「電流源密度推定法」の版間の差分

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 まず、細胞外記録により測定される電位(細胞外電位)がどのような過程から生じるのかを考察する。 細胞外空間の電気伝導度は等方的であると仮定する。 また、生理学的な条件下では、神経活動に由来する[[wikipedia:JA:電磁場|電磁場]]の変化は十分ゆっくり(目安として、主要な変化の時間スケールが1 kHz未満)であるため、細胞外電位への容量性・誘導性の寄与は無視できる。 この場合、細胞外電位の空間分布は、以下の式に基づき、空間内に存在する電流源の強さと位置のみにより決定される<ref>'''P L Nunez, R Srinivasan'''<br>Electric Fields of the Brain : The Neurophysics of EEG<br>Oxford University Press (New York): 2006</ref>。  
 まず、細胞外記録により測定される電位(細胞外電位)がどのような過程から生じるのかを考察する。 細胞外空間の電気伝導度は等方的であると仮定する。 また、生理学的な条件下では、神経活動に由来する[[wikipedia:JA:電磁場|電磁場]]の変化は十分ゆっくり(目安として、主要な変化の時間スケールが1 kHz未満)であるため、細胞外電位への容量性・誘導性の寄与は無視できる。 この場合、細胞外電位の空間分布は、以下の式に基づき、空間内に存在する電流源の強さと位置のみにより決定される<ref>'''P L Nunez, R Srinivasan'''<br>Electric Fields of the Brain : The Neurophysics of EEG<br>Oxford University Press (New York): 2006</ref>。  


<math>\Phi(\mathbf{r}) = \frac{1}{4 \pi \sigma} \int dx' \int dy' \int dz' \frac{I(\mathbf{r'})}{|\mathbf{r}-\mathbf{r'}|} \cdots \ \mbox{(1)}</math>  
<math>\Phi(\mathbf{r}) = \frac{1}{4 \pi \sigma} \int \!\!\! \int \!\!\! \int \frac{I(\mathbf{r'})}{|\mathbf{r}-\mathbf{r'}|} dx'dy'dz' \ , \ \mathbf{r'} = (x', y', z')  \ \cdots \ \mbox{(1)} </math>


 ここで<math>\Phi(\mathbf{r})</math>と<math>I(\mathbf{r})</math>はそれぞれ位置<math>\mathbf{r}</math>における電位と電流源密度、<span class="texhtml">σ</span>は細胞外空間の電気伝導度であり、積分は細胞外空間全体にわたる。式(1)は電流源密度分布と電位分布の1対1対応関係を記述しており、電流源の密度分布が既知であれば、電位の空間分布はこの式より容易に計算できる。 しかしながら、それとは逆に、既知の電位分布から未知の電流源密度分布を求めたい場合、この式は容易な計算方法を与えない。 この場合、式(1)が以下の[[wikipedia:JA:ポワソン方程式|ポワソン方程式]]の解となっていることを利用する。  
 ここで<math>\Phi(\mathbf{r})</math>と<math>I(\mathbf{r})</math>はそれぞれ位置<math>\mathbf{r}</math>における電位と電流源密度、<span class="texhtml">σ</span>は細胞外空間の電気伝導度であり、積分は細胞外空間全体にわたる。式(1)は電流源密度分布と電位分布の1対1対応関係を記述しており、電流源の密度分布が既知であれば、電位の空間分布はこの式より容易に計算できる。 しかしながら、それとは逆に、既知の電位分布から未知の電流源密度分布を求めたい場合、この式は容易な計算方法を与えない。 この逆問題を解くには、式(1)が以下の[[wikipedia:JA:ポワソン方程式|ポワソン方程式]]の解となっていることを利用する。  


<math>\Delta \Phi(\mathbf{r}) = - \frac{I(\mathbf{r})}{\sigma} \ \cdots \ \mbox{(2)}</math>  
<math>\Delta \Phi(\mathbf{r}) = - \frac{I(\mathbf{r})}{\sigma} \ \cdots \ \mbox{(2)}</math>  
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<math>I_m = \frac{V_m}{r_m} + c_m \frac{\partial V_m}{\partial t} \ \cdots \ (3)</math> (<span class="texhtml">''r''<sub>''m''</sub></span>: 膜抵抗; <span class="texhtml">''c''<sub>''m''</sub></span>: 膜容量)  
<math>I_m = \frac{V_m}{r_m} + c_m \frac{\partial V_m}{\partial t} \ \cdots \ (3)</math> (<span class="texhtml">''r''<sub>''m''</sub></span>: 膜抵抗; <span class="texhtml">''c''<sub>''m''</sub></span>: 膜容量)  


 すなわち、膜電流は膜電位の瞬間的な値([[wikipedia:JA:抵抗|抵抗]]性成分:右辺第1項)と変化率([[wikipedia:JA:容量|容量]]性成分:右辺第2項)によって決まる。 神経細胞においては、シナプス後電位と[[活動電位]]が膜電位変化の主要な原因であるが、 それぞれが生起する膜電位変化のサイズ・変化率は異なるため、それらが式(3)に従って誘起する膜電流の大きさは様々である。 また、実際にLFP信号として測定されるのは電極近傍に存在する多数の神経細胞からの総体的な寄与であるため、各成分の時間的・空間的な配置に従って、LFP信号に対するそれらの寄与の強めあい・打ち消しあいが生じうる。 これらの要因を考慮に入れたMitzdorfによる推定では、活動電位に由来する膜電流はLFP信号にほとんど反映されず、また、シナプス後電位に関しては、興奮性・抑制性のシナプスからの寄与の割合はおよそ5:1であるとされている<ref name=mitzdorf><pubmed>3880898</pubmed></ref>。 このため、LFP信号を用いた電流源密度推定法で推定される電流源分布は、主に興奮性シナプス活動の空間分布を反映していると考えてよい。  
 すなわち、膜電流は膜電位の瞬間的な値([[wikipedia:JA:抵抗|抵抗]]性成分:右辺第1項)と変化率([[wikipedia:JA:容量|容量]]性成分:右辺第2項)によって決まる。 神経細胞においては、シナプス後電位と[[活動電位]]が膜電位変化の主要な原因であるが、 それぞれが生起する膜電位変化のサイズ・変化率は異なるため、それらが式(3)に従って誘起する膜電流の大きさは様々である。 また、実際にLFP信号として測定されるのは電極近傍に存在する多数の神経細胞からの総体的な寄与であるため、各成分の時間的・空間的な配置に従って、LFP信号に対するそれらの寄与の強めあい・打ち消しあいが生じうる。 これらの要因を考慮に入れたモデル計算では、活動電位に由来する膜電流はLFP信号にほとんど反映されず、また、シナプス後電位に関しては、興奮性シナプス活動は抑制性シナプス活動に比べ5~数100倍の寄与をLFPに対して持つと推定される<ref name=mitzdorf><pubmed>3880898</pubmed></ref>。 このため、LFP信号を用いた電流源密度推定法で推定される電流源分布は、主に興奮性シナプス活動の空間分布を反映していると考えてよい。  


== 応用  ==
== 応用  ==
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