「アセチル化」の版間の差分

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英語名:Acetylation 独:Acetylierung 仏:Acétylation[[Image:Nm-Kinichinakashima fig 1.png|thumb|350px|'''図1 代表的なアセチル化反応'''<br>代表的なアセチル化反応であるアスピリンの合成反応を示した。円で囲われたサリチル酸の水酸基が無水酢酸との反応によりアセチル基に置換され、アスピリンが合成される。]]<br>
英語名:Acetylation 独:Acetylierung 仏:Acétylation
 
[[Image:Nm-Kinichinakashima fig 1.png|thumb|350px|'''図1.代表的なアセチル化反応'''<br>代表的なアセチル化反応であるアスピリンの合成反応を示した。円で囲われたサリチル酸の水酸基が無水酢酸との反応によりアセチル基に置換され、アスピリンが合成される。]]
 
 アセチル化(Acetylation)とは、有機化合物の水酸基(-OH)やアミノ基(-NH2)などの水素原子をアセチル基(-CH3CO)で置換することである(図1)。[[IUPAC命名法]]ではエタノイル化という。逆に、有機化合物からアセチル基が除かれる反応は脱アセチル化という。代表的なアセチル化剤として、[[無水酢酸]]、[[塩化アセチル]]、[[酢酸メチル]]、[[N-メチルアセトアミド]]などが使われている。
 アセチル化(Acetylation)とは、有機化合物の水酸基(-OH)やアミノ基(-NH2)などの水素原子をアセチル基(-CH3CO)で置換することである(図1)。[[IUPAC命名法]]ではエタノイル化という。逆に、有機化合物からアセチル基が除かれる反応は脱アセチル化という。代表的なアセチル化剤として、[[無水酢酸]]、[[塩化アセチル]]、[[酢酸メチル]]、[[N-メチルアセトアミド]]などが使われている。
==タンパク質のアセチル化==
==タンパク質のアセチル化==
 [[Image:Nm-Kinichinakashima fig 2.png|thumb|400px|'''図2 ヒストンのアセチル化、脱アセチル化による転写活性状態の変化'''<br>ヒストンがHATによりアセチル化された状態ではヒストン-DNA間の結合が緩むことで、TFやPolⅡの結合が可能となり、転写は活性化される。逆にHDACにより、ヒストンが脱アセチル化されるとTF、PolⅡが結合出来ないため転写は抑制される。<br>GTF:general transcription factor:基本転写因子群、Ac:acetylation:アセチル化]]タンパク質のアセチル化は、[[クロマチン]]の構造制御や転写活性制御に重要な働きをしている。転写活性化に働く[[補因子]]の多くがアセチル化酵素活性を持っており、逆に転写抑制に働く補因子の多くは脱アセチル化酵素活性を有する。代表的なアセチル化酵素(HAT、histone acetyltransferase)として、[[CBP/p300(CREB binding protein)]]や[[PCAF(p300/CBP-associated factor)]]などが存在し、脱アセチル化酵素(HDAC、histone deacetylase)として[[HDAC]]1~11、[[SIRT]]1~7(sirtuin1~7)が存在している。これらの酵素を含む複合体は、様々なシグナル経路に応答して、[[DNA]] に結合する[[転写因子]](Transcription factor:TF)と協調して働くことが知られている。<br>
 [[Image:Nm-Kinichinakashima fig 2.png|thumb|350px|'''図2.ヒストンのアセチル化、脱アセチル化による転写活性状態の変化'''<br>
ヒストンがHATによりアセチル化された状態ではヒストン-DNA間の結合が緩むことで、TFやPolⅡの結合が可能となり、転写は活性化される。逆にHDACにより、ヒストンが脱アセチル化されるとTF、PolⅡが結合出来ないため転写は抑制される。<br>GTF:general transcription factor:基本転写因子群、Ac:acetylation:アセチル化]]タンパク質のアセチル化は、[[クロマチン]]の構造制御や転写活性制御に重要な働きをしている。転写活性化に働く[[補因子]]の多くがアセチル化酵素活性を持っており、逆に転写抑制に働く補因子の多くは脱アセチル化酵素活性を有する。代表的なアセチル化酵素(HAT、histone acetyltransferase)として、[[CBP/p300(CREB binding protein)]]や[[PCAF(p300/CBP-associated factor)]]などが存在し、脱アセチル化酵素(HDAC、histone deacetylase)として[[HDAC]]1~11、[[SIRT]]1~7(sirtuin1~7)が存在している。これらの酵素を含む複合体は、様々なシグナル経路に応答して、[[DNA]] に結合する[[転写因子]](Transcription factor:TF)と協調して働くことが知られている。


