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<font size="+1">竹島多賀夫</font><br>
<font size="+1">竹島多賀夫</font><br>
''医療法人寿会 富永病院 神経内科・頭痛センター''<br>
''医療法人寿会 富永病院 神経内科・頭痛センター''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年9月23日 原稿完成日:2014年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年9月23日 原稿完成日:2015年12月22日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](京都大学 大学院医学研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 神経内科)<br>
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英語名:headache、cephalalgia 独:Kopfschmerz 仏:Céphalée、mal de tête  
英語名:headache、cephalalgia 独:Kopfschmerz 仏:Céphalée、mal de tête  
 
{{box|text=
 頭痛を主症状とする疾病は頭痛性疾患としてまとめられている。他に原因となる疾患が無いものを一次性頭痛、他の疾患によるものを二次性頭痛とする。一次性頭痛は、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛が代表的である。頭痛診断は、国際頭痛学会から公開されている国際頭痛分類と診断基準(第3版beta版、2013)に従う。一次性頭痛は通常生命を脅かすことはないが、生活に支障をきたし健康寿命を短縮させる疾病であり対策が求められている。片頭痛は閃輝暗点等の前兆の有無により、前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛に大別される。片頭痛発作にはセロトニン作動薬であるトリプタンが奏功する。急性期治療薬のみでは十分な治療効果が得られない場合は片頭痛予防薬を用いる。片頭痛の頻度が増加する慢性片頭痛が注目されている。緊張型頭痛は頭痛の頻度により反復性と慢性に細分類されている。群発頭痛と類縁の頭痛性疾患が三叉神経・自律神経性頭痛としてまとめられ疾患概念が整理されてきた。二次性頭痛には様々な疾患によって引き起こされる頭痛がある。片頭痛など、一次性頭痛が他の疾患により増悪したのか、他の疾患により新たな二次性頭痛が発生したのかは常に考慮が必要である。
}}
 
==定義==
==定義==
 頭痛は頭部の一部あるいは全体の[[痛み]]の総称。後頭部と[[wikipedia:ja:|]](後頚部)の境界、眼の奥の痛みも頭痛として扱う。頭皮の[[wikipedia:ja:外傷|外傷]]や[[wikipedia:ja:化膿|化膿]]などによる頭の表面の一部の痛みは通常は頭痛には含めない。 頭痛は、[[発熱]]や[[腹痛]]と同様に症状の名称であるが、慢性的に頭痛発作を繰り返す場合は頭痛性疾患(headache disorder)として扱う。
 頭痛は頭部の一部あるいは全体の[[痛み]]の総称。後頭部と[[wikipedia:ja:|]](後頚部)の境界、眼の奥の痛みも頭痛として扱う。頭皮の[[wikipedia:ja:外傷|外傷]]や[[wikipedia:ja:化膿|化膿]]などによる頭の表面の一部の痛みは通常は頭痛には含めない。 頭痛は、[[発熱]]や[[腹痛]]と同様に症状の名称であるが、慢性的に頭痛発作を繰り返す場合は頭痛性疾患(headache disorder)として扱う。


==メカニズムと疼痛感受部位==
==メカニズムと疼痛感受部位==
 一般的に[[疼痛]]は発生メカニズムにより、[[侵害受容性痛]]、神経障害性痛、心因性痛に分類される。
 一般的に[[疼痛]]は発生メカニズムにより、[[侵害受容性痛]]、[[神経障害性痛]]、[[心因性痛]]に分類される。


 頭痛の多くは侵害受容性痛と考えられている。頭蓋外の[[皮膚]]、[[筋肉]]、[[血管]]には[[痛覚受容器]]が存在し、疼痛感受部位になりうる。皮膚の刺激は限局した疼痛が発生するが、血管が刺激されると、より広汎な部位の疼痛として認識される。頭蓋の[[骨]]組織は痛覚受容器が存在せず、侵害刺激が加わっても痛みを発生しないが、[[骨膜]]には痛覚受容器があり、疼痛が発生する。
 頭痛の多くは侵害受容性痛と考えられている。頭蓋外の[[皮膚]]、[[筋肉]]、[[血管]]には[[痛覚受容器]]が存在し、疼痛感受部位になりうる。皮膚の刺激は限局した疼痛が発生するが、血管が刺激されると、より広汎な部位の疼痛として認識される。頭蓋の[[骨]]組織は痛覚受容器が存在せず、侵害刺激が加わっても痛みを発生しないが、[[骨膜]]には痛覚受容器があり、疼痛が発生する。


 頭蓋内では、脳実質は痛覚受容器が無く、無痛であるが、[[静脈洞]]や脳[[硬膜脈]]に分布する動脈、脳底部の動脈は疼痛感受部位である。頭蓋内組織に侵害刺激が加わると、その部位のみならず、[[関連痛]]として広範な部位の頭痛として感じられる。
 頭蓋内では、脳実質は痛覚受容器が無く、無痛であるが、[[静脈洞]][[脳硬膜]]に分布する動脈、脳底部の動脈は疼痛感受部位である。頭蓋内組織に侵害刺激が加わると、その部位のみならず、[[関連痛]]として広範な部位の頭痛として感じられる。


 頭痛発生の一般的メカニズムとして、痛覚感受部位の炎症、圧迫、牽引、脳動脈の伸展や拡張、炎症、頭頚部の持続的筋収縮、[[脳神経]]([[三叉神経]]、[[中間神経]])や上部[[頚髄]][[脊髄神経]]の圧迫などがあげられる。頭痛の進展や慢性化には[[神経障害性痛]]の関与も示されている。  
 頭痛発生の一般的メカニズムとして、痛覚感受部位の炎症、圧迫、牽引、脳動脈の伸展や拡張、炎症、頭頚部の持続的筋収縮、[[脳神経]]([[三叉神経]]、[[中間神経]])や上部[[頚髄]][[脊髄神経]]の圧迫などがあげられる。頭痛の進展や慢性化には[[神経障害性痛]]の関与も示されている。  


