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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0192907 大塚 俊之]</font><[[br]]> | |||
''京都大学 ウイルス研究所 増殖制御学研究分野''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月22日 原稿完成日:2013年3月25日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br> | |||
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{{Pfam_box | {{Pfam_box | ||
| Symbol = bHLH | | Symbol = bHLH | ||
| Name = basic helix-loop-helix DNA-binding domain | | Name = basic helix-loop-helix DNA-binding domain | ||
| image = | | image = 1MDY.pdb | ||
| width = | | width = 250 | ||
| caption = | | caption = DNAに結合したbHLH型転写因子MyoD。{{PDB2|1mdy}}による<ref><pubmed> 8181063 </pubmed></ref>。 | ||
| Pfam = PF00010 | | Pfam = PF00010 | ||
| InterPro = IPR001092 | | InterPro = IPR001092 | ||
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英語名:basic helix-loop-helix (bHLH) transcription factor | 英語名:basic helix-loop-helix (bHLH) transcription factor | ||
{{box|text= | |||
塩基性 helix-loop-helix (bHLH) 因子とは、[[wikipedia:ja:DNA|DNA]]結合ドメインである塩基性 (basic) 領域とタンパク質相互作用に働くHLHモチーフを有する[[転写因子]]の一群である。神経系に限らず各種組織の発生・分化における様々な局面を制御し、種々の細胞への運命決定を行うことにより、細胞の多様性を生み出す上で重要な働きをすることが知られている。 | 塩基性 helix-loop-helix (bHLH) 因子とは、[[wikipedia:ja:DNA|DNA]]結合ドメインである塩基性 (basic) 領域とタンパク質相互作用に働くHLHモチーフを有する[[転写因子]]の一群である。神経系に限らず各種組織の発生・分化における様々な局面を制御し、種々の細胞への運命決定を行うことにより、細胞の多様性を生み出す上で重要な働きをすることが知られている。 | ||
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またニューロンサブタイプの決定や[[グリア細胞]]分化を制御するbHLH因子も知られており、脳の複雑な細胞構築及び形態形成において、各種bHLH因子による協調的分化制御が重要な役割を担っている<ref><pubmed> 12848929 </pubmed></ref><ref>''' Toshiyuki Ohtsuka, Ryoichiro Kageyama '''<br> The Basic Helix-Loop-Helix Transcription Factors in Neural Differentiation.fckLR<br>'' Cell Cycle Regulation and Differentiation in Cardiovascular and Neural Systems. Springer Science+Business Media, LLC '':2010</ref>。 | またニューロンサブタイプの決定や[[グリア細胞]]分化を制御するbHLH因子も知られており、脳の複雑な細胞構築及び形態形成において、各種bHLH因子による協調的分化制御が重要な役割を担っている<ref><pubmed> 12848929 </pubmed></ref><ref>''' Toshiyuki Ohtsuka, Ryoichiro Kageyama '''<br> The Basic Helix-Loop-Helix Transcription Factors in Neural Differentiation.fckLR<br>'' Cell Cycle Regulation and Differentiation in Cardiovascular and Neural Systems. Springer Science+Business Media, LLC '':2010</ref>。 | ||
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== 構造 == | == 構造 == | ||