 タンパク質のアセチル化において最も多く報告されているのが[[ヒストン]]のアセチル化及び脱アセチル化である。これらは遺伝子の発現制御に密接に関わっている。ヒストンはアセチル化されることでヒストン中の特定のリジン残基のアミノ基(-NH2(-NH3+))をアミド(-NHCOCH3)に変換することにより電荷を中和し、ヒストン-DNA間の結合を部分的に弱める。これにより、DNA鎖に対して転写因子や[[RNAポリメラーゼ]](PolⅡ)がより結合しやすい状態になり、結果として転写が活性化される。逆に、ヒストンが脱アセチル化されるとアセチル基が[[加水分解]]により除去され、元のアミノ基に戻ることによりヒストンへのDNAの巻きつきが強められ転写が抑制される(図2)。<br>
 タンパク質のアセチル化において最も多く報告されているのが[[ヒストン]]のアセチル化及び脱アセチル化である。これらは遺伝子の発現制御に密接に関わっている。ヒストンはアセチル化されることでヒストン中の特定のリジン残基のアミノ基(-NH2(-NH3+))をアミド(-NHCOCH3)に変換することにより電荷を中和し、ヒストン-DNA間の結合を部分的に弱める。これにより、DNA鎖に対して転写因子や[[RNAポリメラーゼ]](PolⅡ)がより結合しやすい状態になり、結果として転写が活性化される。逆に、ヒストンが脱アセチル化されるとアセチル基が[[加水分解]]により除去され、元のアミノ基に戻ることによりヒストンへのDNAの巻きつきが強められ転写が抑制される(図2)。<br>


 その他にも、[[p53]] 、[[E2F]]、[[MyoD]]、[[STAT3]]など数多くの非ヒストンタンパク質もまた、部位特異的にアセチル化されることが知られている<ref name="ref1"><pubmed>18804549</pubmed></ref>(表1、2)。アセチル化により、これらタンパク質の安定性や分解をはじめ、活性や局在、特異的相互作用などが制御され、転写、増殖、[[アポトーシス]]、分化など、細胞の様々な過程がコントロールされている。現在では、ヒストンおよび非ヒストンタンパク質のアセチル化が、[[メチル化]]や[[リン酸化]]など他の修飾とクロストークし、最終的なシグナル発現に重要な働きをしていることが明らかとなっている。いくつかの修飾がある決まった順序で組み合わさることが、ある機能発現には必要であり、一方では、互いに阻害し合うこともある。このように組み合わせを変えることで、細胞内情報伝達のネットワークの多様性を生み出している<ref><pubmed>18722172</pubmed></ref>。
 その他にも、[[p53]] 、[[E2F]]、[[MyoD]]、[[STAT3]]など数多くの非ヒストンタンパク質もまた、部位特異的にアセチル化されることが知られている<ref name="ref1"><pubmed>18804549</pubmed></ref>(表1、2)。アセチル化により、これらタンパク質の安定性や分解をはじめ、活性や局在、特異的相互作用などが制御され、転写、増殖、[[アポトーシス]]、分化など、細胞の様々な過程がコントロールされている。現在では、ヒストンおよび非ヒストンタンパク質のアセチル化が、[[メチル化]]や[[リン酸化]]など他の修飾とクロストークし、最終的なシグナル発現に重要な働きをしていることが明らかとなっている。いくつかの修飾がある決まった順序で組み合わさることが、ある機能発現には必要であり、一方では、互いに阻害し合うこともある。このように組み合わせを変えることで、細胞内情報伝達のネットワークの多様性を生み出している<ref><pubmed>18722172</pubmed></ref>。


<b>表1:代表的なアセチル化酵素<ref name=ref1 /></b><br>
<b>表1:代表的なアセチル化酵素<ref name=ref1 /></b><br>
   ACTR、ATF-2、CBP、CDY、CLOCK、EWI、Elp3、GCN5L、GRIP、HAT1、HBO1、<br>   MCM3AP、MORF、MOZ、p300、PCAF、p/CIP、SRC-1、hTAFII250、TFIIB、Tip60 
   ACTR、ATF-2、CBP、CDY、CLOCK、EWI、Elp3、GCN5L、GRIP、HAT1、HBO1、<br>   MCM3AP、MORF、MOZ、p300、PCAF、p/CIP、SRC-1、hTAFII250、TFIIB、Tip60                 
                 