==頭痛の分類と診断 国際頭痛分類第3版==
==頭痛の分類と診断 国際頭痛分類第3版==
 頭痛の系統的分類は1962年に[[wikipedia:ja:米国衛生研究所|米国衛生研究所]]のad-hoc委員会で作成された分類が、いわゆる"ad hoc分類"として広く認知されていた<ref name=ref1>'''headache Ahcoco'''<br>Classification of headache. <br>''Journal of the American Medical Associati''on.179:717-718, 1962.</ref>。1988年には[[wikipedia:ja:国際頭痛学会|国際頭痛学会]]が頭痛分類と診断基準の初版<ref name=ref2><pubmed>3048700</pubmed></ref>を刊行し、2004年に第2版<ref name=ref3><pubmed>14979299</pubmed></ref>、2013年に第3版beta版<ref name=ref4><pubmed>23771276</pubmed></ref>が公開されている。第2版<ref name=ref5>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類普及委員会訳'''<br>国際頭痛分類第2版 新訂増補日本語版<br>東京: ''医学書院''; 2007.</ref>、第3版beta版の日本語版<ref name=ref6>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会訳'''<br>国際頭痛分類第3版beta版<br>東京: ''医学書院''; 2014.</ref>が書籍として刊行されており、[[wikipedia:ja:日本頭痛学会|日本頭痛学会]]のWebサイトで全文を閲覧できる。 
 頭痛の系統的分類は1962年に[[wj:アメリカ国立衛生研究所|米国衛生研究所]]のad-hoc委員会で作成された分類が、いわゆる"''ad hoc''分類"として広く認知されていた<ref name=ref1>''Headache AHCoCo'''<br>Classification of headache. <br>''Journal of the American Medical Association.''179:717-718, 1962.</ref>。1988年には[[wikipedia:ja:国際頭痛学会|国際頭痛学会]]が頭痛分類と診断基準の初版<ref name=ref2><pubmed>3048700</pubmed></ref>を刊行し、2004年に第2版<ref name=ref3><pubmed>14979299</pubmed></ref>、2013年に第3版beta版<ref name=ref4><pubmed>23771276</pubmed></ref>が公開されている。第2版<ref name=ref5>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類普及委員会訳'''<br>国際頭痛分類第2版 新訂増補日本語版<br>東京: ''医学書院''; 2007.</ref>、第3版beta版の日本語版<ref name=ref6>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会訳'''<br>国際頭痛分類第3版beta版<br>東京: ''医学書院''; 2014.</ref>が書籍として刊行されており、[[wikipedia:ja:日本頭痛学会|日本頭痛学会]]の[https://www.jhsnet.org/kokusai_new_2015.html Webサイト]で全文を閲覧できる。 


 [[wikipedia:ja:国際頭痛分類|国際頭痛分類]]は国際疾病分類との整合性に配慮されており、分類は階層化されている。さらに、各頭痛の[[操作的診断基準]]が記載されている。第1部 一次性頭痛、第2部 二次性頭痛、第3部:有痛性脳神経ニューロパチー、他の顔面痛およびその他の頭痛に大別され、14のグループに分類されている(表1)。ICHD-3βの頭分類は階層的に作成されており、コード番号が割り振られている。各頭痛性疾患には操作的診断基準が掲載されている。
 [[wikipedia:ja:国際頭痛分類|国際頭痛分類]]は[[wikipedia:ja:国際疾病分類|国際疾病分類]]との整合性に配慮されており、分類は階層化されている。さらに、各頭痛の[[操作的診断基準]]が記載されている。第1部 [[一次性頭痛]]、第2部 [[二次性頭痛]]、第3部:[[有痛性脳神経ニューロパチー]]、他の顔面痛およびその他の頭痛に大別され、14のグループに分類されている(表1)。ICHD-3βの頭分類は階層的に作成されており、コード番号が割り振られている。各頭痛性疾患には操作的診断基準が掲載されている。


 [[一次性頭痛]]は、頭痛の原因となる他の患がなく、頭痛そのものが障害となっている神経疾患である。[[片頭痛]]、[[緊張型頭痛]]、[[三叉神経自律神経性頭痛]]([[群発頭痛]])が代表的である。
 [[一次性頭痛]]は、頭痛の原因となる他の患がなく、頭痛そのものが障害となっている神経疾患である。[[片頭痛]]、[[緊張型頭痛]]、[[三叉神経・自律神経性頭痛]]([[群発頭痛]])が代表的である。


 [[二次性頭痛]]とは、頭蓋内や頭部、顔面、全身の疾患の症状として頭痛が出現するものである。二次性頭痛には、頭蓋内疾患、脳血管障害など多くの原因が挙げられる。国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)では、第二部、5章以降に掲載されている(表1)。
 [[二次性頭痛]]とは、頭蓋内や頭部、顔面、全身の疾患の症状として頭痛が出現するものである。二次性頭痛には、頭蓋内疾患、脳血管障害など多くの原因が挙げられる。国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)では、第二部、5章以降に掲載されている(表1)。
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|+ 表1.国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)の大項目(グループ) 
|+ 表1.国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)の大項目(グループ) 
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| '''第1部:[[一次性頭痛]]'''<br> 1.[[片頭痛]]<br> 2.[[緊張型頭痛]]<br> 3.[[三叉神経/自律神経性頭痛]](TACs)<br> 4.その他の一次性頭痛疾患  
| '''第1部:[[一次性頭痛]]'''<br> 1.[[片頭痛]]<br> 2.[[緊張型頭痛]]<br> 3.[[三叉神経・自律神経性頭痛]](trigeminal autonomic cephalalgias, TACs)<br> 4.その他の一次性頭痛疾患  
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| '''第2部:[[二次性頭痛]]''' <br> 5.頭頸部外傷・傷害による頭痛<br> 6.頭頸部血管障害による頭痛<br> 7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛<br> 8.物質またはその離脱による頭痛<br> 9.[[wikipedia:ja感染症|感染症]]による頭痛<br> 10.[[wikipedia:ja:ホメオスターシス|ホメオスターシス]]障害による頭痛<br> 11.[[wikipedia:ja:頭蓋骨|頭蓋骨]]、[[wikipedia:ja:頸|頸]]、[[眼]]、[[wikipedia:ja:耳|耳]]、[[wikipedia:ja:鼻|鼻]]、[[wikipedia:ja:副鼻腔|副鼻腔]]、[[wikipedia:ja:歯|歯]]、[[wikipedia:ja:口|口]]あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛<br> 12.[[精神疾患]]による頭痛
| '''第2部:[[二次性頭痛]]''' <br> 5.頭頸部外傷・傷害による頭痛<br> 6.頭頸部血管障害による頭痛<br> 7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛<br> 8.物質またはその離脱による頭痛<br> 9.[[wikipedia:ja感染症|感染症]]による頭痛<br> 10.[[wikipedia:ja:ホメオスターシス|ホメオスターシス]]障害による頭痛<br> 11.[[wikipedia:ja:頭蓋骨|頭蓋骨]]、[[wikipedia:ja:頸|頸]]、[[眼]]、[[wikipedia:ja:耳|耳]]、[[wikipedia:ja:鼻|鼻]]、[[wikipedia:ja:副鼻腔|副鼻腔]]、[[wikipedia:ja:歯|歯]]、[[wikipedia:ja:口|口]]あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛<br> 12.[[精神疾患]]による頭痛
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| '''第3部:[[有痛性脳神経ニューロパチー]]、他の顔面痛およびその他の頭痛''' <br> 13.有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛<br> 14.その他の頭痛性疾患
| '''第3部:[[有痛性脳神経ニューロパチー]]、他の顔面痛およびその他の頭痛''' <br> 13.有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛<br> 14.その他の頭痛性疾患
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==一次性頭痛==
==一次性頭痛==
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==== 分類 ====
==== 分類 ====
 前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛に大別される。ICHD-3βでは表2に示すごとくのサブタイプ、サブフォームが規定されている。
 前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛に大別される。ICHD-3βでは表2のサブタイプ、サブフォームが規定されている。


