「In situハイブリダイゼーション法」の版間の差分

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[[Image:''In situ''ハイブリダイゼーション法2.png|thumb|300px|'''図2.組織切片を用いた''in situ''ハイブリダイゼーション法の工程''']]
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 ''In situ''とは”原位置で”という意味で、''in situ''ハイブリダイゼーション(''in situ'' hybridization: ISH)とは原位置でのハイブリダイゼーション(後述)ということである。ISH法には、[[wikipedia:ja|染色体]]ISHと組織切片ISH、ホールマウントISH (whole-mount ISH: WISH) がある。染色体ISH法は、染色体における目的遺伝子の[[wikipedia:ja|遺伝子座]]を明らかにし、染色体異常を検出することができる。組織ISH法は、組織切片を用いて遺伝子発現の第一段階である[[wikipedia:ja|mRNA]]の局在を細胞レベルで明らかにする。[[wikipedia:ja|病理]]組織から[[wikipedia:ja|ウイルス]][[wikipedia:ja|ゲノム]]を検出し、ウイルス感染の診断に用いられることもある。また、胚や器官の一部などを丸ごと用いるISH法を、ホールマウントISH(WISH)という。実験例を図1に示す。遺伝子発現部位の三次元的な情報を得た後で、細胞レベルで遺伝子発現部位を同定しなければならない場合は、WISH後の胚などの組織切片を作製する。図2に、組織切片を用いた''in situ''ハイブリダイゼーション法の工程を模式的に示す。ISHは、細胞内mRNAの局在を明らかにする実験であるので、分解されやすいRNAをいかに分解させずに実験を行うかが重要である。
 ''In situ''とは”原位置で”という意味で、''in situ''ハイブリダイゼーション(''in situ'' hybridization: ISH)とは原位置でのハイブリダイゼーション(後述)ということである。ISH法には、[[wikipedia:ja:染色体|染色体]]ISHと組織切片ISH、ホールマウントISH (whole-mount ISH: WISH) がある。染色体ISH法は、染色体における目的遺伝子の[[wikipedia:ja:遺伝子座|遺伝子座]]を明らかにし、染色体異常を検出することができる。組織ISH法は、組織切片を用いて遺伝子発現の第一段階である[[wikipedia:ja:mRNA|mRNA]]の局在を細胞レベルで明らかにする。[[wikipedia:ja:病理|病理]]組織から[[wikipedia:ja:ウイルス|ウイルス]][[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]]を検出し、ウイルス感染の診断に用いられることもある。また、胚や器官の一部などを丸ごと用いるISH法を、ホールマウントISH(WISH)という。実験例を図1に示す。遺伝子発現部位の三次元的な情報を得た後で、細胞レベルで遺伝子発現部位を同定しなければならない場合は、WISH後の胚などの組織切片を作製する。図2に、組織切片を用いた''in situ''ハイブリダイゼーション法の工程を模式的に示す。ISHは、細胞内mRNAの局在を明らかにする実験であるので、分解されやすいRNAをいかに分解させずに実験を行うかが重要である。


== ''In situ''ハイブリダイゼーション法の各工程 ==
== ''In situ''ハイブリダイゼーション法の各工程 ==
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=== 組織の固定 ===
=== 組織の固定 ===


 ISH法では細胞が死んだ状態でmRNAを検出する。細胞が死んでしまうと、mRNAは急速に分解され消滅してしまう。そのため、''in situ''ハイブリダイゼーション法を用いる場合は、細胞内のmRNAの分解を防ぎ、できるだけ生きていた状態を維持しておく必要がある。細胞や組織などをなるべく自然の状態に保存することを[[wikipedia:ja|固定]]とよんでいるが、''in situ''ハイブリダイゼーション法の場合はmRNAの固定が非常に重要である。''In situ''ハイブリダイゼーション法では、用時調製した4%[[wikipedia:ja|パラホルムアルデヒド]]液を用いて[[wikipedia:ja|還流固定]]し、[[wikipedia:ja|臓器]]等を取り出して短時間、低温でさらに[[wikipedia:ja|浸漬固定]]することが多い。新鮮迅速凍結切片を用いてISHを行うこともある。組織切片はスライドガラスに貼付けたもの、あるいは浮遊切片を用いる。
 ISH法では細胞が死んだ状態でmRNAを検出する。細胞が死んでしまうと、mRNAは急速に分解され消滅してしまう。そのため、''in situ''ハイブリダイゼーション法を用いる場合は、細胞内のmRNAの分解を防ぎ、できるだけ生きていた状態を維持しておく必要がある。細胞や組織などをなるべく自然の状態に保存することを[[wikipedia:ja:固定|固定]]とよんでいるが、''in situ''ハイブリダイゼーション法の場合はmRNAの固定が非常に重要である。''In situ''ハイブリダイゼーション法では、用時調製した4%[[wikipedia:ja:パラホルムアルデヒド|パラホルムアルデヒド]]液を用いて[[wikipedia:ja:還流固定|還流固定]]し、[[wikipedia:ja:臓器|臓器]]等を取り出して短時間、低温でさらに[[wikipedia:ja:浸漬固定|浸漬固定]]することが多い。新鮮迅速凍結切片を用いてISHを行うこともある。組織切片はスライドガラスに貼付けたもの、あるいは浮遊切片を用いる。