                                                        
                                                        
<b>表2:代表的なアセチル化される非ヒストンタンパク質<ref name=ref1 /></b><br>
<b>表2:代表的なアセチル化される非ヒストンタンパク質<ref name=ref1 /></b><br>
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===ヒストンアセチル化と神経疾患===
===ヒストンアセチル化と神経疾患===
 [[Image:Nm-Kinichinakashima fig 3.png|thumb|300px|'''図3 神経変性状態でのHDAC阻害剤の働き'''<br>HDAC阻害剤は神経変性状態におけるヒストンの低アセチル化状態を改善し、結果的に種々のタンパク質の発現を上昇させる。また、微小管タンパク質を高アセチル化状態にすることで微小管輸送を上昇させ、BDNFの細胞外放出を促進させる。これらによりHDAC阻害剤は神経保護、神経栄養、抗炎症、学習記憶の上昇等を示し、神経変性状態を改善する。<br>Bcl-2:B-cell lymphoma 2:B細胞リンパ腫2、BDNF:brain-derived neurotrophic factor:脳由来神経栄養因子、GAPDH:glycelaldehyde-3-phosphate dehydrogenase:グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、GDNF:glial cell line-derived neurotrophic factor:グリア細胞由来神経栄養因子、HSP70:heat shock protein 70:熱ショックタンパク質70]]HDACはヒストンタンパク質のアセチル化状態の恒常性を維持することで転写等の細胞の基本的な活性を制御するのに重要な役割を果たしており、多くの脳疾患でタンパク質のアセチル化レベルが不均衡となっていることが知られている。このような点からも種々のHDAC阻害剤が新たな脳疾患治療薬として有用である可能性が示唆されている。HDAC阻害剤は神経保護、神経栄養性、及び抗炎症の特徴を有し、学習記憶や脳疾患にみられる他の表現型などを改善できることが示されている<ref><pubmed>18827828</pubmed></ref><ref><pubmed>19775759</pubmed></ref>(図3)。具体的には、[[脳卒中]]、[[ハンチントン病]]、[[筋萎縮性側索硬化症]]、[[脊髄性筋委縮症]]、[[パーキンソン病]]、[[アルツハイマー病]]、[[ルビンシュタイン・テイビ症候群]]、[[レット症候群]]、[[フリードリッヒ運動失調症]]、[[多発性硬化症]]などが挙げられ、多くの脳疾患でヒストンの低アセチル化及び転写の機能障害が起こっている。HDACには5つのファミリーがあり、それぞれCLASSⅠ(HDAC1、2、3、8)、CLASSⅡa(HDAC4、5、7、9)、CLASSⅡb(HDAC6、10)、CLASSⅢ(SIRT1~7)、CLASSⅣ(HDAC11)である。HDAC阻害剤も多く存在し、代表的なものとして、[[バルプロ酸]](Valproic acid:VPA)、[[酪酸ナトリウム]](Sodium butyrate:SB)、[[トリコスタチンA]](Trichostatin A:TSA)、[[スベロイルアニリドヒドロキサム酸]](suberoylanilide hydroxamic acid:SAHA)が知られている。
 [[Image:Nm-Kinichinakashima fig 3.png|thumb|300px|'''図3.神経変性状態でのHDAC阻害剤の働き'''<br>HDAC阻害剤は神経変性状態におけるヒストンの低アセチル化状態を改善し、結果的に種々のタンパク質の発現を上昇させる。また、微小管タンパク質を高アセチル化状態にすることで微小管輸送を上昇させ、BDNFの細胞外放出を促進させる。これらによりHDAC阻害剤は神経保護、神経栄養、抗炎症、学習記憶の上昇等を示し、神経変性状態を改善する。<br>Bcl-2:B-cell lymphoma 2:B細胞リンパ腫2、BDNF:brain-derived neurotrophic factor:脳由来神経栄養因子、GAPDH:glycelaldehyde-3-phosphate dehydrogenase:グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、GDNF:glial cell line-derived neurotrophic factor:グリア細胞由来神経栄養因子、HSP70:heat shock protein 70:熱ショックタンパク質70]]HDACはヒストンタンパク質のアセチル化状態の恒常性を維持することで転写等の細胞の基本的な活性を制御するのに重要な役割を果たしており、多くの脳疾患でタンパク質のアセチル化レベルが不均衡となっていることが知られている。このような点からも種々のHDAC阻害剤が新たな脳疾患治療薬として有用である可能性が示唆されている。HDAC阻害剤は神経保護、神経栄養性、及び抗炎症の特徴を有し、学習記憶や脳疾患にみられる他の表現型などを改善できることが示されている<ref><pubmed>18827828</pubmed></ref><ref><pubmed>19775759</pubmed></ref>(図3)。具体的には、[[脳卒中]]、[[ハンチントン病]]、[[筋萎縮性側索硬化症]]、[[脊髄性筋委縮症]]、[[パーキンソン病]]、[[アルツハイマー病]]、[[ルビンシュタイン・テイビ症候群]]、[[レット症候群]]、[[フリードリッヒ運動失調症]]、[[多発性硬化症]]などが挙げられ、多くの脳疾患でヒストンの低アセチル化及び転写の機能障害が起こっている。HDACには5つのファミリーがあり、それぞれCLASSⅠ(HDAC1、2、3、8)、CLASSⅡa(HDAC4、5、7、9)、CLASSⅡb(HDAC6、10)、CLASSⅢ(SIRT1~7)、CLASSⅣ(HDAC11)である。HDAC阻害剤も多く存在し、代表的なものとして、[[バルプロ酸]](Valproic acid:VPA)、[[酪酸ナトリウム]](Sodium butyrate:SB)、[[トリコスタチンA]](Trichostatin A:TSA)、[[スベロイルアニリドヒドロキサム酸]](suberoylanilide hydroxamic acid:SAHA)が知られている。
 