 頭痛分類における、[[前兆]](aura)は[[大脳皮質]]または[[脳幹]]の一過性局在性神経症候をさす。[[閃輝暗点]]が代表的である。[[視覚障害]]、[[感覚障害]]、[[失語性言語障害]]を典型的前兆としている。
 頭痛分類における、[[前兆]](aura)は[[大脳皮質]]または[[脳幹]]の一過性局在性神経症候をさす。[[閃輝暗点]]が代表的である。[[視覚障害]]、[[感覚障害]]、[[失語性言語障害]]を典型的前兆としている。
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|}  
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====有病率====
====疫学====
 片頭痛の有病率は北米では一般人口の13%(男性6%、女性18%)、欧州15%(男性7%、女性18%)などの報告がある<ref name=ref7>'''竹島多賀夫, 中島健二'''<br>片頭痛の疫学<br>''脳'' 21.8:411-417, 2005.</ref>。わが国のSakai&Igarashiの調査<ref name=ref8><pubmed>9051330</pubmed></ref>では、片頭痛全体で8.4%、MO 5.8%(男2.1%、女9.3%)、MA 2.6%(男1.4%、女3.6%)であった。Takeshimaらの大山町研究<ref name=ref9><pubmed>    14979878</pubmed></ref>では MO 5.2%(男1.9%、女8.1%)、MA 0.9%(男0.4%、女1.06%)であった。片頭痛は男性より女性に多く、30歳代、40歳代にピークがある。
 片頭痛の有病率は北米では一般人口の13%(男性6%、女性18%)、欧州15%(男性7%、女性18%)などの報告がある<ref name=ref7>'''竹島多賀夫, 中島健二'''<br>片頭痛の疫学<br>''脳'' 21.8:411-417, 2005.</ref>。わが国のSakai&Igarashiの調査<ref name=ref8><pubmed>9051330</pubmed></ref>では、片頭痛全体で8.4%、MO 5.8%(男2.1%、女9.3%)、MA 2.6%(男1.4%、女3.6%)であった。Takeshimaらの大山町研究<ref name=ref9><pubmed>    14979878</pubmed></ref>では MO 5.2%(男1.9%、女8.1%)、MA 0.9%(男0.4%、女1.06%)であった。片頭痛は男性より女性に多く、30歳代、40歳代にピークがある。


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====病因と病態仮説====
====病因と病態仮説====
 歴史的には、血管説、神経説、[[セロトニン]]学説、[[wikipedia:ja:血小板|血小板]]説などが提唱されてきた。近年の神経科学的知見から、片頭痛の疼痛は、脳硬膜の三叉神経血管系の[[神経原性炎症]]とその後惹起される神経感作が主たる病態と理解されている(三叉神経血管説<ref name=ref10><pubmed>8217498</pubmed></ref>)。神経原性炎症には[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]]([[CGRP]])が重要な関与をしている。この他、発痛物質[[サブスタンスP]]、セロトニン、[[ヒスタミン]]なども神経原性炎症の進展に関与すると考えられている。
 歴史的には、血管説、神経説、[[セロトニン]]学説、[[wikipedia:ja:血小板|血小板]]説などが提唱されてきた。近年の神経科学的知見から、片頭痛の疼痛は、脳硬膜の三叉神経血管系の[[神経原性炎症]]とその後惹起される神経感作が主たる病態と理解されている(三叉神経血管説<ref name=ref10><pubmed>8217498</pubmed></ref>)。神経原性炎症には[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]]([[CGRP]])が重要な関与をしている。この他、発痛物質[[サブスタンスP]]、セロトニン、[[ヒスタミン]]なども神経原性炎症の進展に関与すると考えられている。


 前兆のある片頭痛でみられる、閃輝暗点は、大脳皮質[[後頭葉]][[視覚野]]で、発生する皮質拡延性抑制がその本態であると考えられている<ref name=ref11><pubmed>11287655</pubmed></ref> <ref name=ref12>'''古和久典'''<br>片頭痛のメカニズム In: 竹島多賀夫、ed. 頭痛治療薬の考え方、使い方<br>東京: ''中外医学社''; 2015:9-16.</ref>。
 前兆のある片頭痛でみられる、閃輝暗点は、大脳皮質[[後頭葉]][[視覚野]]で発生する皮質拡延性抑制がその本態であると考えられている<ref name=ref11><pubmed>11287655</pubmed></ref> <ref name=ref12>'''古和久典'''<br>片頭痛のメカニズム In: 竹島多賀夫、ed. 頭痛治療薬の考え方、使い方<br>東京: ''中外医学社''; 2015:9-16.</ref>。


 [[神経原性炎症]]と皮質拡延性抑制のより上流の病態として、[[視床下部]]や脳幹の異常を片頭痛発生器(generator)として想定する仮設も提唱されている。
 [[神経原性炎症]]と皮質拡延性抑制のより上流の病態として、[[視床下部]]や脳幹の異常を片頭痛発生器(generator)として想定する仮設も提唱されている。


 家族性片麻痺性片頭痛では、[[Ca2+チャンネル遺伝子|Ca<sup>2+</sup>チャンネル遺伝子]][[CACNA1A]])の変異が発見され、その後、[[ATP1A2]]遺伝子や[[SCN1A]]遺伝子の変異が報告されている<ref name=ref13>'''竹島多賀夫、今村恵子、中島健二'''<br>【頭痛診療の進歩】 頭痛発症に関与する遺伝子 片麻痺性片頭痛<br>''神経内科'' 66:244-251, 2007.</ref>。いずれも[[イオンチャンネル]]に関連する遺伝子であり、片頭痛はチャンネル病であるとの説も唱えられているが、片頭痛全般に一般化できるかどうかはさらなる検討が必要である。
 家族性片麻痺性片頭痛では、[[Ca2+チャンネル|Ca<sup>2+</sup>チャンネル]]遺伝子([[CACNA1A]])の変異が発見され、その後、[[ATP1A2]]遺伝子や[[SCN1A]]遺伝子の変異が報告されている<ref name=ref13>'''竹島多賀夫、今村恵子、中島健二'''<br>【頭痛診療の進歩】 頭痛発症に関与する遺伝子 片麻痺性片頭痛<br>''神経内科'' 66:244-251, 2007.</ref>。いずれも[[イオンチャネル]]に関連する遺伝子であり、片頭痛はチャネル病であるとの説も唱えられているが、片頭痛全般に一般化できるかどうかはさらなる検討が必要である。