=== 前処理 ===
=== 前処理 ===


 組織ISH法、WISH法のいずれにおいても、ハイブリダイゼーションを行う前に固定した組織の前処理を行う。主な目的は、[[wikipedia:ja|界面活性剤]]で細胞膜の透過性を上げ、タンパク質分解酵素proteinase Kなどを用いて結合組織等を分解しプローブの浸透性をよくすることと、プローブの非特異的な吸着を防ぐことである。特に、[[wikipedia:ja|タンパク質分解酵素]]の濃度と処理時間は、組織の種類、固定法とも関連し、''in situ''ハイブリダイゼーション法の結果を左右する重要な因子である。
 組織ISH法、WISH法のいずれにおいても、ハイブリダイゼーションを行う前に固定した組織の前処理を行う。主な目的は、[[wikipedia:ja:界面活性剤|界面活性剤]]で細胞膜の透過性を上げ、タンパク質分解酵素proteinase Kなどを用いて結合組織等を分解しプローブの浸透性をよくすることと、プローブの非特異的な吸着を防ぐことである。特に、[[wikipedia:ja:タンパク質分解酵素|タンパク質分解酵素]]の濃度と処理時間は、組織の種類、固定法とも関連し、''in situ''ハイブリダイゼーション法の結果を左右する重要な因子である。


=== プローブの調製 ===
=== プローブの調製 ===


 目的のmRNAを検出するために、そのmRNAと特異的にハイブリダイズする、つまり、目的のmRNAと[[wikipedia:ja|相補的]]な配列をもったRNAまたはDNAプローブが必要である。プローブとして、
 目的のmRNAを検出するために、そのmRNAと特異的にハイブリダイズする、つまり、目的のmRNAと[[wikipedia:ja:相補的|相補的]]な配列をもったRNAまたはDNAプローブが必要である。プローブとして、


# 化学合成したDNAを用いる[[wikipedia:ja|オリゴヌクレオチドプローブ]]<br>
# 化学合成したDNAを用いる[[wikipedia:ja:オリゴヌクレオチドプローブ|オリゴヌクレオチドプローブ]]<br>
# DNA合成酵素によりin vitroで合成したDNAプローブ<br>
# DNA合成酵素によりin vitroで合成したDNAプローブ<br>
# RNA合成酵素によりin vitroで合成したRNAプローブ<br>
# RNA合成酵素によりin vitroで合成したRNAプローブ<br>


の3種類がよく用いられている。DNAオリゴプローブは、DNA合成装置で合成する。B, Cにおいては、プローブ合成のための[[wikipedia:ja|鋳型]]DNAが必要である。RNA-RNAハイブリッドが3者の中で最も安定であり、現在RNAプローブを用いる方法が一般的である。合成したRNAが分解されないように細心の注意を払う。他に[[wikipedia:ja|locked nucleic acid]] (LNA)(後述)や[[wikipedia:ja|ペプチド核酸]]をプローブとして用いる方法がある。プローブを可視化のために標識する方法には主に次の2つの方法がある。
の3種類がよく用いられている。DNAオリゴプローブは、DNA合成装置で合成する。B, Cにおいては、プローブ合成のための[[wikipedia:ja:鋳型|鋳型]]DNAが必要である。RNA-RNAハイブリッドが3者の中で最も安定であり、現在RNAプローブを用いる方法が一般的である。合成したRNAが分解されないように細心の注意を払う。他に[[wikipedia:ja:locked nucleic acid|locked nucleic acid]] (LNA)(後述)や[[wikipedia:ja:ペプチド核酸|ペプチド核酸]]をプローブとして用いる方法がある。プローブを可視化のために標識する方法には主に次の2つの方法がある。


