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<font size="+1">[http://researchmap.jp/coco 高橋 正身]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/coco 高橋 正身]</font><br> | ||
''北里大学医学部''<br> | ''北里大学医学部''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年1月29日 原稿完成日:2016年2月2日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | ||
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SNAP-25の翻訳領域は8つのエクソンから構成されるが、4億年前に起こった[[wikipedia:ja:硬骨魚|硬骨魚]]の出現初期にエクソン5の重複が起こり、SNAP-25aとSNAP-25bのスプライシングバリアントが作られた<ref name=ref7><pubmed>8112622</pubmed></ref>。SNAP-25のアミノ酸配列は良く保存されており、[[ヒト]]、[[マウス]]、[[ニワトリ]]では100%同一である。一方、[[wikipedia:ja:軟骨魚類|軟骨魚類]]である[[シビレエイ]](Torpedo)および[[wikipedia:ja:無脊椎動物|無脊椎動物]]である[[ショウジョウバエ]]のSNAP-25 はマウスのアミノ酸配列とそれぞれ81% および61% 同一である。SNAP-25の発現は神経系や[[内分泌]]細胞に特異的に見られるが<ref name=ref8><pubmed>21280044</pubmed></ref>、ユビキタスに発現するファミリー分子として[[SNAP-23]]が見出されている<ref name=ref9><pubmed>8663154</pubmed></ref>。 | SNAP-25の翻訳領域は8つのエクソンから構成されるが、4億年前に起こった[[wikipedia:ja:硬骨魚|硬骨魚]]の出現初期にエクソン5の重複が起こり、SNAP-25aとSNAP-25bのスプライシングバリアントが作られた<ref name=ref7><pubmed>8112622</pubmed></ref>。SNAP-25のアミノ酸配列は良く保存されており、[[ヒト]]、[[マウス]]、[[ニワトリ]]では100%同一である。一方、[[wikipedia:ja:軟骨魚類|軟骨魚類]]である[[シビレエイ]](Torpedo)および[[wikipedia:ja:無脊椎動物|無脊椎動物]]である[[ショウジョウバエ]]のSNAP-25 はマウスのアミノ酸配列とそれぞれ81% および61% 同一である。SNAP-25の発現は神経系や[[内分泌]]細胞に特異的に見られるが<ref name=ref8><pubmed>21280044</pubmed></ref>、ユビキタスに発現するファミリー分子として[[SNAP-23]]が見出されている<ref name=ref9><pubmed>8663154</pubmed></ref>。 | ||
これら3種類のアイソフォームはいずれも神経伝達物質放出を引き起こす機能を持っているが、SNAP-25bのみが[[シナプトタグミン1]]および[[シナプトタグミン2|2]]と結合してCa<sup>2+</sup>依存的に起こる同期した放出を引き起こすことができる<ref name=ref10><pubmed>12859899</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>17728451</pubmed></ref>。それに対してSNAP-23は[[シナプトタグミン7]] | これら3種類のアイソフォームはいずれも神経伝達物質放出を引き起こす機能を持っているが、SNAP-25bのみが[[シナプトタグミン1]]および[[シナプトタグミン2|2]]と結合してCa<sup>2+</sup>依存的に起こる同期した放出を引き起こすことができる<ref name=ref10><pubmed>12859899</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>17728451</pubmed></ref>。それに対してSNAP-23は[[シナプトタグミン7]]と結合し、同期しない放出に関わることが示されている<ref name=ref12><pubmed>25422940</pubmed></ref>。SNAP-25aは進化の過程でSNAP-23とSNAP-25が分かれた後に作られている。SNAP-25aはSNAP-23と同様に同期した放出を引き起こすことはない点でSNAP-23と似ているが、脳においてSNAP-23とどのような機能的な違いを持っているかについては明らではない<ref name=ref8 />。 | ||
