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Kenichiromiura (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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われわれは動く対象物を見るために滑らかに眼を動かしてそれを追跡する(追跡眼球運動)。その時、追跡対象以外の静止物に由来する背景の網膜像は眼の動きと反対の方向に流れるように動くが、われわれはその動きを外界の動きとは感じない。この視知覚は、網膜像の動きが追跡眼球運動の運動指令の遠心性コピー等の網膜外信号によって補正されることによると考えられている。両側の高次視覚野の障害で追跡眼球運動による視覚入力の補正ができなくなる症例がある(Haarmeier et al., 1997)<ref><pubmed>9349816</pubmed></ref>。この患者の追跡眼球運動機能と眼が動いていない時の視知覚は正常であるにもかかわらず、追跡中の静止した背景刺激に対してはその動きを感じる。サルのMST(the medial superior temporal)に相当する領域が障害されている可能性が指摘されている。 | われわれは動く対象物を見るために滑らかに眼を動かしてそれを追跡する(追跡眼球運動)。その時、追跡対象以外の静止物に由来する背景の網膜像は眼の動きと反対の方向に流れるように動くが、われわれはその動きを外界の動きとは感じない。この視知覚は、網膜像の動きが追跡眼球運動の運動指令の遠心性コピー等の網膜外信号によって補正されることによると考えられている。両側の高次視覚野の障害で追跡眼球運動による視覚入力の補正ができなくなる症例がある(Haarmeier et al., 1997)<ref><pubmed>9349816</pubmed></ref>。この患者の追跡眼球運動機能と眼が動いていない時の視知覚は正常であるにもかかわらず、追跡中の静止した背景刺激に対してはその動きを感じる。サルのMST(the medial superior temporal)に相当する領域が障害されている可能性が指摘されている。 | ||
Sakataらは実際の対象物の動きと眼の運動による網膜像の動きを区別するニューロンを下頭頂小葉で発見している(Sakata et al., 1985)<ref><pubmed>4024464</pubmed></ref>。それらのニューロンでは、サルが画面中心の注視点を固視している間に受容野内でスリット刺激を動かすと強い反応が得られるが、同じ網膜上の動きを追跡眼球運動で作り出した時には反応が見られない。この現象は、網膜像の動きに対する反応が随意的な眼球運動に関係する遠心性コピーによって抑制されたためと考えられている。実際の動きと眼の動きによって引き起こされた動きを区別するニューロンや外界の実際の動きをコードするニューロンがMSTにもあることが報告されている(Erickson and Thier, 1991; Inaba et al., 2007, 2011)<ref><pubmed>1761094</pubmed></ref><ref><pubmed>17329625</pubmed></ref><ref><pubmed>21273314</pubmed></ref>。 | Sakataらは実際の対象物の動きと眼の運動による網膜像の動きを区別するニューロンを下頭頂小葉で発見している(Sakata et al., 1985)<ref><pubmed>4024464</pubmed></ref>。それらのニューロンでは、サルが画面中心の注視点を固視している間に受容野内でスリット刺激を動かすと強い反応が得られるが、同じ網膜上の動きを追跡眼球運動で作り出した時には反応が見られない。この現象は、網膜像の動きに対する反応が随意的な眼球運動に関係する遠心性コピーによって抑制されたためと考えられている。実際の動きと眼の動きによって引き起こされた動きを区別するニューロンや外界の実際の動きをコードするニューロンがMSTにもあることが報告されている(Erickson and Thier, 1991; Inaba et al., 2007, 2011)<ref><pubmed>1761094</pubmed></ref><ref><pubmed>17329625</pubmed></ref><ref><pubmed>21273314</pubmed></ref>。 | ||
参考文献 | 参考文献 | ||
Crapse TB and Sommer MA. Corollary discharge across the animal kingdom. Nat Rev Neurosci. 9: 587-600, 2008. | Crapse TB and Sommer MA. Corollary discharge across the animal kingdom. Nat Rev Neurosci. 9: 587-600, 2008. | ||
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Wang X, Zhang M, Cohen IS, and Goldberg ME. The proprioceptive representation of eye position in monkey primary somatosensory cortex. Nat Neurosci 10: 640-646, 2007. | Wang X, Zhang M, Cohen IS, and Goldberg ME. The proprioceptive representation of eye position in monkey primary somatosensory cortex. Nat Neurosci 10: 640-646, 2007. | ||
Wurtz RH, Joiner WM, and Berman RA. Neuronal mechanisms for visual stability: progress and problems. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 366: 492-503, 2011. | Wurtz RH, Joiner WM, and Berman RA. Neuronal mechanisms for visual stability: progress and problems. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 366: 492-503, 2011. | ||
==関連項目== | |||
*[[追跡眼球運動]] | |||
*[[視運動性眼振]] | |||
*[[前庭動眼反射]] | |||
*[[衝動性眼球運動]] | |||
*[[輻輳解散運動]] | |||
== 参考文献 == | |||
<references /> | |||
(執筆者:三浦健一郎、河野憲二 担当編集委員:伊佐正) |
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