として挙げられる。
 せん妄は症状に類似点も多く、各種診断基準においても除外項目に挙げられることが多いが、本質は意識障害であり急性発症である点、興奮や幻覚で発症することが多い点、日内変動が見られやすい点、数日から数週間で軽快することが多い点などが鑑別点として挙げられる。


 また認知症を呈する疾患の鑑別診断には、アルツハイマー病、[[レビー小体型認知症]]、[[前頭側頭葉変性症]]、[[嗜銀顆粒性認知症]]、[[進行性核上性麻痺]]、[[大脳皮質基底核変性症]]、[[ハンチントン病]]などの[[神経変性疾患]]が挙げられる他、[[脳血管障害]]による[[血管性認知症]]、慢性[[硬膜下血腫]]、[[正常圧水頭症]]、[[硬膜動静脈瘻]]、[[脳腫瘍]]、[[外傷性脳損傷]]、[[慢性外傷性脳症]]、[[Creutzfeldt-Jakob病]]やその他の感染症として[[HIV感染症]]、[[亜急性硬化性全脳炎]]、[[進行性多巣性白質脳症]]、[[神経梅毒]]、[[髄膜脳炎]]など多彩な脳・神経疾患が挙げられる。また上記以外にも[[パーキンソン病]]や[[多発性硬化症]]、[[筋萎縮性側索硬化症]]、あるいは[[神経ベーチェット]]や[[サルコイドーシス]]など全身性疾患の中枢神経症状においても認知症を合併する場合がある。さらに、[[wikipedia:ja:甲状腺機能低下症|甲状腺機能低下症]]などの内分泌疾患、[[wikipedia:ja:糖尿病|糖尿病]]、栄養異常([[wikipedia:ja:ビタミンB1|ビタミンB1]]や[[wikipedia:ja:ビタミンB12|B12]]低下)などの代謝疾患、[[wikipedia:ja:肝不全|肝不全]]や[[wikipedia:ja:腎不全|腎不全]]などの[[wikipedia:ja:臓器不全|臓器不全]]、[[アルコール]]や[[麻薬]]、その他薬物や金属、[[wikipedia:ja:一酸化炭素|一酸化炭素]]による[[wikipedia:ja:中毒|中毒]]など、各種身体疾患においても認知症は認められ、鑑別の範囲は非常に多岐に渡る。
 また認知症を呈する疾患の鑑別診断には、アルツハイマー病、[[レビー小体型認知症]]、[[前頭側頭葉変性症]]、[[嗜銀顆粒性認知症]]、[[進行性核上性麻痺]]、[[大脳皮質基底核変性症]]、[[ハンチントン病]]などの[[神経変性疾患]]が挙げられる他、[[脳血管障害]]による[[血管性認知症]]、慢性[[硬膜下血腫]]、[[正常圧水頭症]]、[[硬膜動静脈瘻]]、[[脳腫瘍]]、[[外傷性脳損傷]]、[[慢性外傷性脳症]]、[[Creutzfeldt-Jakob病]]やその他の感染症として[[HIV感染症]]、[[亜急性硬化性全脳炎]]、[[進行性多巣性白質脳症]]、[[神経梅毒]]、[[髄膜脳炎]]など多彩な脳・神経疾患が挙げられる。また上記以外にも[[パーキンソン病]]や[[多発性硬化症]]、[[筋萎縮性側索硬化症]]、あるいは[[神経ベーチェット]]や[[サルコイドーシス]]など全身性疾患の中枢神経症状においても認知症を合併する場合がある。さらに、[[wikipedia:ja:甲状腺機能低下症|甲状腺機能低下症]]などの内[[分泌]]疾患、[[wikipedia:ja:糖尿病|糖尿病]]、栄養異常([[wikipedia:ja:ビタミンB1|ビタミンB1]]や[[wikipedia:ja:ビタミンB12|B12]]低下)などの代謝疾患、[[wikipedia:ja:肝不全|肝不全]]や[[wikipedia:ja:腎不全|腎不全]]などの[[wikipedia:ja:臓器不全|臓器不全]]、[[アルコール]]や[[麻薬]]、その他薬物や金属、[[wikipedia:ja:一酸化炭素|一酸化炭素]]による[[wikipedia:ja:中毒|中毒]]など、各種身体疾患においても認知症は認められ、鑑別の範囲は非常に多岐に渡る。


