「SNARE複合体」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/coco 高橋 正身]</font><br>
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''北里大学 医学部''<br>
''北里大学 医学部''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年4月23日 原稿完成日:2016年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年4月23日 原稿完成日:2016年7月29日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
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==イントロダクション==  
==イントロダクション==  
[[image:snare複合体1.png|thumb|300px|'''図1.リン脂質膜の融合'''<br>A. 標的膜への小胞膜の接近。2つの脂質膜のリン脂質の混ざり合いは起こっていない。<br>B. へミフュージョン。小胞膜の外側のリン脂質が標的膜のリン脂質と融合し、小胞膜と標的膜の疎水性部位(黄色で表示)が、水層を超えて連絡している。<br>C. フュージョン。2つの脂質膜が完全に融合している。<br><ref><pubmed>7780737</pubmed></ref>より改変]]
[[image:snare複合体1.png|thumb|300px|'''図1.リン脂質膜の融合'''<br>A. 標的膜への小胞膜の接近。2つの脂質膜のリン脂質の混ざり合いは起こっていない。<br>B. へミフュージョン。小胞膜の外側のリン脂質が標的膜のリン脂質と融合し、小胞膜と標的膜の疎水性部位(黄色で表示)が、水層を超えて連絡している。<br>C. フュージョン。2つの脂質膜が完全に融合している。<br><ref><pubmed>7780737</pubmed></ref>より改変]]
 [[神経伝達物質]]や水溶性[[ホルモン]]の[[分泌]]は、[[シナプス小胞膜]]や[[分泌小胞膜]]が[[細胞膜]]と融合する[[開口放出]]機構によって営まれている。さらに[[小胞体]]から[[ゴルジ体]]を含むさまざまな[[細胞内小器官]]へのタンパク質輸送は、送り手の膜から出芽した[[輸送小胞]]が標的の生体膜に融合する細胞内小胞輸送機構によって営まれている。これらの過程では小胞膜が標的の生体膜と融合するステップが必須である。
 [[神経伝達物質]]や水溶性[[ホルモン]]の[[分泌]]は、[[シナプス小胞膜]]や[[分泌小胞膜]]が[[細胞膜]]と融合する[[開口放出]]機構によって営まれている。さらに[[小胞体]]から[[ゴルジ体]]を含むさまざまな[[細胞内小器官]]への膜タンパク質輸送は、送り手の膜から出芽した[[輸送小胞]]が標的の生体膜に融合する細胞内小胞輸送機構によって営まれている。これらの過程では小胞膜が標的の生体膜と融合するステップが必須である。


 細胞膜や細胞内膜は[[脂質二重層]]からできており、表面は親水性である[[wikipedia:ja:リン脂質|リン脂質]]の極性部分が被い、膜の内部には疎水性の[[wj:炭化水素|炭化水素]]の尾の部分が並んでいる(図1)。小胞膜と標的の生体膜が融合するためには、二つの膜の疎水性部分が水層を超えて連絡する[[ヘミフュージョン]]状態をとる必要があり、そのためには2つの膜が非常に接近する必要がある。しかしリン脂質の親水性の頭部には水分子が水和しており、2つの脂質膜は2.5Å以内に接近することは通常では困難である。このため脂質膜の融合が起こるためには、タンパク質の助けが必要となるが、その役割を担うタンパク質がSNAREタンパク質と呼ばれる一群のタンパク質である。
 細胞膜や細胞内膜は[[脂質二重層]]からできており、表面は親水性である[[wikipedia:ja:リン脂質|リン脂質]]の極性部分が被い、膜の内部には疎水性の[[wj:炭化水素|炭化水素]]の尾の部分が並んでいる(図1)。小胞膜と標的の生体膜が融合するためには、二つの膜の疎水性部分が水層を超えて連絡する[[ヘミフュージョン]]状態をとる必要があり、そのためには2つの膜が非常に接近する必要がある。しかしリン脂質の親水性の頭部には水分子が水和しており、2つの脂質膜は2.5Å以内に接近することは通常では困難である。このため脂質膜の融合が起こるためには、タンパク質の助けが必要となるが、その役割を担うタンパク質がSNAREタンパク質と呼ばれる一群のタンパク質である。