====治療====
====治療====
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'''急性期薬物治療''':片頭痛発作時に頭痛を頓挫させる目的で使用する。[[鎮痛薬]]、[[非ステロイド性抗炎症薬]]([[NSAIDs]])、[[エルゴタミン]]、[[トリプタン]]などが用いられる<ref name=ref14>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>Ⅱ片頭痛 2 -2  片頭痛の急性期治療には、どのような方法があり、どのように使用するか<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:114-117.</ref>。随伴症状の悪心、嘔吐の改善にためには、[[制吐剤]]を併用する<ref name=ref15>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>Ⅱ片頭痛 2 -8 急性期治療において制吐薬の使用は有用か<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:131-132.</ref>。
'''急性期薬物治療''':片頭痛発作時に頭痛を頓挫させる目的で使用する。[[鎮痛薬]]、[[非ステロイド性抗炎症薬]]([[NSAIDs]])、[[エルゴタミン]]、[[トリプタン]]などが用いられる<ref name=ref14>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>Ⅱ片頭痛 2 -2  片頭痛の急性期治療には、どのような方法があり、どのように使用するか<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:114-117.</ref>。随伴症状の悪心、嘔吐の改善にためには、[[制吐剤]]を併用する<ref name=ref15>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>Ⅱ片頭痛 2 -8 急性期治療において制吐薬の使用は有用か<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:131-132.</ref>。
#鎮痛薬、非[[ステロイド]]性抗炎症薬(NSAIDs):[[アセトアミノフェン]]、[[アスピリン]]、[[複合鎮痛薬]]、[[インドメタシン]]、[[cox-2阻害薬]]など
#鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):[[アセトアミノフェン]]、[[アスピリン]]、[[複合鎮痛薬]]、[[インドメタシン]]、[[cox-2阻害薬]]など
#エルゴタミン: [[クリアミン]]
#エルゴタミン: [[クリアミン]]
#[[トリプタン]]:セロトニン作動薬: セロトニンアナログ: [[スマトリプタン]]、[[ゾルミトリプタン]]、[[エレトリプタン]]、[[リザトリプタン]]、[[ナラトリプタン]]などがある。片頭痛特異的治療薬として広く使用されている。
#[[トリプタン]]:セロトニン作動薬: セロトニンアナログ: [[スマトリプタン]]、[[ゾルミトリプタン]]、[[エレトリプタン]]、[[リザトリプタン]]、[[ナラトリプタン]]などがある。片頭痛特異的治療薬として広く使用されている。
#[[ゲパント]]:CGRP[[拮抗薬]](本邦未承認)
#[[ゲパント]]:CGRP[[拮抗薬]](本邦未承認)
#抗CGRP抗体、抗CGRP受容体抗体:開発中
#抗CGRP抗体、抗[[CGRP受容体]]抗体:開発中
'''予防薬''':頭痛発作頻度が高い場合、急性期治療薬で十分なQOL改善が得られない場合に使用する。[[Ca2+拮抗薬|Ca<sup>2+</sup>拮抗薬]]([[ロメリジン]]、[[ベラパミル]])、[[β遮断薬]]([[プロプラノロール]]、[[メトプロロール]])、[[抗てんかん薬]]([[バルプロ酸]]、[[トピラマート]])、[[抗うつ薬]]([[アミトリプチリン]])、[[アンジオテンシン受容体ブロッカー]] [[ARB]]([[カンデサルタン]])、[[ACE阻害剤]]([[リシノプリル]])などが使用される<ref name=ref16>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>II 片頭痛  3. 予防療法<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:145-187.</ref>。漢方薬では、呉茱萸湯が有効とされている。[[ビタミンB2]]や、サプリメントのfeverfewも有用性が示されている。
'''予防薬''':頭痛発作頻度が高い場合、急性期治療薬で十分なQOL改善が得られない場合に使用する。[[Ca2+拮抗薬|Ca<sup>2+</sup>拮抗薬]]([[ロメリジン]]、[[ベラパミル]])、[[β遮断薬]]([[プロプラノロール]]、[[メトプロロール]])、[[抗てんかん薬]]([[バルプロ酸]]、[[トピラマート]])、[[抗うつ薬]]([[アミトリプチリン]])、[[アンジオテンシン受容体ブロッカー]] [[ARB]]([[カンデサルタン]])、[[ACE阻害剤]]([[リシノプリル]])などが使用される<ref name=ref16>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>II 片頭痛  3. 予防療法<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:145-187.</ref>。漢方薬では、[[呉茱萸湯]]が有効とされている。[[ビタミンB2]]や、サプリメントの[[wj:ナツシロギク#利用|feverfew]]も有用性が示されている。


 非薬物療法として、[[運動療法]]や、[[認知行動療法]]、[[リラクセーション]]、[[鍼灸療法]]もおこなわれる。片頭痛の運動療法は非発作時に実施する。頭痛発作中は運動により頭痛が増悪する。
 非薬物療法として、[[運動療法]]や、[[認知行動療法]]、[[リラクセーション]]、[[鍼灸療法]]もおこなわれる。片頭痛の運動療法は非発作時に実施する。頭痛発作中は運動により頭痛が増悪する。
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 1. 1.1「前兆のない片頭痛」の診断基準C とD を満たす<br>
 1. 1.1「前兆のない片頭痛」の診断基準C とD を満たす<br>
 2. 1.2「前兆のある片頭痛」の診断基準B とCを満たす<br>
 2. 1.2「前兆のある片頭痛」の診断基準B とCを満たす<br>
 3. 発症時には片頭痛であったと患者が考えており、トリプタンあるいは麦角誘導体で改善する
 3. 発症時には片頭痛であったと患者が考えており、トリプタンあるいは[[麦角誘導体]]で改善する
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| D.ほかに最適なICHD-3の診断がない
| D.ほかに最適なICHD-3の診断がない
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===三叉神経自律神経性頭痛(群発頭痛)===
===三叉神経・自律神経性頭痛(群発頭痛)===
 [[群発頭痛]]は、[[眼窩]]、眼窩周囲、前頭部、側頭部の三叉神経領域の激痛と、眼充血、流涙、鼻汁漏などの自律神経症状で特徴づけられる頭痛性疾患である。頭痛発作は15分から3時間程度の持続で連日おこり、数カ月間の群発期が過ぎると自然に消退する<ref name=ref6 />。
 [[群発頭痛]]は、[[眼窩]]、眼窩周囲、前頭部、側頭部の三叉神経領域の激痛と、眼充血、流涙、鼻汁漏などの自律神経症状で特徴づけられる頭痛性疾患である。頭痛発作は15分から3時間程度の持続で連日おこり、数カ月間の群発期が過ぎると自然に消退する<ref name=ref6 />。


