「前頭前野」の版間の差分

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[[Image:前頭前野図new1.jpg|thumb|right|300px|'''図1. ヒトの大脳前頭前野の外側面(外側から見える面)、内側面(大脳を左右に二分して現れる面)と眼窩面(下から見える面)'''<br>図中の数字はブロードマンの領野。]]  
[[Image:前頭前野図new1.jpg|thumb|right|300px|'''図1. ヒトの大脳前頭前野の外側面(外側から見える面)、内側面(大脳を左右に二分して現れる面)と眼窩面(下から見える面)'''<br>図中の数字はブロードマンの領野。]]  


 [[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の大脳で[[感覚野]]、[[運動野]]には属さない部位を[[連合野]] association areaと呼ぶ。脳の後方の[[頭頂葉]]、[[側頭葉]]に位置する連合野として[[頭頂連合野]] parietal association area、[[側頭連合野]] temporal association areaがある。前方の[[前頭葉]]frontal lobeに位置する連合野は[[前頭前野]]と呼ばれる。なお、前頭前野そのものを前頭葉と呼ぶこともある。またこの部位は[[前頭連合野]]、[[前頭前皮質]]とも呼ばれる。さらにこの脳部位はその第Ⅳ層に顆粒状の細胞が密に存在するという特徴から[[前頭顆粒皮質]]と呼ばれることもある。
 [[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の大脳で[[感覚野]]、[[運動野]]には属さない部位を[[連合野]] (association area)と呼ぶ。脳の後方の[[頭頂葉]]、[[側頭葉]]に位置する連合野として[[頭頂連合野]] (parietal association area)、[[側頭連合野]] (temporal association area)がある。前方の[[前頭葉]] (frontal lobe)に位置する連合野は[[前頭前野]]と呼ばれる。なお、前頭前野そのものを前頭葉と呼ぶこともある。またこの部位は[[前頭連合野]]、[[前頭前皮質]]とも呼ばれる。さらにこの脳部位はその第Ⅳ層に顆粒状の細胞が密に存在するという特徴から[[前頭顆粒皮質]]と呼ばれることもある。


 前頭前野には、側頭連合野、頭項連合野などの後連合野からの入力があり、ほとんどあらゆる感覚刺激に関して高次な処理を受けた情報が集まっている。また、[[背内側核]]を中心とした[[視床]]、[[帯状回]]や[[海馬]]、[[扁桃核]]などの[[辺縁系]]、それに[[視床下部]]、[[中脳網様体]]などからも線維連絡を受けており、動機づけや覚醒状態に関する情報の入力もある。なお、前頭前野とこれらの部位の線維連絡は一方通行ではなく、双方向に認められる。さらに前頭前野は、前頭葉内に位置し、[[運動性連合野]]である[[運動前野]]と[[補足運動野]]、それに[[大脳基底核]] basal gangliaの[[尾状核]]、[[被殻]]、[[淡蒼球]]などとも相互に線維連絡がある。
 前頭前野には、側頭連合野、頭項連合野などの後連合野からの入力があり、ほとんどあらゆる感覚刺激に関して高次な処理を受けた情報が集まっている。また、[[背内側核]]を中心とした[[視床]]、[[帯状回]]や[[海馬]]、[[扁桃核]]などの[[辺縁系]]、それに[[視床下部]]、[[中脳網様体]]などからも線維連絡を受けており、動機づけや覚醒状態に関する情報の入力もある。なお、前頭前野とこれらの部位の線維連絡は一方通行ではなく、双方向に認められる。さらに前頭前野は、前頭葉内に位置し、[[運動性連合野]]である[[運動前野]]と[[補足運動野]]、それに[[大脳基底核]] (basal ganglia)の[[尾状核]]、[[被殻]]、[[淡蒼球]]などとも相互に線維連絡がある。


 この脳部位の大脳に占める割合は、系統発生的phylogeneticに進化した哺乳動物ほど大きくなっており、[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]で3.5%、[[wikipedia:ja:イヌ|イヌ]]で7%、[[wikipedia:ja:サル|サル]]で11.5%、[[wikipedia:ja:チンパンジー|チンパンジー]]で17%であるのに対し、ヒトでは29%を占めるに至っている。ヒトは他の動物に比べて脳そのものも大きくなっているので、前頭前野がヒトではいかに大きくなっているのかがわかる。[[wikipedia:ja:個体発生|個体発生]]的 (ontogenetic)にも、前頭前野は成熟が最も遅い脳部位の1つにあげられる。逆に前頭前野は老化に伴って最も早く機能低下の起こる部位としても知られている。つまり前頭前野がその機能を十全に発揮できる期間は人生の中でかなり限られている。 前頭前野は認知・実行機能 (cognitive/executive function)と情動・動機づけ機能 (emotional/motivational function)を併せもっている。前頭前野は図1に示すように大きく外側部 lateral、内側部 medial、眼窩部 orbital([[前頭眼窩野]]:orbitofrontal cortex)に分けられる。外側部はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を主に担っている。眼窩部は情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程に重要な役割を果たしている。[[前帯状皮質]]を含む内側部は社会的行動を支えるとともに、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している。前頭前野は全体として「定型的反応様式では対応できないような状況において、認知的、動機づけ状況を把握し、それに対して適切な判断を行い、行動を適応的に組織化する」というような役割を果たしている。ここでは前頭前野の外側部の機能を中心に述べることにする。
 この脳部位の大脳に占める割合は、系統発生的 (phylogenetic)に進化した哺乳動物ほど大きくなっており、[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]で3.5%、[[wikipedia:ja:イヌ|イヌ]]で7%、[[wikipedia:ja:サル|サル]]で11.5%、[[wikipedia:ja:チンパンジー|チンパンジー]]で17%であるのに対し、ヒトでは29%を占めるに至っている。ヒトは他の動物に比べて脳そのものも大きくなっているので、前頭前野がヒトではいかに大きくなっているのかがわかる。[[wikipedia:ja:個体発生|個体発生]]的 (ontogenetic)にも、前頭前野は成熟が最も遅い脳部位の1つにあげられる。逆に前頭前野は老化に伴って最も早く機能低下の起こる部位としても知られている。つまり前頭前野がその機能を十全に発揮できる期間は人生の中でかなり限られている。 前頭前野は認知・実行機能 (cognitive/executive function)と情動・動機づけ機能 (emotional/motivational function)を併せもっている。前頭前野は図1に示すように大きく外側部 (lateral)、内側部 (medial)、眼窩部 (orbital)([[前頭眼窩野]]:orbitofrontal cortex)に分けられる。外側部はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を主に担っている。眼窩部は情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程に重要な役割を果たしている。[[前帯状皮質]]を含む内側部は社会的行動を支えるとともに、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している。前頭前野は全体として「定型的反応様式では対応できないような状況において、認知的、動機づけ状況を把握し、それに対して適切な判断を行い、行動を適応的に組織化する」というような役割を果たしている。ここでは前頭前野の外側部の機能を中心に述べることにする。


== 前頭前野損傷事例  ==
== 前頭前野損傷事例  ==

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