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細 (→シナプス形成と高次脳機能) |
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0066261 川内 健史]</font><br> | |||
''慶應義塾大学 医学部''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年8月28日 原稿完成日:2012年9月14日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br> | |||
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| Symbol = Cadherin | | Symbol = Cadherin | ||
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英語名:cadherin 独:Cadherine 仏:cadhérine | 英語名:cadherin 独:Cadherine 仏:cadhérine | ||
{{box|text= | |||
カドヘリンは、[[カルシウム]]依存的に細胞と細胞を接着させる作用をもつ主要な[[細胞接着分子]]であり、[[wikipedia:ja:竹市雅俊|竹市雅俊]]によって発見・命名された。カドヘリン(Cadherin)の名前は、Calcium(カルシウム)+ Adherence(接着)に由来する。カドヘリンは、細胞外領域に[[ECドメイン]]([[カドヘリン・リピート]]とも呼ばれる)をもつ[[細胞膜]]タンパク質であり、ヒトでは100種類を超えるスーパーファミリーを形成している。そのほとんどが[[wikipedia:ja:膜貫通ドメイン|膜貫通ドメイン]]をもつが、[[T-カドヘリン]](CDH13)は[[wikipedia:ja:GPIアンカー|GPIアンカー]]を介して細胞膜と結合している。カドヘリンは、[[wikipedia:ja:上皮細胞|上皮細胞]]における[[アドへレンス・ジャンクション]]や神経細胞における[[シナプス]]を含む細胞-細胞間接着部位に局在し、主にホモフィリックな接着機能を介して細胞間相互作用を制御するが、細胞内へシグナルを伝える[[受容体]]として働く場合もある<ref><pubmed> 22535893 </pubmed></ref><ref><pubmed> 20457565 </pubmed></ref>。 | カドヘリンは、[[カルシウム]]依存的に細胞と細胞を接着させる作用をもつ主要な[[細胞接着分子]]であり、[[wikipedia:ja:竹市雅俊|竹市雅俊]]によって発見・命名された。カドヘリン(Cadherin)の名前は、Calcium(カルシウム)+ Adherence(接着)に由来する。カドヘリンは、細胞外領域に[[ECドメイン]]([[カドヘリン・リピート]]とも呼ばれる)をもつ[[細胞膜]]タンパク質であり、ヒトでは100種類を超えるスーパーファミリーを形成している。そのほとんどが[[wikipedia:ja:膜貫通ドメイン|膜貫通ドメイン]]をもつが、[[T-カドヘリン]](CDH13)は[[wikipedia:ja:GPIアンカー|GPIアンカー]]を介して細胞膜と結合している。カドヘリンは、[[wikipedia:ja:上皮細胞|上皮細胞]]における[[アドへレンス・ジャンクション]]や神経細胞における[[シナプス]]を含む細胞-細胞間接着部位に局在し、主にホモフィリックな接着機能を介して細胞間相互作用を制御するが、細胞内へシグナルを伝える[[受容体]]として働く場合もある<ref><pubmed> 22535893 </pubmed></ref><ref><pubmed> 20457565 </pubmed></ref>。 | ||
}} | |||
[[Image:Cad Fig1.jpg|thumb|right|300px|<b>図1.クラッシックカドヘリンによる細胞接着</b><br />クラッシックカドヘリンは、細胞外領域にECドメイン(青の長方形)を5個もち、その細胞内領域で、カテニン(βカテニン、p120カテニン)と結合する<ref><pubmed>22605996</pubmed</ref>]] | [[Image:Cad Fig1.jpg|thumb|right|300px|<b>図1.クラッシックカドヘリンによる細胞接着</b><br />クラッシックカドヘリンは、細胞外領域にECドメイン(青の長方形)を5個もち、その細胞内領域で、カテニン(βカテニン、p120カテニン)と結合する<ref><pubmed>22605996</pubmed></ref>]] | ||
== カドヘリンスーパーファミリー == | == カドヘリンスーパーファミリー == | ||
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=== クラシックカドヘリン === | === クラシックカドヘリン === | ||