 2004年の国際頭痛分類第2版で、発作性片側頭痛などの群発頭痛類縁疾患と合わせて三叉神経/自律神経性頭痛(TACs)としてまとめられた。ICHD-3βではさらにサブタイプの追加整理がなされている(表6)
 2004年の国際頭痛分類第2版で、発作性片側頭痛などの群発頭痛類縁疾患と合わせて三叉神経・自律神経性頭痛(trigeminal autonomic cephalalgias, TACs)としてまとめられた。ICHD-3βではさらにサブタイプの追加整理がなされている(表6)
==== 疫学 ====
==== 疫学 ====
 群発頭痛の有病率は10万人あたり56~401人程度と報告されている<ref name=ref20>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛  3. 群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭痛にはどの程度の患者が存在するか.危険因子、増悪因子にはどのようなものが存在するか.<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:221-222.</ref>。
 群発頭痛の有病率は10万人あたり56~401人程度と報告されている<ref name=ref20>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛  3. 群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭痛にはどの程度の患者が存在するか.危険因子、増悪因子にはどのようなものが存在するか.<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:221-222.</ref>。
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'''予防療法''':群発期には発作頻度の低減、頭痛強度の軽減のため予防療法を行う。[[ベラパミル]]、[[副腎皮質ステロイド]]ホルモンなどが使用される<ref name=ref23>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛  6. 群発頭痛発作期の予防療法にはどのような薬剤があり、どの程度有効か<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: 医学書院; 2013:229-232.</ref>。
'''予防療法''':群発期には発作頻度の低減、頭痛強度の軽減のため予防療法を行う。[[ベラパミル]]、[[副腎皮質ステロイド]]ホルモンなどが使用される<ref name=ref23>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛  6. 群発頭痛発作期の予防療法にはどのような薬剤があり、どの程度有効か<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: 医学書院; 2013:229-232.</ref>。


 群発頭痛の他、発作性片側頭痛、短時間持続性片側神経痛様頭痛発作、持続性片側頭痛などが記載されている。発作性片側頭痛と、持続性片側頭痛はインドメタシンが著効する。診断基準にもインドメタシンへの反応性が規定されており、インドメタシン反応性頭痛として纏められることもある<ref name=ref24>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛  7. 発作性片側頭痛治療薬にはどのような種類があり、どの程度有効か<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編, ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:233-234.</ref>。
 群発頭痛の他、[[発作性片側頭痛]]、[[短時間持続性片側神経痛様頭痛発作]]、[[持続性片側頭痛]]などが記載されている。発作性片側頭痛と、持続性片側頭痛はインドメタシンが著効する。診断基準にもインドメタシンへの反応性が規定されており、[[インドメタシン反応性頭痛]]として纏められることもある<ref name=ref24>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛  7. 発作性片側頭痛治療薬にはどのような種類があり、どの程度有効か<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編, ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:233-234.</ref>。


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===その他の一次性頭痛===
===その他の一次性頭痛===
 片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経自律神経性頭痛が主要な一次性頭痛であるが、その他の一次性頭痛として表8のようなものが記載されている<ref name=ref6 />。[[一次性雷鳴頭痛]]は、[[くも膜下出血]]の際の頭痛に類似した突発性の激しい頭痛であるが、他に原因となる疾患がないものである。6.7.3 「[[可逆性脳血管攣縮症候群]](RCVS)による頭痛」との鑑別が問題となる。
 片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛が主要な一次性頭痛であるが、その他の一次性頭痛として表8のようなものが記載されている<ref name=ref6 />。[[一次性雷鳴頭痛]]は、[[くも膜下出血]]の際の頭痛に類似した突発性の激しい頭痛であるが、他に原因となる疾患がないものである。6.7.3 「[[可逆性脳血管攣縮症候群]](RCVS)による頭痛」との鑑別が問題となる。


 「冷たいものの摂取または冷気吸息による頭痛」は、かき氷を摂取した際に多くの人が経験する頭痛である。[[アイスクリーム頭痛]]と称されることもある。
 「[[冷たいものの摂取または冷気吸息による頭痛]]」は、かき氷を摂取した際に多くの人が経験する頭痛である。[[アイスクリーム頭痛]]と称されることもある。


 [[睡眠時頭痛]]は[[目覚まし時計頭痛]]とも称される。夜間に一定の時刻に頭痛で目覚めるが、群発頭痛にみられるような自律神経症状を伴わない。[[カフェイン]]や[[リチウム]]が有効である。
 [[睡眠時頭痛]]は[[目覚まし時計頭痛]]とも称される。夜間に一定の時刻に頭痛で目覚めるが、群発頭痛にみられるような自律神経症状を伴わない。[[カフェイン]]や[[リチウム]]が有効である。
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|6.4 [[動脈炎]]による頭痛<br>
|6.4 [[動脈炎]]による頭痛<br>
 6.4.1 [[巨細胞性動脈炎]]([[GCA]])による頭痛<br>
 6.4.1 [[巨細胞性動脈炎]](GCA)による頭痛<br>
 6.4.2 [[中枢神経系原発性血管炎]](PACNS)による頭痛<br>
 6.4.2 [[中枢神経系原発性血管炎]](PACNS)による頭痛<br>
 6.4.3 [[中枢神経系続発性血管炎]](SACNS)による頭痛<br>
 6.4.3 [[中枢神経系続発性血管炎]](SACNS)による頭痛<br>
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 6.8.3 その他の遺伝性血管異常症による頭痛
 6.8.3 その他の遺伝性血管異常症による頭痛
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|6.9 下垂体卒中による頭痛
|6.9 [[下垂体卒中]]による頭痛
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===非血管性頭蓋内疾患による頭痛===  
===非血管性頭蓋内疾患による頭痛===  
 7.1 「頭蓋内圧亢進性頭痛」、7.2 「低[[髄液]]圧による頭痛」、7.3 「非感染性炎症疾患性頭痛」、7.4 「頭蓋内新生物による頭痛」、7.5 「髄注による頭痛」、7.6 「てんかん発作による頭痛」、7.7 「キアリ奇形I 型(CM1)による頭痛」、7.8 「その他の非血管性頭蓋内疾患による頭痛」が掲載されている。[[キアリ奇形]]I 型(CM1)による頭痛は、咳嗽やヴァルサルヴァ手技により増悪することも特徴であり、4.1「一次性咳嗽性頭痛」との鑑別が重要である。
 7.1 「頭蓋内圧亢進性頭痛」、7.2 「低[[髄液]]圧による頭痛」、7.3 「非感染性炎症疾患性頭痛」、7.4 「頭蓋内新生物による頭痛」、7.5 「髄注による頭痛」、7.6 「てんかん発作による頭痛」、7.7 [[キアリ奇形]]I 型(CM1)による頭痛」、7.8 「その他の非血管性頭蓋内疾患による頭痛」が掲載されている。キアリ奇形I 型(CM1)による頭痛は、咳嗽やヴァルサルヴァ手技により増悪することも特徴であり、4.1「一次性咳嗽性頭痛」との鑑別が重要である。