 [[Chinese Hamster Ovary]]([[CHO]])細胞を用いた研究から、細胞内小胞輸送に必須なタンパク質として[[N-ethylmaleimide-sensitive factor]]([[NSF]])と[[Soluble NSF Attachment Protein]]([[SNAP]])が特定された<ref name=ref1><pubmed>8745395</pubmed></ref>。脳からNSF/αSNAP複合体に結合するタンパク質として[[シンタキシン1]](syntaxin 1)、[[SNAP-25]]および[[シナプトブレビン2]]([[VAMP-2]]とも呼ばれる)が同定され、SNARE(NAP Receptor)と総称された<ref name=ref2><pubmed>8455717</pubmed></ref>。SNAREタンパク質は分子内に8回のheptad repeatからなるSNAREモチーフを持ち、[[コイルドコイル]]複合体を形成する性質がある。リコンビナントタンパク質や脳から調整された内在性のタンパク質を用いた[[免疫沈降法]]などで、シンタキシン1、 SNAP-25およびシナプトブレビン2が複合体を形成することが示された<ref name=ref3><pubmed>16912714</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>16038056</pubmed></ref>。[[X線解析]]や[[NMR解析]]の結果、SNARE複合体はSNAREモチーフを持つ4本のへリックスからなる複合体であることが示された<ref name=ref5><pubmed>9759724</pubmed></ref>。
 [[Chinese Hamster Ovary]]([[CHO]])細胞を用いた研究から、細胞内小胞輸送に必須なタンパク質として[[N-ethylmaleimide-sensitive factor]]([[NSF]])と[[Soluble NSF Attachment Protein]]([[SNAP]])が特定された<ref name=ref1><pubmed>8745395</pubmed></ref>。脳からNSF/αSNAP複合体に結合するタンパク質として[[シンタキシン1]](syntaxin 1)、[[SNAP-25]]および[[シナプトブレビン2]]([[VAMP-2]]とも呼ばれる)が同定され、SNAP REceptor(SNARE)と総称された<ref name=ref2><pubmed>8455717</pubmed></ref>。リコンビナントタンパク質や脳から調整された内在性のタンパク質を用いた[[免疫沈降法]]などで、シンタキシン1、 SNAP-25およびシナプトブレビン2が複合体を形成することが示された<ref name=ref3><pubmed>16912714</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>16038056</pubmed></ref>。[[X線解析]]や[[NMR解析]]の結果、SNAREタンパク質はSNAREモチーフを持つ4本のへリックスからなる[[コイルドコイル]]複合体を形成することが示された<ref name=ref5><pubmed>9759724</pubmed></ref>。


