「カドヘリン」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
5行目: 5行目:
== カドヘリンスーパーファミリー  ==
== カドヘリンスーパーファミリー  ==


[[Image:Cad Fig1.jpg|thumb|right|400px|図1  クラッシックカドヘリンによる細胞接着<br /> クラッシックカドヘリンは、細胞外領域にECドメイン(青の長方形)を5個もち、その細胞内領域で、カテニン(βカテニン、p120カテニン)と結合する&lt;span class=]]&lt;pubmed&gt; 22605996 &lt;/pubmed&gt;。" class="fck_mw_frame fck_mw_right" /&gt; [[Image:Cad Table.jpg|thumb|right|400px|表1  クラッシックカドヘリンの分類]]カドヘリンスーパーファミリーは、クラッシックカドヘリンと非クラッシックカドヘリンに大別され、クラッシックカドヘリンは5個のECドメインと1個の膜貫通領域をもつ(図1)。なお、デスモソームに局在するデスモソーマルカドヘリンも同様の分子構造をもつが、細胞内ドメインなどの配列が異なり、非クラッシクカドヘリンに分類される(下記参照)。クラッシックカドヘリンは、タイプIとタイプIIに分けられる。タイプIには、最も研究が進んでいるE-カドヘリン(CDH1)やN-カドヘリン(CDH2)などが含まれる(表1)。クラッシックカドヘリンおよびデスモソーマルカドヘリンの細胞内領域には、カテニンと呼ばれる分子群が結合する。βカテニンとp120カテニンはクラッシックカドヘリンの細胞内領域に直接結合するのに対して、αカテニンはβカテニンを介して間接的に結合する(図1)。これらのカテニンやその結合分子(ビンキュリン、エプリンなど)は、カドヘリンと細胞骨格をつなぐなどの重要な働きをもつ。  
[[Image:Cad_Fig1.jpg|thumb|right|400px|図1  クラッシックカドヘリンによる細胞接着<br />クラッシックカドヘリンは、細胞外領域にECドメイン(青の長方形)を5個もち、その細胞内領域で、カテニン(βカテニン、p120カテニン)と結合する<ref><pubmed> 22605996 </pubmed></ref>]]カドヘリンスーパーファミリーは、クラッシックカドヘリンと非クラッシックカドヘリンに大別され、クラッシックカドヘリンは5個のECドメインと1個の膜貫通領域をもつ(図1)。なお、デスモソームに局在するデスモソーマルカドヘリンも同様の分子構造をもつが、細胞内ドメインなどの配列が異なり、非クラッシクカドヘリンに分類される(下記参照)。クラッシックカドヘリンは、タイプIとタイプIIに分けられる。タイプIには、最も研究が進んでいるE-カドヘリン(CDH1)やN-カドヘリン(CDH2)などが含まれる(表1)。クラッシックカドヘリンおよびデスモソーマルカドヘリンの細胞内領域には、カテニンと呼ばれる分子群が結合する。βカテニンとp120カテニンはクラッシックカドヘリンの細胞内領域に直接結合するのに対して、αカテニンはβカテニンを介して間接的に結合する(図1)。これらのカテニンやその結合分子(ビンキュリン、エプリンなど)は、カドヘリンと細胞骨格をつなぐなどの重要な働きをもつ。  


 カドヘリンの分類は論文によって異なる場合もあるが、非クラッシックカドヘリンは、皮膚や心筋などにみられる強固な細胞間接着であるデスモソームに局在するデスモソーマルカドヘリン(デスモグレイン、デスモコリン)、GPIアンカー型のT-カドヘリン(CDH13)、プロトカドヘリン、7回膜貫通型で平面極性の制御因子であるCelsr(ショウジョウバエのFlamingo)、Fatとその結合相手であるDachsousなどが知られている。プロトカドヘリンのうち、プロトカドヘリンα、β、γ遺伝子は、それぞれゲノム上に遺伝子クラスターを形成しており、例えばプロトカドヘリンα遺伝子のクラスターからは、N末端側が異なるエクソンにコードされた10種類以上のタンパク質が作られるが作られるが、1つの神経細胞には1種類のプロトカドヘリンαアイソフォームのみが発現すると考えられている<ref><pubmed> 15640798 </pubmed></ref>。  
[[Image:Cad_Table.jpg|thumb|right|400px|表1  クラッシックカドヘリンの分類]] カドヘリンの分類は論文によって異なる場合もあるが、非クラッシックカドヘリンは、皮膚や心筋などにみられる強固な細胞間接着であるデスモソームに局在するデスモソーマルカドヘリン(デスモグレイン、デスモコリン)、GPIアンカー型のT-カドヘリン(CDH13)、プロトカドヘリン、7回膜貫通型で平面極性の制御因子であるCelsr(ショウジョウバエのFlamingo)、Fatとその結合相手であるDachsousなどが知られている。プロトカドヘリンのうち、プロトカドヘリンα、β、γ遺伝子は、それぞれゲノム上に遺伝子クラスターを形成しており、例えばプロトカドヘリンα遺伝子のクラスターからは、N末端側が異なるエクソンにコードされた10種類以上のタンパク質が作られるが作られるが、1つの神経細胞には1種類のプロトカドヘリンαアイソフォームのみが発現すると考えられている<ref><pubmed> 15640798 </pubmed></ref>。  


