トーク:Parkin
脳科学辞典「パーキン」Review report 110420
査読を有り難うございます。コメントが付与されました3点について対応しましたので、ご確認宜しくお願いします。
(1)本総説は、培養細胞やショウジョウバエを用いた生化学・細胞生物学・分子遺伝学的な研究をメインに記載されている。そのため、Parkinの機能をヒトの臨床情報と関連付けるような記述がやや少ないかもしれない(もちろん、最終章には「疾患との関わり」という章立てがあり、そのような情報も網羅しようとされている)。
例えば、膨大な数のPRKN変異の情報と培養細胞レベルでの機能解析(Parkinの安定性やMitophagy活性)を比較して、臨床情報と細胞生物学的な結果の橋渡しを試みた論文(Hum Mol Genet 2019; 28: 2811-2825. PMID: 30994895)などを引用しても良いと思われる。
「疾患との関わり」という項目に、臨床との関連を記述されているが、これまで報告された多数のPRKN変異の機能、臨床情報の関連について、上記の論文等でどのような考え方になっているかその概要を説明いただくと良いと思います。可能であれば、研究者がアクセスできる疾患変異のデータベースなども紹介いただくと良いと思います。
回答1,臨床情報の関連について、以下のように、加筆(赤字)しました。
• 疾患との関わり PRKNのホモ接合性変異、複合ヘテロ接合性変異で、若年発症のパーキンソン病を発症する。ヘテロ接合性変異により、パーキンソン病を晩発で発症する例も見られる[64]。PRKNの病因変異やレアバリアントの報告は、世界中で多数あり、以下のデータベースで検索できる。
MDS gene の Parkin https://www.mdsgene.org/d/1/g/4
LOVD の PARK2 https://databases.lovd.nl/shared/variants/PARK2/unique
バリアントデータベースとして以下も利用できる。
ClinVar https://www.ncbi.nlm.nih.gov/clinvar/
HGMD(有料) http://www.hgmd.cf.ac.uk/ac/index.php
DECIPHER Genome Browser https://decipher.sanger.ac.uk/browser
PRKNミスセンス病因変異・レアバリアントとタンパク質の安定性・マイトファジーとの相関を培養細胞で調べた研究がある[69]。病態が比較的重篤なミスセンス病因変異は、すべてマイトファジー活性が50%以下に低下していた。しかし、病態が軽度・病態への意義が不明なミスセンス病因変異・レアバリアントでは、マイトファジーへの影響がほとんどなく、まれに亢進しているものも観察された。ユビキチンリガーゼ活性やタンパク質の安定性に影響しない病因変異については、不活性状態を解くアミノ酸への置換(REPを不安定化させるF146AやW403A、図3参照)の導入により、マイトファジー活性が戻ることが示された。この観察は、Parkinの不活性状態を解く化合物がパーキンソン病の疾患修飾薬となる可能性を示唆している。
[69] Yi W, MacDougall EJ, Tang MY, Krahn AI, Gan-Or Z, Trempe J-F, Fon EA (2019) The landscape of Parkin variants reveals pathogenic mechanisms and therapeutic targets in Parkinson’s disease. Human molecular genetics 28 (17):2811-2825. doi:10.1093/hmg/ddz080
PDMutDBは現在アクセスできないので、バリアントデータベースとして記載しません。
https://uantwerpen.vib.be/PDMutDB
(2)「個体レベルでの機能」の章において、以下のような記載がある。
しかし、マイトファジーを可視化できるmito-QCマウスの中脳黒質ドーパミン神経では、Parkinを介したマイトファジーは検出されていない[55]。一方ショウジョウバエでは、中枢ドーパミン神経のマイトファジーにParkinが関与するという報告[56]、しないという報告[57]がある。ショウジョウバエでは、ParkinやPINK1変異でミトコンドリア呼吸鎖複合体サブユニット群の半減期が長くなっており、マイトファジー以外の選択的なミトコンドリアタンパク質分解機構が提唱されている[58,59]。
個体レベルでParkinがマイトファジーに関与しているのかどうかは、まさに議論のあるところだが、解析時に用いた「マイトファジー活性をモニターする実験系」の種類によって、結論が異なることは注目に値する。 つまり、マイトファジー活性のモニタに mito-QC を用いている研究グループ(McWilliams & Ganley のグループと、Whitworth のグループ)はParkinが個体レベルでマイトファジーに関係することに否定的なデータを報告しており、一方でマイトファジー活性のモニタに mt-Keima を用いているグループ(Youle のグループ, Vandenberghe のグループ, Jeanho Yun のグループ:未掲載)はParkinが個体レベルでもマイトファジーに関与するというデータを示している。このような状況を踏まえて、以下のように文章を変更することを勧めたい。