===物質またはその離脱による頭痛===
===物質またはその離脱による頭痛===
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===ホメオスターシス障害による頭痛===
===ホメオスターシス障害による頭痛===
 10.1.2 「[[飛行機頭痛]]」が、ICHD-3βでこの章に加えられた。また、付録にはA10.8.1「宇宙飛行による頭痛」も加えられている。10.3「[[高血圧性頭痛]]」もここで定義されている。通常の高血圧は頭痛の原因とみなされず、多くは頭痛の結果として血圧が上昇傾向にあるということにも注意が必要である(表11)。
 10.1.2 「[[飛行機頭痛]]」が、ICHD-3βでこの章に加えられた。また、付録にはA10.8.1「[[宇宙飛行による頭痛]]」も加えられている。10.3「[[高血圧性頭痛]]」もここで定義されている。通常の高血圧は頭痛の原因とみなされず、多くは頭痛の結果として血圧が上昇傾向にあるということにも注意が必要である(表11)。


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{| class="wikitable"  
|+ 表11.10. ホメオスターシスの障害による頭痛(ICHD-3β)
|+ 表11.10. ホメオスターシスの障害による頭痛(ICHD-3β)
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|10.1低酸素血症あるいは高炭酸ガス血症による頭痛<br>
|10.1 [[低酸素血症]]あるいは[[高炭酸ガス血症]]による頭痛<br>
 10.1.1 高山性頭痛<br>
 10.1.1 [[高山性頭痛]]<br>
 10.1.2 飛行機頭痛<br>
 10.1.2 [[飛行機頭痛]]<br>
 10.1.3 潜水時頭痛<br>
 10.1.3 [[潜水時頭痛]]<br>
 10.1.4 睡眠時無呼吸性頭痛
 10.1.4 [[睡眠時無呼吸性頭痛]]
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|10.2 透析頭痛
|10.2 [[透析頭痛]]
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|10.3 高血圧性頭痛<br>
|10.3 [[高血圧性頭痛]]<br>
 10.3.1 褐色細胞腫による頭痛<br>
 10.3.1 [[褐色細胞腫]]による頭痛<br>
 10.3.2 高血圧性脳症のない高血圧性クリーゼによる頭痛<br>
 10.3.2 [[高血圧性脳症]]のない[[高血圧性クリーゼ]]による頭痛<br>
 10.3.3 高血圧性脳症による頭痛<br>
 10.3.3 [[高血圧性脳症]]による頭痛<br>
 10.3.4 子癇前症または子癇による頭痛<br>
 10.3.4 [[子癇前症]]または[[子癇]]による頭痛<br>
 10.3.5 自律神経反射障害による頭痛
 10.3.5 [[自律神経反射障害]]による頭痛
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|10.4 甲状腺機能低下症による頭痛
|10.4 [[甲状腺機能低下症]]による頭痛
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|10.5 絶食による頭痛
|10.5 絶食による頭痛
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|10.6 心臓性頭痛
|10.6 [[心臓性頭痛]]
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|10.7 その他のホメオスターシス障害による頭痛  
|10.7 その他のホメオスターシス障害による頭痛  
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===頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛===
===頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛===
 ICHD-2のA11.5.1「鼻粘膜接触点頭痛」はA11.5.3「鼻粘膜、鼻甲介、鼻中隔の障害による頭痛」に集約されている(表12)。
 ICHD-2のA11.5.1「[[鼻粘膜接触点頭痛]]」はA11.5.3「[[鼻粘膜、鼻甲介、鼻中隔の障害による頭痛]]」に集約されている(表12)。