 
 ヒストンのアセチル化が関与する脳疾患の例を以下に示す。
 ヒストンのアセチル化が関与する脳疾患の例を以下に示す。
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====パーキンソン病====
====パーキンソン病====
 パーキンソン病は神経変性疾患で、[[黒質]]での[[ドーパミン神経]]の選択的欠損に伴う運動機能障害を特徴としている。パーキンソン病の大部分は孤発性である。ドーパミン毒素によりパーキンソン病様症状を呈したモデル動物に、HDAC阻害剤の[[フェニルブチレート]]を投与すると、黒質でのドーパミンの欠乏とドーパミンの生合成酵素である[[チロシンヒドロキシラーゼ]]を発現する神経の減少が抑制される<ref><pubmed>15626823</pubmed></ref>。また、HDAC阻害剤の投与により[[中脳]]の[[アストロサイ]]トで誘導される[[グリア細胞由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor:GDNF)]]は、ドーパミン神経特異的に生存と軸索伸長に作用する因子である(図3)。そのため、HDAC阻害剤投与はパーキンソン病を含む[[神経変性疾患]]の治療において有望な治療法となると考えられている<ref><pubmed>11988777</pubmed></ref>。<br>
 パーキンソン病は神経変性疾患で、[[黒質]]での[[ドーパミン神経]]の選択的欠損に伴う運動機能障害を特徴としている。パーキンソン病の大部分は孤発性である。ドーパミン毒素によりパーキンソン病様症状を呈したモデル動物に、HDAC阻害剤の[[フェニルブチレート]]を投与すると、黒質でのドーパミンの欠乏とドーパミンの生合成酵素である[[チロシンヒドロキシラーゼ]]を発現する神経の減少が抑制される<ref><pubmed>15626823</pubmed></ref>。また、HDAC阻害剤の投与により[[中脳]]の[[アストロサイ]]トで誘導される[[グリア細胞由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor:GDNF)]]は、ドーパミン神経特異的に生存と軸索伸長に作用する因子である(図3)。そのため、HDAC阻害剤投与はパーキンソン病を含む[[神経変性疾患]]の治療において有望な治療法となると考えられている<ref><pubmed>11988777</pubmed></ref>。