分子内に2つのSNAREモチーフを持つタンパク質として[[SNAP-29]]<ref name=ref13><pubmed>9852078</pubmed></ref>と[[SNAP-47]]<ref name=ref14><pubmed>16621800</pubmed></ref>が知られている。これらのタンパク質は[[パルミトイル化]]された[[システイン]]残基を持っていない点でSNAP-25やSNAP-23とは異なるが、細胞内小胞輸送に関わる可能性が示唆されている。 | 分子内に2つのSNAREモチーフを持つタンパク質として[[SNAP-29]]<ref name=ref13><pubmed>9852078</pubmed></ref>と[[SNAP-47]]<ref name=ref14><pubmed>16621800</pubmed></ref>が知られている。これらのタンパク質は[[パルミトイル化]]された[[システイン]]残基を持っていない点でSNAP-25やSNAP-23とは異なるが、細胞内小胞輸送に関わる可能性が示唆されている。 | ||
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===リン酸化=== | ===リン酸化=== | ||
Ser187が[[プロテインキナーゼC]]([[PKC]])によってリン酸化されるとシンタキシンとの結合が強まり、Ca<sup>2+</sup>非依存的なシナプトタグミン1との結合が低下する<ref name=ref25><pubmed>8662851</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>17325194</pubmed></ref>。SNAP-25は[[cAMP依存性タンパク質キナーゼ]]([[PKA]] | Ser187が[[プロテインキナーゼC]]([[PKC]])によってリン酸化されるとシンタキシンとの結合が強まり、Ca<sup>2+</sup>非依存的なシナプトタグミン1との結合が低下する<ref name=ref25><pubmed>8662851</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>17325194</pubmed></ref>。SNAP-25は[[cAMP依存性タンパク質キナーゼ]]([[PKA]])によってもThr138がリン酸化されるが、この場合にはシンタキシンおよびシナプトタグミン1との結合はいずれも抑制される<ref name=ref26 />。[[セロトニン]]などの[[メタボトロピックレセプター]]が活性化されると、開口放出による神経伝達物質放出が抑制されることが知られている。活性化型[[Gタンパク質]]である[[Gβγ]]はSNAP-25と直接結合し、結合部位としてAsp99, Lys102, Arg198, Lys201を含む膜に近い部位と、Arg135、Arg136、Arg161、Arg142を含む2か所が同定され、セロトニン受容体の活性化に伴う放出抑制にはC末端に近いArg198, Lys201へのGβγの結合が関与することが示されている<ref name=ref27><pubmed>22962332</pubmed></ref>。 | ||
===ボツリヌス毒素による分解=== | ===ボツリヌス毒素による分解=== | ||
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SNAP-25はt-SNAREタンパク質として開口放出による[[神経伝達物質]]放出や水溶性[[ホルモン]]の分泌に不可欠な役割を果たしている<ref name=ref4 /> <ref name=ref15 /> <ref name=ref16 />。 | SNAP-25はt-SNAREタンパク質として開口放出による[[神経伝達物質]]放出や水溶性[[ホルモン]]の分泌に不可欠な役割を果たしている<ref name=ref4 /> <ref name=ref15 /> <ref name=ref16 />。 | ||
SNAREタンパク質による神経伝達物質放出はCa<sup>2+</sup>[[イオン]]によって誘発され、その場合のCa<sup>2+</sup>センサーとしてはシナプトタグミンが同定されている<ref name=ref28><pubmed>24183019</pubmed></ref>。シナプトタグミン1との結合部位としてAsp51, Glu52, Glu55<ref name=ref29><pubmed>16267273</pubmed></ref>およびAsp172, Asp179, Asp186, Asp193<ref name=ref30><pubmed>12062043</pubmed></ref>が同定されている。いずれも変異を加えると[[PC12細胞]]からの放出が抑制される。[[膜容量測定法|膜容量測定]]による時間分解能の良いアッセイではAsp51, Glu52, Glu55がCa<sup>2+</sup>依存性放出に必須でAsp172, Asp179, Asp186, Asp193はフュージョン誘発にあまり影響しないが、[[放出可能プール]](readily releasable pool)を少し減少させる ことが示されている<ref name=ref31><pubmed>24005294</pubmed></ref>。 | SNAREタンパク質による神経伝達物質放出はCa<sup>2+</sup>[[イオン]]によって誘発され、その場合のCa<sup>2+</sup>センサーとしてはシナプトタグミンが同定されている<ref name=ref28><pubmed>24183019</pubmed></ref>。シナプトタグミン1との結合部位としてAsp51, Glu52, Glu55<ref name=ref29><pubmed>16267273</pubmed></ref>およびAsp172, Asp179, Asp186, Asp193<ref name=ref30><pubmed>12062043</pubmed></ref>が同定されている。いずれも変異を加えると[[PC12細胞]]からの放出が抑制される。[[膜容量測定法|膜容量測定]]による時間分解能の良いアッセイではAsp51, Glu52, Glu55がCa<sup>2+</sup>依存性放出に必須でAsp172, Asp179, Asp186, Asp193はフュージョン誘発にあまり影響しないが、[[放出可能プール]](readily releasable pool)を少し減少させる ことが示されている<ref name=ref31><pubmed>24005294</pubmed></ref>。 | ||