# [[wikipedia:ja|酵素抗体法]]または[[wikipedia:ja|蛍光抗体法]:適当な[[wikipedia:ja|抗原]]([[wikipedia:ja|ジゴキシゲニン]]digoxigenin [DIG], [[wikipedia:ja|フルオレセイン]] fluorescein, [[wikipedia:ja|ビオチン]] biotinなど)の結合した[[wikipedia:ja|ヌクレオチド]]を用いてプローブを標識し、その抗原に対する[[wikipedia:ja|抗体]]を用いて発色または蛍光により可視化する。<br>
# [[wikipedia:ja:酵素抗体法|酵素抗体法]]または[[wikipedia:ja:蛍光抗体法|蛍光抗体法]:適当な[[wikipedia:ja:抗原|抗原]]([[wikipedia:ja:ジゴキシゲニン|ジゴキシゲニン]]digoxigenin [DIG], [[wikipedia:ja:フルオレセイン|フルオレセイン]] fluorescein, [[wikipedia:ja:ビオチン|ビオチン]] biotinなど)の結合した[[wikipedia:ja:ヌクレオチド|ヌクレオチド]]を用いてプローブを標識し、その抗原に対する[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]を用いて発色または蛍光により可視化する。<br>
# [[wikipedia:ja|放射性同位元素]](radioisotope: RI)を用いて、[[wikipedia:ja|オートラジオグラフィー]]法により可視化する。
# [[wikipedia:ja:放射性同位元素|放射性同位元素]](radioisotope: RI)を用いて、[[wikipedia:ja:オートラジオグラフィー|オートラジオグラフィー]]法により可視化する。


===ハイブリダイゼーション===
===ハイブリダイゼーション===
 DNAの[[wikipedia:ja|二重らせん]]構造は、塩基対A:Tに形成される2つの[[wikipedia:ja|水素結合]]と塩基対G:Cに形成される3つの水素結合により安定に保たれている。この二本鎖を一本鎖にする方法の1つとして、熱変性がある。二重らせんDNA溶液の温度を高くしながら、DNA溶液の260 nmの[[wikipedia:ja|吸光度]]A260を測定すると、しだいにA260は高くなる。これはDNAの二重らせんが壊れ、一本鎖になるためで、この温度による吸光度の変化を表す曲線をDNAの[[wikipedia:ja|融解曲線]]とよんでいる。この現象は、らせんが消失して塩基間の相互作用が少なくなるため、塩基の光吸収の効率が変化し(深色効果)、各塩基の[[wikipedia:ja|分子吸光係数]]が高くなるために生じる。温度の低い時のDNAをヘリックス100%とし、高温での吸光度が一定になる状態でヘリックス0%と仮定すると、ヘリックス50%になる温度([[wikipedia:ja|融解温度]] melting temperature: Tm)を決定することができる。
 DNAの[[wikipedia:ja:二重らせん|二重らせん]]構造は、塩基対A:Tに形成される2つの[[wikipedia:ja:水素結合|水素結合]]と塩基対G:Cに形成される3つの水素結合により安定に保たれている。この二本鎖を一本鎖にする方法の1つとして、熱変性がある。二重らせんDNA溶液の温度を高くしながら、DNA溶液の260 nmの[[wikipedia:ja:吸光度|吸光度]]A260を測定すると、しだいにA260は高くなる。これはDNAの二重らせんが壊れ、一本鎖になるためで、この温度による吸光度の変化を表す曲線をDNAの[[wikipedia:ja:融解曲線|融解曲線]]とよんでいる。この現象は、らせんが消失して塩基間の相互作用が少なくなるため、塩基の光吸収の効率が変化し(深色効果)、各塩基の[[wikipedia:ja:分子吸光係数|分子吸光係数]]が高くなるために生じる。温度の低い時のDNAをヘリックス100%とし、高温での吸光度が一定になる状態でヘリックス0%と仮定すると、ヘリックス50%になる温度([[wikipedia:ja:融解温度|融解温度]] melting temperature: Tm)を決定することができる。