DNA結合ドメインである塩基性領域と、その下流に存在しタンパク質相互作用に働くHLHモチーフにより特徴づけられる。塩基性領域はDNA上の特定のコンセンサス配列に結合する。Activator-typeのbHLH因子はE box (CANNTG) に結合し、repressor-typeのbHLH因子はN box (CACNAG), class C site (CACGCG) に結合する<ref name="ref5"><pubmed> 15186484 </pubmed></ref>。HLHモチーフは、2つの[[wikipedia:ja:αヘリックス|αヘリックス]]ドメインがループ構造により連結されており、他のbHLH因子または塩基性領域を持たないHLH因子のHLHモチーフと相互作用することによりダイマー(ホモダイマーあるいはヘテロダイマー)を形成する。特定の遺伝子の[[プロモーター]]領域に存在するコンセンサス配列に結合したbHLH因子は、[[コアクチベーター]]あるいは[[コリプレッサー]]と結合し、転写を促進または抑制する。 | DNA結合ドメインである塩基性領域と、その下流に存在しタンパク質相互作用に働くHLHモチーフにより特徴づけられる。塩基性領域はDNA上の特定のコンセンサス配列に結合する。Activator-typeのbHLH因子はE box (CANNTG) に結合し、repressor-typeのbHLH因子はN box (CACNAG), class C site (CACGCG) に結合する<ref name="ref5"><[[pubmed]]> 15186484 </pubmed></ref>。HLHモチーフは、2つの[[wikipedia:ja:αヘリックス|αヘリックス]]ドメインがループ構造により連結されており、他のbHLH因子または塩基性領域を持たないHLH因子のHLHモチーフと相互作用することによりダイマー(ホモダイマーあるいはヘテロダイマー)を形成する。特定の遺伝子の[[プロモーター]]領域に存在するコンセンサス配列に結合したbHLH因子は、[[コアクチベーター]]あるいは[[コリプレッサー]]と結合し、転写を促進または抑制する。 | ||
== 種類 == | == 種類 == | ||
=== 配列・認識配列・系統解析による分類 | === 配列・認識配列・系統解析による分類=== | ||
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" style="width: 750px; height: 300px;" | {|class="wikitable" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" style="width: 750px; height: 300px;" | ||
|+表. bHLH因子の配列・認識配列・系統解析による分類 | |||
|- | |- | ||
| style="text-align:center" | グループ | | style="text-align:center" | グループ | ||
58行目: | 68行目: | ||
| style="text-align:center" | E | | style="text-align:center" | E | ||
| N boxに結合 (CACGAG または CACGCG)<br>OrangeドメインとWRPWペプチドを持つ | | N boxに結合 (CACGAG または CACGCG)<br>OrangeドメインとWRPWペプチドを持つ | ||
| Hes, [[Hey]] | | [[Hes]], [[Hey]] | ||
|- | |- | ||
| style="text-align:center" | F | | style="text-align:center" | F | ||
64行目: | 74行目: | ||
| [[Ebf]] | | [[Ebf]] | ||
|} | |} | ||
文献<ref name="ref5" /><ref><pubmed> 11337472 </pubmed></ref> による。 | |||
=== 発現パターンによる分類<br> === | === 発現パターンによる分類<br> === | ||
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=== ニューロン分化抑制・神経幹細胞維持 === | === ニューロン分化抑制・神経幹細胞維持 === | ||
Repressor-typeのbHLH因子であるHESファミリー (''Drosophila hairy, Enhancer of split''のホモログ; HES1-7) の中で、Hes1, Hes3, | Repressor-typeのbHLH因子であるHESファミリー (''Drosophila hairy, Enhancer of split''のホモログ; HES1-7) の中で、Hes1, Hes3, Hes5は発生過程における神経幹細胞に発現し、[[ノッチ]] (Notch) シグナルのエフェクターとして働き、神経分化を抑制する<ref name="ref2" /><ref><pubmed> 10205173 </pubmed></ref>。Hes1はHes1同士のホモダイマーあるいはHeyとのヘテロダイマーを形成して、神経分化促進因子 (activator-typeのbHLH因子) のプロモーター領域などに存在するN box (CACNAG) またはclass C site (CACGCG) に結合し、コリプレッサー (TLE/Grg) と複合体を形成して[[ヒストン脱アセチル化酵素]] (histone deacetylase; [[HDAC]]) をリクルートし転写を抑制する<ref><pubmed> 8001118 </pubmed></ref><ref><pubmed> 8687460 </pubmed></ref>。また、神経分化促進因子と非機能性へテロダイマーを形成するほか、神経分化促進因子のコファクターであるTcf3 (E12/E47) を捕捉することにより機能的にも阻害する<ref><pubmed> 1340473 </pubmed></ref>。こうして神経幹細胞からニューロンへの分化を抑制し、神経幹細胞の未分化性の維持に働く<ref name="ref23"><pubmed> 11399758 </pubmed></ref>。 | ||