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{| class="wikitable"  
|+ 表12.11.頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛(ICHD-3β、抜粋)
|+ 表12.11.頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛(ICHD-3β、抜粋)
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|11.1 頭蓋骨疾患による頭痛(Headache attributed to disorder of cranial bone)
|11.1 [[頭蓋骨疾患による頭痛]](Headache attributed to disorder of cranial bone)
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|11.2 頸部疾患による頭痛 (Headache attributed to disorder of the neck)
|11.2 [[頸部疾患による頭痛]] (Headache attributed to disorder of the neck)
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|11.3 眼疾患による頭痛 (Headache attributed to disorder of the eyes)
|11.3 [[眼疾患による頭痛]] (Headache attributed to disorder of the eyes)
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|11.4 耳疾患による頭痛 (Headache attributed to disorder of the ears)
|11.4 [[耳疾患による頭痛]] (Headache attributed to disorder of the ears)
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|11.5 鼻・副鼻腔疾患による頭痛 (Headache attributed to disorder of the nose or paranasal sinuses)
|11.5 [[鼻・副鼻腔疾患による頭痛]] (Headache attributed to disorder of the nose or paranasal sinuses)
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|11.6 歯・顎の障害による頭痛(Headache attributed to disorder of the teeth or jaw)
|11.6 [[歯・顎の障害による頭痛]](Headache attributed to disorder of the teeth or jaw)
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|11.7 顎関節症(TMD)による頭痛 (Headache attributed to temporomandibular disorder:TMD)
|11.7 [[顎関節症(TMD)による頭痛]] (Headache attributed to temporomandibular disorder:TMD)
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|11.8 茎突舌骨靱帯炎による頭痛あるいは顔面痛 (Head or facial pain attributed to inflammation of the stylohyoid ligament)
|11.8 [[茎突舌骨靱帯炎による頭痛あるいは顔面痛]] (Head or facial pain attributed to inflammation of the stylohyoid ligament)
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|11.9 その他の頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛
|11.9 [[その他の頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛]]
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|}  
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===精神疾患による頭痛===
===精神疾患による頭痛===
 12.1「身体化障害による頭痛」 12.2「[[精神病性障害]]による頭痛」が掲載されている。付録には、A12.3 「うつ病による頭痛」、A12.4 分離[[不安症]]/分離[[不安障害]]による頭痛」、A12.5 「[[パニック症]]/パニック障害による頭痛」、A12.6 「限局性恐怖症による頭痛」、A12.7 「[[社交不安症]]/社交不安障害(社交恐怖)による頭痛)、A12.8 「全般性不安症/全般性不安障害による頭痛」、A12.9 「[[心的外傷後ストレス障害]]による頭痛」、A12.10 「急性ストレス障害による頭痛」が掲載されている。付録診断基準は、今後検証が必要な研究のための基準であるが、[[精神疾患]]による頭痛の付録基準は日常診療でも使用可能と考えられている。
 12.1「[[身体化障害]]による頭痛」 12.2「[[精神病性障害]]による頭痛」が掲載されている。付録には、A12.3 「[[うつ病]]による頭痛」、A12.4 [[分離不安症]]/[[分離不安障害]]による頭痛」、A12.5 「[[パニック症]]/[[パニック障害]]による頭痛」、A12.6 「[[限局性恐怖症]]による頭痛」、A12.7 「[[社交不安症]]/[[社交不安障害]](社交恐怖)による頭痛)、A12.8 「[[全般性不安症]]/[[全般性不安障害]]による頭痛」、A12.9 「[[心的外傷後ストレス障害]]による頭痛」、A12.10 「[[急性ストレス障害]]による頭痛」が掲載されている。付録診断基準は、今後検証が必要な研究のための基準であるが、[[精神疾患]]による頭痛の付録基準は日常診療でも使用可能と考えられている。


==有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛==
==有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛==
 三叉神経痛をはじめ各種神経痛、有痛性脳神経ニューロパチーが掲載されている(表13)。
 [[三叉神経痛]]をはじめ各種神経痛、[[有痛性脳神経ニューロパチー]]が掲載されている(表13)。


 症候性三叉神経痛(symptomatic trigeminal neuralgia)の名称がICHD-3βでは有痛性三叉神経ニューロパチー(painful trigeminal neuropathy)に変更された。ICHD-2の13.17「眼筋麻痺性片頭痛」は以前より片頭痛のサブフォームではなく、ニューロパチーと考えられており、13章に分類されていたが、ICHD-3βでは“片頭痛”の用語が消え 13.6「虚血性眼球運動麻痺による頭痛」に包括された。
 [[症候性三叉神経痛]](symptomatic trigeminal neuralgia)の名称がICHD-3βでは[[有痛性三叉神経ニューロパチー]](painful trigeminal neuropathy)に変更された。ICHD-2の13.17「[[眼筋麻痺性片頭痛]]」は以前より片頭痛のサブフォームではなく、ニューロパチーと考えられており、13章に分類されていたが、ICHD-3βでは“片頭痛”の用語が消え 13.6「虚血性眼球運動麻痺による頭痛」に包括された。


{| class="wikitable"  
{| class="wikitable"  
|+ 表13.11.頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛(ICHD-3β、抜粋)
|+ 表13.11.[[頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛]](ICHD-3β、抜粋)
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|13.1 三叉神経痛(Trigeminal neuralgia)<br>
|13.1 [[三叉神経痛]](Trigeminal neuralgia)<br>
 13.1.1 典型的三叉神経痛 (Classical trigeminal neuralgia)<br>
 13.1.1 [[典型的三叉神経痛]] (Classical trigeminal neuralgia)<br>
  13.1.1.1 典型的三叉神経痛,純粋発作性 (Classical trigeminal neuralgia, purely paroxysmal)<br>
  13.1.1.1 典型的三叉神経痛、純粋発作性 (Classical trigeminal neuralgia, purely paroxysmal)<br>
  13.1.1.2 持続性顔面痛を伴う典型的三叉神経痛(Classical trigeminal neuralgia with concomitant persistent facial pain)<br>
  13.1.1.2 持続性顔面痛を伴う典型的三叉神経痛(Classical trigeminal neuralgia with concomitant persistent facial pain)<br>
 13.1.2 有痛性三叉神経ニューロパチー (Painful trigeminal neuropathy)<br>
 13.1.2 [[有痛性三叉神経ニューロパチー]] (Painful trigeminal neuropathy)<br>
  13.1.2.1 急性帯状疱疹による有痛性三叉神経ニューロパチー (Painful trigeminal neuropathy attributed to acute Herpes zoster)<br>
  13.1.2.1 [[急性帯状疱疹]]による有痛性三叉神経ニューロパチー (Painful trigeminal neuropathy attributed to acute Herpes zoster)<br>
  13.1.2.2 帯状疱疹後三叉神経ニューロパチー (Post-herpetic trigeminal neuropathy)<br>
  13.1.2.2 [[帯状疱疹後三叉神経ニューロパチー]] (Post-herpetic trigeminal neuropathy)<br>
  13.1.2.3 外傷後有痛性三叉神経ニューロパチー(Painful post-traumatic trigeminal neuropathy)<br>
  13.1.2.3 [[外傷後有痛性三叉神経ニューロパチー]](Painful post-traumatic trigeminal neuropathy)<br>
  13.1.2.4 多発性硬化症(MS)プラークによる有痛性三叉神経ニューロパチー 〔Painful trigeminal neuropathy attributed to multiple sclerosis (MS) plaque〕<br>
  13.1.2.4 [[多発性硬化症]](MS)プラークによる有痛性三叉神経ニューロパチー 〔Painful trigeminal neuropathy attributed to multiple sclerosis (MS) plaque〕<br>
  13.1.2.5 占拠性病変による有痛性三叉神経ニューロパチー(Painful trigeminal neuropathy attributed to spaceoccupying lesion)<br>
  13.1.2.5 占拠性病変による有痛性三叉神経ニューロパチー(Painful trigeminal neuropathy attributed to spaceoccupying lesion)<br>
  13.1.2.6 その他の疾患による有痛性三叉神経ニューロパチー (Painful trigeminal neuropathy attributed to other disorder)<br>
  13.1.2.6 その他の疾患による有痛性三叉神経ニューロパチー (Painful trigeminal neuropathy attributed to other disorder)<br>
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|13.2 舌咽神経痛(Glossopharyngeal neuralgia)
|13.2 [[舌咽神経痛]](Glossopharyngeal neuralgia)
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|13.3 中間神経(顔面神経)痛 〔Nervus intermedius( facial nerve) neuralgia〕
|13.3 [[中間神経(顔面神経)痛]] 〔Nervus intermedius( facial nerve) neuralgia〕
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|13.4 後頭神経痛(Occipital neuralgia)
|13.4 [[後頭神経痛]](Occipital neuralgia)
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|13.5 視神経炎(Optic neuritis)
|13.5 [[視神経炎]](Optic neuritis)
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|13.6 虚血性眼球運動神経麻痺による頭痛 (Headache attributed to ischaemic ocular motor nerve palsy)
|13.6 [[虚血性眼球運動神経麻痺]]による頭痛 (Headache attributed to ischaemic ocular motor nerve palsy)
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|13.7 トロサ・ハント症候群(Tolosa-Hunt syndrome)
|13.7 [[トロサ・ハント症候群]](Tolosa-Hunt syndrome)
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|13.8 傍三叉神経性眼交感症候群(レーダー症候群) 〔Paratrigeminal oculosympathetic( Raeder’s) syndrome〕
|13.8 [[傍三叉神経性眼交感症候群]]([[レーダー症候群]]) 〔Paratrigeminal oculosympathetic( Raeder's) syndrome〕
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|13.9 再発性有痛性眼筋麻痺性ニューロパチー(Recurrent painful ophthalmoplegic neuropathy)
|13.9 [[再発性有痛性眼筋麻痺性ニューロパチー]](Recurrent painful ophthalmoplegic neuropathy)
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|13.10  口腔内灼熱症候群(BMS) (Burning mouth syndrome:BMS)
|13.10 [[口腔内灼熱症候群]](BMS) (Burning mouth syndrome:BMS)
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|13.11  持続性特発性顔面痛(PIFP) (Persistent idiopathic facial pain:PIFP)
|13.11 [[持続性特発性顔面痛]](PIFP) (Persistent idiopathic facial pain:PIFP)
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|13.12  中枢性神経障害性疼痛 (Central neuropathic pain)
|13.12 [[中枢性神経障害性疼痛]] (Central neuropathic pain)
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==その他の頭痛性疾患==
==その他の頭痛性疾患==
 第14章には14.1 「分類不能の頭痛」、14.2「詳細不明の頭痛」が掲載されている。ICHD-3βの頭痛分類のいずれにも該当しないものは「分類不能の頭痛」として記載しておき、将来の知見の集積をまつように設計されている。
 第14章には14.1 「[[分類不能の頭痛]]」、14.2「[[詳細不明の頭痛]]」が掲載されている。ICHD-3βの頭痛分類のいずれにも該当しないものは「分類不能の頭痛」として記載しておき、将来の知見の集積をまつように設計されている。