=== 検査 ===
=== 検査 ===
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 認知症が疑われた際に、認知症をきたす各種内科疾患とそれ以外の認知症疾患の鑑別に有用である。例えば、一般的な項目として[[wikipedia:ja:血算|血算]]、[[wikipedia:ja:血沈|血沈]]、肝機能、腎機能、[[wikipedia:ja:電解質|電解質]]、[[wikipedia:ja:血糖|血糖]]、[[wikipedia:ja:HbA1c|HbA1c]]、[[wikipedia:ja:脂質|脂質]]、[[wikipedia:ja:アンモニア|アンモニア]]、[[wikipedia:ja:甲状腺ホルモン|甲状腺ホルモン]]、ビタミンB1、B12、[[wikipedia:ja:葉酸|葉酸]]、[[wikipedia:ja:梅毒血清反応|梅毒血清反応]]、[[wikipedia:ja:動脈血ガス分析|動脈血ガス分析]]などが挙げられる。
 認知症が疑われた際に、認知症をきたす各種内科疾患とそれ以外の認知症疾患の鑑別に有用である。例えば、一般的な項目として[[wikipedia:ja:血算|血算]]、[[wikipedia:ja:血沈|血沈]]、肝機能、腎機能、[[wikipedia:ja:電解質|電解質]]、[[wikipedia:ja:血糖|血糖]]、[[wikipedia:ja:HbA1c|HbA1c]]、[[wikipedia:ja:脂質|脂質]]、[[wikipedia:ja:アンモニア|アンモニア]]、[[wikipedia:ja:甲状腺ホルモン|甲状腺ホルモン]]、ビタミンB1、B12、[[wikipedia:ja:葉酸|葉酸]]、[[wikipedia:ja:梅毒血清反応|梅毒血清反応]]、[[wikipedia:ja:動脈血ガス分析|動脈血ガス分析]]などが挙げられる。


 また悪性腫瘍の鑑別に各種[[wikipedia:ja:腫瘍マーカー|腫瘍マーカー]]、[[wikipedia:ja:自己免疫疾患|自己免疫疾患]]の鑑別に各種[[wikipedia:ja:自己抗体|自己抗体]]、感染症の鑑別には[[wikipedia:ja:HIV抗体|HIV抗体]]や[[wikipedia:ja:JCウイルス|JCウイルス]]、[[wikipedia:ja:麻疹ウイルス|麻疹ウイルス]]、[[wikipedia:ja:風疹ウイルス|風疹ウイルス]]抗体がそれぞれ役立つ。さらに中毒を疑う例では各種薬剤、特に[[抗精神病薬]]や金属、有機化合物などの血中濃度測定が有用である。一方、神経変性疾患であるアルツハイマー病においては血漿[[アミロイドβ]](Aβ)についての検証がなされている<ref><pubmed> 9065558 </pubmed></ref><ref><pubmed> 9029078 </pubmed></ref>。
 また悪性腫瘍の鑑別に各種[[wikipedia:ja:腫瘍マーカー|腫瘍マーカー]]、[[wikipedia:ja:自己免疫疾患|自己免疫疾患]]の鑑別に各種[[wikipedia:ja:自己抗体|自己抗体]]、感染症の鑑別には[[wikipedia:ja:HIV抗体|HIV抗体]]や[[wikipedia:ja:JCウイルス|JCウイルス]]、[[wikipedia:ja:麻疹ウイルス|麻疹ウイルス]]、[[wikipedia:ja:風疹ウイルス|風疹ウイルス]]抗体がそれぞれ役立つ。さらに中毒を疑う例では各種薬剤、特に[[抗精神病薬]]や金属、有機化合物などの血中濃度測定が有用である。一方、神経変性疾患であるアルツハイマー病においては血漿[[アミロイドβ]]([[Aβ]])についての検証がなされている<ref><pubmed> 9065558 </pubmed></ref><ref><pubmed> 9029078 </pubmed></ref>。