SNARE複合体形成に際しては、構成する4本のへリックスの中でQcおよびQbの2本のへリックスを供出する。SNAP-25がBoNT/Eで切断を受けると神経伝達物質放出が見られなくなることや<ref name=ref5 />、SNAP-25の[[KOマウス]]ではCa<sup>2+</sup>誘発性の神経伝達物質放出が見られないこと<ref name=ref6 />、SNAP-25とsyntaxinを組み込んだリポゾームをVAMP-2を組み込んだ[[リポゾーム]]を混ぜるとリポゾーム同士の[[膜融合]]が起こることなどから<ref name=ref33><pubmed>25997356</pubmed></ref>、SNAP-25は開口放出による神経伝達物質放出に必須なタンパク質であると結論されている。SNAP-25は内分泌細胞にも発現し、水溶性ホルモン分泌に不可欠な役割を果たしている。 | SNARE複合体形成に際しては、構成する4本のへリックスの中でQcおよびQbの2本のへリックスを供出する。SNAP-25がBoNT/Eで切断を受けると神経伝達物質放出が見られなくなることや<ref name=ref5 />、SNAP-25の[[KOマウス]]ではCa<sup>2+</sup>誘発性の神経伝達物質放出が見られないこと<ref name=ref6 />、SNAP-25とsyntaxinを組み込んだリポゾームをVAMP-2を組み込んだ[[リポゾーム]]を混ぜるとリポゾーム同士の[[膜融合]]が起こることなどから<ref name=ref33><pubmed>25997356</pubmed></ref>、SNAP-25は開口放出による神経伝達物質放出に必須なタンパク質であると結論されている。SNAP-25は内分泌細胞にも発現し、水溶性ホルモン分泌に不可欠な役割を果たしている。 | ||
開口放出は小胞内の内容物を放出する以外にも、小胞膜上のタンパク質を細胞膜に組み込んだり、細胞膜を伸長させたりする機能も持っている。SNAP-25は[[電位依存性カルシウムチャネル]]や[[アクアポリン]]などのチャネルタンパク質や[[NMDA型グルタミン酸|NMDA型]]および[[AMPA型グルタミン酸]] | 開口放出は小胞内の内容物を放出する以外にも、小胞膜上のタンパク質を細胞膜に組み込んだり、細胞膜を伸長させたりする機能も持っている。SNAP-25は[[電位依存性カルシウムチャネル]]や[[アクアポリン]]などのチャネルタンパク質や[[NMDA型グルタミン酸|NMDA型]]および[[AMPA型グルタミン酸]]受容体などの細胞膜への組み込みに関与していることが示されている<ref name=ref34><pubmed>11276228</pubmed></ref> <ref name=ref35><pubmed>11487629</pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed>17624753</pubmed></ref> <ref name=ref37><pubmed>18162553</pubmed></ref> <ref name=ref38><pubmed>19679075</pubmed></ref> <ref name=ref39><pubmed>20053906</pubmed></ref> <ref name=ref40><pubmed>20118925</pubmed></ref> <ref name=ref41><pubmed>25565955</pubmed></ref>。 | ||
さらにSNAP-25は[[成長円錐]]にも局在し、成長円錐の伸長に関わるほか<ref name=ref42><pubmed>19805073</pubmed></ref>、[[アダプタータンパク質]]である[[p140Cap]]と相互作用して[[樹状突起スパイン]]の形成にも関与することが示されている<ref name=ref43><pubmed>23868368</pubmed></ref>。しかしSNAP-25のノックアウトマウスでは、出生時に脳の構造に異常は認められないことから、これらの機能は出生後に起こる[[シナプス可塑性]]に関わっている可能性が高い。 | さらにSNAP-25は[[成長円錐]]にも局在し、成長円錐の伸長に関わるほか<ref name=ref42><pubmed>19805073</pubmed></ref>、[[アダプタータンパク質]]である[[p140Cap]]と相互作用して[[樹状突起スパイン]]の形成にも関与することが示されている<ref name=ref43><pubmed>23868368</pubmed></ref>。しかしSNAP-25のノックアウトマウスでは、出生時に脳の構造に異常は認められないことから、これらの機能は出生後に起こる[[シナプス可塑性]]に関わっている可能性が高い。 |