「ゾーン構造」の版間の差分

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=  主嗅覚系に見られるゾーン構造    =
=  主嗅覚系に見られるゾーン構造    =


[[ファイル:Hidekikashiwadani_fig_1.svg|thumb|<b>図1  主嗅覚系の4ゾーン・モデル。匂い分子受容体の発現パターンで規定される4つのゾーンが嗅上皮冠状断面および嗅球で模式的に表わされている。]]  
[[Image:Hidekikashiwadani fig 1.svg|thumb|<b>図1  主嗅覚系の4ゾーン・モデル。匂い分子受容体の発現パターンで規定される4つのゾーンが嗅上皮冠状断面および嗅球で模式的に表わされている。]]  


=== 嗅上皮におけるゾーン構造  ===
=== 嗅上皮におけるゾーン構造  ===
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= &nbsp;副嗅覚系に見られるゾーン構造&nbsp;&nbsp;  =
= &nbsp;副嗅覚系に見られるゾーン構造&nbsp;&nbsp;  =


[[ファイル:Hidekikashiwadani_fig_2.svg|thumb|<b>図2  副嗅覚系の2ゾーン・モデル。フェロモン受容体の発現パターンで規定される2つのゾーンが鋤鼻上皮冠状断面および副嗅球側矢状断面で模式的に表わされている。]]    
[[Image:Hidekikashiwadani fig 2.svg|thumb|&lt;b&gt;図2  副嗅覚系の2ゾーン・モデル。フェロモン受容体の発現パターンで規定される2つのゾーンが鋤鼻上皮冠状断面および副嗅球側矢状断面で模式的に表わされている。]]    


=== 鋤鼻上皮におけるゾーン構造  ===
=== 鋤鼻上皮におけるゾーン構造  ===
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= &nbsp;小脳にみられるゾーン構造&nbsp;  =
= &nbsp;小脳にみられるゾーン構造&nbsp;  =
[[ファイル:Hidekikashiwadani_fig_3.svg|thumb|<b>図3  小脳の12ゾーン・モデル。小脳プルキンエ細胞への入出力を基に区分された左小脳皮質の12のゾーンを、背側尾側方向から模式的に表した図。Apps and Hawkes (2009) fig.4 より改変。]]  
 
[[Image:Hidekikashiwadani fig 3.svg|thumb|&lt;b&gt;図3  小脳の12ゾーン・モデル。小脳プルキンエ細胞への入出力を基に区分された左小脳皮質の12のゾーンを、背側尾側方向から模式的に表した図。Apps and Hawkes (2009) fig.4 より改変。]]  
 
=== 小脳におけるゾーン構造  ===
=== 小脳におけるゾーン構造  ===


 哺乳類の[[小脳]]において、小脳皮質出力ニューロンである[[プルキンエ細胞]]はオリーブ核より興奮性入力(登上線維入力)を受け、小脳核へ軸索投射する。小脳皮質は正中線に沿って内側部が虫部、外側部が半球、虫部と半球に挟まれた領域を中間部と前後軸に伸びる帯状の領域に分類される。小脳核は内側より室頂核(内側核)、中位核、歯状核(外側核)と分けられるが、小脳皮質虫部は室頂核へ、中間部は中位核へ、半球部は外側核へ選択的に投射することが明らかになり、小脳は前後軸に広がる3つのゾーンに機能分化することが示唆されていた(Jansen and Brodal 1940)。  
 哺乳類の[[小脳]]において、小脳皮質出力ニューロンである[[プルキンエ細胞]]はオリーブ核より興奮性入力(登上線維入力)を受け、小脳核へ軸索投射する。小脳皮質は正中線に沿って内側部が虫部、外側部が半球、虫部と半球に挟まれた領域を中間部と前後軸に伸びる帯状の領域に分類される。小脳核は内側より室頂核(内側核)、中位核、歯状核(外側核)と分けられるが、小脳皮質虫部は室頂核へ、中間部は中位核へ、半球部は外側核へ選択的に投射することが明らかになり、小脳は前後軸に広がる3つのゾーンに機能分化することが示唆されていた(Jansen and Brodal 1940)。  