Hes関連因子であるHeyもrepressor-typeのbHLH因子であり、Hey1, Hey2も同様に発生過程における神経幹細胞に発現し、神経分化抑制活性を有する<ref><pubmed> 12947105 </pubmed></ref>。HLH因子であるIdファミリーは塩基性領域を欠くためDNA結合能を有しないが、Hesと同様に神経分化促進因子と非機能性へテロダイマーを形成することにより神経分化を抑制する<ref><pubmed> 2156629 </pubmed></ref>。 | Hes関連因子であるHeyもrepressor-typeのbHLH因子であり、Hey1, Hey2も同様に発生過程における神経幹細胞に発現し、神経分化抑制活性を有する<ref><pubmed> 12947105 </pubmed></ref>。HLH因子であるIdファミリーは塩基性領域を欠くためDNA結合能を有しないが、Hesと同様に神経分化促進因子と非機能性へテロダイマーを形成することにより神経分化を抑制する<ref><pubmed> 2156629 </pubmed></ref>。 | ||
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Neurog1はニューロン分化を促進する一方で、[[グリア]]分化を抑制する活性を有している<ref><pubmed> 11239394 </pubmed></ref>。Neurog1は[[CBP]]-[[Smad1]]複合体を捕捉して、この複合体がグリア特異的遺伝子のプロモーターに結合するのを抑え、ニューロン特異的遺伝子の活性化に利用することで、ニューロン分化の促進と同時にグリア分化を抑制している。逆に神経分化促進因子 (Ascl1 (Mash1), Neurod4 (Math3), Neurog2) の発現を抑えると、ニューロン分化が抑制されグリア分化が促進される<ref><pubmed> 11032813 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11239431 </pubmed></ref>。抑制性転写因子であるHes1, Hes5を発生後期に過剰発現させると、[[アストロサイト]]及び[[網膜]]の[[ミュラーグリア]]産生が促進されるが、これはHesによる神経分化促進因子の抑制が一因と考えられる<ref name="ref23" /><ref><pubmed> 10821751 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10839357 </pubmed></ref>。 | Neurog1はニューロン分化を促進する一方で、[[グリア]]分化を抑制する活性を有している<ref><pubmed> 11239394 </pubmed></ref>。Neurog1は[[CBP]]-[[Smad1]]複合体を捕捉して、この複合体がグリア特異的遺伝子のプロモーターに結合するのを抑え、ニューロン特異的遺伝子の活性化に利用することで、ニューロン分化の促進と同時にグリア分化を抑制している。逆に神経分化促進因子 (Ascl1 (Mash1), Neurod4 (Math3), Neurog2) の発現を抑えると、ニューロン分化が抑制されグリア分化が促進される<ref><pubmed> 11032813 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11239431 </pubmed></ref>。抑制性転写因子であるHes1, Hes5を発生後期に過剰発現させると、[[アストロサイト]]及び[[網膜]]の[[ミュラーグリア]]産生が促進されるが、これはHesによる神経分化促進因子の抑制が一因と考えられる<ref name="ref23" /><ref><pubmed> 10821751 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10839357 </pubmed></ref>。 | ||
Olig1, Olig2は[[Shh|ソニックヘッジホッグ]] (Shh)の下流で働き、オリゴデンドロサイトの分化を誘導する。終脳におけるOlig1の強制発現、脊髄におけるOlig2, Nkx2.2の強制発現によりオリゴデンドロサイトの分化が促進される<ref><pubmed> 11574831 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11567617 </pubmed></ref>。Tal1 (Scl) は[[脊髄]]のp2ドメインにおいて、Olig2と拮抗することによりオリゴデンドロサイトの分化を抑制し、アストロサイトへの分化を誘導する<ref><pubmed> 16292311 </pubmed></ref>。 | Olig1, Olig2は[[Shh|ソニックヘッジホッグ]] ([[Shh]])の下流で働き、オリゴデンドロサイトの分化を誘導する。終脳におけるOlig1の強制発現、脊髄におけるOlig2, Nkx2.2の強制発現によりオリゴデンドロサイトの分化が促進される<ref><pubmed> 11574831 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11567617 </pubmed></ref>。Tal1 (Scl) は[[脊髄]]のp2ドメインにおいて、Olig2と拮抗することによりオリゴデンドロサイトの分化を抑制し、アストロサイトへの分化を誘導する<ref><pubmed> 16292311 </pubmed></ref>。 | ||
=== 細胞周期制御 === | === 細胞周期制御 === | ||
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== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> | ||