 頭痛の存在は確実であるが、正確な頭痛の分類に必要な情報が不足している場合には「詳細不明の頭痛」としてコード化しておく。
 頭痛の存在は確実であるが、正確な頭痛の分類に必要な情報が不足している場合には「詳細不明の頭痛」としてコード化しておく。
付記: 頭痛性疾患の同義語と用語の変遷について簡単に記す。頭痛名は国際頭痛分類第3版beta版に従うのが原則であり、特に頭痛研究、専門的頭痛診療では厳密に準拠して使用する必要がある。以前の文献には異なる名称が用いられていたものが多数あり、疾患理解の進歩、概念の変遷に伴い名称が変更されてきている。 
* 前兆のない片頭痛(Migraine without aura): 「前兆を伴わない片頭痛」と訳されていたが国際頭痛分類第2版日本語版(2004)で「前兆のない片頭痛」に改訂された。普通型片頭痛(common migraine)、単純片側頭痛(hemicrania simplex)は前兆のない片頭痛(Migraine without aura)とほぼ同義である。
* 前兆のある片頭痛(migraine with aura):同様に「前兆を伴う片頭痛」から改訂された。典型的または古典的片頭痛(classic or classical migraine)は前兆のある片頭痛(migraine with aura)とほぼ同義である。
* 脳幹性前兆を伴う片頭痛(migraine with brainstem aura): 脳底動脈片頭痛(basilar artery migraine)、脳底片頭痛(basilar migraine)、脳底型片頭痛(basilar-type migraine)とほぼ同義である。以前は脳底動脈の収縮による虚血が中心的病態と考えられたが、脳底動脈の関与のエビデンスが乏しいことから「脳底型」に変更され、さらに「脳幹性前兆」に変更された。Migraine stupor、confusional migraineは意識障害を伴う片頭痛発作に用いられた用語であるが、多くは「脳幹性前兆を伴う片頭痛」あるいは、「遷延性前兆で脳梗塞を伴わないもの」に該当する。現在は頭痛診断名としては用いない。
* 片頭痛の合併症(complications of migraine):表2に示したサブフォームがある。以前用いられた複雑(型)片頭痛(complicated migraine, complex migraine)は研究者により内容が異なる。通常の片頭痛とは異なるという意味で用いられる場合と、前兆の遷延や脳梗塞の併発に用いられる場合などがあった。
* 片頭痛に関連する周期性症候群(episodic syndromes that may be associated with migraine)には、表2に示すごとく腹部片頭痛(abdominal migraine)や、良性発作性めまい(benign paroxysmal vertigo)が含まれる。これら頭痛以外の症状が発作性反復性に発現し片頭痛と同等と考えられるものを、片頭痛等価症(migraine equivalent)と記載されることがある。ICHD-2では小児周期性症候群(片頭痛に移行することが多いもの)[childhood periodic syndromes that are commonly precursor of migraine]として記載されていた。
* 緊張型頭痛(tension-type headache): 緊張性頭痛(tension headache)、筋収縮性頭痛(muscle contraction headache)はほぼ同義に使用されてきた。ストレス頭痛(stress headache)、本態性頭痛(essential headache)、特発性頭痛(idiopathic headache)および心因性頭痛(psychogenic headache)も大部分は現在の緊張型頭痛に該当するが、個々の研究により定義が異なり、片頭痛の一部が含まれる場合や、精神疾患による頭痛、身体化障害による頭痛が含まれると考えられる場合などがある。
* 群発頭痛(Cluster headache):毛様体神経痛(ciliary neuralgia)、ヒスタミン性頭痛(histaminic cephalalgia)、ホートン頭痛(Horton's headache)などの記載が用いられていたが、現在はほとんど使用されなくなった。


==参考文献==
==参考文献==
<references />
<references />

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