 家族性のパーキンソン病ではシナプス前タンパク質である[[α-シヌクレイン]]の遺伝子変異が原因のひとつとされている。[[ヒト神経芽腫細胞]]において、α-シヌクレインはヒストンに結合し、HATであるCBPやp300、PCAFを不活性化することでヒストンの低アセチル化、及びアポトーシスを引き起こすことが示されている<ref name="ref24"><pubmed>16959795</pubmed></ref>。現在までの研究により、HDAC阻害剤のSBやSAHAの投与が、in vitro、in vivo両方においてα-シヌクレインの過剰発現による神経細胞死を減弱させることが明らかとなっている<ref name=ref24 />。これらのことも、パーキンソン病においてHDAC阻害剤が治療に有効であると考えられる根拠となっている。
 家族性のパーキンソン病ではシナプス前タンパク質である[[α-シヌクレイン]]の遺伝子変異が原因のひとつとされている。[[ヒト神経芽腫細胞]]において、α-シヌクレインはヒストンに結合し、HATであるCBPやp300、PCAFを不活性化することでヒストンの低アセチル化、及びアポトーシスを引き起こすことが示されている<ref name="ref24"><pubmed>16959795</pubmed></ref>。現在までの研究により、HDAC阻害剤のSBやSAHAの投与が、in vitro、in vivo両方においてα-シヌクレインの過剰発現による神経細胞死を減弱させることが明らかとなっている<ref name=ref24 />。これらのことも、パーキンソン病においてHDAC阻害剤が治療に有効であると考えられる根拠となっている。
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 しかし逆に、HDAC6はマウスの情動行動に関与し、HDAC6の欠損やHDAC6阻害剤が運動亢進、不安の軽減などの抗うつ様の行動を誘導することで、うつ病等の治療によい影響を与えることも明らかになっている。HDAC6は、気分障害等の精神疾患に深く関与する[[セロトニン神経細胞]]の豊富な[[中脳]]の[[縫線核]]、[[青斑核]]、黒質の神経細胞に多く存在している。しかし、HDAC6の欠損マウスにおいて、セロトニンの量、及び既存の抗うつ薬である[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]/[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]](Selective Serotonin Reuptake Inhibitors/ Serotonin & Norepinephrine Reuptake Inhibitors:SSRI/SNRI)に対する応答性には変化がなく、SSRI/SNRIの急性投与による大幅なうつ様行動の改善はHDAC6の欠損マウスと野生型マウスで同程度である。このことからHDAC6阻害剤による抗うつ作用メカニズムは既存の抗うつ薬とは異なると考えられており、HDAC6の阻害はうつ病の病態解明や新規抗うつ薬の開発につながる可能性が示唆されている<ref><pubmed>22328923</pubmed></ref>。
 しかし逆に、HDAC6はマウスの情動行動に関与し、HDAC6の欠損やHDAC6阻害剤が運動亢進、不安の軽減などの抗うつ様の行動を誘導することで、うつ病等の治療によい影響を与えることも明らかになっている。HDAC6は、気分障害等の精神疾患に深く関与する[[セロトニン神経細胞]]の豊富な[[中脳]]の[[縫線核]]、[[青斑核]]、黒質の神経細胞に多く存在している。しかし、HDAC6の欠損マウスにおいて、セロトニンの量、及び既存の抗うつ薬である[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]/[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]](Selective Serotonin Reuptake Inhibitors/ Serotonin & Norepinephrine Reuptake Inhibitors:SSRI/SNRI)に対する応答性には変化がなく、SSRI/SNRIの急性投与による大幅なうつ様行動の改善はHDAC6の欠損マウスと野生型マウスで同程度である。このことからHDAC6阻害剤による抗うつ作用メカニズムは既存の抗うつ薬とは異なると考えられており、HDAC6の阻害はうつ病の病態解明や新規抗うつ薬の開発につながる可能性が示唆されている<ref><pubmed>22328923</pubmed></ref>。


 上記の例に加えて、タンパク質のアセチル化と脳機能に関しては多くの報告がなされている。これらのことから、ヒストンのアセチル化や非ヒストンタンパク質のアセチル化は脳の発達や機能にさまざまな役割を果たしており、脳において重要な機構であるといえる。
 上記の例に加えて、タンパク質のアセチル化と脳機能に関しては多くの報告がなされている。これらのことから、ヒストンのアセチル化や非ヒストンタンパク質のアセチル化は脳の発達や機能にさまざまな役割を果たしており、脳において重要な機構であるといえる。
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<references/>  
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(執筆者:村尾直哉、中島欽一 担当編集委員:村上富士夫)
(執筆者:村尾直哉、中島欽一 担当編集委員:村上富士夫)

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