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132 バイト追加 、 2012年12月14日 (金)
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==== β-カテニン非依存性経路  ====
==== β-カテニン非依存性経路  ====
 non-canonical(非古典的)経路とも呼ばれる。
 non-canonical(非古典的)経路とも呼ばれる。
=====PCP経路=====
 PCP経路ではWntがFzと結合し、その情報はDvlに伝達され、RhoやRacの低分子量Gタンパク質が活性化される。ショウジョウバエの羽の細胞には1本ずつの毛が遠位方向に向かって生えているが、Fzの遺伝子変異では毛の向きが変わってしまうことがわかり、Fzがかかわる平面極性制御シグナルをPCPシグナルとよぶようになった。同様な表現型を示すものとして、Fmi (Flamingo), Stbm (Stramismus), Dsh (Dishevelled), Pk (Prickle), Dgo (Diego)が同定され、これらはコアPCPタンパク質とよばれている。[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]においても、[[Fz6]]遺伝子[[ノックアウトマウス]]では体表の毛のパターンが乱れ、Stbm, Fmi, Fz, Dshの相同遺伝子の変異は[[内耳]]の[[蝸牛]]管の感覚受容細胞が生やす繊毛の束の方向をばらばらにしてしまう。さらに、[[アフリカツメガエル]]や[[ゼブラフィッシュ]]において、コアPCPタンパクの遺伝子機能欠損・変異により[[原腸形成]]が阻害され、体長が前後に伸びることができない表現型を示す。  
 PCP経路ではWntがFzと結合し、その情報はDvlに伝達され、RhoやRacの低分子量Gタンパク質が活性化される。ショウジョウバエの羽の細胞には1本ずつの毛が遠位方向に向かって生えているが、Fzの遺伝子変異では毛の向きが変わってしまうことがわかり、Fzがかかわる平面極性制御シグナルをPCPシグナルとよぶようになった。同様な表現型を示すものとして、Fmi (Flamingo), Stbm (Stramismus), Dsh (Dishevelled), Pk (Prickle), Dgo (Diego)が同定され、これらはコアPCPタンパク質とよばれている。[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]においても、[[Fz6]]遺伝子[[ノックアウトマウス]]では体表の毛のパターンが乱れ、Stbm, Fmi, Fz, Dshの相同遺伝子の変異は[[内耳]]の[[蝸牛]]管の感覚受容細胞が生やす繊毛の束の方向をばらばらにしてしまう。さらに、[[アフリカツメガエル]]や[[ゼブラフィッシュ]]において、コアPCPタンパクの遺伝子機能欠損・変異により[[原腸形成]]が阻害され、体長が前後に伸びることができない表現型を示す。  


=====カルシウム経路=====
 カルシウム経路はホスホリパーゼC-β(PLC-β)を介して細胞内にカルシウムを動員し、[[カルモデュリン依存性タンパク質リン酸化酵素]](CaMK)と[[Ca2+/リン脂質依存性タンパク質リン酸化酵素|Ca<sup>2+</sup>/リン脂質依存性タンパク質リン酸化酵素]] (Cキナーゼ)を活性化する。WntシグナルはPCP経路とカルシウム経路を介して細胞骨格を調節し、細胞の極性や運動を制御していると考えられる。  
 カルシウム経路はホスホリパーゼC-β(PLC-β)を介して細胞内にカルシウムを動員し、[[カルモデュリン依存性タンパク質リン酸化酵素]](CaMK)と[[Ca2+/リン脂質依存性タンパク質リン酸化酵素|Ca<sup>2+</sup>/リン脂質依存性タンパク質リン酸化酵素]] (Cキナーゼ)を活性化する。WntシグナルはPCP経路とカルシウム経路を介して細胞骨格を調節し、細胞の極性や運動を制御していると考えられる。  


=====その他の経路=====
 上記のシグナル伝達に加えて、Ror2がWnt5aと結合し、[[Cdc42]]と[[JNK]]を介してアフリカツメガエルの原腸形成における細胞運動を制御したり、[[filamin A]]と結合することにより[[アクチン]]を再構成し、細胞運動を促進することから、Ror2がWnt5aの受容体として機能して、β-カテニン非依存性経路の活性化に関与する可能性が高い。  
 上記のシグナル伝達に加えて、Ror2がWnt5aと結合し、[[Cdc42]]と[[JNK]]を介してアフリカツメガエルの原腸形成における細胞運動を制御したり、[[filamin A]]と結合することにより[[アクチン]]を再構成し、細胞運動を促進することから、Ror2がWnt5aの受容体として機能して、β-カテニン非依存性経路の活性化に関与する可能性が高い。  


=====β-カテニン非依存性経路の機能=====
 β-カテニン非依存性経路の機能として、β-カテニン経路を抑制することが知られている。その抑制メカニズムとして、Wnt5aがCaMKを介して[[TGF-β-activated kinase1]]([[TAK1]])と[[Nemo-like kinase]]([[NLK]])を活性化し、NLKがTcfをリン酸化することにより[[wikipedia:ja:DNA|DNA]]との結合を抑制すること、Wnt5aが[[ユビキチンリガーゼ]][[Siah2]]の発現を介してユビキチン化によるβ-カテニンの分解を促進する。さらに、Wnt5aは細胞膜上でWnt3aとFzとの結合において競合することにより、Wnt3aによるβ-カテニン経路の活性化を阻害する。
 β-カテニン非依存性経路の機能として、β-カテニン経路を抑制することが知られている。その抑制メカニズムとして、Wnt5aがCaMKを介して[[TGF-β-activated kinase1]]([[TAK1]])と[[Nemo-like kinase]]([[NLK]])を活性化し、NLKがTcfをリン酸化することにより[[wikipedia:ja:DNA|DNA]]との結合を抑制すること、Wnt5aが[[ユビキチンリガーゼ]][[Siah2]]の発現を介してユビキチン化によるβ-カテニンの分解を促進する。さらに、Wnt5aは細胞膜上でWnt3aとFzとの結合において競合することにより、Wnt3aによるβ-カテニン経路の活性化を阻害する。