 シンタキシン1 、SNAP-25、シナプトブレビン2の[[ノックアウトマウス]]では開口放出による同期した[[神経伝達物質]]放出が見られないことや<ref name=ref6><pubmed>11753414</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>11691998</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>24587181</pubmed></ref>、タイプ特異的にSNAREタンパク質を切断する破傷風毒素やボツリヌス毒素を作用させると、神経伝達物質放出が抑制されること<ref name=ref9><pubmed>10195143</pubmed></ref>、[[wikipedia:ja:リポソーム|リポソーム]]にSNAREタンパク質を組み込むとリポソーム同士の融合が引き起こされることなどから<ref name=ref10><pubmed>9529252</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>25997356</pubmed></ref>、SNARE複合体の形成が脂質膜の融合を引き起こすと考えられるようになった<ref name=ref12><pubmed>19164740</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>24183019</pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed>23060190</pubmed></ref>。
 シンタキシン1 、SNAP-25、シナプトブレビン2の[[ノックアウトマウス]]では開口放出による同期した[[神経伝達物質]]放出が見られないことや<ref name=ref6><pubmed>11753414</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>11691998</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>24587181</pubmed></ref>、タイプ特異的にSNAREタンパク質を切断する破傷風毒素やボツリヌス毒素を作用させると、神経伝達物質放出が抑制されること<ref name=ref9><pubmed>10195143</pubmed></ref>、[[wikipedia:ja:リポソーム|リポソーム]]にSNAREタンパク質を組み込むとリポソーム同士の融合が引き起こされることなどから<ref name=ref10><pubmed>9529252</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>25997356</pubmed></ref>、SNARE複合体の形成が脂質膜の融合を引き起こすと考えられるようになった<ref name=ref12><pubmed>19164740</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>24183019</pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed>23060190</pubmed></ref>。
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[[image:snare複合体3.png|thumb|300px|'''図5.SNAREタンパク質のモチーフ構造'''<br>シナプス小胞の開口放出に関わるSNAREタンパク質であるシンタキシン1A, SNAP-25およびシナプトブレビン2の分子構造。N末端が左側に来るように表示してある。シンタキシン1AのN末端側には、HA、HB、HCの3つのへリックスからなるN末ドメインが、C末端側にはSNAREモチーフが存在する。カルボキシ末端には20残基以上の疎水性アミノ酸が連なる膜貫通領域(TM)が存在し、リンカ―(L)によってSNAREモチーフと結ばれている。SNAP-25にはN末側とC末側の2か所にSNAREモチーフが存在する。SNAP-25は膜貫通領域を持たないが、分子の中央付近にあるパルミトイル化されたシステイン残基のクラスターを介して細胞膜に係留されている。シナプトブレビン2にはSNAREモチーフが1か所存在し、カルボキシ末端にある膜貫通領域とリンカ―で結ばれている。]]
[[image:snare複合体3.png|thumb|300px|'''図5.SNAREタンパク質のモチーフ構造'''<br>シナプス小胞の開口放出に関わるSNAREタンパク質であるシンタキシン1A, SNAP-25およびシナプトブレビン2の分子構造。N末端が左側に来るように表示してある。シンタキシン1AのN末端側には、HA、HB、HCの3つのへリックスからなるN末ドメインが、C末端側にはSNAREモチーフが存在する。カルボキシ末端には20残基以上の疎水性アミノ酸が連なる膜貫通領域(TM)が存在し、リンカ―(L)によってSNAREモチーフと結ばれている。SNAP-25にはN末側とC末側の2か所にSNAREモチーフが存在する。SNAP-25は膜貫通領域を持たないが、分子の中央付近にあるパルミトイル化されたシステイン残基のクラスターを介して細胞膜に係留されている。シナプトブレビン2にはSNAREモチーフが1か所存在し、カルボキシ末端にある膜貫通領域とリンカ―で結ばれている。]]


 SNAREタンパク質は概して[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]100~300位からなる小さなタンパク質で、分子内に約60アミノ酸からなるSNAREモチーフを持っている。SNAREモチーフには[[heptad repeat]]と呼ばれる7アミノ酸の繰り返し構造がある(図2)。Heptad repeatを構成する7つのアミノ酸残基をa~gとした時、aとdの位置には[[ロイシン]]、[[イソロイシン]]、[[バリン]]などの[[wikipedia:ja:疎水性アミノ酸|疎水性アミノ酸]]が、他の部位には主に[[wikipedia:ja:親水性アミノ酸|親水性アミノ酸]]が配置されている。Heptad repeatを持つポリペプチド鎖が[[wikipedia:ja:ヘリックス|ヘリックス]]を巻くと、へリックスの片側に疎水性残基が帯状に連なるため、heptad repeatを持つ他のへリックスと疎水性面を介して会合しコイルドコイル複合体を作る。
 SNAREタンパク質は概して[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]100~300位からなる小さなタンパク質で、分子内に約60アミノ酸からなるSNAREモチーフを持っている。SNAREモチーフには[[heptad repeat]]と呼ばれる7アミノ酸の繰り返し構造がある(図2)。Heptad repeatを構成する7つのアミノ酸残基をa~gとした時、aとdの位置には[[ロイシン]]、[[イソロイシン]]、[[バリン]]などの[[wikipedia:ja:疎水性アミノ酸|疎水性アミノ酸]]が、他の部位には主に[[wikipedia:ja:親水性アミノ酸|親水性アミノ酸]]が配置されている。Heptad repeatを持つポリペプチド鎖が[[wikipedia:ja:ヘリックス|ヘリックス]]構造を取ると、へリックスの片側に疎水性残基が帯状に連なるため、heptad repeatを持つ他のへリックスと疎水性面を介して会合しコイルドコイル複合体を作る。