==== 脳脊髄液検査 ====
==== 脳脊髄液検査 ====
 [[脳脊髄液]]検査は[[髄膜脳炎]]や[[くも膜下出血]]、各種[[神経免疫疾患]]、腫瘍性疾患などの鑑別に有用である。[[亜急性硬化性全脳炎]]においては脳脊髄液[[wikipedia:ja:麻疹|麻疹]]抗体、進行性多巣性白質脳症ではJCウイルス[[DNA]] PCRが、Creutzfeldt-Jakob病では脳脊髄液[[14-3-3タンパク質]]や総タウタンパク質の測定がそれぞれ有用とされる。またアルツハイマー病では脳脊髄液中の[[タウ]]タンパク質やAβが検証され、近年注目されている。
 [[脳脊髄液]]検査は[[髄膜脳炎]]や[[くも膜下出血]]、各種[[神経免疫疾患]]、腫瘍性疾患などの鑑別に有用である。[[亜急性硬化性全脳炎]]においては脳脊[[髄液]][[wikipedia:ja:麻疹|麻疹]]抗体、進行性多巣性[[白質]]脳症ではJCウイルス[[DNA]] PCRが、Creutzfeldt-Jakob病では脳脊髄液[[14-3-3タンパク質]]や総タウタンパク質の測定がそれぞれ有用とされる。またアルツハイマー病では脳脊髄液中の[[タウ]]タンパク質やAβが検証され、近年注目されている。


==== 画像検査 ====
==== 画像検査 ====
 画像検査のうち[[CT]]、[[MRI]]、[[MRA]]は脳血管障害、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、硬膜動静脈瘻、脳腫瘍、髄膜脳炎、多発性硬化症などの診断に有用である。MRIの拡散強調画像はCreutzfeldt-Jakob病の病変描出能に優れる。またMRIは神経変性疾患における脳の形態学的変化の描出にも優れ、近年では[[voxel-based morphometry]](VBM)が発達している。これは各個人の脳の形態情報を標準化し、健常標準脳の形態と比較してvoxel単位で統計学的に脳の萎縮を評価する手法である。アルツハイマー病における[[海馬]]や[[海馬傍回]]の評価などに用いる。
 画像検査のうち[[CT]]、[[MRI]]、[[MRA]]は脳血管障害、慢性[[硬膜]]下血腫、正[[常圧]]水頭症、硬膜動静脈瘻、脳腫瘍、髄膜脳炎、多発性硬化症などの診断に有用である。MRIの拡散強調画像はCreutzfeldt-Jakob病の病変描出能に優れる。またMRIは神経変性疾患における脳の形態学的変化の描出にも優れ、近年では[[voxel-based morphometry]](VBM)が発達している。これは各個人の脳の形態情報を標準化し、健常標準脳の形態と比較してvoxel単位で統計学的に脳の萎縮を評価する手法である。アルツハイマー病における[[海馬]]や[[海馬傍回]]の評価などに用いる。


 [[脳血流SPECT]]は主に[[123I-IMP|<sup>123</sup>I-IMP]]や[[99mTc-ECD|<sup>99m</sup>Tc-ECD]]を核種として用い、特に神経変性疾患においては形態学的変化をきたす以前の異常を検出しうる検査法として重要視されている。かつては評価において客観性に欠けることが指摘されていたが、近年では[[statistical parametric mapping]](SPM)、[[three-dimentional stereotactic surface projection]](3D-SSP)、[[easy Z-score imaging system]](e-ZIS)などの画像統計解析手法が発達し、課題が克服されている。
 [[脳血流SPECT]]は主に[[123I-IMP|<sup>123</sup>I-IMP]]や[[99mTc-ECD|<sup>99m</sup>Tc-ECD]]を核種として用い、特に神経変性疾患においては形態学的変化をきたす以前の異常を検出しうる検査法として重要視されている。かつては評価において客観性に欠けることが指摘されていたが、近年では[[statistical parametric mapping]](SPM)、[[three-dimentional stereotactic surface projection]](3D-SSP)、[[easy Z-score imaging system]](e-ZIS)などの画像統計解析手法が発達し、課題が克服されている。
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|'''硬膜動静脈瘻'''  
|'''硬膜動静脈瘻'''  
|[[動静脈間シャント]]により動脈血流が静脈に流入し、脳静脈還流障害・浮腫などを呈し認知機能障害を発症する。大脳皮質のみならず、[[Galen大静脈]]へのシャントによる両側視床の局所血流障害でも発症する。
|[[動静脈間シャント]]により動脈血流が静脈に流入し、脳静脈還流障害・浮腫などを呈し認知機能障害を発症する。[[大脳皮質]]のみならず、[[Galen大静脈]]へのシャントによる両側視床の局所血流障害でも発症する。
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|'''脳腫瘍'''  
|'''脳腫瘍'''  
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==== アルツハイマー病の中核症状に対する対症療法 ====
==== アルツハイマー病の中核症状に対する対症療法 ====
 認知症の50%を占めるアルツハイマー病に対し本邦で承認されているのは[[コリンエステラーゼ]](cholinesterase:ChE)[[阻害薬]]と[[NMDA型グルタミン酸受容体|N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体]][[拮抗薬]]である。ChE阻害薬は「アルツハイマー病において[[Meynert核]]のアセチルコリン([[acetylcholine]]:[[ACh]])作動性神経細胞の脱落とACh合成系の活性低下が病態に関連する」という[[コリン]]仮説を基に開発され、[[シナプス]]間隙のACh量を増加させる。
 認知症の50%を占めるアルツハイマー病に対し本邦で承認されているのは[[コリンエステラーゼ]](cholinesterase:ChE)[[阻害薬]]と[[NMDA型グルタミン酸受容体|N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体]][[拮抗薬]]である。ChE阻害薬は「アルツハイマー病において[[Meynert核]]の[[アセチルコリン]]([[acetylcholine]]:[[ACh]])作動性神経細胞の脱落とACh合成系の活性低下が病態に関連する」という[[コリン]]仮説を基に開発され、[[シナプス]]間隙のACh量を増加させる。