クラッシックカドヘリンは5個のECドメインと1個の膜貫通領域をもつ(図1)。なお、[[デスモソーム]]に局在するデスモソーマルカドヘリンも同様の分子構造をもつが、細胞内ドメインなどの配列が異なり、非クラッシクカドヘリンに分類される(下記参照)。クラッシックカドヘリンは、タイプIとタイプIIに分けられる。最も研究が進んでいる[[E-カドヘリン]](CDH1)や[[N-カドヘリン]](CDH2)は、タイプIに含まれる(表1)。クラッシックカドヘリンおよびデスモソーマルカドヘリンの細胞内領域には、[[カテニン]]と呼ばれる分子群が結合する。[[ | クラッシックカドヘリンは5個のECドメインと1個の膜貫通領域をもつ(図1)。なお、[[デスモソーム]]に局在するデスモソーマルカドヘリンも同様の分子構造をもつが、細胞内ドメインなどの配列が異なり、非クラッシクカドヘリンに分類される(下記参照)。クラッシックカドヘリンは、タイプIとタイプIIに分けられる。最も研究が進んでいる[[E-カドヘリン]](CDH1)や[[N-カドヘリン]](CDH2)は、タイプIに含まれる(表1)。クラッシックカドヘリンおよびデスモソーマルカドヘリンの細胞内領域には、[[カテニン]]と呼ばれる分子群が結合する。[[βカテニン]]と[[P120カテニン]]はクラッシックカドヘリンの細胞内領域に直接結合するのに対して、[[αカテニン]]はβカテニンを介して間接的に結合する(図1)。これらのカテニンやその結合分子([[ビンキュリン]]、[[エプリン]]など)は、カドヘリンと細胞骨格をつなぐなどの重要な働きをもつ。 | ||
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" | {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" | ||
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'''表1.クラッシックカドヘリンの分類''' | '''表1.クラッシックカドヘリンの分類''' | ||
=== 非クラシックカドヘリン === | === 非クラシックカドヘリン === | ||
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脳室近辺で誕生した神経細胞は、脳室側から最終配置部位までの長い距離を移動することにより、脳の層構造や[[神経核]]が形成される。例えば、[[wikipedia:ja:ほ乳類|ほ乳類]]の大脳皮質は特徴的6な層構造を示すが、これは、脳室帯もしくは[[脳室下帯]]で誕生した神経細胞が、複雑な形態変化を伴う多段階の移動を行うことによって構築される<ref><pubmed> 18075253 </pubmed></ref>(図2)。 | 脳室近辺で誕生した神経細胞は、脳室側から最終配置部位までの長い距離を移動することにより、脳の層構造や[[神経核]]が形成される。例えば、[[wikipedia:ja:ほ乳類|ほ乳類]]の大脳皮質は特徴的6な層構造を示すが、これは、脳室帯もしくは[[脳室下帯]]で誕生した神経細胞が、複雑な形態変化を伴う多段階の移動を行うことによって構築される<ref><pubmed> 18075253 </pubmed></ref>(図2)。 | ||
発生期大脳皮質における[[神経細胞移動]]は多段階であることが知られているが、その大部分は、神経前駆細胞由来の長い突起(放射状突起)に沿って移動する「ロコモーション様式」である(図2)。ロコモーション様式で移動する神経細胞は、N-カドヘリン依存的に放射状突起に接着する。さらに、一部のN-カドヘリンが[[Rab|Rabファミリー低分子量Gタンパク質]]依存的に神経細胞内に取り込まれ、再び細胞膜へとリサイクルされることにより、ちょうどN-カドヘリンという「足」を引っ込めて、再びそれを前へと踏み出すようにして、神経細胞は放射状突起の上を「歩いて」いると考えられている<ref><pubmed> 20797536 </pubmed></ref>(図2)。また、ロコモーション様式以外の移動様式においてもN-カドヘリンが関与していることが報告されているが<ref><pubmed> 21315259 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21516100 </pubmed></ref>、その下流のメカニズムについては今後の課題である。 | |||
大脳皮質以外の領域においても、[[菱脳唇]](rhombic lip)由来の[[小脳]][[顆粒細胞]]の移動にN-カドヘリンが必要であることが、ゼブラフィッシュを用いた実験系で示されている<ref><pubmed> 19901980 </pubmed></ref>。また、マウスにおいて、[[下菱脳唇]](lower rhombic lip)から[[外側網様体核]](lateral reticular nucleus: LRN)および[[副楔状束核]](external cuneate nucleus: ECN)へ向かう神経細胞は、N-カドヘリンとカドヘリン11依存的に移動することが報告されている<ref><pubmed> 16611692 </pubmed></ref>。すなわち、カドヘリンは層構造のみならず神経核の形成にも関与していると考えられる。 | 大脳皮質以外の領域においても、[[菱脳唇]](rhombic lip)由来の[[小脳]][[顆粒細胞]]の移動にN-カドヘリンが必要であることが、ゼブラフィッシュを用いた実験系で示されている<ref><pubmed> 19901980 </pubmed></ref>。また、マウスにおいて、[[下菱脳唇]](lower rhombic lip)から[[外側網様体核]](lateral reticular nucleus: LRN)および[[副楔状束核]](external cuneate nucleus: ECN)へ向かう神経細胞は、N-カドヘリンとカドヘリン11依存的に移動することが報告されている<ref><pubmed> 16611692 </pubmed></ref>。すなわち、カドヘリンは層構造のみならず神経核の形成にも関与していると考えられる。 | ||
=== 神経突起伸長 === | === 神経突起伸長 === | ||