 シナプス膜での開口放出に関わるSNAREタンパク質であるシンタキシン1はイソロイシン202 –Tyr257、シナプトブレビン2はロイシン32 –Lys87、SNAP-25はThr29 –フェニルアラニン84およびロイシン150 –Ser205の2か所にSNAREモチーフが存在し、それぞれheptad repeat が8回繰り返されている。SNAREタンパク質はSNAREモチーフを介して会合し、4本のへリックスからなるヘテロ複合体であるSNARE複合体を形成する<ref name=ref5 />(図3)。
 シナプス膜での開口放出に関わるSNAREタンパク質であるシンタキシン1はイソロイシン202 –チロシン257、シナプトブレビン2はロイシン32 –リシン87、SNAP-25はトレオニン29 –フェニルアラニン84およびロイシン150 –セリン205の2か所にSNAREモチーフが存在し、それぞれheptad repeat が8回繰り返されている。SNAREタンパク質はSNAREモチーフを介して会合し、4本のへリックスからなるヘテロ複合体であるSNARE複合体を形成する<ref name=ref5 />(図3)。


 SNAREモチーフではaおよびdの位置にくるアミノ酸側鎖は複合体の内側に向いており、疎水性結合で結ばれたレイヤー面を構成する(図4)。SNAREモチーフではaとdの位置にロイシン、イソロイシン、バリン以外の残基も見られ、[[フェニルアラニン]]のようにかさばる残基がくる場合には、同じレイヤー面の他のへリックスでは[[アラニン]]になる。SNAREモチーフではモチーフの中央付近にある4つ目のheptad repeatのd位は正電荷をもつ[[アルギニン]]か親水性の[[グルタミン]]であるという顕著な特徴を持っており、これらの残基を含む面を0レイヤーと呼んでいる。0レイヤーにアルギニン(R)を供出するSNAREをR-SNAREと呼び、グルタミン(Q)を供出するSNAREをQ-SNAREと呼んでいる。シナプス膜ではシナプトブレビン2がR-SNAREで、シンタキシン1とSNAP-25の二つのSNAREモチーフがQ-SNAREである。SNARE複合体ではSNAREモチーフを持つ4つのへリックスのN末端が同じ方向に向くように配置されている(図3)。
 SNAREモチーフではaおよびdの位置にくるアミノ酸側鎖は複合体の内側に向いており、疎水性結合で結ばれたレイヤー面を構成する(図4)。SNAREモチーフではaとdの位置にロイシン、イソロイシン、バリン以外の残基も見られ、[[フェニルアラニン]]のようにかさばる残基がくる場合には、同じレイヤー面の他のへリックスでは[[アラニン]]になる。SNAREモチーフではモチーフの中央付近にある4つ目のheptad repeatのd位は正電荷をもつ[[アルギニン]]か親水性の[[グルタミン]]であるという顕著な特徴を持っており、これらの残基を含む面を0レイヤーと呼んでいる。0レイヤーにアルギニン(R)を供出するSNAREをR-SNAREと呼び、グルタミン(Q)を供出するSNAREをQ-SNAREと呼んでいる。シナプス膜ではシナプトブレビン2がR-SNAREで、シンタキシン1とSNAP-25の二つのSNAREモチーフがQ-SNAREである。SNARE複合体ではSNAREモチーフを持つ4つのへリックスのN末端が同じ方向に向くように配置されている(図3)。
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 小胞体で作られた膜タンパク質は、細胞内小胞輸送機構で細胞膜やゴルジ体をはじめとする様々な細胞内小器官に輸送されていく。これらのタンパク質輸送には送り手の膜から出芽した輸送小胞が標的の膜に融合する細胞内小胞輸送機構によって営まれており、全ての膜融合にSNAREタンパク質が関わっている。小胞膜のSNAREをv-SNARE、融合する標的膜のSNAREを[[t-SNARE]]と呼ぶが、シナプスではシナプス小胞にあるシナプトブレビン2が[[v-SNARE]]として、シナプス前膜にあるシンタキシン1とSNAP-25がt-SNAREとして機能している。
 小胞体で作られた膜タンパク質は、細胞内小胞輸送機構で細胞膜やゴルジ体をはじめとする様々な細胞内小器官に輸送されていく。これらのタンパク質輸送には送り手の膜から出芽した輸送小胞が標的の膜に融合する細胞内小胞輸送機構によって営まれており、全ての膜融合にSNAREタンパク質が関わっている。小胞膜のSNAREをv-SNARE、融合する標的膜のSNAREを[[t-SNARE]]と呼ぶが、シナプスではシナプス小胞にあるシナプトブレビン2が[[v-SNARE]]として、シナプス前膜にあるシンタキシン1とSNAP-25がt-SNAREとして機能している。


