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基底膜の振動特性によって個々の周波数成分に分解された音波は,有毛細胞の働きにより電気信号に変換される。これは,有毛細胞の頂部にある感覚毛への機械刺激が,この部位に存在する[[イオンチャネル]]([[機械受容器チャネル]])を開閉し,受容器電流を発生することによる。感覚毛は内リンパ液に接しているため,受容器電流は主にK<sup>+</sup>の細胞内への移動により生じる。この機械受容器チャネルの分子的な実体は明らかでないが,[[TRPチャネル|TRP (transient receptor potential) チャネル]]の可能性が強く示唆されている。一方,有毛細胞の感覚毛の先端には[[tip link]]と呼ばれるひも状の構造が知られており,この構造が感覚毛への機械刺激を機械受容器チャネルに伝えると考えられている<ref><pubmed> 22177415 </pubmed> </ref>。受容器電流による有毛細胞の[[脱分極]](受容器電位)は,さらに[[電位依存性Ca<sup>2+</sup>チャネル]]を活性化することで[[シナプス小胞]]からの[[神経伝達物質]]放出を生じ,この結果,聴覚信号が求心性神経線維へと伝えられる。この神経伝達物質は主に[[グルタミン酸]]である。 | 基底膜の振動特性によって個々の周波数成分に分解された音波は,有毛細胞の働きにより電気信号に変換される。これは,有毛細胞の頂部にある感覚毛への機械刺激が,この部位に存在する[[イオンチャネル]]([[機械受容器チャネル]])を開閉し,受容器電流を発生することによる。感覚毛は内リンパ液に接しているため,受容器電流は主にK<sup>+</sup>の細胞内への移動により生じる。この機械受容器チャネルの分子的な実体は明らかでないが,[[TRPチャネル|TRP (transient receptor potential) チャネル]]の可能性が強く示唆されている。一方,有毛細胞の感覚毛の先端には[[tip link]]と呼ばれるひも状の構造が知られており,この構造が感覚毛への機械刺激を機械受容器チャネルに伝えると考えられている<ref><pubmed> 22177415 </pubmed> </ref>。受容器電流による有毛細胞の[[脱分極]](受容器電位)は,さらに[[電位依存性Ca<sup>2+</sup>チャネル]]を活性化することで[[シナプス小胞]]からの[[神経伝達物質]]放出を生じ,この結果,聴覚信号が求心性神経線維へと伝えられる。この神経伝達物質は主に[[グルタミン酸]]である。 | ||
== 外有毛細胞による振動増幅機構 == | == 外有毛細胞による振動増幅機構 == | ||
外有毛細胞は[[膜電位]]に応じて細胞長が動的に変化する性質をもち,細胞長は脱分極で短縮,[[過分極]]で伸展する。この外有毛細胞の伸縮機構は非常に速い応答特性(20 kHz以上)をもち,特徴周波数領域の基底膜の振動を増幅することで,聴覚受容の感度と周波数選択性を向上させると考えられている。この外有毛細胞は頂部で周囲の[[支持細胞]]と強固に結合している。このため,外有毛細胞の伸縮は,蓋膜とコルチ器官の距離を変化させるのではなく,コルチ器官自体にゆがみを生じると考えられる。この外有毛細胞の伸縮には[[Prestin]]という[[モータータンパク質]]が関わる。Prestin遺伝子の[[ノックアウトマウス]]では,外有毛細胞の伸縮特性が失われ,聴覚感度も40-60 dB低下する。このタンパク質は外有毛細胞の側壁膜に多く分布し,[[細胞骨格]]と結びつくことで細胞長を変化させると考えられている<ref><pubmed> 18809494 </pubmed> </ref>。 | |||
== 内リンパ腔電位 == | == 内リンパ腔電位 == |