 一方、NMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬は「アルツハイマー病において、脳内グルタミン酸濃度の持続的上昇やNMDA型グルタミン酸受容体へのアミロイドβの結合によりCa<sup>2+</sup>が細胞内に過剰流入し、[[シナプス後膜電位]]変化が増大して(シナプティックノイズ)記憶・学習の形成を阻害したり、[[酸化ストレス]]増大や[[神経細胞死]]を招く」という[[グルタミン酸仮説]]に基づき開発されている。本剤は持続性の病的な低濃度グルタミン酸刺激に対してはNMDA型グルタミン酸受容体に結合して過剰Ca<sup>2+</sup>流入による神経毒性を防ぐが、生理的な神経興奮による一過性の高濃度グルタミン酸刺激に対しては電位依存性にNMDA型グルタミン酸受容体から解離するため、正常な神経伝達や記憶形成には影響しない。'''表7'''に各薬剤の特徴を示す。<br>
 一方、NMDA型[[グルタミン酸受容体]]拮抗薬は「アルツハイマー病において、脳内[[グルタミン酸]]濃度の持続的上昇やNMDA型グルタミン酸受容体への[[アミロイド]]βの結合によりCa<sup>2+</sup>が細胞内に過剰流入し、[[シナプス後膜電位]]変化が増大して(シナプティックノイズ)記憶・学習の形成を阻害したり、[[酸化ストレス]]増大や[[神経細胞死]]を招く」という[[グルタミン酸仮説]]に基づき開発されている。本剤は持続性の病的な低濃度グルタミン酸刺激に対してはNMDA型グルタミン酸受容体に結合して過剰Ca<sup>2+</sup>流入による神経毒性を防ぐが、生理的な神経興奮による一過性の高濃度グルタミン酸刺激に対しては電位依存性にNMDA型グルタミン酸受容体から解離するため、正常な神経伝達や記憶形成には影響しない。'''表7'''に各薬剤の特徴を示す。<br>


{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="850" height="20""
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251行目: 251行目:
 外傷性脳損傷についてはこれも保険適応外だが、注意障害に対し[[メチルフェニデート]]やChE阻害剤、アマンタジンなどが有効との報告がある。
 外傷性脳損傷についてはこれも保険適応外だが、注意障害に対し[[メチルフェニデート]]やChE阻害剤、アマンタジンなどが有効との報告がある。


 レビー小体型認知症ではChE阻害剤にて認知機能や妄想、幻覚など臨床症状全般が改善したという報告があり本邦では2014年9月より[[アリセプト]]が承認されている。メマンチンも本邦未承認ではあるが[[ランダム化比較試験]]で改善が報告されている。しかし前頭側頭葉変性症など他の神経変性疾患やプリオン病は現状では有効な治療薬はない。
 レビー小体型認知症ではChE阻害剤にて認知機能や妄想、幻覚など臨床症状全般が改善したという報告があり本邦では2014年9月より[[アリセプト]]が承認されている。メマンチンも本邦未承認ではあるが[[ランダム化比較試験]]で改善が報告されている。しかし前頭側頭葉変性症など他の神経変性疾患や[[プリオン]]病は現状では有効な治療薬はない。


=== 周辺症状===
=== 周辺症状===