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ネクチンは、ホモフィリックだけではなく、ヘテロフィリックな結合活性ももち、[[ネクチン-1]]と[[ネクチン-3]]は、それぞれのホモフィリックな接着(ネクチン-1同士もしくはネクチン-3同士)よりも、ヘテロフィリックな接着(ネクチン-1とネクチン-3)の方が強いことが知られている。ネクチン-1は海馬の歯状回顆粒細胞から伸びる苔状線維に発現し、ネクチン-3は[[CA3]][[錐体細胞]]の樹状突起近位部に局在し、ネクチン-1もしくはネクチン-3の遺伝子破壊マウスの海馬では、これらの神経細胞の間に形成されるシナプスの数が減少する<ref><pubmed> 16300961 </pubmed></ref>。また、歯状回の顆粒細胞から伸長する苔状線維が正しく投射するためには[[カドヘリン8]]が必要であり、苔状線維とCA3錐体細胞の樹状突起の間のシナプスが形成されるためには、[[カドヘリン9]]が必要であることも報告されている<ref><pubmed> 18064706 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21867881 </pubmed></ref>。 | ネクチンは、ホモフィリックだけではなく、ヘテロフィリックな結合活性ももち、[[ネクチン-1]]と[[ネクチン-3]]は、それぞれのホモフィリックな接着(ネクチン-1同士もしくはネクチン-3同士)よりも、ヘテロフィリックな接着(ネクチン-1とネクチン-3)の方が強いことが知られている。ネクチン-1は海馬の歯状回顆粒細胞から伸びる苔状線維に発現し、ネクチン-3は[[CA3]][[錐体細胞]]の樹状突起近位部に局在し、ネクチン-1もしくはネクチン-3の遺伝子破壊マウスの海馬では、これらの神経細胞の間に形成されるシナプスの数が減少する<ref><pubmed> 16300961 </pubmed></ref>。また、歯状回の顆粒細胞から伸長する苔状線維が正しく投射するためには[[カドヘリン8]]が必要であり、苔状線維とCA3錐体細胞の樹状突起の間のシナプスが形成されるためには、[[カドヘリン9]]が必要であることも報告されている<ref><pubmed> 18064706 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21867881 </pubmed></ref>。 | ||
このように、カドヘリンは、神経細胞移動や神経突起伸長のみならず、シナプス形成においても重要な役割を果たすことから、神経活動や脳の高次機能にも何らかの役割を果たしていることが予想される。実際、N-カドヘリンは[[AMPA型グルタミン酸受容体]]([[グルタミン酸]]は興奮性神経細胞の主要な神経伝達物質)の輸送や、海馬CA3錐体細胞由来の[[シャッファー側枝]]からの入力を受ける[[CA1]]錐体細胞のシナプスにおける長期増強に関与する<ref><pubmed> 16515543 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11086998 </pubmed></ref>。さらに、海馬におけるN-カドヘリンの機能阻害は、[[文脈依存的恐怖記憶]]の形成が低下する<ref><pubmed> 17785185 </pubmed></ref>。また、カドヘリン-11の遺伝子破壊マウスは、[[恐怖]]や[[不安]]に関する行動が異常となることが知られている<ref><pubmed> 10860580 </pubmed></ref>。 | このように、カドヘリンは、神経細胞移動や神経突起伸長のみならず、シナプス形成においても重要な役割を果たすことから、神経活動や脳の高次機能にも何らかの役割を果たしていることが予想される。実際、N-カドヘリンは[[AMPA型グルタミン酸受容体]]([[グルタミン酸]]は興奮性神経細胞の主要な神経伝達物質)の輸送や、海馬CA3錐体細胞由来の[[シャッファー側枝]]からの入力を受ける[[CA1]]錐体細胞のシナプスにおける長期増強に関与する<ref><pubmed> 16515543 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11086998 </pubmed></ref>。さらに、海馬におけるN-カドヘリンの機能阻害は、[[恐怖文脈条件づけ|文脈依存的恐怖記憶]]の形成が低下する<ref><pubmed> 17785185 </pubmed></ref>。また、カドヘリン-11の遺伝子破壊マウスは、[[恐怖]]や[[不安]]に関する行動が異常となることが知られている<ref><pubmed> 10860580 </pubmed></ref>。 | ||
これらの研究成果より、カドヘリンスーパーファミリーは、多種類の神経細胞が複雑な神経回路網を構築し、シナプスを介した神経伝達を通して高次機能を発揮する過程において、多様かつ重要な役割を果たしていると考えられる。 | これらの研究成果より、カドヘリンスーパーファミリーは、多種類の神経細胞が複雑な神経回路網を構築し、シナプスを介した神経伝達を通して高次機能を発揮する過程において、多様かつ重要な役割を果たしていると考えられる。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== | ||
*[[細胞接着因子]] | *[[細胞接着因子]] | ||
*[[カテニン]] | *[[カテニン]] | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> | ||