「錯覚」の版間の差分

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 物理的錯覚として、Gregory<ref>Gregory, R. L. (1997). Visual illusions classified. Trends in Cognitive Sciences, 1(5), 190–194.</ref>は、霧の中の像(物体の輪郭がぼやけて見える)、水の中のスプーン(屈折によって曲がって見える)、鏡(映っているものが本当の位置でない場所に見える)、虹(見えているのに触ることも近づくこともできない)、モワレパターン(対象に縞模様はないのに干渉縞が見える)を挙げている。
 物理的錯覚として、Gregory<ref>Gregory, R. L. (1997). Visual illusions classified. Trends in Cognitive Sciences, 1(5), 190–194.</ref>は、霧の中の像(物体の輪郭がぼやけて見える)、水の中のスプーン(屈折によって曲がって見える)、鏡(映っているものが本当の位置でない場所に見える)、虹(見えているのに触ることも近づくこともできない)、モワレパターン(対象に縞模様はないのに干渉縞が見える)を挙げている。


 知覚的錯覚は、その感覚の種類に応じて、錯視、錯聴、錯触などに区別できる。視覚の錯覚である錯視は、視覚のモダリティに対応して、幾何学的錯視(大きさの錯視、傾きの錯視、位置の錯視)、明るさや色の錯視、運動視の錯視などに分類できる。聴覚の錯覚である錯聴には、連続聴効果(auditory continuity illusion)<ref>音が短時間途切れていても、その中断部分に別の強い音が挿入されていると、補われてなめらかに聞こえる現象。</ref><ref>Miller, G. A., & Licklider, J. C. R. (1950). The intelligibility of interrupted speech. Journal of the Acoustical Society of America, 22,167-173.</ref><ref>Warren, R. M., Wrightson, J. M., & Puretz, J. (1988). Illusory continuity of tonal and infratonal periodic sounds. Journal of the Acoustical Society of America, 84, 1338-1342.</ref>、ミッシングファンダメンタル(missing fundamental)<ref>音の高さ(ピッチ)は音の基本周波数に対応するものであるが、基本周波数成分が物理的に存在していない状況において、倍音成分から基本周波数が推定されてその音の高さに聞こえる現象。</ref><ref>Schouten,J. F., Ritsmam R. J., & Cardozo, B. L. (1962). Pitch of the residue. Journal of the Acoustical Society of America, 34, 1418-1424.</ref>などが知られる。触覚の錯覚である錯触には、ベルベットハンド錯覚(velvet hand illusion)<ref>金網を両手ではさみ、手を合わせたままゆっくり前後に動かすと、金属性の硬い感触ではなく、やわらかくてふんわりとした(ベルベットのような)触り心地を感じる現象。</ref><ref>Mochiyama, H., Sano, A., Takesue, N., Kikuuwe, R., Fujita, K., Fukuda, S., Marui, K., & Fujimoto, H. (2005). Haptic illusions induced by moving line stimuli. Proc. World Haptic Conference,645–648.</ref>や感覚漏斗現象(sensory funneling)<ref>ファントムセンセーションともいう。複数の触覚刺激が同時に異なる部位に提示された時、中間にその刺激を感じる現象。</ref><ref>von Békésy, G. (1959). Neural funneling along the skin and between the inner and outer hair cells of the cochlea. Journal of the Acoustical Society of America, 31(9), 1236–1249. </ref>、アリストテレスの錯覚<ref>人差し指と中指を交差させて鉛筆や自分の鼻に触れると。鉛筆や自分の鼻が2つあるように感じる現象。</ref><ref>Benedetti, F. (1985). Processing of tactile spatial information with crossed fingers. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance,11(4), 517–525</ref>などがある。温度感覚の錯覚としては、サーマルグリル錯覚(thermal grill illusion)<ref>温かい物体と冷たい物体を近接した皮膚部位で同時に触れると、熱い物体に触れたように感じる現象。痛みを知覚することもある。</ref><ref>Craig, A. D., & Bushnell, M. C. (1994). The thermal grill illusion: Unmasking the burn of cold pain. Science, 265 (5169), 252–255.</ref>やサーマルリファラル(thermal referral)<ref>中指で常温のものに、人差し指と薬指で暖かい(冷たい)ものを触れると、常温のものも温かく(冷たく)感じられる現象。</ref><ref>Green, B. G.(1977). Localization of thermal sensation: An illusion and synthetic heat. Perception & Psychophysics, 22, 331-337.</ref>がある。多感覚の相互作用における錯覚もある。たとえば、腹話術効果は、視覚の情報が優位となって引き起こされる聴覚の錯覚である。シャルパンテイエ効果は、視覚の情報が優位となって引き起こされる重さの知覚の錯覚である。ラバーハンド錯覚(rubber hand illusion)<ref>自分の手を衝立の裏に隠し、代わりにゴムでできた手を見える位置に置いた状態で、協力者に自分の手とゴムの手を同じタイミングで触ってもらっていると、触られているのはゴムの手であるように感じる現象。</ref>は、視覚の情報が優位となって引き起こされる身体知覚の錯覚である。