 1960年代に入り、小脳皮質へ登上線維を送り出すオリーブ核の亜領域と、出力先である小脳皮質の亜領域の詳細な検討がなされた。小脳皮質の微小電気刺激によるオリーブ核での逆行性応答のマッピング、そして各種トレーサーによる登上線維マッピングにより、左右の小脳皮質はそれぞれ前後軸に沿って伸びる少なくともA,B,C1,C2,C3,D1,D2の7つのゾーン('''longitudinal zones''')が存在するモデルが提唱された。現在では入力領域のさらなる差別化、そして小脳核への出力パターンを組み合わせることで、A,AX,X, B, A2, C1, CX, C2, C3, D1, D0, D2の12のゾーンが小脳皮質にあると考えられている(Apps and Hawkes 2009)(図3)。これらのゾーン構造のうち、BゾーンやC3ゾーンでは「マイクロゾーン」と呼ばれる100~300μm幅と、通常のゾーン構造の幅(~1mm)より更に細かなゾーン構造が見いだされている()。しかしながら、マイクロゾーンが全てのlongitudinal zoneに存在するかはまだ不明でありこれからの研究が俟たれる。
 1960年代以降、小脳皮質―小脳核の亜領域特異的な投射様式に加え、小脳皮質へ登上線維を送り出すオリーブ核と、出力先である小脳皮質の各亜領域との対応関係が詳細に検討され、更に細かなゾーン構造が見出されてきている。小脳皮質の微小電気刺激によるオリーブ核での逆行性応答のマッピング、そして各種トレーサーによる軸索投射の可視化により、左右の小脳皮質はそれぞれ前後軸に沿って長く伸びる、、A,AX,X, B, A2, C1, CX, C2, C3, D1, D0, D2の12のゾーン(longitudinal zones)が小脳皮質にあると考えられている(Apps and Hawkes 2009)(図3)。これらのゾーン構造のうち、BゾーンやC3ゾーンでは「マイクロゾーン」と呼ばれる100~300μm幅と、通常のゾーン構造の幅(~1mm)より更に細かなゾーン構造が見いだされている()。しかしながら、マイクロゾーンが全てのlongitudinal zoneに存在するかはまだ不明であり、これからの研究が俟たれる。


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=== 小脳におけるゾーン様分子発現  ===
=== 小脳におけるゾーン様分子発現  ===


 これら神経線維連絡や電気生理学的方法により同定されたゾーン構造とは別に、小脳では様々な分子の発現が前後軸に沿った帯状パターンを示すことが知られている。もっともよく研究されているのはzebrin II (Aldolase C)の発現パターンで、zebrin II発現プルキンエ細胞によるゾーンと発現しないプルキンエ細胞によるゾーンが前後軸に沿って交互に並ぶ(Brochu et al 1990)。Zebrin IIの発現パターンと小脳入出力系の詳細な比較から、ゾーン状の分子発現と解剖学的・生理学的ゾーン構造との対応が解明されてきている(Sugihara and Shinoda 2004, Apps and Hawkes 2009)。
 これら神経線維連絡や電気生理学的方法により同定されたゾーン構造とは別に、小脳では様々な分子の発現が前後軸に沿った帯状パターンを示すことが知られている。もっともよく研究されているのはzebrin II (Aldolase C)の発現パターンで、zebrin II発現プルキンエ細胞によるゾーンと発現しないプルキンエ細胞によるゾーンが前後軸に沿って交互に並ぶ(Brochu et al 1990)。Zebrin IIの発現パターンと小脳入出力系の詳細な比較から、ゾーン状の分子発現と解剖学的・生理学的ゾーン構造との対応が解明されてきている(Sugihara and Shinoda 2004, Apps and Hawkes 2009)。  プルキンエ細胞におけるzebrin IIの発現の有無は、その細胞の生まれた日と密接に関連していて、ゾーン特異的な神経線維連絡の形成と関連することが示唆されている(Namba et al 2011)。Zebrin IIの発現で区別される2つのゾーンの機能の違いはまだ明らかになっていない。しかしPLCβ(代謝型グルタミン酸受容体等7回膜貫通型受容体のシグナル伝達に重要)のサブタイプPLCβ3はZebrin II発現プルキンエ細胞に、PLCβ4はzebrin II非発現プルキンエ細胞に特異的に発現することから、zebrin IIで区分される2つのゾーンは異なるシナプス伝達特性を持つ可能性が考えられる(Sarna et al 2006)。<br>&nbsp;  
 プルキンエ細胞におけるzebrin IIの発現の有無は、その細胞の生まれた日と密接に関連していて、ゾーン特異的な神経線維連絡の形成と関連することが示唆されている(Namba et al 2011)。Zebrin IIの発現で区別される2つのゾーンの機能の違いはまだ明らかになっていない。しかしPLCβ(代謝型グルタミン酸受容体等7回膜貫通型受容体のシグナル伝達に重要)のサブタイプPLCβ3はZebrin II発現プルキンエ細胞に、PLCβ4はzebrin II非発現プルキンエ細胞に特異的に発現することから、zebrin IIで区分される2つのゾーンは異なるシナプス伝達特性を持つ可能性が考えられる(Sarna et al 2006)。<br>&nbsp;  


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== 参考文献&nbsp;  ==
== 参考文献&nbsp;  ==
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