「Voxel Based Morphometry」の版間の差分

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<font size="+1">[http://neurosci.umin.jp/j/neuropsychiatry.html 山末 英典]</font><br>
''東京大学 医学部''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月16日 原稿完成日:2013年3月28日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英語略:VBM  
英語略:VBM  


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 Voxel-based morphometryは、頭部[[Magnetic resonance imaging]] ([[MRI]])を半自動的に処理し、脳全体を細かなボクセル単位(1〜8mm立方程度)で統計解析し、様々な精神神経疾患の患者における脳体積の減少や増加、あるいは健常[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]における様々な精神機能や行動パターンなどと関連した脳形態特徴などを同定する事に貢献してきた。コンピュータや画像技術の進歩と共に1990年代の後半から登場し、従来の用手的な体積測定法に変わって脳形態解析の定番となっている。  
 Voxel-based morphometryは、頭部[[Magnetic resonance imaging]] ([[MRI]])を半自動的に処理し、脳全体を細かなボクセル単位(1〜8mm立方程度)で統計解析し、様々な精神神経疾患の患者における脳体積の減少や増加、あるいは健常[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]における様々な精神機能や行動パターンなどと関連した脳形態特徴などを同定する事に貢献してきた。コンピュータや画像技術の進歩と共に1990年代の後半から登場し、従来の用手的な体積測定法に変わって脳形態解析の定番となっている。  
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== 特長 ==
== 特長 ==
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 1990年代までは多くの脳形態解析研究には、[[関心領域]]([[ROI]]: [[Region-of-interest]])法が用いられており、知見のほとんどが[[ROI法]]によって得られたものであった。このROI法では、測定者がスライス一枚ごとに、解剖学的構造物を基準として厳密に定義された方法で、関心領域の境界を手書きで書き込んでいき、部位によっては数10スライスにわたる作業をやり遂げて、初めて体積が測定可能となる。そして、十分に測定の妥当性と信頼性を高めるために、測定者は繰り返しトレーニングを受ける必要があった。こうした特徴から、ROI法では、測定に著しい時間と労力が必要とされるために、研究対象となる脳部位はある特定の仮説に基づいた部位に限定され、サンプルサイズも制限されがちであった。また、明確な境界を定義可能な部位に制限されやすく、出来るだけ簡便で分かりやすい境界を用いて測定者間一致度を高めることと、細胞構築や脳機能の観点から出来る限り妥当な境界を設定することとは、時として食い違う場合もあった。
 1990年代までは多くの脳形態解析研究には、[[関心領域]]([[ROI]]: [[Region-of-interest]])法が用いられており、知見のほとんどが[[ROI法]]によって得られたものであった。このROI法では、測定者がスライス一枚ごとに、解剖学的構造物を基準として厳密に定義された方法で、関心領域の境界を手書きで書き込んでいき、部位によっては数10スライスにわたる作業をやり遂げて、初めて体積が測定可能となる。そして、十分に測定の妥当性と信頼性を高めるために、測定者は繰り返しトレーニングを受ける必要があった。こうした特徴から、ROI法では、測定に著しい時間と労力が必要とされるために、研究対象となる脳部位はある特定の仮説に基づいた部位に限定され、サンプルサイズも制限されがちであった。また、明確な境界を定義可能な部位に制限されやすく、出来るだけ簡便で分かりやすい境界を用いて測定者間一致度を高めることと、細胞構築や脳機能の観点から出来る限り妥当な境界を設定することとは、時として食い違う場合もあった。