しかし、マイトファジーを可視化できるmito-QCマウスの中脳黒質ドーパミン神経では、Parkinを介したマイトファジーは検出されていない[55]。一方で、マイトファジーを可視化するのにmt-Keimaを用いたマウスでは、強負荷運動後の心筋におけるマイトファジーがpink1-/-によって減少する[PMID: 30135585:本文中では #63として引用も、この章では引用されていないので引用文献に追加]。一方ショウジョウバエでは、マイトファジーにParkinが関与するという報告[56, できればPMID: 31120803も追加]と、関与しないという報告[57]がある。興味深いことに、測定方法に着目すると、個体レベルでマイトファジーをモニタする際にmito-QCを用いる研究者は「pink1/Parkinがマイトファジーに関与すること」に否定的であり[55, 57]、mt-Keimaを用いる研究者は「pink1/Parkinがマイトファジーに関与すること」に肯定的である[56, 63, できればPMID:31120803も引用]。Parkinの個体レベルの機能については、測定手段の違いに着目しつつ今後の展開を注視する必要がある。
回答2,ショウジョウバエの当該研究では、レポーター(mito-QC, mt-Keima)いずれでも矛盾があり、レポーターで検出結果を書き分けることは困難です。例えば、マイトファジーへの関与がみられないとする文献[61]*ではmt-Keimaとmito-QC両方の特性を評価、比較し、以下のような記載で大きな差はないとしています。
these findings validate the mitophagy signal of mito-QC and mt-Keima as faithful reporters of mitolysosomes in Drosophila, similarly to previously characterized mouse models
その後の解析としてのドーパミン神経のデータはmito-QCのみですが、30日齢の加齢したハエでも確認しています。一方、文献[60]では、mt-Keimaでみていますが、4週齢(28日齢)の加齢ハエでは、ドーパミン神経でのマイトファジーが見えるとしています。筋肉(Fig 2)ではCLEMでリソソーム様の構造は示していますが、ミトコンドリアが内包された像がないので、こちらもマイトファジーなのか、ミトコンドリアに局在しなかったmt-Keimaのシグナルか、はっきりしません。文献[62]においては、PINK1, Parkin依存的なマイトファジーを3齢幼虫の筋肉と翅の原基でみていますが、以下のような記載もあります。以上を反映するように加筆しました(赤字)。
- 文献番号は、リバイス版の文献リストの番号に相当します。
文献[62]の記載: we did not observe significant differences in the levels of basal mitophagy in the wing discs of L3 larvae and in dopaminergic neurons of adults after knock down of PINK1 or parkin (unpublished data).
4. 個体レベルでの機能
ミトコンドリアゲノム変異[56]・異常タンパク質のミトコンドリアへの蓄積[57]を示す動物モデルで、Parkinが不良ミトコンドリアの除去に関与することが示されている。しかし、マイトファジーを可視化できるmito-QCマウスの中脳黒質ドーパミン神経では、Parkinを介したマイトファジーは検出されていない[58]。一方、マイトファジーを可視化するmt-Keimaを用いたマウスでは、PINK1の欠失によって、強負荷運動後の心筋におけるマイトファジーが減少することが報告されている[59]。
ショウジョウバエでは、加齢依存的な中枢ドーパミン神経のマイトファジーにParkinが関与するという報告[60]、しないという報告[61,62]がある。ただし文献[62]では、非神経組織において、低酸素処理によるマイトファジーや、ミトコンドリアから活性酸素種を発生させるロテノン処理で誘導されるマイトファジーにPINK1、Parkinが関与すると報告している。ショウジョウバエモデルにおいて、PINK1やParkinが中枢ドーパミン神経のマイトファジーに関与するという文献[60]ではmt-Keimaを、関与しないという文献[61]ではmt-Keimaとmito-QCを、非神経組織でのPINK1-Parkin依存的なマイトファジーをみた文献[62]ではmt-Keimaを、マイトファジーのレポーターとして用いている。今後、新たなマイトファジー解析手法が待たれる状況である。
(3)Parkinの「活性化機構」の章において、「PINK1によってSer65がリン酸化されたユビキチンがParkinのリン酸基結合ポケットに結合し・・・」という記述があるが、PINK1がユビキチンをリン酸化することを報告した論文が引用されていない。また、「UblのSer65がPINK1によりリン酸化され、RING2にある活性中心とユビキチン結合酵素(E2)結合部位が露出する」という記述があるが、この書き方ではE2結合部位がRING2にあると誤解される恐れがあり、またリン酸化UblがRING0/UPDに結合することを記載したほうが理解しやすいように思える(これらの点は、図3の説明文ではきちんと記載されている)。そこで、以下のように文章を変更することを勧めたい。
コンパクトに折り畳まれたParkinは、活性中心がマスクされ不活性型である。Parkinの活性化は2つのステップで起こる。1段階目として、PINK1によってSer65がリン酸化されたユビキチン[Kane JCB 2014; PMID: 24751536, Kazlauskaite BJ 2014; PMID: 24660806, Koyano Nature 2014; PMID: 24784582]がParkinのリン酸基結合ポケットに結合し、Ublのリン酸化サイト(Ser65)が露出する。2段階目に、露出したUblのSer65がPINK1によりリン酸化され、リン酸化UblがRING0/UPDに結合することで、RING2にある活性中心とRING1にあるユビキチン結合酵素(E2)結合部位が安定的に露出する[22] (図3)。
回答3,3文献を引用し、ご指摘のように修正しました。