 Tmは二重らせんの安定度の目安になる。非常に安定ならせんであれば、Tmは80〜90℃になる。逆に不安定であれば、30〜40℃になる。TmはGC塩基対の含量、核酸の長さ、核酸の塩基対のミスマッチなどに依存し、DNA溶液のイオン強度(塩濃度)や組成により変化する。Tmに関する経験的な式は、例えば、RNA-RNAハイブリッドの場合、
 Tmは二重らせんの安定度の目安になる。非常に安定ならせんであれば、Tmは80〜90℃になる。逆に不安定であれば、30〜40℃になる。TmはGC塩基対の含量、核酸の長さ、核酸の塩基対のミスマッチなどに依存し、DNA溶液のイオン強度(塩濃度)や組成により変化する。Tmに関する経験的な式は、例えば、RNA-RNAハイブリッドの場合、
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Tm=79.8+18.5(logM)+0.584(%G+C)+0.118 × 10<sup>-2</sup>(%G+C)<sup>2</sup>−0.35(%formamide)− 820/l<br>
Tm=79.8+18.5(logM)+0.584(%G+C)+0.118 × 10<sup>-2</sup>(%G+C)<sup>2</sup>−0.35(%formamide)− 820/l<br>


 ここで、Mは1価の正イオンのモル濃度、%G+CはGC含量、%formamideは[[wikipedia:ja|ホルムアミド濃度]]、lはプローブの長さ(bp)である。
 ここで、Mは1価の正イオンのモル濃度、%G+CはGC含量、%formamideは[[wikipedia:ja:ホルムアミド濃度|ホルムアミド濃度]]、lはプローブの長さ(bp)である。


 Tmの温度では、全体の50%ほど二重らせんが形成されていることになる。ハイブリダイゼーションの温度Thは、Tmより5〜20℃低い温度で行う。どの程度まで塩基対のマッチを許容するかを[[wikipedia:ja|stringency]]とよぶ。例えば、(Tm−5)℃でハイブリダイズさせると、stringencyが非常に高くなり、完全マッチした安定なDNA-DNAしかハイブリッドを形成しない。しかし、ハイブリダイズする温度を(Tm−20)℃と低下させ、stringencyを低くすると、ミスマッチをもったハイブリッドが形成される可能性が高くなる。
 Tmの温度では、全体の50%ほど二重らせんが形成されていることになる。ハイブリダイゼーションの温度Thは、Tmより5〜20℃低い温度で行う。どの程度まで塩基対のマッチを許容するかを[[wikipedia:ja:stringency|stringency]]とよぶ。例えば、(Tm−5)℃でハイブリダイズさせると、stringencyが非常に高くなり、完全マッチした安定なDNA-DNAしかハイブリッドを形成しない。しかし、ハイブリダイズする温度を(Tm−20)℃と低下させ、stringencyを低くすると、ミスマッチをもったハイブリッドが形成される可能性が高くなる。


 DIGを用いた組織''in situ''ハイブリダイゼーション法では、1kb程度のRNAプローブ(GC含量約50%)を使用する場合、50%ホルムアミド中65℃、12〜14時間で、ほぼよい結果が得られる。もし、短いRNAやGC含量の低いRNAをプローブとする場合は、低stringencyの条件でハイブリダイゼーションを行う。プローブの濃度も重要であり、濃度の高いほうが再会合率が高くなる。プローブの長さが大きいほどシグナルが強くなるが、プローブの配列によってはハイブリダイゼーションに交差性を認める結果となる場合もある。2kbをこえると[[wikipedia:ja|アルカリ]][[wikipedia:ja|加水分解]]によってRNAの長さを小さくし、組織への浸透を高めるようにする。
 DIGを用いた組織''in situ''ハイブリダイゼーション法では、1kb程度のRNAプローブ(GC含量約50%)を使用する場合、50%ホルムアミド中65℃、12〜14時間で、ほぼよい結果が得られる。もし、短いRNAやGC含量の低いRNAをプローブとする場合は、低stringencyの条件でハイブリダイゼーションを行う。プローブの濃度も重要であり、濃度の高いほうが再会合率が高くなる。プローブの長さが大きいほどシグナルが強くなるが、プローブの配列によってはハイブリダイゼーションに交差性を認める結果となる場合もある。2kbをこえると[[wikipedia:ja:アルカリ|アルカリ]][[wikipedia:ja:加水分解|加水分解]]によってRNAの長さを小さくし、組織への浸透を高めるようにする。


