バスケット細胞
大塚 岳、川口 泰雄
自然科学研究機構生理学研究所 大脳神経回路論研究部門
DOI:10.14931/bsd.1937 原稿受付日:2012年6月6日 原稿完成日:2014年11月2日
担当編集委員:上口 裕之(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名:basket cell 独:Korbzelle 仏:cellule à corbeille
同義語:籠細胞
バスケット細胞とは、海馬、大脳皮質、小脳皮質にあるGABA作動性介在細胞である。元々はネコやサルの大脳皮質で見つかり、軸索が標的細胞の細胞体をバスケット状に取り囲むことからバスケット細胞と命名された[1]。ラットなどの齧歯類の脳では、バスケット状の軸索を持つ同様の神経細胞は見出せなかった。軸索の神経終末の多くが(15 - 40%)標的細胞の細胞体と樹状突起基部に存在するものをバスケット細胞とした。大脳皮質や海馬では錐体細胞、小脳においてはプルキンエ細胞にシナプスを主に形成する。バスケット細胞の樹状突起は、多極で複雑に広がっている。大脳皮質や海馬では、カルシウム結合タンパク質であるパルブアルブミンや、神経ペプチドの一種のコレシストキニンを発現している。
大脳皮質や海馬のバスケット細胞
大脳皮質
大脳皮質のバスケット細胞は、大型バスケット細胞と小型バスケット細胞に大きく分類される(図1)。
大型バスケット細胞
大型バスケット細胞の細胞体は、直径20-30 μm程度の大きさがあり、棘突起(spine)があまり見られない樹状突起が多極に広がっている。軸索は、水平・垂直方向に~1000μm程度まで広がっている。
小型バスケット細胞
小型バスケット細胞は、直径が~20 μm程度の小さな細胞体を持ち、棘突起があまり見られない樹状突起が多極に広がっている。軸索の走行は局所的に密度が高く、大脳皮質では一つの層に限局される。大型バスケット細胞とは異なり、軸索の走行は水平方向には300 μm程度に留まる。
また、最近では小型バスケット細胞のように局所的に密度が高い軸索走行と長距離を走行する軸索の両方を持つネストバスケット細胞[2]を加えて3種類に分類されこともある。
海馬
海馬の歯状回にあるバスケット細胞は、樹状突起の走行や細胞体の形状から
の少なくとも5種類の細胞タイプに分類することができる[3]。
化学物質の発現
ラットの大脳皮質においては、大型バスケット細胞やネストバスケット細胞の約50%はパルブアルブミン(parvalbumin)のmRNAを発現している。しかし、小型バスケット細胞は、5%程度しかパルブアルブミンを発現しておらず、70%程度の細胞でコレシストキニン(cholecystokinin)を発現している[2]。また、下降性の軸索を持つdescending basket細胞という細胞も報告されているが(図2)、この細胞は血管作動性腸管ペプチド (vasoactive intestinal polypeptide, VIP)や副腎皮質刺激ホルモン放出因子 (corticotropin releasing factor, CRF)を発現している[4]。
海馬においてもバスケット細胞は、パルブアルブミンやコレシストキニンを発現している。
発火特性
パルブアルブミン(PV)を発現しているバスケット細胞は、fast-spiking型である(図3)。大脳皮質や海馬のバスケット細胞では様々な発火特性を示す細胞が見られるが、最も多く見られるのはfast-spiking型である[5]。他に、late-spiking型やnon-FS型の発火特性を示す細胞もある。non-FS型のバスケット細胞では、大型バスケット細胞はCCKを発現していることが多く、小型バスケット細胞はVIP/CCK/CRFなどを発現していることが多い[3]。
機能
大脳皮質では第1層を除く全ての層にバスケット細胞があり、皮質の主要な抑制性介在細胞タイプである。海馬のバスケット細胞は、歯状回では顆粒細胞層と歯状回門の境界付近に、CA1では錐体細胞層やその近傍に多く見られる。Fast-spiking型バスケット細胞はお互いに化学シナプスだけでなくギャップジャンクション(電気シナプス)を介して電気的に結合している[6]。バスケット細胞は錐体細胞の細胞体や樹状突起基部にシナプスを形成することから、錐体細胞に同期的・周期的な発火活動を引き起こすと考えられている。一方、パルブアルブミンを発現するfast-spiking型バスケット細胞とコレシストキニンを発現するバスケット細胞では、その神経終末のカナビノイドなどによる伝達物質放出の調節が異なることが知られている[7]。従って、バスケット細胞サブタイプ間で錐体細胞の活動制御様式が分化していると考えられる。
小脳
形態学的特徴
小脳のバスケット細胞は、カルシウム結合タンパク質であるパルブアルブミンを発現している[9]。バスケット細胞は小脳分子層のプルキンエ細胞層に近いところに多く見られる。これらは、平行線維から興奮性入力を受けプルキンエ細胞の細胞体に抑制性シナプスを形成する。小脳バスケット細胞の特徴は、その軸索走行パタンにある。その軸索は、プルキンエ細胞の直上を小葉を超えて長く走行する。その途中で垂直に下降する側枝を出し、プルキンエ細胞の細胞体をとりまくようにシナプスを形成する(図4)。
機能
小脳の出力細胞であるプルキンエ細胞は、平行線維と登上線維から興奮性シナプス入力を受ける。バスケット細胞は平行線維からの興奮性入力を受け、プルキンエ細胞にフィードフォワード抑制をかける(図5)。プルキンエ細胞は平行線維からの樹状突起興奮に続き、細胞体ではバスケット細胞からの抑制を受ける。従って、小脳バスケット細胞はプルキンエ細胞の発火タイミングを決めるのに重要な役割をしていると考えられる[10]。
参考文献
- ↑ Ramón y Cajal S
Histologie du Système Nerveux de l’Homme et des Vertébrés.
Tome II. Maloine, Paris, 1911, P997 - ↑ 2.0 2.1
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