 それに対してVBMは、各個人のMRI画像データを標準脳座標上に変換し、空間正規化をする事で、自動的に全脳の形態学的解析を行なう事が出来る比較的新しい方法である<ref><pubmed> 10860804 </pubmed></ref>(図)。仮説に基づいた関心領域のみを手書きで計測するROI方法と対照的に、比較的簡便に自動的に解析でき、測定者の違いに左右されないという特徴がある。また、より大きなサンプルでの研究が可能で、これまでは境界の定義が困難であるために研究されにくかった脳部位についても研究でき、ある特定の要因に関連のある部位を全脳から検出出来るという利点が得られている。こうした利点を生かして、近年のVBMを用いた研究は、単にROI法で得られた知見の追試にとどまらず、新たな知見を付け加えてきている。そして、現在までに[[統合失調症]]<ref><pubmed> 9988836 </pubmed></ref>、[[気分障害]]、[[自閉症スペクトラム障害]]、[[心的外傷後ストレス障害]]([[Post-traumatic stress disorder]]: [[PTSD]])<ref><pubmed> 12853571 </pubmed></ref>や[[アルツハイマー]]型認知症などの様々な精神神経疾患、および健常範囲の脳形態の個体差とタクシー運転手としての経験<ref><pubmed>1071673</pubmed></ref>や男女差と性格<ref><pubmed> 18234682 </pubmed></ref>や[[遺伝子多型]]<ref><pubmed> 15880108 </pubmed></ref>さらには朝食のスタイル<ref><pubmed> 21170334 </pubmed></ref>などとの関連の解明に応用されて新たな知見を提供してきた。
 それに対してVBMは、各個人のMRI画像データを標準脳座標上に変換し、空間正規化をする事で、自動的に全脳の形態学的解析を行なう事が出来る比較的新しい方法である<ref><pubmed> 10860804 </pubmed></ref>(図)。仮説に基づいた関心領域のみを手書きで計測するROI方法と対照的に、比較的簡便に自動的に解析でき、測定者の違いに左右されないという特徴がある。また、より大きなサンプルでの研究が可能で、これまでは境界の定義が困難であるために研究されにくかった脳部位についても研究でき、ある特定の要因に関連のある部位を全脳から検出出来るという利点が得られている。こうした利点を生かして、近年のVBMを用いた研究は、単にROI法で得られた知見の追試にとどまらず、新たな知見を付け加えてきている。そして、現在までに[[統合失調症]]<ref><pubmed> 9988836 </pubmed></ref>、[[気分障害]]、[[自閉症スペクトラム障害]]、[[心的外傷後ストレス障害]]([[Post-traumatic stress disorder]]: [[PTSD]])<ref><pubmed> 12853571 </pubmed></ref>や[[アルツハイマー型認知症]]などの様々な精神神経疾患、および健常範囲の脳形態の個体差とタクシー運転手としての経験<ref><pubmed>1071673</pubmed></ref>や男女差と性格<ref><pubmed> 18234682 </pubmed></ref>や[[遺伝子多型]]<ref><pubmed> 15880108 </pubmed></ref>さらには朝食のスタイル<ref><pubmed> 21170334 </pubmed></ref>などとの関連の解明に応用されて新たな知見を提供してきた。


== 原理と方法 ==
== 原理と方法 ==
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 DARTELでは、何百万ものパラメータを使って各被験者の脳の形態をモデリングすることにより、テンプレートに繰り返し合わせながら、被験者間の位置合わせの精度を高めている。
 DARTELでは、何百万ものパラメータを使って各被験者の脳の形態をモデリングすることにより、テンプレートに繰り返し合わせながら、被験者間の位置合わせの精度を高めている。


 また、false-positive やfalse-negativeを最小限にするための有意水準補正法としては、[[wikipedia:ja:ボンフェローニタイプの補正|ボンフェローニタイプの補正]]である[[wikipedia:ja:Family-wise error補正|Family-wise error補正]]や、棄却された仮説のうち誤って棄却された真の帰無仮説の割合を制御する[[wikipedia:alse discovery rate correction|False discovery rate correction]]<ref><pubmed> 11906227 </pubmed></ref>などの補正法が、事前に予測された関心領域を定義しその関心領域内で多重比較補正を行うSmall volume correctionなどと組み合わせて用いられている。
 また、false-positive やfalse-negativeを最小限にするための有意水準補正法としては、[[wikipedia:Bonferroni_correction|ボンフェローニタイプの補正]]である[[wikipedia:Familywise error rate|Family-wise error補正]]や、棄却された仮説のうち誤って棄却された真の帰無仮説の割合を制御する[[wikipedia:False discovery rate|False discovery rate correction]]<ref><pubmed> 11906227 </pubmed></ref>などの補正法が、事前に予測された関心領域を定義しその関心領域内で多重比較補正を行うSmall volume correctionなどと組み合わせて用いられている。


==関連項目==
==関連項目==
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references/>
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(執筆者:山末英典 担当編集委員:加藤忠史)

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