「Fused in sarcoma」の版間の差分

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<font size="+1">[https://researchmap.jp/shinsuke.ishigaki 石垣診祐]</font><br>
''名古屋大学大学院医学系研究科総合医学専攻 脳神経病態制御学 神経内科学分野''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年12月17日 原稿完成日:2021年1月18日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/kojiyamanaka 山中 宏二](名古屋大学 環境医学研究所 病態神経科学)
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英略称:FUS
英略称:FUS
{{box|text= Fused in sarcoma (FUS)はTLS(translated in liposarcoma)とも称されるRNA結合タンパク質で、主として核内に局在し転写、選択的スプライシング、RNA輸送などRNA代謝全般に機能する分子である。Chopなどとの融合タンパク質が癌の原因遺伝子となることで発見され命名されたが、近年は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子および病態関連分子として注目されている。}}
{{box|text= Fused in sarcoma (FUS)はTLS(translated in liposarcoma)とも称されるRNA結合タンパク質で、主として核内に局在し転写、選択的スプライシング、RNA輸送などRNA代謝全般に機能する分子である。Chopなどとの融合タンパク質が癌の原因遺伝子となることで発見され命名されたが、近年は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子および病態関連分子として注目されている。}}
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== 疾患との関わり ==
== 疾患との関わり ==
 FUSは家族性ALS([[ALS6]])の原因遺伝子であり、家族性ALS の原因遺伝子として,わが国では[[SOD1]]に次いで頻度が高い遺伝子と考えられており、C末側に多く認められほとんどがpoint mutationである<ref>'''青木正志 (2013).'''<br>FUS変異によるALS臨床病理と病態, 臨床神経 53:1080-1083</ref>。病理学的にはFUSが核内から細胞質に局在が変化して[[ユビキチン]]陽性の[[細胞質封入体]]として神経細胞内に認められることが特徴である。FUSに変異が存在しない孤発性のALSにおいても、このようなFUSの病理所見が陽性の症例が存在し、塩基性封入体が特徴であることから[[basophilic inclusion body disease]] (BIBD)と呼ばれる。ALSは[[認知症]]の1つであるFTLDと臨床的、病理学的、遺伝学的に同一の疾患スペクトラムを形成すると考えられ、FTLD症例にもFUS陽性の病理像を示すグループが存在し、[[FTLD-FUS]]と称される。
 FUSは家族性ALS([[ALS6]])の原因遺伝子であり、家族性ALS の原因遺伝子として,わが国では[[SOD1]]に次いで頻度が高い遺伝子と考えられており、C末側に多く認められほとんどがpoint mutationである<ref>'''青木正志 (2013).'''<br>FUS変異によるALS臨床病理と病態, 臨床神経 53:1080-1083 [https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/053111080.pdf [PDF]]</ref>。病理学的にはFUSが核内から細胞質に局在が変化して[[ユビキチン]]陽性の[[細胞質封入体]]として神経細胞内に認められることが特徴である。FUSに変異が存在しない孤発性のALSにおいても、このようなFUSの病理所見が陽性の症例が存在し、塩基性封入体が特徴であることから[[basophilic inclusion body disease]] (BIBD)と呼ばれる。ALSは[[認知症]]の1つであるFTLDと臨床的、病理学的、遺伝学的に同一の疾患スペクトラムを形成すると考えられ、FTLD症例にもFUS陽性の病理像を示すグループが存在し、[[FTLD-FUS]]と称される。


 FUS変異による家族性ALSの中には、[[発達障害]]や[[精神疾患]]を併発するものあること、FUSの変異によって非特異的な[[タウオパチー]]を呈する症例があること、核内でのFUSの局在変化がALS, FTLDのみならず、[[4Rタウオパチー]]である[[進行性核上性麻痺]]([[PSP]])や[[大脳皮質基底核変性症]]([[CBD]])症例でも認められること、などからFUSはより広範な神経精神疾患のメカニズムに関わる可能性が示唆されている<ref name=Ishigaki2020><pubmed>32770214</pubmed></ref><ref name=Ferrer2015><pubmed>25756587</pubmed></ref><ref name=Baumer2010><pubmed>20668261</pubmed></ref><ref name=Yamashita2012><pubmed>22057404</pubmed></ref>。
 FUS変異による家族性ALSの中には、[[発達障害]]や[[精神疾患]]を併発するものあること、FUSの変異によって非特異的な[[タウオパチー]]を呈する症例があること、核内でのFUSの局在変化がALS, FTLDのみならず、[[4Rタウオパチー]]である[[進行性核上性麻痺]]([[PSP]])や[[大脳皮質基底核変性症]]([[CBD]])症例でも認められること、などからFUSはより広範な神経精神疾患のメカニズムに関わる可能性が示唆されている<ref name=Ishigaki2020><pubmed>32770214</pubmed></ref><ref name=Ferrer2015><pubmed>25756587</pubmed></ref><ref name=Baumer2010><pubmed>20668261</pubmed></ref><ref name=Yamashita2012><pubmed>22057404</pubmed></ref>。