=== 洗浄 ===
=== 洗浄 ===


 非特異的に結合したプローブを除去するために、組織を洗浄する.洗浄の条件を厳しくするとバックグラウンドが低下するが、同時にシグナルも弱くなる。RNA-RNAハイブリットは通常の[[wikipedia:ja|RNA分解酵素]] (RNAse)では分解されないので、これ以降の実験工程はRNAseフリーでなくてよい。
 非特異的に結合したプローブを除去するために、組織を洗浄する.洗浄の条件を厳しくするとバックグラウンドが低下するが、同時にシグナルも弱くなる。RNA-RNAハイブリットは通常の[[wikipedia:ja:RNA分解酵素|RNA分解酵素]] (RNAse)では分解されないので、これ以降の実験工程はRNAseフリーでなくてよい。
   
   
===シグナルの検出===
===シグナルの検出===
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[[image:''In situ''ハイブリダイゼーション法3.png|thumb|300px|'''図3.アルカリフォスファッターゼによる発色反応'''<br>BCIPがAPにより加水分解されてまず中間産物となり、さらに2量体になって青色色素を産生する。2量体化するときに、2個の水素イオンによりNBTは還元されて不溶性のNBTホルマザンを形成する。(tautomerism:ケト・エノール互変異性)<br>一方、Fast Red TRは、ナフトールAS-MXリン酸の存在下でAPにより赤色の沈殿物を生じる。Fast Red TRを蛍光性のAP基質であるHNPP (2-hydroxy-3-naphtoic acid-2’-phenylanilide phosphate)と共に用いると、還元されてできるHNPの組織への沈着が増し、HNPの蛍光がさらに長波長側シフトして (565~620nm) 強い橙蛍光を発する。<ref>[http://www.piercenet.com/browse.cfm?fldID=5A423056-5056-8A76-4E25-1E5F9C0596B2 発色反応、発色基質全般]</ref>]]
[[image:''In situ''ハイブリダイゼーション法3.png|thumb|300px|'''図3.アルカリフォスファッターゼによる発色反応'''<br>BCIPがAPにより加水分解されてまず中間産物となり、さらに2量体になって青色色素を産生する。2量体化するときに、2個の水素イオンによりNBTは還元されて不溶性のNBTホルマザンを形成する。(tautomerism:ケト・エノール互変異性)<br>一方、Fast Red TRは、ナフトールAS-MXリン酸の存在下でAPにより赤色の沈殿物を生じる。Fast Red TRを蛍光性のAP基質であるHNPP (2-hydroxy-3-naphtoic acid-2’-phenylanilide phosphate)と共に用いると、還元されてできるHNPの組織への沈着が増し、HNPの蛍光がさらに長波長側シフトして (565~620nm) 強い橙蛍光を発する。<ref>[http://www.piercenet.com/browse.cfm?fldID=5A423056-5056-8A76-4E25-1E5F9C0596B2 発色反応、発色基質全般]</ref>]]


 標識プローブのみでは発色することができないので、プローブの中に取り込まれている抗原に対する抗体を用いプローブの検出を行う.プローブをDIGで標識した場合、DIGに特異的に結合する一次抗体を用いて検出する。検出に用いる一次抗体には通常の抗体とは異なり、[[wikipedia:ja|アルカリフォスファターゼ]](alkaline phosphatase: AP)または[[wikipedia:ja|西洋ワサビペルオキシダーゼ]](horseradish peroxidase: HRP)などの酵素が結合(conjugate)している.例えば、抗体に結合されたAPの基質として、BCIP (X-リン酸と呼ぶ)(5-Bromo-4-Chloro-3'-Indolylphosphate p-Toluidine salt)およびNBT(nitro-blue tetrazolium chloride)を用いた場合は、酵素がXの結合を切断し、Xが遊離すると発色する(図3)。一方、抗体に蛍光色素が結合している場合には、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー走査顕微鏡で検出する。
 標識プローブのみでは発色することができないので、プローブの中に取り込まれている抗原に対する抗体を用いプローブの検出を行う.プローブをDIGで標識した場合、DIGに特異的に結合する一次抗体を用いて検出する。検出に用いる一次抗体には通常の抗体とは異なり、[[wikipedia:ja:アルカリフォスファターゼ|アルカリフォスファターゼ]](alkaline phosphatase: AP)または[[wikipedia:ja:西洋ワサビペルオキシダーゼ|西洋ワサビペルオキシダーゼ]](horseradish peroxidase: HRP)などの酵素が結合(conjugate)している.例えば、抗体に結合されたAPの基質として、BCIP (X-リン酸と呼ぶ)(5-Bromo-4-Chloro-3'-Indolylphosphate p-Toluidine salt)およびNBT(nitro-blue tetrazolium chloride)を用いた場合は、酵素がXの結合を切断し、Xが遊離すると発色する(図3)。一方、抗体に蛍光色素が結合している場合には、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー走査顕微鏡で検出する。