== 神経管形成におけるカドヘリンの役割  ==
== 神経管形成におけるカドヘリンの役割  ==
21行目: 21行目:
== 神経細胞移動におけるカドヘリンの役割  ==
== 神経細胞移動におけるカドヘリンの役割  ==


[[Image:Cad_Fig2.jpg|thumb|right|400px|図2  大脳皮質形成におけるカドヘリンの役割。 カドヘリンは脳の様々な領域で機能しているが、図にはひとつの例として発生期の大脳皮質におけるカドヘリン(主にN-カドヘリン)の役割を示した。N-カドヘリンは、神経前駆細胞同士の接着を制御することにより、脳室帯の構造を維持している。さらに、N-カドヘリンは神経細胞が放射状突起(神経前駆細胞由来の長い突起)に接着するためにも必要であり、ロコモーション移動(放射状突起に沿った移動)を含む神経細胞移動に重要な役割を果たす。移動中の神経細胞は、後方(脳室側:図の下側)に軸索を伸長するが、様々な脳の領域において軸索伸長にもカドヘリンが必要である(本文参照)。また、移動を終了した細胞は樹状突起を成熟させ、別の神経細胞の軸索との間にシナプスを形成するが、カドヘリンはシナプスの形成、維持、さらにシナプス可塑性(長期増強など)においても重要な役割を果たす。 ]] 脳室近辺で誕生した神経細胞は、脳室側から最終配置部位までの長い距離を移動することにより、脳の層構造や神経核が形成される。例えば、ほ乳類の大脳皮質は特徴的な6層構造を示すが、これは脳室帯もしくは脳室下帯で誕生した神経細胞が、複雑な形態変化を伴う多段階の移動を行うことによって構築される<ref><pubmed> 18075253 </pubmed></ref>(図2)。  
[[Image:Cad Fig2.jpg|thumb|right|400px|図2  大脳皮質形成におけるカドヘリンの役割<br />カドヘリンは脳の様々な領域で機能しているが、図にはひとつの例として発生期の大脳皮質におけるカドヘリン(主にN-カドヘリン)の役割を示した。N-カドヘリンは、神経前駆細胞同士の接着を制御することにより、脳室帯の構造を維持している。さらに、N-カドヘリンは神経細胞が放射状突起(神経前駆細胞由来の長い突起)に接着するためにも必要であり、ロコモーション移動(放射状突起に沿った移動)を含む神経細胞移動に重要な役割を果たす。移動中の神経細胞は、後方(脳室側:図の下側)に軸索を伸長するが、様々な脳の領域において軸索伸長にもカドヘリンが必要である(本文参照)。また、移動を終了した細胞は樹状突起を成熟させ、別の神経細胞の軸索との間にシナプスを形成するが、カドヘリンはシナプスの形成、維持、さらにシナプス可塑性(長期増強など)においても重要な役割を果たす。]] 脳室近辺で誕生した神経細胞は、脳室側から最終配置部位までの長い距離を移動することにより、脳の層構造や神経核が形成される。例えば、ほ乳類の大脳皮質は特徴的な6層構造を示すが、これは脳室帯もしくは脳室下帯で誕生した神経細胞が、複雑な形態変化を伴う多段階の移動を行うことによって構築される<ref><pubmed> 18075253 </pubmed></ref>(図2)。  


 神経細胞移動は、神経成熟を伴う多段階の移動であることが知られているが、移動過程の大部分は、神経前駆細胞由来の長い突起(放射状突起)に沿って移動する「ロコモーション様式」である(図2)。ロコモーション様式で移動する神経細胞は、N-カドヘリン依存的に放射状突起に接着する。さらに、一部のN-カドヘリンがRabファミリー低分子量Gタンパク質依存的に神経細胞内に取り込まれ、再び細胞膜へとリサイクルされることにより、ちょうどN-カドヘリンという「足」を引っ込めて、前へと踏み出すようにして、神経細胞は放射状突起の上を「歩いて」いると考えられている<ref><pubmed> 20797536 </pubmed></ref>(図2)。ロコモーション様式以外の移動様式においても、N-カドヘリンが関与しているという報告があるが<ref><pubmed> 21315259 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21516100 </pubmed></ref>、そのメカニズムについては今後の課題である。  
 神経細胞移動は、神経成熟を伴う多段階の移動であることが知られているが、移動過程の大部分は、神経前駆細胞由来の長い突起(放射状突起)に沿って移動する「ロコモーション様式」である(図2)。ロコモーション様式で移動する神経細胞は、N-カドヘリン依存的に放射状突起に接着する。さらに、一部のN-カドヘリンがRabファミリー低分子量Gタンパク質依存的に神経細胞内に取り込まれ、再び細胞膜へとリサイクルされることにより、ちょうどN-カドヘリンという「足」を引っ込めて、前へと踏み出すようにして、神経細胞は放射状突起の上を「歩いて」いると考えられている<ref><pubmed> 20797536 </pubmed></ref>(図2)。ロコモーション様式以外の移動様式においても、N-カドヘリンが関与しているという報告があるが<ref><pubmed> 21315259 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21516100 </pubmed></ref>、そのメカニズムについては今後の課題である。  
24

回編集

案内メニュー