 知覚的錯覚は、その感覚の種類に応じて、錯視、錯聴、錯触などに区別できる。視覚の錯覚である錯視は、視覚のモダリティに対応して、幾何学的錯視(大きさの錯視、傾きの錯視、位置の錯視)、明るさや色の錯視、運動視の錯視などに分類できる。聴覚の錯覚である錯聴には、連続聴効果(auditory continuity illusion)<ref>音が短時間途切れていても、その中断部分に別の強い音が挿入されていると、補われてなめらかに聞こえる現象。</ref><ref>Miller, G. A., & Licklider, J. C. R. (1950). The intelligibility of interrupted speech. Journal of the Acoustical Society of America, 22,167-173.</ref><ref>Warren, R. M., Wrightson, J. M., & Puretz, J. (1988). Illusory continuity of tonal and infratonal periodic sounds. Journal of the Acoustical Society of America, 84, 1338-1342.</ref>、ミッシングファンダメンタル(missing fundamental)<ref>音の高さ(ピッチ)は音の基本周波数に対応するものであるが、基本周波数成分が物理的に存在していない状況において、倍音成分から基本周波数が推定されてその音の高さに聞こえる現象。</ref><ref>Schouten,J. F., Ritsmam R. J., & Cardozo, B. L. (1962). Pitch of the residue. Journal of the Acoustical Society of America, 34, 1418-1424.</ref>などが知られる。触覚の錯覚である錯触には、ベルベットハンド錯覚(velvet hand illusion)<ref>金網を両手ではさみ、手を合わせたままゆっくり前後に動かすと、金属性の硬い感触ではなく、やわらかくてふんわりとした(ベルベットのような)触り心地を感じる現象。</ref><ref>Mochiyama, H., Sano, A., Takesue, N., Kikuuwe, R., Fujita, K., Fukuda, S., Marui, K., & Fujimoto, H. (2005). Haptic illusions induced by moving line stimuli. Proc. World Haptic Conference,645–648.</ref>や感覚漏斗現象(sensory funneling)<ref>ファントムセンセーションともいう。複数の触覚刺激が同時に異なる部位に提示された時、中間にその刺激を感じる現象。</ref><ref>von Békésy, G. (1959). Neural funneling along the skin and between the inner and outer hair cells of the cochlea. Journal of the Acoustical Society of America, 31(9), 1236–1249. </ref>、アリストテレスの錯覚<ref>人差し指と中指を交差させて鉛筆や自分の鼻に触れると。鉛筆や自分の鼻が2つあるように感じる現象。</ref><ref>Benedetti, F. (1985). Processing of tactile spatial information with crossed fingers. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance,11(4), 517–525</ref>などがある。温度感覚の錯覚としては、サーマルグリル錯覚(thermal grill illusion)<ref>温かい物体と冷たい物体を近接した皮膚部位で同時に触れると、熱い物体に触れたように感じる現象。痛みを知覚することもある。</ref><ref>Craig, A. D., & Bushnell, M. C. (1994). The thermal grill illusion: Unmasking the burn of cold pain. Science, 265 (5169), 252–255.</ref>やサーマルリファラル(thermal referral)<ref>中指で常温のものに、人差し指と薬指で暖かい(冷たい)ものを触れると、常温のものも温かく(冷たく)感じられる現象。</ref><ref>Green, B. G.(1977). Localization of thermal sensation: An illusion and synthetic heat. Perception & Psychophysics, 22, 331-337.</ref>がある。多感覚の相互作用における錯覚もある。たとえば、腹話術効果は、視覚の情報が優位となって引き起こされる聴覚の錯覚である。シャルパンテイエ効果は、視覚の情報が優位となって引き起こされる重さの知覚の錯覚である。ラバーハンド錯覚(rubber hand illusion)<ref>自分の手を衝立の裏に隠し、衝立の手前にゴムでできた手を置いた状態で、協力者に自分の手とゴムの手を同じタイミングで触ってもらっていると、触られているのはゴムの手であるように感じる現象。</ref><ref>Botvinick, M., & Cohen, J. (1998). Rubber hands ‘feel’ touch that eyes see. Nature 391, 756. https://doi.org/10.1038/35784</ref>は、視覚の情報が優位となって引き起こされる身体知覚の錯覚である。


 認知的錯覚には、透明性の錯覚(illusion of transparency)<ref>自分の心の中が他者に読まれているという錯覚で、それを妄想ほど強く確信しているわけではない状態を指す。</ref><ref>Gilovich, T., Savitsky, K., & Medvec, V. H. (1998). The illusion of transparency: Biased assessments of others' ability to read one's emotional states. Journal of Personality and Social Psychology, 75(2), 332–346.</ref> 確証バイアス などがある。
 認知的錯覚には、透明性の錯覚(illusion of transparency)<ref>自分の心の中が他者に読まれているという錯覚で、それを妄想ほど強く確信しているわけではない状態を指す。</ref><ref>Gilovich, T., Savitsky, K., & Medvec, V. H. (1998). The illusion of transparency: Biased assessments of others' ability to read one's emotional states. Journal of Personality and Social Psychology, 75(2), 332–346.</ref> 確証バイアス などがある。
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