「生物学的精神医学」の版間の差分

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====ナルコレプシー====
====ナルコレプシー====
: [[ナルコレプシー]]<ref name=ref5 />については、遺伝性[[wikipedia:ja:イヌ|イヌ]]ナルコレプシーの原因が、[[オレキシン]](orexin)[[2受容体]]の変異であることが判明したことなどから、研究が進展し、ナルコレプシー患者の約90%では、脳脊髄液のオレキシンA濃度が測定限界以下に低下すること、患者の死後脳では、視床下部外側野のオレキシン神経細胞数が10%以下に著減していることが見いだされ、ナルコレプシーの病因に[[覚醒]]性神経であるオレキシン神経系の障害が関与することが明らかにされた。
: [[ナルコレプシー]]<ref name=ref5 />については、遺伝性[[wikipedia:ja:イヌ|イヌ]]ナルコレプシーの原因が、[[オレキシン]](orexin)2[[受容体]]の変異であることが判明したことなどから、研究が進展し、ナルコレプシー患者の約90%では、脳脊髄液のオレキシンA濃度が測定限界以下に低下すること、患者の死後脳では、視床下部外側野のオレキシン神経細胞数が10%以下に著減していることが見いだされ、ナルコレプシーの病因に[[覚醒]]性神経であるオレキシン神経系の障害が関与することが明らかにされた。


====母子分離ストレス====
====母子分離ストレス====
 [[wikipedia:ja:げっ歯類|げっ歯類]]を用いて、幼若期の一定時間の[[母子分離ストレス]]等により、成長後も視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系の機能亢進が持続し、海馬の新生神経細胞数が減少することが示された<ref name=ref9><pubmed>11430844</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>18200448</pubmed></ref> <ref name=ref11>'''加藤忠史'''<br>脳と精神疾患、pp82-90; pp166-167<br>朝倉書店、東京、2009</ref>。HPA系の亢進による過剰の[[コルチコステロイド]]は、[[セロトニン受容体]]の発現を減少させ、[[海馬]]の神経細胞の減少を引き起こし得る(glucocorticoid cascade hypothesis)<ref name=ref8 />。幼若期に母親との接触が濃くない[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]では、グルココルチコイド受容体遺伝子の[[プロモーター]]領域の[[メチル化]]が亢進し、この[[エピジェネティック]]な機構により、初期のストレスの影響が成長後も持続するとの仮説もある<ref><pubmed>16260130</pubmed></ref>。また、ストレスにより、海馬の[[脳由来神経栄養因子]](brain-derived neurotrophic factor, BDNF)の発現が減少し、抗うつ薬は、BDNFを増加させ、海馬の神経細胞新生を促進することが示されている<ref name=ref13><pubmed>16631126</pubmed></ref>。
: [[wikipedia:ja:げっ歯類|げっ歯類]]を用いて、幼若期の一定時間の[[母子分離ストレス]]等により、成長後も視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系の機能亢進が持続し、海馬の新生神経細胞数が減少することが示された<ref name=ref9><pubmed>11430844</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>18200448</pubmed></ref> <ref name=ref11>'''加藤忠史'''<br>脳と精神疾患、pp82-90; pp166-167<br>朝倉書店、東京、2009</ref>。HPA系の亢進による過剰の[[コルチコステロイド]]は、[[セロトニン受容体]]の発現を減少させ、[[海馬]]の神経細胞の減少を引き起こし得る(glucocorticoid cascade hypothesis)<ref name=ref8 />。幼若期に母親との接触が濃くない[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]では、グルココルチコイド受容体遺伝子の[[プロモーター]]領域の[[メチル化]]が亢進し、この[[エピジェネティック]]な機構により、初期のストレスの影響が成長後も持続するとの仮説もある<ref><pubmed>16260130</pubmed></ref>。また、ストレスにより、海馬の[[脳由来神経栄養因子]](brain-derived neurotrophic factor, BDNF)の発現が減少し、抗うつ薬は、BDNFを増加させ、海馬の神経細胞新生を促進することが示されている<ref name=ref13><pubmed>16631126</pubmed></ref>。


====オキシトシン====
====オキシトシン====


 [[オキシトシン]]<ref name=ref6 />は、9つのアミノ酸から構成される[[下垂体]][[後葉]][[ホルモン]]であるが、オキシトシン欠損マウスでは、社会的行動の障害が示され、オキシトシンは、社会的きずなの形成に関与していることが示唆されている。自閉症児の血漿オキシトシンは、対照の約半分と有意に低下していることから、経鼻的オキシトシン療法の臨床試験が行われている。
: [[オキシトシン]]<ref name=ref6 />は、9つのアミノ酸から構成される[[下垂体]][[後葉]][[ホルモン]]であるが、オキシトシン欠損マウスでは、社会的行動の障害が示され、オキシトシンは、社会的きずなの形成に関与していることが示唆されている。自閉症児の血漿オキシトシンは、対照の約半分と有意に低下していることから、経鼻的オキシトシン療法の臨床試験が行われている。


==各論==
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