====放射性同位元素を用いる方法====
====放射性同位元素を用いる方法====
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== マイクロRNAを検出するISH法 ==
== マイクロRNAを検出するISH法 ==


 Locked nucleic acid (LNA)プローブを用いる。LNAは、リボ核酸の2’位の酸素原子と4’位の炭素原子とが架橋しており、相補的な核酸に対合したときの熱安定性が非常に高く、短いRNAに対して高いTm値でハイブリダイゼーションできる。この性質を利用してLNAプローブによりマイクロRNAのISHが可能になった。
 Locked nucleic acid (LNA)プローブを用いる。LNAは、[[wikipedia:ja:リボ核酸|リボ核酸]]の2’位の[[wikipedia:ja:酸素|酸素]]原子と4’位の[[wikipedia:ja:炭素|炭素]]原子とが架橋しており、相補的な核酸に対合したときの熱安定性が非常に高く、短いRNAに対して高いTm値でハイブリダイゼーションできる。この性質を利用してLNAプローブによりマイクロRNAのISHが可能になった。


== ISHデータベース ==
== ISHデータベース ==


 Allen Brain Atlasは、マイクロソフト社創設者の一人であるPaul G. Allenの出資によって2003年に設立されたAllen Institute for Brain ScienceのISHデータベースである。2006年12月発表のNature の記事によると、まず約2万の遺伝子のマウス成体脳における組織切片ISHのデータが公開された。現在、マウス脳に加えて、ヒト脳、発生期マウス脳、発生期ヒト脳、マウス脳神経回路、ヒト以外の霊長類脳、マウス脊髄、ヒト神経膠芽腫に関するISHデータベースが公開されている。
 Allen Brain Atlasは、[[wikipedia:ja:マイクロソフト社|マイクロソフト社]]創設者の一人である[[wikipedia:ja:Paul G. Allen|Paul G. Allen]]の出資によって2003年に設立された[[wikipedia:ja:Allen Institute for Brain Science|Allen Institute for Brain Science]]のISHデータベースである。2006年12月発表のNature の記事によると、まず約2万の遺伝子のマウス成体脳における組織切片ISHのデータが公開された<ref><pubmed>    17151600</pubmed></ref>。現在、[[マウス]][[脳]]に加えて、[[wikipedia:ja:ヒト脳|ヒト脳]]、発生期マウス脳、発生期ヒト脳、マウス脳神経回路、ヒト以外の[[wikipedia:ja:霊長類|霊長類]]脳、マウス[[脊髄]]、ヒト[[神経膠芽腫]]に関するISHデータベースが公開されている。


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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#In Situ Hybridization, A Practical Approach, 2nd Edition, Edited by D.G. Wilkinson, Oxford University Press, Oxford, 1999.
#In Situ Hybridization, A Practical Approach, 2nd Edition, Edited by D.G. Wilkinson, Oxford University Press, Oxford, 1999.
#Choi HM, Chang JY, Trinh le A, Padilla JE, Fraser SE, Pierce NA. Programmable ''in situ'' amplification for multiplexed imaging of mRNA expression. Nat Biotechnol. 2010 Nov;28(11):1208-1212.  
#Choi HM, Chang JY, Trinh le A, Padilla JE, Fraser SE, Pierce NA. Programmable ''in situ'' amplification for multiplexed imaging of mRNA expression. Nat Biotechnol. 2010 Nov;28(11):1208-1212.  
#アレン ブレイン アトラス<br>Lein ES et al. Genome-wide atlas of gene expression in the adult mouse brain. Nature. 2007 Jan 11;445(7124):168-176.
 
<references />
<references />




(執筆者:大内淑代 担当編集委員:大隅典子)
(執筆者:大内淑代 担当編集委員:大隅典子)