 哺乳類ではこれまでに40種類近いSNAREタンパク質が見出されており、アミノ酸配列の類似性を基に系統樹が作られている<ref name=ref4 />(図6)。SNAREタンパク質にはQa、Qb、Qc およびRの4つの大きなサブファミリーが存在する。SNARE複合体は4つのブファミリーから1本ずつのSNAREモチーフを持つヘリックスが供出されて形成されるので、SNARE複合体は3本のQ-SNAREと1本のR-SNAREから構成されている。様々な生体膜間での小胞輸送には、それぞれ特有のSNAREタンパク質の組み合わせが関与している<ref name=ref4 /> <ref name=ref15 />。
 哺乳類ではこれまでに40種類近いSNAREタンパク質が見出されており、SNAREモチーフのアミノ酸配列の類似性を基に系統樹が作られている<ref name=ref4 />(図6)。様々な生体膜間での小胞輸送には、それぞれ特有のSNAREタンパク質の組み合わせが関与している<ref name=ref4 /> <ref name=ref15 />。


==小胞輸送の素過程==
==小胞輸送の素過程==
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==膜融合==
==膜融合==
 膜融合が完全に進行し、小胞膜が細胞膜に完全に組み込まれると、SNARE複合体はv-SNAREとt-SNAREが異なる膜に存在するtrans型から、同一の膜に存在するcis型に移行する。v-SNAREであるシナプトブレビン2とt-SNAREであるシンタキシンはC末端に細胞膜貫通するへリックス構造を持つが、SNAREモチーフとの間にはリンカー部分が存在する(図5)。細胞膜貫通部位を含むcis-SNARE複合体の構造がNMR構造解析で明らかにされたが、へリックス構造はSNAREモチーフのみならず、リンカー部分や膜貫通部位にまで及んでいる<ref name=ref38><pubmed>19571812</pubmed></ref>(図8)。このためt-SNAREとv-SNAREの複合体形成はSNARE複合体を超えて細胞膜貫通部位にまで及び、その結果2つの脂質膜は非常に接近させられ膜融合へと移行すると考えられる。
 膜融合が完全に進行し、小胞膜が細胞膜に完全に組み込まれると、SNARE複合体はv-SNAREとt-SNAREが異なる膜に存在するtrans型から、同一の膜に存在するcis型に移行する(図9)。v-SNAREであるシナプトブレビン2とt-SNAREであるシンタキシンはC末端に細胞膜貫通するへリックス構造を持つが、SNAREモチーフとの間にはリンカー部分が存在する(図5)。細胞膜貫通部位を含むcis-SNARE複合体の構造がNMR構造解析で明らかにされたが、へリックス構造はSNAREモチーフのみならず、リンカー部分や膜貫通部位にまで及んでいる<ref name=ref38><pubmed>19571812</pubmed></ref>(図8)。このためt-SNAREとv-SNAREの複合体形成はSNARE複合体を超えて細胞膜貫通部位にまで及び、その結果2つの脂質膜は非常に接近させられ膜融合へと移行すると考えられる。


 SNARE複合体形成は[[wikipedia:ja:発エルゴン反応|発エルゴン反応]]であるが、SNARE複合体形成により放出される自由エネルギーは膜融合を起こすのに十分な大きさであることが示されている<ref name=ref4 />。膜融合が完全に進行する以前に小胞膜と細胞膜が連結すると、フュージョンポアが形成され、小胞の内容物の放出が始まる。フュージョンポアが形成されるにはSNARE複合体が完全に形成されることが必要で、フュージョンポアの形成にはシナプトブレビン2やシンタキシン1の膜貫通領域が間接的に寄与している<ref name=ref39><pubmed>24985331</pubmed></ref> <ref name=ref40><pubmed>15016962</pubmed></ref>。
 SNARE複合体形成は[[wikipedia:ja:発エルゴン反応|発エルゴン反応]]であるが、SNARE複合体形成により放出される自由エネルギーは膜融合を起こすのに十分な大きさであることが示されている<ref name=ref4 />。膜融合が完全に進行する以前に小胞膜と細胞膜が連結すると、フュージョンポアが形成され、小胞の内容物の放出が始まる。フュージョンポアが形成されるにはSNARE複合体が完全に形成されることが必要で、フュージョンポアの形成にはシナプトブレビン2やシンタキシン1の膜貫通領域が間接的に寄与している<ref name=ref39><pubmed>24985331</pubmed></ref> <ref name=ref40><pubmed>15016962</pubmed></ref>。

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